KORG MUSIC PRODUCTION STATION、electribe
昨年11月に発売されたelectribeはKORGのドラムマシン/シーケンサとして実績あるELECTRIBEシリーズの最新版。初代機であるELECTRIBE・AおよびELECTRIBE・Rが発売されたのが1999年なので、16年もの歴史を持つ機材なんですよね。
■KORGの歴代ELECTRIBEシリーズ
1999 | ELECTRIBE・A |
1999 | ELECTRIBE・R |
2000 | ELECTRIBE・S |
2001 | ELECTRIBE・M |
2003 | ELECTRIBE・MX |
2003 | ELECTRIBE・SX |
2003 | ELECTRIBE・A mkII |
2003 | ELECTRIBE・R mkII |
2004 | ELECTRIBE・S mkII |
2010 | ELECTRIBE・MX SD |
2010 | ELECTRIBE・SX SD |
2010 | iELECTRIBE for iPad |
2011 | iELECTRIBE Gorillaz Editon |
2014 | electribe |
2015 | electribe sampler |
今回、小文字の名称で誕生した新electribeは、これまでのELECTRIBEシリーズの集大成ともいえるものですが、赤・青・緑など、比較的カラフルだった従来機と異なり、シックなグレー配色。写真でみると、プラスティック・ボディーのように見えてしまうかもしれませんが、亜鉛ダイキャストを用いた金属ボディーで、結構ズシリとくる重たさです(339×189×45mmで1.6kg)。
electribeの開発エンジニアである斉田一樹さん(左)と企画担当者である坂巻匡彦さん(右)
[2014年11月4日のDTMステーションPlus!の録画映像より]
では、electribeとは何なのでしょうか?まずは、これがどんな音が出るものなのか、以下のビデオを見てみると雰囲気が分かると思います。
ビデオからもお分かりいただけたと思いますが、electribeは16個あるパッドを叩くと音が出ます。プリセットプログラムの多くは上段の8つがシンセの音源、下段の8つがドラム音源に割り当てられており、ベロシティーも効き、先ほどのLEDも光ってくれるから、それだけでも楽しめます。
ここで液晶パネル右にあるVALUEノブを回していくとパターンが切り替わり、16個のパッドに割り振られている音色も変化していきます。エレクトリックなシンセ音色、アコースティック楽器音、さまざまなドラムサウンド、パーカッション……、ホントにいろいろ。でも、これを触って音を出していてすぐに分かるのは、「electribeって、かなり強力なシンセサイザだ!」ということです。
ノブとして用意されているパラメータにはOscillator、Filter、Modulation、Amp/EGと並んでいる
歴代ELECTRIBEシリーズの中にもシンセサイザ機能が入っていたのですが、最新のelectribeは特にシンセサイザ機能に力が入れられており、KingKORGからアナログモデリングのエンジンも持ってきているとのこと。
アナログモデリングといったって、オシレーターはサイン波、矩形波、三角波、ノコギリ波などの基本波形に留まりません。Oscillatorノブを回していくとDUAL-DAW、OCT-TRI、SYNC-SINE、なんてところからA.Guitar、Bell 1、Voice 2……などのPCMサウンドまで波形だけで409種類も用意されているんです。
そしてelectribeのパラメータを見てみると分かるとおり、Filter、Modulation、Amp/EGといったノブがズラリと並んでおり、例えばFilter=CutoffとResonanceのノブを回すとグイグイ音色が変化していくわけです。しかも、このフィルタ、LPF(ローパスフィルター)、HPF(ハイパスフィルター)、BPF(バンドパスフィルタ)と3つのボタンから選択できるだけでなく、LPFボタンを押していくと、electribe LPF、MS20 LPF、MG LPF、P5 LPF、Acid LPFなどとフィルターのタイプが変化していくんですよ。MG、P5が何を意味しているのかは分かる人ならすぐに分かりますよね!
シンセサイザをポリフォニックに設定しておけば和音で演奏することも可能です。「だけど、この鍵盤で演奏するのはさすがに難しそう」「そもそも鍵盤なんて弾けないよ」という人も大丈夫。Scale(スケール)、Key(キー)を設定しておくと、適当に弾くだけで、音を外さずにそれっぽい音階で演奏することができてしまうのです。
付属の変換ケーブルを用いることでMIDIの入出力も可能となり、外部キーボードから演奏できるようになる
またWindowsやMacとUSBで接続をしてもMIDIが通るので、DAWなどを介した上でUSB-MIDIキーボードで弾いたものをelectribeへと送ることも可能になっています。なお、この際、MIDIのチャンネルがelectribeのパートに対応する形になっています。パートというのは先ほどのTriggerがオンの場合のパッドの番号に相当するもので左上のパッド1の音がパート1、その隣がパート2という具合。それぞれに別の音が割り当てられるので16chのマルチティンバーのシンセサイザとなっているんですね。ちなみに1パートは最大4音ポリ。また全パート合わせての最大同時発音数は24となっています。
[2014年11月4日のDTMステーションPlus!の録画映像より]
と、ここまでelectribeを音源と捉えた上で見てきましたが、それはelectribeの一面に過ぎません。これは強力なシーケンサでもあるのです。基本的には16ステップのシーケンサとして使えるようになっており、Sequencerボタンを押すと16あるパッドが1ステップずつを表すようになります。パートを選択した上で、この16ステップでオン/オフを組んでいくことによって、パターンを作っていくことができるわけです。
この際、パターンを再生しながら組んでいくことができるだけでなく、ここで録音ボタンを押すとリアルタイムレコーディングも可能です。つまり、ライブパフォーマンス的にパッドを叩けば、それでパターンを作っていくことができるわけですね。この辺の操作は直観的にできるので、ほとんど戸惑うこともないと思いますよ。
RECボタンを押すとレコーディングモードとなり、パッドを叩くとそれが録音されるし、X-Yパッドでの操作も録音される
もちろん、RECボタンを使って録音というか記録していった結果もパッドが赤く点灯される形で確認できるので、必要に応じて修正していくことも簡単にできます。
シーケンサで演奏させながらFilterなどをいじっていくことも可能
一番右上のノブにInsertFXというものがありますが、これは各パートごとにインサーションできるエフェクトを意味しています。ディストーションやビットクラッシャー、リングモジュレーター、サスティナー、リミッター……とさまざまなエフェクトが用意されており、それを各パートごとに入れていくことができるため、計16個が使えるというわけですね。
さらにMaster Fxという最終段に挿すことができるマスターエフェクトも用意されています。こちらはリバーブやテープディレイのような、いわゆるマスターエフェクトだけでなくルーパー、ステップシフター、スライサーのようなものも入っているため、ここで大きく音楽の雰囲気を変えてしまうことまで可能になっているのが面白いところです。
以上、electribeの基本的な機能についてざっと見てきましたが、いかがだったでしょうか?ただ実際に使ってみると、まだまだ様々な機能が用意されているので、使えば使うほど面白さが見えてくると思いますよ。ただし、このelectribeには曲として完成させるためにパターンを並べていくソングモードのようなものはありません。前出の坂巻さんによれば、現在の利用シーンを考えてあえて入れなかった、とのこと。というのも、electribeは操作をしながら偶発的にできるサウンドやパターンを楽しんでいくものであり、そこにフォーカスしたかったからのようです。
エクスポート方法はいたって簡単。メニュー画面でEXPORT AUDIOを選び、TYPEとしてAbleton Live Setを選べばOK。すると、electribeに挿入してあるSDカードにオーディオとして書き出されるようになっているのです。この際、Live用のデータと8トラックまでに集約したLive Lite用のデータの2つが書き出されるため、ユーザーがどちらを使っているかによって選んで利用することができます。
electribeにバンドルされているAbleton Live Lite。保存したパターンを読み込ませてみたら完全な形で再現できた