元ヤマハ技術者達が開発する世界初の電源不要ワイヤレスMIDI、mi.1

浜松にできたばかりの小さなベンチャー企業、QUICCO SOUND(キッコ サウンド株式会社)。創業メンバー2人がヤマハ出身のエンジニアで、ここに地元楽器系エンジニアなどが集うシリコンバレー風な会社です。今年1月にアメリカで開催されたNAMM Show 2014に「G.16」というワイヤレス型のMIDIコントローラーを参考出品したことで話題になっていましたが、そのQUICCO SOUNDが小さくて非常に便利なワイヤレス型のMIDIデバイスを発表しました。

技術的にも、会社的にも非常に興味があったので、浜松駅の北15kmにある浜松都田インキュベートセンター内で開発を行っている同社を訪ね、製品内容やどんな技術を持っているのかなど伺ってきました。


新製品mi.1を手にするQUICCO SOUNDの廣井真さん(手前)と安渡武志さん(右) 


5月9日にクラウドファンディングという形でQUICCO SOUND初の製品として先行予約を開始したのは、BLE MIDIインターフェイスの「mi.1」。BLEとはBluetooth Low Energyの略で、超低消費電力でワイヤレス接続できるMIDIの入出力装置なのです。


短いMIDIケーブルのようにも見えるmi.1はBluetoothでMIDIを飛ばすユニークなデバイス

電池や外部電源不要でワイヤレス接続可能なMIDIデバイスとしては世界初とのことですが、見た目には小さくてシンプルなもの。単純にMIDI OUTとMIDI INをショートさせる短いケーブルのような感じですが、これをシンセサイザや電子ピアノ、MIDI音源モジュールなどに取り付けると、ワイヤレスでのMIDI入出力が可能になるのです。


QUICCO SOUNDの代表取締役 CEOの廣井真さん

QUICCO SOUNDの代表取締役 CEOの廣井真さんは「mi.1はMIDI端子に差し込んで、一度ペアリングするだけ使用できます。ご家庭の電子ピアノを趣味で弾いている方や音楽教室に通う子供たちなど、MIDIとは縁のなかった方にこそ使っていただきたいと思っています。電子ピアノがiPadやiPhoneが繋がり、さらにネットワークに繋がることで、さまざまな可能性が広がります。たとえば、今ここで『ドレミファソ』と弾くと、地球の裏側の電子ピアノを『ドレミファソ』と鳴らすことも技術的には可能になってきます」と話します。


MIDIキーボード、MIDI音源モジュールなどのMIDI INとMIDI OUTにmi.1を取り付けて使い、電源は不要 

これまで、外部MIDI機器との接続については、記事でもいろいろと取り上げてきましたが、確かに実際の配線となると面倒なこともいっぱい。これがワイヤレスになれば、使い勝手は抜群に向上しそうですね。


従来は面倒でトラブルも多かったiPadでのMIDI接続

先日も、MIDIからの電源供給で動作するGembox SynthやドイツPloytechのπλ²といった小さなハードシンセを紹介しましたが、このmi.1もこれらと同様にMIDIからの電源供給で動作するわけですね。廣井さんによると、最近のMIDI機器は5Vではなく、3.3V仕様も増えてきましたが、3.3Vでも問題なく動作するように設計されています。また1台のiOSデバイスに最大8つのmi.1を接続して同時にやりとりすることができるようです。

ただここで気になるのがレイテンシー。Bluetoothを使って接続した際、鍵盤を弾いてからの音の遅れはどの程度なのでしょうか?実際試してみたところ、微妙な遅れは感じられたのですが、「現在は和音演奏時の遅延が少し目立ちますが、ファームウェアの処理を工夫することで改善されます。また、MIDIシーケンスの録音再生などはタイムスタンプ付きのMIDIに対応予定で、より正確なタイミングでの発音が可能となります」(廣井さん)とのことです。


ソフトシンセやDAWなどのMIDIアプリと、mi.1との間をブリッジ・アプリが繋ぐ 

まずはiOSデバイスとの接続用として登場するmi.1ですが、Bluetoothで接続するものなので、iOSに限定するものではありません。「AndroidはまだDTM系の環境があまり整っていないので、しばらく見送ろうかと思っていますが、WindowsやMacは要望があれば対応させたいと思っています。また仕様も公開していくので、ぜひ多くのプログラマがBLE MIDIのインプリに取り組んでくれたら嬉しいなと思っています」と廣井さん。ちなみに、このBLE MIDIはMiseluのMIDIプロファイルとの互換性もあるそうですよ。

ユニークなのは、mi.1自体にはスイッチがまったくないこと。どうやってiPad/iPhoneとBluetoothのペアリングをするのかと思ったら、MIDI端子の裏側にマグネットが取り付けられており、MIDI IN側、MIDI OUT側を背中合わせにくっつけるとペアリングモードに入り、LEDが光る仕様になっているのです。


QUICCO SOUND取締役CTOの安渡武志さん

こうしたデザイン、機構、さらには生産部分を担当しているのは取締役CTOの安渡武志さん。「見た目は黒いデバイスにしていますが、実はシースルーになっており、内部のLEDが光るとそれぞ外からも認識できるようになっています。今回クラウドファンディングの形で販売する製品だけ、特別仕様としてBlackのほかに、White、そしてTranslucet(半透明)の3色を用意しています」とのことです。またあえて物理スイッチを排したのはmi.1脱着時の基板へのダメージを軽減するためと、ケーブルの端子と同様に基板を丸ごとモールドしているためだそうです。


オフィスにはmi.1の試作品(樹脂製のシャーシが取り付けられていないもの)が並ぶ 

ところで、廣井さんも安渡さんも、ヤマハ出身のエンジニア。廣井さんはヤマハ時代、MU80QY70QY700RM1xRS7000などの製品仕様やエフェクト(DSP)、およびMIDIシーケンサーのプログラミングに携わってきたほか、あいうえおVOCALOIDキーボードの試作なども行っています。ヤマハを2012年4月に退職した後、シリコンバレーに渡り、以前にDTMステーションの記事でも紹介したMiseluでAndroidデバイスのNeiro、BLEキーボードのC.24の開発に携わった後に、QUICCO SOUNDを設立しています。

一方、安渡さんもヤマハで一貫して電子楽器、音響機器の機構設計に携わってきたエンジニア。主な開発製品としてはオーディオインターフェイスのUW500やシンセサイザーではS08MOTIF ESMOTIF XF、ステージピアノのCPシリーズなどを開発してきたという実績のある人なのです。

ちなみに2人が初めて仕事をしたのは、あいうえおVOCALOIDボード。仕様およびソフト担当が廣井さんで、安渡さんと九頭龍さん(現在Miseluに在籍)がそれぞれメカ、ハードウェア設計担当として社内のボランティアで加わっていたそうです。


シリコンバレー風なQUICCO SOUNDのオフィス

ところで、QUICCO SOUNDがNAMM Showで参考出品した「G.16」のその後がどうなっているのかについても聞いてみました。


iPad miniと横幅が同じG.16 

ベロシティPAD構造の見直しや、無線のモジュールの変更により、ちょっと滞っていましたが、年末から来年初頭の発売を目指して開発していきたいと思っています。すべてのキーが完全アサイナブルになっているので、パッドとしても、音色選択やアプリ起動用スイッチとしても使えるし、OSC対応や、ソースコードもオープンにする予定なので、ステップシーケンサーとして使っていただくなど、いろいろな用途で使えると思います。またNAMM Show後に、MIDIの出力ができるようにアップデートしたり、CV/GATEの出力も可能にするなど、少しずつ進化させているところなので、ぜひ楽しみに待っていてください」(廣井さん)

ちょうど横幅がiPad miniと同じになっているほか、miseluのC.24とセットにして使えるとのことですから、こちらの登場も待ち遠しいところです。


mi.1とG.16 。今後、このQUICCO SOUNDからどんな製品が登場してくるのかは、非常に楽しみ

さて、肝心のmi.1の販売についてですが、まずは前述のとおり、クラウドファンディング(ネットを通じた投資=応援?)という形で行い、IndieGoGoというサイトを通じての販売となります。この際のメニューは$20~$119の5種類で、とりあえず1つ入手するなら$35です。Black、White、Translucetの3個とTシャツ、ステッカーに浜松のQUICCO SOUNDでの発売記念パーティーをセットにしたものが$119などとなっており、応援度合によって選択するようになっているんですね。


IndieGoGoには5つのメニューが用意されている

一応「$30,000の投資が集まったら製品化をする」ということになっていますが、世界に向けての販売なので、すぐにクリアするのではないでしょうか…。もしも締切日の6月18日までに$30,000に届かなければ、製品化されず、課金もされないそうですが、そこは会社存続にも関わる重要なポイントなので、大丈夫でしょう!

また$50,000以上の投資が集まった場合は、mi.1でMIDI再生が可能なiOS用のピアノJukeboxアプリが無料配布されるとのことです。


$50,000以上達成したら無料配布されるJukeboxアプリのベータ版 

私もさっそくIndieGoGoのサイトで3色パック、$99のに投資してみました(1号投資者になっちゃいました!)。とっても簡単な手続きでできてしまいましたよ。基本的には、何個セットのものを選ぶかを指定し、住所や名前、クレジットカード番号を入れるだけなので迷うことはないと思います。まだ締切日までしばらく時間はありますが、モノが届くのが楽しみです。

なお、一般に広く販売されるのは、クラウドファインディング終了後のこととなり、現在のところ希望小売価格は$45となるそうですから、クラウドファンディングでの購入がお得ということのようですよ。

【追記】5月10日
IndieGoGoでのmi.1の購入の手順に関しての日本語解説ページができたので、分からない場合は、それを見るとより簡単です。 

【関連情報】
QUICCO SOUNDホームページ
IndieGoGoのmi.1販売ページ
IndieGoGoでmi.1を購入する手順紹介(日本語) 

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