国産DAW、ABILITY 4.0 Pro/Elementsが発売。SC-88 Proの超高品位版!?新音源AMSも搭載

株式会社インターネットが、国産DAWであるABILITYの新バージョンを本日5月27日に発売開始しました。これはこれまでのABILITY 3.0 ProおよびABILITY 3.0 Elementsの後継となるABILITY 4.0 ProABILITY 4.0 Elements。アメリカやドイツなど海外のDAWが多い中、エントリー版のSinger Song Writer Liteと上位版のABILITYという2ラインナップを展開してきたインターネット社が出すABILITYの最新版となります。

今回の目玉となるのがインターネット社が自社開発した16パート・GM2対応のマルチティンバー音源AMS。簡単にいってしまえば昔懐かしいRolandのSC-88 Proの進化版というか、超高品位版ともいえるもの。まさに最新サウンドで曲を新たに作っていくこともできるし、昔作ったデータを引っ張り出してきて鳴らすといった使い方も可能。一方で、MIDI 2.0への対応を見越したノートエクスプレッションエディタを搭載したり、ソングエディタが強化されたり、UIもより使いやすくなるなどさまざまな強化が図られています。そのABILITY 4.0 Proを一足早く試してみたので、レポートしてみたいと思います。

国産DAWの最新版、ABILITY 4.0が発売開始

Singer Song Writerの進化版・上位版として2014年に誕生したABILITYはその後2.0、2.5、3.0……とバージョンアップを重ねてきて、今回4.0が発売となりました。これまで同様、フラグシップモデルである上位版がABILITY 4.0 Pro、普及版がABILITY 4.0 Elementsとなっており、基本的な性能は同じながら、MIDIミキサー機能の有無やVCAフェーダートラックの有無、また同梱されるプラグインの違いなどがあります。エントリー版であるSinger Song Writer Lite 10などと何が違うのか、インターネット社のWebサイトに細かく記載されているので、チェックしてみるといいと思います。

https://www.ssw.co.jp/products/ability4/compare.html

最高レベルのマルチティンバー音源、AMS

さて、そのABILITY 4.0の目玉機能となるのがインターネット社がここ何年もかけて開発してきたという音源、AMSです。これは、GM2対応のマルチティンバー音源。数多くのMIDIトラック、インストゥルメントトラックが扱えるのが当たり前の現在、1つの音源で複数のMIDIチャンネルを独立し鳴らせるマルチティンバー音源を使うケースは減っているとは思います。でもMIDIの良さを存分に使った打ち込みで音楽制作をしていく上ではやっぱりマルチティンバー音源は重要なアイテムなんですよね。

インターネット社が長年の歳月をかけて完成させた最高のマルチティンバー音源、AMS

そのマルチティンバー音源の代表ともいえるのが、昔懐かしいRolandのSC-88 Proを始めとするSOUND Canvasシリーズ。その後継であるRoland HyperCanvasがこれまでのABILITYに同梱されていたのですが、HyperCanvas自体はアップデートされずに何年も経過しており、性能的にもサウンド的にも現代のプラグイン音源としては見劣りした状態になっていたのは事実。とくに32bit版のプラグインのままで64bit版になっていなかったので、パフォーマンス的にも問題が出てきていました。

Rolandの往年の名器、SC-88 Pro

多くのDAWは、DAW本体が64bit版になったタイミングで、32bit版のプラグインを切り捨てて使えない形になっていった中、ABILITYは内部に32bitブリッジ機能を搭載していたので、古いプラグインが使えるという点でも多くのユーザーから評価を得ていました。HyperCanvasもその機能により何とか動かしていたのですが、今回それに代わるAMSを登場させたのです。

ABILITY 3.0まで入っていたHyper Canvasは今回で引退に。ABILITY 3.0がインストールされていれば、4.0でも使える

実際、そのAMSで鳴らしたサンプル音源があるので、以下のサウンドを聴いてみてください。そのクオリティーの高さを実感できると思います。

INTERNET Co., Ltd. – 2 · マルチティンバー音源「AMS」の 音源サンプル

開発者でもあるインターネット社の村上昇社長によると「今の時代に最高のマルチティンバー音源を作ろうと3~4年の時間をかけて、サンプリングから含めすべて自分たちで音源を作り上げてきました。非常に高品位なサウンド全418音色・13ドラムキットを内蔵しており、さまざまなジャンルの音楽制作に利用できるようにしています。その一方で、従来からのデータとの互換性を高めるため、GSリセットの信号を受けるとGSモードになる仕様にもしています。もちろん、設定画面から手動で設定することも可能で、これによってバンク切り替えにおいてLSBとMSBが反転し、GSの音色マップで利用できるようになるのです。もちろんGSのNRPNも受けられる仕様です」とのこと。


AMSのMIDIインプリメンテーション。詳細はこちらをクリック。

たとえばSC-88 Pro用のMIDIデータを鳴らすと、違和感ないバランスで、圧倒的にいい音で鳴るのがAMSの面白さです。その音の良さの理由はサンプリングデータ容量が豊富になっているのはもちろんですが、全部がサンプリング音源ではない、という点も見逃せません。

実はAMSはハイブリッド音源になっていて、サンプリングだけでなく、シンセ音色はシンセサイザとして動作するようになっています。具体的には4つのオシレーターを備えており、それぞれサイン波、矩形波、ノコギリ波などを出すことが可能になっています。これらを並列に並べることも直列に並べることもでき、AM変調、FM変調も可能となった、かなり高性能なシンセサイザになっているんです」と村上社長。

そのオシレーターを使うかサンプリングを使うかの切り替えで、その後段は共通になっているとのこと。2つのフィルターがあったり、LFOも4つ、エンベロープジェネレーターも4つ備えるなどかなりパワフルな音源だからこそ、リッチなサウンドを実現できているようです。

AMSのエフェクト画面

ただし、現時点においては418音色あるプリセットから選び、エフェクトを調整できるだけで、音色エディットはできません。

内部的にいろいろ複雑であるため、ユーザーのみなさんにどのようにエディットしてもらうのがいいのか、まだ検討している、というのが正直なところです。もちろん、今後、いい形でエディタを搭載していくので、楽しみにしていてください。もちろん、そうしたアップデートに関しては無償で行っていきます」(村上社長)

418ある音色の中から選択する

ABILITY 4.0 ProにはMODO DRUM 1.5 SEやAmpliTube 5 SEを収録

ちなみに、このAMSはABILITY 4.0(ProでもElementsでも使える)でのみ動作する仕様だそうで、これをインストールしてもほかのDAWで使えるわけではないようです。もっとも、レコンポーザをルーツとする昔ながらの日本の数値入力エディタを備えたABILITYだからこそ、AMSの良さを引き出せるともいえるのですが、これだけを目的にABILITY 4.0を導入してもいいのではないかと思います。

また音源周りでいうと、ABILITY 4.0 Proのみではありますが、IK MultimediaのMODO DRUM 1.5 SEをバンドルしているので、かなりリアルでパワフルなドラム音源として利用できます。従来のMODO DRUM 1.0 SEに入っていたJazzy、Studioに加えて、今回の1.5 SEではBrit Custom、Metal、Silverが追加され、計5種類のドラム・キットを利用できるようになっています。

MODO DRUM 1.5 SEになり、ドラムキットは5種類に

さらにProには同じIK Multimediaのギター/ベース用のアンプモデリングソフト、AmpliTube 5 SEも収録されています。ここには19種類のSTOMP、13種類のAMP、14種類のCAB、9種類のSPEAKER、5種類のMIC、14種類のRACK、6種類のROOM、厳選した合計80種類のギア・モデルを収録されているので、ギターの音作りかなり自由同高く行えます。

数多くのモデリングアンプが収録されたAmpliTube 5 SE

UIが使いやすくなり、ノートエクスプレッションエディタも搭載

もちろん、ABILITY 4.0での進化点はAMSをはじめとするプラグインに留まりません。起動してすぐに感じるのがUIの強化です。従来は、ミキサー、スコアなどのエディタの表示位置が固定でした。しかしABILITY 4.0では最大4分割の表示エリアのどこにでも表示、ドッキングが行えるようになり、スコアやピアノロール、ミキサー、任意のウインドウをメイン位置に表示が可能になり、より見やすいレイアウトが可能になりました。同じ領域にドッキングしているウインドウはタブで切り替えが行え、楽曲全体の視認性が大幅にアップしています。

タブ切り替えをうまく活用しながら画面レイアウトの自由度が格段に高くなった

またノートエクスプレッションエディタを搭載したのもABILITY 4.0の進化点のひとです。一般的にMIDIの打ち込みではトラックごとにピッチ、ボリューム、各コントロールチェンジなどのMIDI演奏情報を記載していきますが、それをノート単位で設定できるのがノートエクスプレッションというもの。MIDI 2.0ではこれを取り入れていくことが決まっていますが、まだMIDI 2.0対応のハードやソフトがない今、それに向けた取り組みということで、ABILITY 4.0のMIDI機能にノートエクスプレッションエディタを搭載し、これを使えるようにしたのです。

1つのノートごとに、コントロールチェンジ情報などを設定できるノートエクスプレッションエディタ

VST3はノートエクスプレッションに対応していましたが、それ以外の音源でもノートエクスプレッションを使えるようにノートエクスプレッションエディタを搭載したのです。ノートの移動やペースト時にはノートに設定されたノートエクスプレッションがそのまま紐づいて移動、ペーストされるので、便利に使えます」と村上社長。

またこのノートエクスプレッションをピアノロールエディタ画面のロールバー上にも表示できるなど、細かなわかりやすさも実現できているし、MIDIノートを最大32分割までをサポートする分割コマンドを装備したのもMIDI打ち込み派にとっては嬉しい点。入力済みのノートを選択し、分割数を入力すると一度にノートを分割できるようになっています。また、分割カーソルモードを装備し、ノート上の任意の位置でクリックするだけで分割可能になっています。

ノートエクスプレッションエディタでの設定結果はピアノロール上でも波形としてチェックできる

ソングエディタもいろいろ強化されている

またオーディオ編集のほうでもタイムコンプレッションモードをサポートしたのも大きなポイント。このモードにした上でソングエディタ上でオーディオデータの終端をマウスでドラッグし、伸縮後の長さを可視化しながら50%~200%の伸縮率でタイムコンプレッションが可能になっているのは、使い勝手的にも非常にわかりやすくて便利です。

オーディオ波形を自由にタイムストレッチできるタイムコンプレッションモードを搭載

ソングエディタ上に置かれたイベントにおいてウェーブエディタを開くことなく、ボタンを押せばゲイン変更、ノーマライズ、リバースなどが一発でできるあたりも地味に便利ですね。

ソングエディタ内でイベントを選んで、ノーマライズやゲイン調整、リバースなどを一発で行える

一方MIDIトラック編集にシャッフル機能というものが加わっています。これは選択した音符データのリズムをイーブンからシャッフルに変更したり、反対にシャッフルなものをイーブンにすることなどが簡単にできるというもの。シャッフルする割合の指定やヒューマナイズでノートオンのタイミングとゲートタイムをランダマイズに設定するといったことも可能になっています。

シャッフル設定が簡単に、自由度高くおこなえる機能

オートメーション作成に便利なVコントローラ

もう一つピックアップしたいのがVコントローラです。これはMIDIトラックのオートメーションを容易にするための機能で、各ソングファイル(プロジェクトファイル)ごとに4つのVコントローラを使用可能となっています。フェーダーやつまみが並んだUIのVコントローラにはピッチ、モジュレーション、カットオフ、ビブラートレート……などのコントロールチェンジなどが割り当てられており、これらを触ればトラックにオートメーションをかけることが可能になっているのです。もちろん、必要に応じて各ノブ、フェーダーへの割り当て内容も変えられるので、かなり効率よくオートメーションを記述していくことが可能です。

簡単にMIDIのオートメーションを設定できるVコントローラー

そのほか、4台までのコントロールサーフェイスを同時に使えるようになったり、MUSIC XMLのインポート/エクスポート、AAFファイルのインポート/エクスポートに対応するなど、ABILITY 4.0 Proは、さまざまな点で強化されています。

ABILITYはこれまでもユーザーからの要望などを受けて頻繁にアップデートを繰り返してきましたが、それは今回のABILITY 4.0でも同様です。従来のABILITY 3.0においてもしばらくはバグフィックスなどのアップデートは行っていきますが、機能追加、機能強化についてはABILITY 4.0に対して行っていきます。今回、それほど派手なバージョンアップではないように見えるかもしれませんが、かなり機能、性能を強化しており、今後のアップデートでもさらに強化していきます。もちろん、そうしたアップデートはすべて無償でできるようにしているので、ぜひ、うまくABILITY 4.0を活用していただければと思います」(村上社長)

とのこと。改めて試してみても最先端のオーディオ機能を備える一方、MIDIにおいてはほかのDAWとは明らかに異なる強力機能が数多く揃っています。昔のミュージ郎やHello!Music!でDTMを楽しんできた人も、違和感なく最新のDAWの世界に飛び込めると思うし、他のDAWを活用しつつMIDIの打ち込みをもっと効率よく、効果的に行いたいという人にとってもABILITYを併用する価値は大きいと思います。ぜひ、この新バージョンが登場した機会に、ABILITYに触れてみてはいかがでしょうか?

【関連情報】
ABILITY 4.0製品情報

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