オーディオインターフェイスメーカーとしては後発で、まだこの世界に参入したばかりのZOOMですが、まさに破竹の勢いで強烈な製品を次々と打ち出しています。これまでもTAC-2やTAC-2R、UAC-2といった製品を紹介してきましたが、今回試してみたのはThunderbolt対応のオーディオインターフェイス、TAC-8です。この名称から8IN/8OUTのオーディオインターフェイスなのかな……と思っていたら、18IN/20OUTというスペック。
実際に使ってみたら、ちょっと驚くほどHi-Fiな製品であり、本当にクリアなサウンドのいい高音質。しかも、レイテンシーが極めて小さくてすごく気持ちよく使えるんですよね。Thunderbolt対応ということもあって、TAC-2やTAC-2Rと同様にMac専用のオーディオインターフェイスではあるのですが、どんな製品なのか紹介してみたいと思います。
Thunderbolt接続で18IN/20OUTのオーディオインターフェイス、TAC-8
TAC-8のTACはThunderbolt Audio Converterの略とのことで、同社のUAC-2、そして間もなく発売されるUAC-8のUAC=USB Audio Converterとは対極(?)に位置するもの。Windowsマシンでも最近は徐々にThunderbolt端子搭載のものも登場してきてはいますが、現時点においてTAC-8はMac専用のオーディオインターフェイスとなっているようです。
デザイン的にはTAC-2Rと同じ系統のものとなっていますが、入出力数が多いことから1Uのラックマウントタイプになっているんですね。フロントパネルを見ると、8つのコンボジャックが並んでおり、ここには8つすべてにマイクプリアンプが搭載されている、という意味でTAC-8という名前になっているようです。また一番右には独立した2系統のヘッドホン出力が用意されているのが分かりますね。
次にリアパネルを見てみると……、またずいぶんいろいろな端子が並んでいますが、右から順に簡単に紹介してみましょう。右の8つはラインアウト端子で、その隣の2つがメイン出力、いずれもTRSフォンジャックとなっています。その隣のある2つはADATオプティカルの入出力です。光ファイバーのオプティカルケーブルを接続することで、1本で最大8chの信号を伝送できるようになっています。
その左のアンテナの接続のような端子はワードクロックの入出力。ワードクロックは業務用レコーディング機器や映像機器などと同期を行ったり、外部の高性能クロックジェネレーターからクロック供給を受けて使うことができる端子ですね。その左がMIDIの入出力、さらに、その左がS/PDIFの入出力となっています。かなりいっぱいの端子があることが分かるでしょう。
ちなみにADATオプティカルは44.1kHzまたは48kHzの入出力時にはそれぞれ8chの信号を流すことができ、88.2kHzまたは96kHzの場合はSMUXというフォーマットとなって4ch、さらに176.4kHzまたは192kHzの場合はSMUX4となり2chとなるため、TAC-8のトータルでは以下のようなシステム構成になります。
サンプリングレート | アナログ入出力 | S/PDIF入出力 | ADAT入出力 | トータル入出力 |
44.1kHz / 48kHz | 8in/10out | 2in/2out | 8in/8out | 18in/20out |
88.2kHz / 96kHz | 8in/10out | 2in/2out | 4in/4ou | 14in/16out |
176.4kHz / 192kHz | 8in/10out | 2in/2out | 2in/2out | 12in/14out |
さて、実際にこのTAC-8をウチのMac Miniに接続して使ってみました(Thunderboltケーブルは付属していないので、別途用意する必要があります)。ヘッドホンジャックにモニターヘッドホンをつなぎ、メイン出力にモニタースピーカーを接続してみて、最初に「あれ?」と思ったのは、何も音がしないこと。まあ、何も出力してないので当たり前ではあるんですが、ボリュームを大きくしても、“ブーン”とか“サー”という音がまったくしないので、「ちゃんとつながってるのかな?」と確認してしまったほど。
フロントのOUTPUTつまみを大きくしても、モニターヘッドホンからはまったくといっていいほどノイズが出ない
ところがINPUT1のHi-ZをONにして、ギターを接続してみると、ちゃんと音が出ますよ。しかも、メチャメチャきれいな音なんですね。まあ、最近のオーディオインターフェイスは、どれも高性能になってきてはいますが、その中でも、これだけS/Nのいい機材ってあまりないのではないでしょうか?その後、小さな音を試してみましたが、キレイに入出力することができたので、ノイズゲートで音を止めているというわけでもなさそうですよ。
sE 2200a IIと組み合わせて使ってみたが、クセのないキレイな音で捉えることができた
先日のマイク対決の記事で使ったsE ElectronicsのsE 2200a IIというコンデンサマイクがあったので、これと接続してみましたが、マイクプリの性能もいいですね。まあ、マイクプリは人によって音の好みがあると思いますが、TAC-8のそれは、まったくクセがない感じではありました。「マイクプリで温かみのある音にしたい」という人は、別途マイクプリを用意した上で、ADATなどへ接続して使うのがよさそうですが、とにかくキレイな音で録るという目的であれば、なかなかいいと思います。
確かに、以前、TAC-2やTAC-2Rを使ったときもS/Nがいいな…と感じましたし、実際TAC-2なんかはDTMの世界よりもPCオーディオの世界で有名になっているのは、この音質の良さがあるのかもしれません。その音質性能そのままにマルチチャンネル化したのが、TAC-8ということのようですね。
TAC-8をトータルにコントロールできるTAC-8 MixEfx
これだけ入出力の多いTAC-8を使いこなすためには、そのルーティングなど、設定が必要になってくるのですが、ここで活用するのが、TAC-8 MixEfxというユーティリティ。見ると分かるとおり、TAC-8をミックスコンソールと見立てて使うことができるソフトとなっています。標準の画面ではフロントの8つの入力に対応した8chミキサーのように見えますが、実態は38chの大型ミキシングコンソールとなっているんです。
TAC-8 MixEfxは実は38入力のミキシングコンソールになっている
というのは、前述のADATとS/PDIFを加えて18chあるのに加え、DAW側からの出力20chも合わせた38chの音量レベルやPAN、位相、ハイパスフィルタなどを自在にコントロールして、メイン出力やヘッドホン出力、各ライン出力などへルーティングしていくことができる形になっているからです。
また、ここには内蔵DSPによるエフェクトも搭載されています。これはTAC-2やTAC-2Rにも搭載されていたものと同等のもので、リバーブやディレイ、エコーなど8種類が選択できるようになっており、各入力に対してセンド・リターン型のエフェクトとして使えるようになっているのです。
エフェクト機能をONにしようとしたら、アラートが表示された!?
で、実はこのエフェクトをONにしたところで、アラートが表示されて、ちょっと驚くべきことに気づきました。「エフェクトをオンにするためには、アップサンプリングをオフにする必要があります」と表示されるんですよ。「そのアップサンプリングって何だ!?」、と。
初期状態で右上のUPSAMPLINGというボタンがONになっている
後でマニュアルなどを見て分かったのですが、TAC-8は初期状態でアップサンプリングという機能がオンになっており、44.1kHzや48kHzでの使用時は、内部的にはA/D、D/Aのところで176.4kHzまたは192kHzにアップサンプリングされて、より高音質でのレコーディング、再生ができるようになっているとのこと。高音質化のために、いろいろなトリックが仕掛けられているんですね。試しに、このUPSAMPLINGをオン/オフして聴き比べてみると、確かい微妙な音の差があり、明らかにオンにしたほうがいい音になります。
エフェクトを使いたいのか、音質重視で使うのかの選択を迫られることにはなりますが、「これは使える!」という印象です。
AUTOボタンをオンにすることで、入力ゲインの設定を自動でできる
また、各チャンネルにはAUTOというボタンがあるのですが、これを使うと、自動的に入力ゲインを調整して最適な音量にしてくれるオートセンス機能となっています。これをオンの状態で、しばらく音を出して調整すると、簡単にゲイン調整ができて、とても便利でした。
Cubase AI 7を起動してチェックしてみると、18IN/2OUTの入出力がズラリと並んでいるのが分かる
さらに、TAC-8にはCubase LE 7がバンドルされているので、これをMacにインストールして使ってみました。確かに、入出力を見ると、18IN/20OUTのオーディオインターフェイスとして機能していることが見えます。
ここで、ソフトシンセを鳴らしてみると、これもまた快適なんですよね。レイテンシーがすごく小さい感じで違和感がない。オーディオにエフェクトを通して戻しても、すごく気持ちいい感じです。Windowsで動かないので、レイテンシーの実測値を見ることはできませんでしたが、ZOOMが「ニアゼロレイテシー」といっているのはよくわかります。
バッファサイズは標準で64Sample。処理能力の高いマシンなら32Sampleの設定も可能
しかも、初期設定の状況ですごくよかったけれど、この状態でのバッファサイズは44.1kHzで64Sample。これをさらに32Sampleまで縮めることが可能です。残念ながらMac Miniの処理能力不足か、32Sampleではノイズが発生してしまって、しっかり使えませんでしたが、これはなかなかすごいですよね。
STAND ALONEスイッチをONにしてThunderboltを切り離すと、単独のマイクプリアンプとして利用できる
なお、このTAC-8はMacとThunderbolt接続を切り離すとスタンドアロンのマイクプリンアンプとして機能してくれるます。この場合、ADATオプティカルの端子を使ってのやりとりができるので、これはこれで便利そうですよね。
これだけ多くの入出力を備えて、ノイズがほとんど入らず、高音質。しかもレイテンシーも極めて小さいというのですから、かなり強力なオーディオインターフェイスであることは間違いないと思います。ただ、これだけの入出力があり、ファンタム電源、マイクプリアンプも備えているだけに、Thunderboltからだけの電源供給で動かすことはできないようで、付属のACアダプタを使う必要があります。そのため、基本的には持ち歩いて使うのではなく、据え置きで使う製品ですが、機能面、音質面、価格面のどれをとっても導入を検討してもいい機材ではないでしょうか?
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【価格チェック】
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