進化するBluetooth MIDI。QUICCO SOUNDのmi.1はレイテンシーを感じないレベルへ

Bluetooth MIDIってご存知ですか?その名前からも想像できる通り、ワイヤレス接続できるBluetooth(正確にはBluetooth Low Energy)でMIDIを飛ばすという技術です。現在これに対応しているデバイスとしては、以前にもDTMステーションの記事で紹介したQUICCO SOUND(キッコ サウンド)のmi.1MiseluC.24くらいしかないのが実情ですが、MIDIの正式な規格として採用されることがカウントダウンに入っている中、使えるものへと急速に進化してきています。

元ヤマハ技術者達が開発する世界初の電源不要ワイヤレスMIDI、mi.1」という記事で、mi.1のプロトタイプを紹介したのはちょうど1年前のことでした。この時点でも十分しっかり動いていたのですが、レイテンシーに難があったことは事実。iOS上の音源と接続した場合、鍵盤を弾いてから音が鳴るのに30~40msec程度の遅れがあったのです。これはmi.1が正式発売された後も、解決されていなかったのですが、先月mi.1のファームウェアがv2.0.0になったことで、レイテンシーを感じないレベルまでに進化しているのです。ここにはmi.1単体の技術だけでなく、Bluetooth MIDIという規格自体の進化や、iOS側の進化など、複合的に向上しているようなんですよね。ここに何が起きているのか、mi.1の開発者であるQUICCO SOUNDの代表取締役 CEOの廣井真さんに話を伺ってみました。

QUICCO SOUNDの代表取締役 CEOの廣井真さんにBluetooth MIDIについて聞いてみた


--mi.1、3月のファームウェアアップデートにより、v2.0.0になりましたが、体感上、ずいぶん反応がよくなってますよね。これは何が起きているのでしょうか?
廣井:iPadに有線(Lightning-USBカメラアダプタ)でMIDIキーボードを接続してGarageBandを使っている人は多いと思います。そして、この反応速度を不満とする声はまず聞きませんが、今回のアップデートでは、これと同等の反応速度を実現できるようになりました。アプリによって違いはありますが、従来と比較して明らかによくなっていますよ。

mi.1はファームウェアアップデートによりv2.0.0へ 

--ええ?一気にそこまで進化しているんですね!具体的なレイテンシーってどのくらいなんですか?
廣井:Bluetooth LEでは、一度パケット群を送信したら次は30ms後、というように間隔をおいて通信を行っています。この間隔がレイテンシー(発音遅延)やジッターの原因となっています。この間隔はiPad側で決められてしまうのですが、iOS 8では間隔がかなり縮まっています。またBluetooth MIDIをOSレベルで対応し、mi.1 connectアプリを経由せずに、CoreMIDIアプリとmi.1が直接通信できるようになったことにより、レイテンシーが体感できるほど縮まっています。実際のレイテンシーはアプリによって違ってきますが、群を抜いて早かったのがKORGのModuleで16~17ms。この値は実際にmi.1にMIDI信号を入れてから、iPadのオーディオが出力されるまでの時間です。有線でGarageBandを発音した場合とほぼ同じ測定結果でした。

私がクラウドファンディングで購入したmi.1のスケルトンモデル

--確かに、違和感はまったくないですね。そういえば、接続の仕方も変わりましたよね?

廣井:はい、v1ではmi.1と音源アプリをブリッジするためのアプリであるmi.1 connectが必要でした。これはiOSのVirtual MIDIへ橋渡しする形となっていたので、アプリ側もVirtual MIDIに対応している必要がありました。しかしv2では、このmi.1 connectをバックグラウンド動作させる必要がなくなりました。Bluetooth MIDIで接続すると、iOSからは普通のMIDIデバイスとして見えるようになるため、Core MIDI対応のすべてのアプリで利用可能になったのです。


GarageBandを利用してmi.1とBluetooth MIDIで接続

--つまり、Lightning端子で接続するMIDIデバイスと同様の扱いになり、しかも反応がよくなったということですね。それって画期的じゃないですか!ただ、実際に使ってみるとちょっと妙に思ったことがあります。たとえばGarageBandの機能として接続すると、その後GarageBandを落としても接続されているんです。これってどうなっているんですか?

廣井:実際にはGarageBandというアプリへの接続ではなくiOSへの接続であるため、本来ならiOSの「設定」にあってしかるべきものなのです。接続すると、「mi.1 Bluetooth」という名のMIDIデバイスとしてOSに登録され、他のMIDI対応アプリからも選択が可能となります。そのためGarageBandを落としても繋がり続けるわけなんです。


bs-16iなどでも同じように接続できる 

--なるほど、そうなっていたんですね!ちなみに、Bluetooth MIDIの接続機能を持ったアプリとしてはGarageBandのほかに、bs-16i、KORGのModuleが対応しているようですが、ほかにもありますか?
廣井:それ以外にも無料アプリであるmidimittrWebMIDI BrowserPiano Diaryなどからも接続が可能ですよ。ただ、ユーザーにとって、面倒な点が1つあります。それは一度、電源を切ったりすると、手動で再接続しなくてはらなないということです。普通のBluetoothデバイス、つまりキーボードやスピーカーなどは、ペアリング済みのデバイスを発見すると自動的に再接続を行いますが、それがまだできていません。本来はできるはずなので、問題が解決できましたら、ファームウェアアップデートにて対応する予定です。

iOS 8においてはファームウェアをアップデートした後はmi.1 connectは不要になる
--ところで、ブリッジアプリであるmi.1 connectはもう不要であると考えていいのでしょうか?

廣井:Bluetooth MIDIにOSとして対応したのはiOS 8以降なので、iOS 7ユーザーがmi.1を利用するためのアプリとして考えていただければと思います。一方で、mi.1のファームウェアをアップデートするためのツールという位置づけもあったのですが、これはv2.0.0以降のアップデートには対応していません。そこで5月中旬にv2以降のアップデート機能も備えたPiano JukeBoxというアプリを無料配布します。これはVOCALOID firstなどのグラフィックも手掛けたMonstarsさんとの共同開発で「ご自宅のピアノをジュークボックスに変えてしまう」というコンセプトのアプリです。あらかじめ300曲以上のクラシック曲が用意されていますが、ユーザーが転送したSMFも再生できます。


今後のファームウェアアップデート機能も担うSMF再生アプリ、 Piano JukeBox

--なるほど、このジュークボックスアプリ、なかなかカッコイイですね。アップデートと関係なくMIDIのプレイヤーソフトとしても使えそうです。

廣井:今後もアップデートは続けていきますが、今回のv2.0.0にはもうひとつ便利な機能が加わっています。それはmi.1の機能というよりもiOS側の仕様というべきところですが、iOS機器1台に対して、mi.1を複数台同時に接続することができるようになりました。iOS 8においては4台まで同時に接続できることは確認できています。


Mac OSX 10.10 YosemiteのMIDIスタジオ機能でmi.1に接続 

--mi.1とiOS、Yosemiteと接続できることは分かりましたが、Windowsとの接続というのはどうなのでしょうか?

廣井:現在はアップル独自のローカル規格であるBluetooth MIDIですが、これをそのままMIDI規格の標準仕様にする、ということがMMAとAMEIで決定しました。その場にはMicrosoftやGoogleの方も加わっていましたので、そう遠くない将来にWindowsやAndroidの機能として搭載されるのでは……と期待しています。また、アップルのBluetooth MIDIは仕様書が公開されていますので、Bluetooth MIDI機器対応のWindowsアプリやAndroidアプリを一般のプログラマの方が作ることも可能かと思います。


近い将来mi.1同士での接続も可能になる予定。で、左側のアダプタは!? 

--ぜひ、簡単なシステムでいいので、作っていただきたいですね。もうひとつ気になるのはmi.1同士での接続ができるのか、という点です。確かにMacやiPad、iPhoneに接続できるのは便利ですが、ワイヤレスMIDIとしてコンピュータなしで楽器同士がワイヤレス接続できるようになると、飛躍的に便利さが向上すると思うのですが、そうしたことは可能なのですか?

廣井:現在のv2.0.0では対応していませんが、多くの方からリクエストをいただいています。Bluetoothデバイスにはセントラルとペリフェラルという2つの役割があります。現在はiOSデバイスやMacがセントラルとして、mi.1がペリフェラルとして接続される構造になっていますが、mi.1のハード的にはセントラルにもなり得るシステムとなっているので、対応できる可能性はあります。でも、その前にmi.1uという新しいデバイスも今年の夏ごろに発売しようと準備を進めているのです。


まだデザインが変わる可能性があるが、USB-MIDI機器との接続可能なmi.1u 

--mi.1uって何ですか!?

廣井:これはUSB接続のBluetooth MIDIです。いま、MIDIといってもMIDI端子のないデバイスが多いですよね。DTM回りの製品は、音源でもキーボードでもUSBで接続するのが一般的になっています。そこで、USB接続のデバイスをBluetooth MIDIに対応させるのがmi.1uなのです。


mi.1uをUSB-ACアダプタをダンゴ状に接続。MIDI音源モジュールなどとUSB接続するとBluetoothでMIDIが飛ばせる

--それって、すごく便利じゃないですか!見た目はiPhone用のACアダプタとピッタリなサイズになってますが、このmi.1u自体がホストになるってことですよね?

廣井:その通りです。USBホストとして電源もここから供給されますので、USBバス駆動の楽器はケーブル一本で電源も兼ねられます。デザインに関しては、プロトタイプではiPhoneのACアダプタを意識したキューブ型にしていますが、欧州ではアダプタの形状がまったく異なりますし、モバイルバッテリーなどでの使用も考慮して大幅に変更が入る予定です。価格的にはmi.1と同じか、できればそれよりも安くしたいと考えているところです。


mi.1もmi.1uもKORG Moduleに接続すると、レイテンシーがまったく気にならない高速な反応を示してくれる 

--ということは4,000円くらい?それは出たら、即買いですね!
廣井:ありがとうございます。なるべく早くみなさまに使って頂けるよう頑張って開発し生産体制を整えたいと思います。ぜひ楽しみにしていてください。

--楽しみです。本日はありがとうございました。
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