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アメリカ探訪記:最新DSP技術でApollo、Arrowを生み出すUniversal Audioは今も50年前のアナログ機材を生産し続けるメーカーだった

世界的な大ヒット製品になっているapollo twinや先日発売されたArrow、また各種apolloシリーズ、さらには、その根幹をなすUAD-2というDSPベースのソフトウェアを開発するアメリカのメーカー、Universal Audio。この会社は、斬新な新技術で世界を驚かせる製品を次々と生み出しつつも、60年もの歴史を持つ、まさにビンテージエフェクト機材を数多く生み出してきたレコーディング業界のレジェンドともいえるメーカーでもあるんです。現在の社長、Bill Putnam Jr.(ビル・パットナムJr)さんと弟のJames Putnumさんの二人が、父の偉業を再度復活させようと、一度なくなった会社を1999年に再設立したという、ちょっと変わった歴史を持っています。

 

Billさんは大学でデジタル信号処理を学んできたバリバリの開発者、弟のJamesさんはプロミュージシャン・プロデューサー・エンジニアという組み合わせです。その社長、Billさんのご招待を受けて、先日のNAMM SHOWの終了後に、Universal Audio本社に行ってきました。サンフランシスコからクルマで約1時間半、Apple本社のあるクパチーノからさらに南に行ったところにあるスコッツバレーというところにある会社です。ここでは、今でもアナログのコンプレッサである1176LA-2Aが50年前と同じように生産されていたのはちょっと驚きでもありました。社内をBillさんに案内してもらったので、Universal Audio探訪記ということでBillさんの語りで紹介してみましょう。


アメリカ・カリフォルニア州にあるUniversal Audioに行ってきた!


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Universal Audioにようこそいらっしゃいました。遠いところから本社までお越しいただきありがとうございます。1999年にスタートした新生UAのビジネスはサンタクルーズにある私の地下室から始まり、その後ガレージへと移動。さらに少し北のスコッツバレーにあるビルに移転したあたりからビジネスが大きくなり、数年前にこのビルへと変わったところです。ここではアナログ機材の研究開発から生産、セールス/マーケティングとオペレーションを行うと同時に、著名アーティストもレコーディングを行うスタジオを備えているんです。今日は、そんな私たちのビジネスの一部をご紹介していきます。


Universal Audio社内を案内してくれた社長のBill Putnam Jr.さん

 

UAのスタートは私の父、Bill Putnam Sr.(注:やや分かりにくいですね、社長もお父さんも同じ名前で、社長がJr.、お父さんがSr.です)が1940年代、50年代にシカゴのレコーディングスタジオで仕事を始めたのがキッカケでした。当時シカゴにはブルースと初期のロックンロールがあり、Muddy Waters、Willy Dixon、John Lee Hooker、そしてT-Bone Walker、Chuck Berry……といった人たちが活躍していた時代でした。そんな中、父はビッグバンドに注力し、Ellington、Stan Kenton、Count Basie、Ella Fitzgerald、Sinatraなどシカゴのすべてとも言っていいレコーディングを行っていたのです。


お父さんの時代のUniversal Audioを語るBillさん

そんな中、Harmonicatsという5人のハーモニカ奏者のバンドのレコーディングをするとともに父がレーベルを立ち上げ「Peg O’ My Heart」という曲をリリースした結果、ミリオンセラーに!この利益を資金にUAのビジネスが始まったのです。UAには後にグラミー賞を受賞するレコーディングエンジニア、Bruce Swedienも加わり、Michael Jackson、Quincy Jones、Frank Sinatra……などのレコーディングの仕事をしていきました。

シリコンバレーの南部、閑静な住宅が並ぶスコッツバレー

その後、父は60年代に温暖な気候のカリフォルニアに移住。ラスベガスにSinatraのレコーディング専用のスタジオを作ったり、Sinatraからのオーダーもあって新しいサウンドシステムをホテルに導入して、ライブレコーディングができるようにしました。そこから“Live at the Sands”など多くの素晴らしいレコーディングが行われたのですが、この時に作ったのがチューブ610コンソールとよく似たコンソールで、これを使ってレコーディングしていたのです。実はこれを現在Neil Youngが所有していて、彼はもう1台の昔のUA製のコンソールの2つを使い分けていて、現在もレコーディングをしているんですよ。


社内には、いたるところに昔のUAが開発したビンテージ機材が置かれている

私たちは、それをお借りして、正確にコンソールを解析することにしました。それは私たちの製品である610 Unisonマイクプリの1つになっています。アナログ回路で負荷、可変インピーダンスを持たせ、Apolloインターフェイスのインプットに接続されたマイクが実際のハードウェアのプリアンプにつながれているように振る舞います。プラグインとの相互作用をApolloはハードウェア的にも行っているのです。

 

ちなみに当時Neil Youngは、この辺の北部にある数百エーカーの広さを持つ牧場に住んでいました。彼はクルマのコレクターであり、列車のコレクターであるとともに、数多くのレコーディング機材も所有するコレクターでもありました。そんな中、Neil YoungはUAの2つのコンソールのほかに、31種類もの拡張モジュールも持っていたのです。そのうち27個がその後、オークションに出されたため、我々が買い取ったんですよ。いずれこれらをベースにしたコンソールを自分たちの手で作ってみたいと思っているところです。

昔の12chのミキシングコンソール

ところで、みなさんはスタジオでの音というのをどう感じますか?いいスタジオで演奏をすると、非常にいい音がします。以前父が所有していて、その後Alan Sides氏の手を経て、数年前にSunset Gower studioにわたったハリウッドのOcean Wayスタジオも、非常にいい音がするスタジオです。ちょうど私が新生UAをスタートさせたころ、このスタジオを再現するというコンボリューションリバーブの音を聴いたことがあったのですが、何か違う、どうもしっくりこない印象だったのです。

 

何が違うのか、何がいけないのか…と追求した結果、分かったのは測定値が正しくない、という事実だったのです。その音は、スタジオの中で鳴るスピーカーのようなサウンドだったのです。私たちは、スピーカーを演奏するのではなく、楽器を演奏しますよね?たとえばドラムを叩くとルーム内で反響した結果、ドラム自身も響く。だから実際の楽器と同じように異なる反射パターンを測定し、モデリングする方法を考えなければならないのです。もちろん、それをどう実現するかは、今と昔でいろいろ違うわけですが、父も人工的に空間を再現するリバーブにこだわりをもっていたようです。


廊下に置かれていたAKGのスプリングリバーブ、BX20は冷蔵庫くらいの大きさ

オイルの缶をリバーブとして使用できるよう試してみたり、庭にあるホースにオーディオを通そうとしたのです。Cooper Time Cubeをご存知ですか?2本の10フィートの庭のホースを使用したリバーブです。仕掛けとしては、1フィートで1msの音の遅れが出るので、片方にスピーカーを置き、もう片方にマイクを置いてサウンドを拾うと1msのディレイが完成します。つまり10フィートで、10msのディレイとなります。その10フィートのホースを巻いて断熱材を入れた箱に収納し、外部からの音が入らないようにすれば、簡単なディレイができるわけですね。


中にホースが入ったCooper Time Cube

とはいえ、ホースの音ですから、そのままではあまりいい音にはなりません。そこで、EQで補正してやるのです。父はこれをすべて機械で行い音響的に調整ていったのです。片側に小さなネジ、レゾネーター、そしてトランスデューサーやスピーカーを置くためのトリックを仕掛けて……その結果ホースを通ってきたとは思えない、いい響きを持つディレイ・リバーブを実現できたのです。

訪問したのは1月末の真冬の時期だが、日本の春のような陽気だった

彼はそれをデジタルでできることも知っていました。デジタルの時代が始まったときに彼はキャリアを終えましたが、ちょうどそれを私が引き継ぐ形になったのです。当事、私はAlan Sidesと一緒にスタジオを所有していたので、父よりも多くの時間をスタジオで過ごすことになったのです。ここはGreen DayがAmerican Idiotのレコーディングのためにドラムをセットした場所で、Eric Claptonがアンプを置いた場所であり、Ella Fitzgeraldが歌った場所でもあります。その場所で、最新技術を用いてルームの反射パターンを測定してモデリングしたのです。それは本当に楽しい経験でした。

この社屋内で手作りで生産されていた1176LN Classic Limiting Amplifier

さて、ここに今UAで生産をしている1176LNがあります。ご存知のように1176は元々は1967年、父の時代に作られたものですが、そのオリジナルを正確に再現しようと努力を重ね、当時からのルールとレギュレーションにしたがって生産しているのです。これをもっと小さくすることもできましたが、あえてオリジナルと同じ大きさで、同じトレースにレイアウトしています。

現場での生産の方法について解説してくれるBillさん

それを見てみると、分かるとおりオリジナルのPCB基板のレイアウトとまったく同じになっています。当時はBishop graphicsという手法を用い、4倍の大きさのプラスチックの上に回路図を大きく描き、それを収縮してきれいに見えるようになるという回路の作り方をしていまました。ただ、現在のものはこのBishop Graphics手法ではなく、当時の基板をコンピュータで正確にコピーし、再現させています。


1176の生産に用いられる各種パーツ。今ではほとんど見かけないような古いパーツがいっぱい

その上で、当時と同じように薄く細い黒いテープを使い1つのピンから別のピンへと巻いていく手法で部品の取り付けを行っています。どのピンにICやトランジスターを接続すればいいのか間違わないようにそれらを置いていくんですね。その結果、当時と同じサウンドの機材を作ることができました。私たちはこの回路を小さな基板を詰め込んだりせず、昔と同様に作っているのです。生産は、サンノゼにある工場で基板作成から、すべての配線、アッセンブリー、テストなど、最終工程まで作業を行っています。


2-610の部品もやはり古そうなものがいっぱい

ただ、この工程で難しいのは、確実に機能する部品を見つけることです。トランジスタや抵抗、コンデンサ……、やはり40年、50年前と同じ部品を調達するのは非常に困難であり、手間もかかります。かといって、下手に部品を変更すれば音に影響がでるし、設計に変わるため簡単に部品を変更するわけにはいかないのです。そこを苦労しながら、今も生産を続けているのです。

続いてLA-2Aの生産現場を見てみましょう。LA-2Aには、回路基板が存在していません。古いギターアンプのような構造になっており、部品間を直接ワイヤー接続する昔ながらの方法で生産しています。そのため、当然工場でのオートメーションというわけにはいかず、一つ一つ手作り。各ユニットの完成までには約12時間を要するのです。


LA-2Aでは、いわゆるPCB基板は使わず、金具に取り付けた部品にワイヤーで接続する配線方法

私自身も小さいころから、はんだ付けをしました。もっともオーディオではなくラジオやアマチュア無線のためでしたけどね。サンタクロースからのプレゼントで、短波ラジオを組み立てたのが最初でしたよ。父にも少し手伝ってもらいながら、長時間かけて組み立てたんです。一発ですぐには動かず、何度も失敗を繰り返しながらね……。今でも黄色いワイヤーでの配線を思い出しますが、木の板の上に組み上げた短波ラジオにアンテナとアースを繋ぎ、電池を入れたらイギリスのBBCの放送が聞こえてきたんですよ。この機械で地球の裏側にいる人の声が今聞こえると思うと、鳥肌が立ちました。まさに魔法の箱を作ったわけですからね。そんな経験が原点になっているんだと思います。


LA-2Aの心臓部だというT4セル

 

話を戻すと、このLA-2Aは複雑そうな回路に見えて、実は非常に単純な構造でできてます。LA-2Aの本質であり、サウンドのキャラクタの90%を決めるのが、この小さな部品であるT4セルというものなんです。通常、これは明るい場所に置いておく部品ではなく、暗室の中で使うものなのですが、これは2つのパーツで構成されています。ひとつは光を発生させるライト、もうひとつは光を検知するCdSフォトセルというもの。フォトセルは光の明るさによって抵抗値が変わる特性を持っているので、音の音量を光の明るさにする仕組みを作っておくと、信号が大きくなるとフォトセル側のゲインが下がる。つまり、コンプレッサの仕組みがこれでできるんですね。


Universal Audioは2階建てのゆったりした社屋だった

当時LEDのように高速に反応するライトはなかったので、白熱灯を使ったり、ネオンバルブを使ったり、部品によって反応速度が大きく違いました。一方のフォトセルも光による抵抗の変化が2段階で大きく変わるとともに、光が消えても抵抗値が少しの間保持される特性があるのです。その結果、LA-2Aはある音量でヒットすると実際には速いアタックがあり、その後速くリリースされます。次にもう一度ヒットすると少し遅くリリースされる。これは手作業でボーカルのレコーディング時にやっていたいことで、T4セルのおかげで、非常にナチュラルで音楽的に優れたサウンドが得られる仕掛けになっているんですね。ただし、T4セル内のライトやCdSフォトセルには特性にバラ付きがあるのも事実。いかにいい部品を選ぶかで音も変わってくるのです。UAでは、それを昔から丁寧に選別して製品を作っており、それを今も再現しながら続けているわけです。


STUDIO 610の入口ドアには、カッコいいロゴが施されている

では、少し部屋を移動し、社内にあるスタジオに移りましょう。この部屋、STUDIO 610は私の兄、Scott Putnumが設計しました。現在は引退してしまったのですが、彼は父からスタジオの設計を学び、1970年代からスタジオ設計を行っていました。


Beach Boy’sのStudio 3にも似たSTUDIO 610はお兄さんのScottさんによる設計

ご覧いただくと分かる方もいると思いますが、ここはBeach BoysがレコーディングしたWesternのStudio3によく似ています。ここは小さなロックンロールルームであり、中にいるとオフィスビルにいるという事実を完全に忘れることができますよ。ここにボーカルブースがあって、この壁の反対側には、ビデオ制作ルームがあり、たくさんのビデオを製作するためのグリーンバックのスクリーンがあります。カメラもあるので、バンドの撮影も可能です。多くのApolloアーティストセッションもここで行っているのです。

コントロールルームには、UA製品以外も含め、ビンテージ機材がズラリ

ここには2つのコントロールルーム、2つの素敵で静かなリスニングルームを作りました。本当に素晴らしい環境なので、多くの機材を試すことができます。ここには長年に渡りモデリングしてきた多くの機材と、従業員が持っているいくつかのパーソナル機材があります。これらすべてのアンプ、楽器、機材が使えるというのはとても幸せなことですね。そして自分たちで設計・開発した製品を実際にここで使用して、レコーディングするんですよ。これは私たちにとって一番の楽しみでもありますね。


最後にコントロールルームで、ビルさんと記念撮影

いろいろな機材を作ってきた中で、いま私自身が一番気に入っているものといえば、やはりOXですね。OXによって私はギターアンプを使うようになりました。それまで10年間クローゼットで眠っていたアンプを引っ張り出してきて使っているのです。なぜならアンプからだけでは決して得られない、でもアンプ本来の音を出すことができ、それほど高級なアンプではないのに、原音の良さに驚かされました。

プレミアム・リアクティブ・ロード・ボックスのOX

 

エキスパートのように聴こえる素晴らしいセットでマイキング設定でき、それを完璧な場所に配置して、ルームのサウンドをミックスし、1176やプレートを加えます。これによって驚くようなサウンドが簡単に手に入るのです。小さい音量でも本当に素晴らしいアンプをスタジオで鳴らしたサウンドが出せる。他に何もいりませんから。


UAD-2、Unisonを内包するThunderbolt3オーディオインターフェイス、Arrow

一方、先日リリースしたばかりのArrowはApolloと同様にアナログサウンドのよさを存分に体験することができます。最近の同価格帯のオーディオインターフェイスに慣れている人が、初めてArrowにヘッドホンをつないで音を聴いたら、驚愕し、感動していただけると思います。そんなサウンドを作ってきたのも、長い歴史を持ち、いまも進化を続けているUniversal Audioなのです。

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