Cubaseの上位版DAW、Nuendo 13がリリース。AIによる高精度ノイズ除去やMPEG-H Audioサポートなど大幅強化

つい2週間前にCubase 13がリリースされたところですが、それに続いてCubaseの上位版であるNuendo(ヌエンド)も新バージョン、Nuendo 13がリリースされました。MIDI 2.0への対応やUIの刷新などCubase 13で強化された点は基本的にすべて包含しつつ、さらにポストプロダクションソフトとしての機能も強化されているのがNuendo 13です。

今回の目玉ともいえるのがAIを活用して音声をクリアにしたり、ノイズをキレイに除去できるプラグイン、VoiceSeparatorの搭載。またある音の雰囲気というか音色の特徴を別のクリップに適用させるプラグイン、TonalMatchを搭載したり、さらにはMPEG-H Audioをサポートし、7.1.4はもとより、9.1.6といったレンダリングまでできるようになっています。オープン価格ではありますが、新規購入価格は従来よりやや値上がりし、Steinbergオンラインストアでの税込み価格が125,000円。Cubaseからのクロスグレードも可能え、Cubase Pro 12/13ユーザーなら63,800円。10月19日以降にNuendo 12を購入した人(正確にはアクティベーションした人)はグレースピリオドということで無償でNeundo 13を入手することが可能となっています。実際どんな機能が強化されたのかを中心に紹介してみましょう。

SteinbergからCubase 13の上位版、Nuendo 13がリリース

Cubaseの上位版としての位置づけのNuendo

もともとNuendoはSteinbergのポストプロダクション向けのDAWとして2000年に誕生したソフトです。映像との連携やサラウンド制作、さらにはイマーシブサウンドの制作用のソフトとしての位置づけで、進化してきたソフトであり、当初はCubaseとはまったく別のラインナップとなっていました。そのため当初はMIDI機能などもなかったのですが、Nuendo 5の時代に拡張キットが登場し、それをインストールすることでCubaseと同等の音楽制作機能を搭載できるようになりました。その後、その音楽制作機能自体がNuendo内に標準搭載されるようになったことで、現在NuendoはCubase Proの上位バージョンという位置づけになっています。

見た目もほぼCubase 13と同じUIのNuendo 13

また進化の過程でバージョン番号もCubaseとNuendoで揃うようになり、今回は2週間の時差はあったもののほぼ同時にCubase 13とNuendo 13がリリースされた格好です。そのCubase 13については先日「MIDI2.0をサポートした、Cubaseの最新版Cubase 13が登場!DAWも新時代へ」という記事で紹介しているので、今回のバージョンアップの基本となる部分はそのCubase 13の記事のほうを参照いただきたのですが、もちろんNuendo 13としての機能もいろいろと強化されています。

音色の雰囲気を簡単にコピーできるTonal Matchを搭載

Cubase、Nuendoには以前からダイレクトオフラインプロセッシングという機能が搭載されています。これは、選択したオーディオイベントやクリップに対し、非破壊で直接エフェクトをかけるというものですが、今回そのダイレクトオフラインプロセッシングで使える新たなプラグインとして、Tonal Matchというものが登場しました。

音の雰囲気をそのまま別の音に適用できるTonal Match

このTonal Matchは任意のオーディオファイルの音色をスペクトラム分析の手法により解析し、ほかのクリップに適用することで、周波数プロファイル(EQ)とアンビエントノイズフロアを一致させるというもの。もともと、SteinbergのWaveLabに搭載されていた機能をNuendoに持ってきた形です。

これにより、たとえば英語版の音声を、日本語で収録した音声に差し替えるといった場合、声質とともに部屋での音鳴りなど音質の雰囲気を揃えることができ、違和感なく差し替えることが可能になり、自然と馴染ませることが可能になるのです。

話し声とその他の音をAIが簡単に分離してくれるVoice Separator

Nuendo 13のもうひとつの目玉機能といえるのがAIを活用した新プラグインのVoice Separatorです。このVoice Separatorはその名の通り、音声の中において「話し声」を分離して取り出すというもの。従来のノイズリダクションとはまったく異なり、AIを用いて完全自動でDIALOGUEとBACKGROUNDの2つに分離してくれます。とくに設定パラメータもなく、簡単に背景音や環境音をBACKGROUNDとして分離されるため、あとはDIALOGUEとBACKGROUNDのバランスを整えるだけでOKです。

ノイズや別の音を分離して、話し声だけを取り出すことができるVoice Separator

このVoice Separatorはトラックへのインサートエフェクトとして利用できるほか、Tonal Matchと同様にダイレクトオフラインプロセッシングとして使うことも可能。不要な音を除去して、話し声だけをキレイに取り出せるという意味で、まさに超強力で便利なノイズリダクションソフトとして活用できます。

MPEG-H Audioにネイティブで対応

すでに今年4月にSteinbergとFraunhofer IISが共同で次期Nuendoでネイティブ対応させると発表していたMPEG-H Audioへの対応が実現しました。MPEG-H Audioは次世代オーディオを実現させるための重要な要素として、ネット配信、デジタル放送の世界で取り入れられているもので、会話の強化や音声ガイドなどの高度なアクセシビリティ機能により、包み込むような没入型サウンド=イマーシブサウンドを実現できるフォーマットです。

Nuendo 13で、MPEG-H Audioへも対応した

Nuendo 13のADMオーサリングウィンドウにはこの新しいフォーマットであるMPEG-H Audioに対応したオプションが追加され、トラックやグループをMPEG-H Audioコンポーネントのオブジェクトまたはベッドとして割り当て可能になっています・新しいRenderer for MPEG-Hプラグインでは、ミックスのバージョンである「プリセット」を作成するためのメタデータも設定できるようになっています。これらのメタデータはMPEG-H Audioの鍵となる機能であり、最先端のインタラクティビティを実現することができます。RendererからはプロジェクトをMPEG-H ADMまたはMPEG-H Masterファイルに書き出すことが可能となっています。
です。

台本をタブレットやスマホに表示させるADR Script Reader

ポストプロダクション用のDAWとしての要素が強いNuendoは、ADR(いわゆるアフレコ、アテレコのことで、台詞を別途録音すること)をどのように行うか、ということも重要なテーマです。そうした中、今回のNuendo 13ではADRを効率よく行うための機能として、ADR Script Readerというものが搭載あれました。

従来ADRは台本/脚本を事前にプリンタで印刷して演者に渡すということをしていましたが、これがなかなか手間でもありました。とくに直前で変更があった場合など、再度印刷したり赤入れするとなると、面倒だし、ミスが発生する原因にもなりがちです。そこで、このNuendo 13のADR Script Readerでは同一LANネットワークにあるタブレットやスマートホン、ノートPCなどのWebブラウザで台本を表示させることを可能にするものです。

台本/脚本を同一LAN内のタブレットやスマホへ配信できるADR Script Reader

これならば印刷の手間もいらないし、直前の変更でも即反映させることが可能。台詞はNuendo 13のマーカーデータに追記編集できるので、ドキュメントデータを同期させる必要もありません。また、「Dialogue Context View」を有効にすると選択範囲前後の台詞も表示し、台詞とシーンとの関連を見やすくすることができます。

ボーカルをブラッシュアップするための統合型エフェクト、Vocal Chain

ボーカルをどのようにブラッシュアップするかは、音楽制作において重要なテーマですが、そのボーカル用のエフェクトを1つにまとめて総合的にコントロールできるようにしたボーカル専用のプラグインが、今回新たに登場したVocal Chainです。

ボーカル用の各種エフェクトを1つにVocal Chainhain

このVocal ChainはCubase Pro 13で搭載されているものと同様ですが、音をキレイに整えるためのCLEAN、音に色付けをしていくCHARACTER、センド/リターンで立体的効果などをつけるSENDの多く3つのカテゴリーでボーカルをよりよいものへと仕立てていくのです。CLEANにおいてはカットフィルター、ゲート、ピッチチェンジ、ディエッサー、ダイナミックフィルター、コンプレッサ、EQから構成されており、必要に応じてオンにしたり、順番を変えて使うことが可能。

CHARACTERにおいてはエキサイター、サチュレーター、コンプレッサ、ダイナミックフィルタ、EQ、ディエッサの6つで構成され、SENDはステレオイメージャー、ディレイ、リバーブで構成されている、といった具合。これ一つでかなり綿密なボーカルづくりができそうです。

そのほかにも新エフェクトがいっぱい

このように数多くの機能が搭載されているNuendo 13ですが、そのほかにも新プラグインがほかにもいろいろ追加されています。
Cubase 13と重複しますが、少しピックアップしておくと注目ポイントはプロ御用達のEQであり、「通すだけでいい音になる」などと言われるPULTEC EQP-1Aを再現したeq-p1aの搭載。赤い電源ランプはないけれど、見た目のデザインもパラメータもソックリにしあがっています。

PULTEC EQP-1Aを再現したeq-p1a

同様にPULTEC MEQ-5を再現するeq-m5も今回新たに搭載されています。

PULTEC MEQ-5を再現するeq-m5

また真空管プリメインアンプとクラシックなコンプレッサーを組み合わせたビンテージ風なプラグイン、BlackValve compressorも新たに追加されています。これを通すことで簡単にいい何時のサウンドキャラクタに変身させることができます。

サウンドキャラクタを簡単に変化させることができるBlackValve compressor

そしてもう一つ追加されたボーカル用のコンプレッサがVoxCompというもの。穏やかなボーカルコンプレッサーとして利用することができ、アナログ的な温かなサウンドに仕立てることができるようになっています。

ボーカル用のコンプレッサがVoxComp

以上、新たに発売されたNuendo 13の新機能について紹介してみました。Nuendoを選ぶべきか、Cubaseで十分なのか、ユーザーの目的によって変わってきそうですが、音楽制作のみにとどまらず、映像を扱ったり、ポストプロダクション的な要素が必要であれば、この機会にNuendoに乗り換えてみるというのもよさそうです。

【関連情報】
Nuendo 13製品情報