6月23日から始まる米Summer NAMMでの発表が予定されているNEUMAN KEYBOARDのデザイン
楽器メーカー、シンセメーカーなら片っ端から知ってるよ、という人でもユードーという会社をご存じな方は少ないかもしれません。ユードーは、「beat mania」、「pop’n music」など、いわゆる“音ゲー”ブームを生み出し、そのマネジメントまで深く関わった経験を持つ、「dj nagureo」こと南雲玲生さんが2003年に設立した横浜・みなとみらいにある会社。
奇抜な企画力を活かし、世界に通用する革新的な新サービス・新ゲームを作ることを目指しつつ、主にスマートフォンアプリの制作を行ってきたとってもユニークな会社なんです。実はDTMステーションのスタート当初、2010年にも「iPhone/iPad用DTMアプリを次々と生み出す日本メーカー、ユードーとは」、「AndroidでDTMは無理なの!? ユードー・インタビュー続編」といった記事で取り上げたこともありました。当時から、すごい力を持った会社だな……と思っていましたが、またトンでもないモノを作ってしまったんですね!
この話を最初に南雲さんから聞いたのは2015年9月。「OSも意識せずに、電源コードも、MIDIもオーディオアウトもまったくなくて、ミュージシャンが使える究極のシンセサイザーを考えている」、とプロトタイプの写真を見せてもらったんです。そのときは、「南雲さん、またシンセ趣味が高じて変なことを思いついちゃったんだろうな……」なんて軽く思っていたんですが、趣味とかのレベルではなく、すごいことを思い描いていたんですね。
「今、ガジェット系のシンセはいっぱいあります。どれも音作りを主眼としたもので、もちろん、それはそれで面白いけれど、僕はもっと演奏したり曲を作るときに使えるシンセが欲しいな、と思っていたんです。以前はE-muのE4のキーボードの鍵盤タッチが好きで、これをかなり長い間使っていましたが、そんなものがあったらいいな……と。ただ、大手メーカーはそうしたシンセって作ってくれません。だったらミュージシャン、アーティスト専用に徹底的に使いやすい、弾きやすいものを作ろう、と思ったんです」と南雲さんは当時を振り返ります。
「僕は少し昔のヤマハのFS鍵盤が好きですが、80~90年代のキーボードが好きな人、弾きやすいと思う人は多いように思います。それでDX7やM1、TRINTYなど、いろんな音源からキーボードを抜き出し、職人さんにオーバーホールをお願いするとともに、磨き上げてもらったところ、素晴らしくいいコンディションにすることができるんですよね。だから、ユーザーに好みの鍵盤を指定してもらい、それに合わせたものを調達して組み込もうと思っています。基本的には76鍵盤のサイズですが、61鍵盤もOKな設計にしています」(南雲さん)と、そもそもの発想が普通ではありません(笑)。
「Nord Leadが出たときは、とっても斬新だと思ったけれど、歳をとったのかな……ツマミがいっぱいあると、曲作りよりも音作りに行っちゃうんですよね。VCOやVCFをいじるのも疲れてきたし(笑)……。だったらもっと簡単にタッチパネルで音色を選んでいけたらいいんじゃないのか、と思ったのです。今のソフトシンセ、性能的にはとっても優秀ですからね。ただ、それをPCと接続して……と考えると面倒だし、レイテンシーの問題も出てくるし、何よりスマートではありません。それなら、コンピュータごと、シンセの中に組み込んでしまえば、あとから自由に音源を変えたりすることもできますからね。一方で、僕らも長年スマホのアプリを開発してきましたが、演奏に専念することを考えると、小さいスクリーンじゃなく、大きいのが欲しかった。メニュー階層が深いと使いにくくなるから、指を離さすに操作できる範囲に留めようと、ソフト側も作っていったんです」と南雲さん。
シンセサイザの音源部分は内蔵させる小さなPCが担当する
上田さんがデザインしたUIのスケッチ。これが3D化されて実装される
で、そのUIのデザインを担当したのがaudio inc.という会社の代表取締役、上田晃さん。上田さんは元スクウェア・エニックスのデザイナーであり、シンセ関連でいえば、佐野電磁さんのDETUNEの製品である、KORG M01やKORG iDS-10、iYM2151などのデザインを手がけた人。
「DETUNEさんでは、物理的に存在するものをグラフィックで再現する仕事をしていましたが、今回のはまったく逆のアプローチであり、ゲームでのUIに近い感じ。グラフィックならではのスイッチなどを表現してみました」と上田さん。
精鋭のメンバーがNEUMAN KEYBOARDの開発に携わっている
NAMM Showで展示する筐体も、横浜の工場でほぼ手作りで完成したばかり
「弾きやすさを追求していったら、この形じゃないか、とコンセプトが固まっていきました。オーディオ出力用に、今のところ穴は空けているのですが、製品化する時点では、これをなくしたいですね。もちろんMIDIもペダルもワイヤレスです」と南雲さん。
その他各種ボードを組み合わせて設計されている
ちなみに、音源部はWindowsまたはLinuxを使いつつ、各種コントローラ部にRaspberry Piを採用するなどシステム的にはいろいろなコンピュータが採用されており、それらを組み合わせて1つのシンセサイザーを構成しているようです。また実際に製品化する際はユーザーの嗜好に合わせてキーボード部を変更するので、どのキーボードを採用するかによて、信号の出方やタイミングを調整するとともに、ベロシティーカーブやキーオフの設定など、さまざまな作業ことになるのだとか……。
南雲さんが生み出す究極のシンセサイザー、NEUMAN KEYBOARDが世界でどう受けと止められるのか、 期待したいところ
【関連サイト】
NEUMAN KEYBOARD製品情報
株式会社ユードーWebサイト