DAW時代の理想環境を実現させたデジタルミキサー、Roland MX-1

音楽制作環境を整える上で重要なポジションを占めるのがミキサーの存在。最近はDAWを中枢に据えるケースが多いため、マルチポートの入出力を持つオーディオインターフェイスがあれば、DAWがミキサーの役割を果たすことが可能なのは事実です。でも、やはりフェーダーを動かせば、すぐに音が立ち上がってくるミキサーがあると、作業効率が格段に上がるのも実際のところです。

一方でミキサーに接続する楽器やオーディオ機器側も昨今で大きく変化してきています。つまりPCであったり、S/PDIFなどのデジタル端子、そしてUSB接続機器など、従来のアナログだけではなくなってきたわけですが、そんなデジタル環境にマッチするミキサーがRolandから発売されています。AIRAシリーズのMX-1というのがそれ。先日のファームウェアアップデートにより、さらに使いやすく便利なミキサーへと進化しているので、紹介してみましょう。

さまざまな機材とデジタル接続可能な新世代デジタルミキサー、RolandのMX-1


私個人的にはデジタルミキサーというのが好きで、いろいろなメーカーのさまざまな製品を使ってきました。デジタルミキサーが好きな理由は単純で、とにかくS/Nがいいから。ミキサーっていろいろな機器をつなぐだけに、ノイズが乗りやすいけれど、デジタル接続なら、ケーブルや電源などあまり気にしなくても、ホントにノイズレスな環境が簡単に作れますからね。

MX-1のリアパネル。18chの入力を備えているのに、結構シンプル 

ただ、デジタルミキサーって、あまりないんですよね。各社から出ていた機器もみんな廃盤になっちゃって、残っているのは業務用の高価な機材くらい。一般ユーザーが手軽に入手できるものがほとんど存在しないのが実情です。そんな中、RolandがAIRAシリーズとして発売したのが新世代デジタルミキサー、MX-1(実売65,000円前後)。これは従来のデジタルミキサーともまただいぶ異なるもので、まさにDAW時代の現代にマッチした理想的なミキサーになっているんです。


アナログ入力はモノラルのライン入力が4chとステレオミニジャックの入力が1つ

MX-1の概要していきましょう。まずはミキサーなので入力から見ていくと、普通のミキサーと同様、アナログ入力が6ch用意されています。1~4chがそれぞれ標準ジャックで入力するモノラル、5/6chはステレオミニジャックで入力するステレオとなっています。またS/PDIFのコアキシャルが1つあるので、デジタルオーディオ機器などはここに繋ぐといいですよね。ちなみに、このS/PDIF端子は1つで入出力切り替えて使う仕様になっています。


USB HOSTとなっているところにAIRAシリーズやRolandのシンセサイザと接続するとデジタル入力される

さらに画期的なのはUSB入力がステレオ4chあるという点です。これがほかのデジタルミキサーにはなかったMX-1最大の特徴ともいうべきところ。またこの4つのUSB入力とは別にPCからの入力がステレオ1chあるので、モノラルで数えれば計18chの入力を持つデジタルミキサーとなっているのです。


USB接続された機器からの音はUSB 1~4のチャンネルに立ち上がってくる

では、そのUSB入力とは何なのでしょうか?MX-1のリアパネルを見ると、まるでUSBハブのように4つのUSBポートが用意されていますが、ここにUSB接続可能なシンセサイザなどを接続すると、MX-1とデジタル接続されるのです。現在、そのデジタル接続可能な機材はRoland製品のみとなっているようですが、TR-8TB-3SYSTEM-1などのAIRAシリーズ、シンセサイザキーボードとしてJD-XiJD-XAFA-06FA-08JUPITER-80JUPITER-50JUNO-Giなど計16種類の機器が対応しています。MX-1発売当初はAIRAシリーズのみの対応だったのが、ファームウェアのアップデートで対応機種が増えているんですよね。

またユニークな点としてはUSBの3番のみはバス電源供給が可能であること。たとえばTB-3をここに接続すれば、USBからの電源供給だけで動作させることができるわけですね。そして、このUSBの各ポートに接続した機器からの音はMX-1のUSB1~USB4のチャンネルのフェーダーに立ち上がってくるわけです。


MX-1のUSB端子にTB-3、SYSTEM-1、JD-Xiを接続すると、即認識され、ノイズレスでの入力ができる

実際にTB-3、SYSTEM-1、JD-Xiなどを接続してみたところ、まさにノイズレスで、とっても気持ちよく使えますよ!本当はメーカー関係なしに、いろいろな機材が繋がってくれるようになると嬉しいのですが、そこは今後に期待しましょう。

一方、正方形のほうのUSB端子を使ってPCと接続すると、PCからはMX-1が18IN/18OUTのオーディオインターフェイスとして見えるようになっています。これをどう使うかは、MX-1のモード設定をどうするかによって、変わってくるのですが、初期設定ではMIXERモードというものになっており、MX-1は普通にミキサーとして機能するため、各チャンネルへの入力は、接続されているアナログ端子やデジタル端子、USB端子からのものとなり、PCからはPCチャンネルとして2chで入ってくる形になります(使っていないUSBチャンネルにもPCからの別チャンネルとしてアサインすることが可能)。


USB接続したPC側からMX-1を見ると18IN/18OUTのオーディオインターフェイスとして認識されている

しかしEXTERNAL MIXINGモードというものに設定すると、まさにそのまま18IN/18OUTのオーディオインターフェイスとして使うことができ、各チャンネルに入ってきたアナログ信号もデジタル信号も、そのままPCへと流れる形になります。MIXERモードとの一番の違いは、PC側から出した18chがそれぞれMX-1上のフェーダーで操作できること。しかもMX-1に搭載されているエフェクトやフィルターでPCからの音をいじることができるのも面白いところです。このモードでは外部からMX-1へ入ってくるアナログやデジタルの信号はPCへ行き、ミキサー上には立ち上がってきません。ちょっと、言葉での説明だと分かりにくいかもしれませんが、Rolandの「MX-1 EXTERNAL MIXING モードの使いかた」というページに詳細があるので、興味のある方はご覧ください。

またCONTROL SURFACEモードというものにすると、MX-1のフェーダーをコントロールサーフェイスとしてPCのDAWのコントロールに利用することが可能です。つまり、CubaseSONARliveStudioOneといったDAWのミキサーをリモコン的にコントロールすることが可能になるんですね。


MASTER FXにはDELAY、FILTER、SCATTER、FLANGER、BIT CRUSH、ROLLの6種類が利用できる

ところで、MX-1にはMASTER FXBEAT FXという2つの性格の異なるエフェクトが搭載されているので、これについても簡単に紹介しておきましょう。まずMASTER FXはすべてのチャンネルがミックスされたサウンドにかけるエフェクトで、ディレイやフィルター、6種類のエフェクトから選択できるようになっています。同時に使えるのは1つのみですが、各チャンネルごとにオンとオフの設定ができるようになっています。


BEAT FXはFILTER、SIDECHAIN、SLICERのいずれかを各チャンネルごとに設定できる 

一方のBEAT FXは各チャンネルごとにフィルターやスライサー、サイド・チェインの3種類の中から一つを設定することができます。BEATと言っているのは、テンポに合った形でかかるようになっており、しかもシーケンサのように16ステップあるステップごとにオン/オフを設定できるのですが、この辺は今回記事のテーマであるミキサーそのものとはちょっとズレるので、割愛しますね。興味のある方はぜひ、MX-1の製品情報ページでチェックしてみてください。

さらに、MASTER FX、BEAT FXとは別にTONE/FILTER FXというものが各チャンネルごとに独立して設定できるようになっています。これはチャンネルストリップ的なものであり、EQやローパス、ハイパスといった設定を行うもの。全部で10種類の異なるタイプが用意されており、しかもそれぞれツマミを使って調整できるようになっています。


AUX SEND、AUX RETURNも用意されているのでアウトボードのエフェクトとの接続も可能

そのほか、リバーブやディレイなど、アウトボードのエフェクトがあれば、外部接続して、センド/リターンの設定ができるなど、かなりフレキシブルな設計になっているのもMX-1の特徴となっています。

これらのエフェクトは外部からの入力にはもちろん、PCからの出力に対しても有効に使えるし、エフェクトをかけた音を改めてPC側に取り込むといったことも可能です。「DAWならプラグインがあるんで、わざわざそんなことをしなくたって……」と思う方もいるとは思いますが、やはり外部ミキサーで直感的に操作できると、分かりやすくていいものですよ。もちろん、スキャッターなどPCのエフェクトとしてあまり存在しないものが使えるのも面白いですね。

さて、ここまでの内容を読んで、サンプリングレートはどうなってるんだ?と疑問に思われた方もいるかもしれません。プロ用途のデジタルミキサーの場合、すべての機器でサンプリングレートを揃え、完全に同期させた状態で使うのが基本になっていますが、このMX-1では、そうした細かいことを気にせずに使えるのも便利なところです。

たとえばAIRAシリーズは96kHz固定となっているのに対し、JD-Xiなどは44.1kHz固定なので、従来の考え方からするとこれらを一緒に使うことができません。そしてMX-1経由でDAWでレコーディングとなれば、そちらとの整合性も必要になってくるのですが、MX-1の場合、その辺は意識しなくても自動で揃えてくれるのが便利なところなんです。

PCとの接続においては44.1kHz、48kHz、96kHzのいずれかを選択できるようになっているのですが、たとえば96kHzの設定において、MX-1にJD-Xiを接続した場合、内部で自動的に96kHzへサンプリングレートコンバートされた上で、PCへと入ってくるわけなのです。


MX-1のシステム・ダイアグラム 

簡単に使える機材だけれど、機能はかなり盛りだくさんなので、説明できたのは、ミキサー関連の一部の機能に過ぎません。先ほど触れたステップシーケンサ的な機能や外部との同期機能、より突っ込んだエフェクトの設定術など、興味のある方はRolandサイトをチェックしてみてください。
【関連情報】
Roland MX-1製品情報
MX-1 MASTER FX情報(Roland Blog)
MX-1 BEAT FX情報(Roland Blog)

Commentsこの記事についたコメント

3件のコメント
  • ドリーム

    デジタルはクリーンな音で今やこの技術に頼らなければ音楽はできませんね、私も仕事柄デジタルにはお世話になっております。まったく個人的な感想なのでスルーしていただきたいのですが、やはりデジタルだと音域が狭く奥行きのないノッペリした感じで、硬いのに力の弱い響きに聴こえてしまうのです、将来的にデジタルの次にくる夢のような音響フォーマットが出てくることを期待します。

    2015年9月13日 6:56 PM
  • 藤本健

    ドリームさん
    おっしゃる通りだと思います。デジタルにするとS/Nはいいけれど、ノッペリした音になりがちです。けれど、その辺も使い方の問題もあるのでは…とも思っています。とくに24bit/96kHzなどになってくると、かなり奥行のある音づくりができるようになると思います。といっても、ここも使い方次第。下手にデジタルエフェクトを噛ませると、結局ノッペリした音になってしまうので。この辺は少しずつなのかな…とも思っています。

    2015年9月13日 8:42 PM
  • ひまちゃん

    ちょっと高いかな

    2015年9月15日 12:07 AM

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