ヘッドホンでのモニタリングは、現代の音楽制作において非常に重要な工程です。しかし、ヘッドホンとアンプの組み合わせ、特にインピーダンスの相性について、深く意識したことはあるでしょうか?このマッチングが最適でないと、ミックスやマスタリングの判断に必要な、音の細部や正確なバランスを捉えきれていないかもしれません。
そんな中、DTMerにとってシビアなモニタリング環境の構築に役立ちそうなヘッドホンアンプが、スペインのアナログ機器メーカーHeritage Audioから登場しました。その名もO.H.M Headphone Matching Amplifier(93,500円税込)。このO.H.M Headphone Matching Amplifierは、さまざまなインピーダンスを持つヘッドホンに対し、アンプ側の設定を最適化できるという画期的なインピーダンスマッチング機能を搭載しています。Heritage Audioといえば、ビンテージNEVEサウンドの再現で定評のあるメーカー。そのアナログ技術へのこだわりが、ヘッドホンアンプという形で、音楽制作の精度向上にどう結びつくのか、詳しく見ていきましょう。またインピーダンスマッチング機能に加え、ディスクリート構成のダイヤモンドバッファ回路やBurr-Brown製DAC、さらには制作中のリファレンスチェックにも便利な高品質Bluetooth入力まで備えています。そんなO.H.M Headphone Matching Amplifierを実際に試してみたので紹介していきます。
ビンテージNEVEコンソールのサウンドキャラクタを現代に蘇らせるHeritage Audio
Heritage Audioは2011年設立のスペインのマドリードを拠点とするプロオーディオ機器メーカー。ビンテージNEVEコンソールのサウンドキャラクタを現代に蘇らせ、高品質なマイクプリアンプやEQ、コンプレッサなどのアウトボードで、世界中のエンジニアやプロデューサから高い評価を得ています。アナログ回路技術に精通し、細部にまでこだわった製品作りが特徴です。
また以前「2つの入力・出力をスマートに切り替え、手元でボリューム調整も。モニターコントローラ、Baby RAMでDTM環境を快適に」という記事でも紹介したことがある、モニターコントローラなども開発しており、スタジオの中心となるような機材も得意としています。そんなHeritage Audioが、今回新たにラインナップに加えたのが、今回紹介するO.H.M Headphone Matching Amplifier。
近年の音楽制作環境では、さまざまな特性を持つヘッドホンが使用されています。モニタリングの精度を追求する上で、ヘッドホンそのものの性能はもちろん重要ですが、それを駆動するアンプとの相性、特にインピーダンスのマッチングが見過ごされがち。Heritage Audioは、この重要なポイントに着目し、どんなヘッドホンでもその真価を発揮できる環境を提供することを目指し、O.H.M Headphone Matching Amplifierが開発されました。
スタジオに映える堅牢な筐体と落ち着いたデザインのO.H.M Headphone Matching Amplifier
O.H.M Headphone Matching Amplifierの筐体は、同社の他の製品と同様に堅牢な金属製で、スタジオ機材らしい落ち着いたデザインとなっています。フロントパネルには、インピーダンスセレクタとなるロータリースイッチ、ボリュームノブ、入力切替スイッチ、そして6.35mmと3.5mmのヘッドホン出力が配置されています。リアパネルには、バランス入力用のXLR/TRSコンボジャック、アンバランス入力用のRCAジャック、スルー出力用のTRSジャック、そしてBluetoothアンテナと電源入力が備わっています。
O.H.M Headphone Matching Amplifierの最大の特長であり、製品名にもなっているのが、インピーダンスマッチング機能。まずは、そのインピーダンスマッチングについて紹介していきましょう。
インピーダンスとは?
ヘッドホンには、それぞれ固有のインピーダンス値というものががあります。これは電気的な抵抗値とほぼ同義のもので、単位もΩ(オーム)です。正確には抵抗、コンデンサ、コイルなどすべての回路に交流が流れた際の抵抗を意味するもので、このインピーダンス値によってヘッドホンを適切に駆動するためにアンプに求められる能力が変わってきます。一般的に、インピーダンスが高いヘッドホン、たとえば250Ωや600Ωなどのものは、それなりの出力を持つアンプでないと十分な音量が得られなかったり、音が痩せてしまったりすることがあります。
また、アンプの出力インピーダンスとヘッドホンのインピーダンスの比率は、ダンピングファクタという数値に関係し、これがヘッドホンの振動板を適切に制動、つまりコントロール、する能力に影響します。マッチングが取れていないと、特に低音域がぼやけたり、逆に特定の周波数が不自然に強調されたりするなど、ヘッドホン本来の周波数特性が損なわれる可能性があります。これは、ミックスやマスタリングといったシビアな音の判断を行う上で、非常に大きな問題。
そんなインピーダンスをマッチングさせるために、O.H.M Headphone Matching Amplifierのフロントパネルにあるロータリースイッチで、インピーダンスを指定していきます。このスイッチを回すことで、接続するヘッドホンのインピーダンスに合わせて、アンプ側の出力特性を最適化できるのです。
Heritage Audioの公式サイトによると、このセレクタは複数のインピーダンス設定に対応しており、ごく一般的なインピーダンス値から、非常に高いインピーダンスを持つヘッドホンまで、幅広くカバーすることを目指しているようです。たとえば、一般的なスタジオモニターヘッドホンでよく見られる数十Ω程度のものから、プロフェッショナル向けやオーディオ愛好者向けの数百Ωクラスのものまで、それぞれのヘッドホンが持つポテンシャルを最大限に引き出すことが可能となっているのです。
実際に異なるインピーダンスを持つヘッドホンを接続し、O.H.M Headphone Matching Amplifierのインピーダンスセレクタを適切な位置に設定した場合と、あえて不適切な位置に設定した場合で音を比較すると、その効果は明確に感じることができます。
たとえば、高インピーダンスのヘッドホンをセレクタが低インピーダンス向けの設定になっている状態で聴くと、音量が小さく、どこか力のない、ぼやけたサウンドに聴こえます。しかし、セレクタを適切な高インピーダンス向けの位置に合わせると、音に力強さと明瞭さが生まれ、低域の締まりや高域の伸び、そして音場感が格段に向上するのです。
逆に、低インピーダンスのヘッドホン、SONYのMDR-CD900STなどの場合も同様で、適切な設定にすることで、不自然なピークや歪みが抑えられ、よりバランスの取れたモニタリングが可能になります。このように、O.H.M Headphone Matching Amplifierのインピーダンスマッチング機能は、使用するヘッドホンを選ばず、常に最適な状態でその性能を引き出すことを可能にしてくれるのです。これは、複数の異なるヘッドホンを使い分ける制作者にとっては、非常に大きなメリットといえますね。
スタジオクオリティを追求した音響設計と多彩な機能
またO.H.M Headphone Matching Amplifierの魅力は、インピーダンスマッチング機能だけではありません。Heritage Audioならではの、音質への徹底したこだわりが、さまざまな部分に見られます。
O.H.M Headphone Matching Amplifierの心臓部には、Heritage Audioのハイエンド・モニターコントローラであるR.A.M. SYSTEMシリーズで採用されているディスクリート構成のダイヤモンドバッファ回路が搭載されています。これは、一般的なICオペアンプに頼らず、個別のトランジスタなどを組み合わせて構成される回路で、極めて高いドライブ能力と低歪みを実現しています。
また、オーディオ信号経路には、オーディオグレードとして定評のあるBurr-Brown製のオペアンプやDACが採用されており、入力から出力まで、信号の純度を損なうことなく、高い忠実度でヘッドホンへと伝えます。ボリュームコントロールには、プロオーディオ機器で高い信頼性を持つALPS製のBLUE VELVETポテンションメータを使用。スムーズな操作感と共に、特に音量を小さく絞った際にも左右の音量バランスが崩れにくい、正確なレベル調整が可能です。
電源部にもこだわりが見られ、外部30Vの低ノイズ・高電圧電源を採用しています。これにより、あらゆるインピーダンスのヘッドホンに対して、余裕のあるクリーンな電力を供給し、ダイナミックな音楽信号も歪みなく再生する強力な駆動力を実現しているのです。
多様な入力ソースに対応する柔軟性とBluetooth接続の品質
さらにO.H.M Headphone Matching Amplifierは、プロフェッショナルなスタジオ環境からパーソナルな制作環境まで、さまざまなシーンに対応できるよう、3系統の独立した入力ソースを備えています。
リアパネルには、業務用のバランス接続に対応するXLRとTRSフォーンのコンボジャック入力、そして一般的なオーディオ機器との接続に適したRCAジャックによるアンバランス入力を装備。これらの入力ソースは、フロントパネルに配置されたスイッチで簡単に切り替えることができ、直感的な操作が可能。
そして現代の制作環境において便利なのが、高品質なBluetooth入力です。aptX HD、aptX Lossless、AAC、SBCといった主要な高音質コーデックに対応しており、スマートフォンやタブレット、コンピュータからワイヤレスで手軽にオーディオ信号を入力できます。制作中のリファレンス音源の確認や、クライアントからのチェックバック、あるいは気分転換に音楽を聴く際など、さまざまな場面で役立つと思います。Burr-Brown製のDACを通じて処理されるため、ワイヤレスでありながら高品位なサウンドが再生されるようになっています。
便利な出力系統と拡張性
またヘッドホン出力は、一般的な6.35mmの標準フォーン端子に加え、ポータブルオーディオプレーヤや一部のヘッドホンで採用されている3.5mmのミニ端子も独立して搭載。変換アダプタなしで、さまざまなヘッドホンを直接接続できるのは嬉しいポイントです。
さらに、リアパネルにはTRSフォーンによるスルー出力も備わっています。これは、選択された入力ソースをそのまま出力する機能で、たとえばO.H.M Headphone Matching AmplifierをプリアンプやBluetoothレシーバとして使用し、その信号をほかのミキサーやオーディオインターフェイス、パワードスピーカーなどに出力したり、といった柔軟なシステム構築を可能にしています。
以上、Heritage AudioのO.H.M Headphone Matching Amplifierについて紹介しました。ユニークなアプローチと直感的な操作性で、ヘッドホンモニタリングの質を新たなレベルへと引き上げる機材でしたね。価格は93,500円(税込)と、その多機能性と高品位なサウンドを考えると、十分に検討の価値があると思いますよ。ぜひ、1度その実力を確かめてみてはいかがでしょうか。
シンセ奏者の味方マルチステレオパッシブスイッチャSynth Buddy
Heritage Audioは、メインとなるO.H.M Headphone Matching Amplifierのような音質を追求する製品以外にも、DTM環境をスマートに、そして便利にするユニークなツールをリリースしています。中でも最近発売されたモデルが、Synth Buddyです。
デスクトップにずらりと並んだお気に入りのシンセサイザやリズムマシン、サンプラなどのライン機器。制作のたびに、これらの出力をオーディオインターフェイスの限られた入力にいちいち抜き差しするのは、なかなか手間がかかりますよね。Synth Buddyは、そんなDTMerの悩みをシンプルに解決してくれる、10入力/1出力(または1入力/10出力)のパッシブステレオスイッチャとなっています。
最大で10系統のステレオライン入力(モノラルであれば20系統)を、フロントパネルに配置された大きなノブ一つで、カチッ、カチッと瞬時に切り替えることが可能。完全なパッシブ設計のため、電源を必要とせず、入力された信号に余計な色付けもなし。シンセサイザなどが持つ本来のクリアなサウンドを、そのままミキサーやオーディオインターフェイスへと送り出すことができるのです。
さらに便利なのが、このSynth Buddyは接続を逆にすることで、1系統のステレオ信号を10系統のステレオ出力へ切り替えて送るセレクタとしても機能する点。たとえば、DAWからのマスター出力を複数のモニタースピーカーで聴き比べたり、お気に入りのシンセの音を複数のエフェクタに送って音作りを試したりと、アイデア次第でさまざまな使い方が広がります。コンパクトな筐体ながら、スタジオのハブとして一台あると、制作の自由度と効率を格段に上げてくれる機材となっているのです。
【関連情報】
Heritage Audio O.H.M Headphone Matching Amplifier製品情報
Synth Buddy製品情報
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