ミックスの最中、ある楽器を単体で聴くと十分な存在感があるのに、ほかのトラックと重ねた途端にぼやけてしまう——そんな経験はないでしょうか。あるいは、EQで中域をブーストしたはずなのに、なぜかボーカルが埋もれたまま……という状況に何度も直面してきた方もいるかもしれません。こうした現象の多くは、「マスキング」と呼ばれる音響心理学的なメカニズムによって引き起こされています。マスキングとは、ある周波数の音が隣接する別の周波数の音を知覚しにくくしてしまう現象のこと。また、強いトランジェントがその直後の音を時間的に覆い隠してしまう「時間マスキング」も存在します。プロのエンジニアたちはこれを経験と勘で回避してきましたが、あくまで職人技の領域でした。
そのマスキングをリアルタイムで分析・解消することを目的として設計されたのが、Three-Body Technology(スリーボディテクノロジー)の新作プラグイン「UNMASK」です。単なるEQやコンプレッサーではなく、音響心理学の知見を核に据えた全く新しいアプローチのダイナミックEQで、入力された信号を常時分析しながら、周波数・トーン・時間という3つの知覚的次元でリアルタイムに補正をかけていきます。操作はシンプルで、SPEC・TILT・TIMEという3つのモジュールのそれぞれに「Depth」ノブが1つあるだけ。そのノブを上げていくだけで、サウンドが自然に開いていくよう設計されています。素材別に豊富なプリセットも用意されているので、まずはそこから試してみるのがおすすめです。現在イントロプライスでのセールが実施されていますので、ぜひこの機会にチェックしてみてください。
まず、このサウンドの違いを聴いてみて!
UNMASKが何をするプラグインなのかは、実際のサウンドを比較してもらうのが一番です。ボーカル、ドラムBUS、ギター、ベース、オーケストラ、EDMのBUSなど、さまざまな音源についてBypassとProcessedを聴き比べられるサンプルあります。
UNMASKをかける前(Bypass)とかけた後(Processed)で、それぞれどう変化するかをぜひ確認してみてください。Depthノブを過度に上げた状態ではなく、実際の使用を想定した設定でのデモですが、それでも音の開き方や立体感の変化は明確に感じられるはずです。
いかがでしょうか。EQで特定の周波数を動かしたわけでも、コンプレッサーでダイナミクスを変えたわけでもないのに、音の輪郭がくっきりとして各楽器の存在感が増しているのが感じ取れると思います。これがUNMASKの基本的なアプローチです。
斬新なプラグインを次々と生み出すThree-Body Techとは
UNMASKを開発したThree-Body Technologyは、中国・北京を拠点とするプラグインメーカーです。日本ではクリプトン・フューチャー・メディアが運営するSONICWIREが取り扱っており、国内での知名度も着実に高まってきています。
DTMステーションでは以前から継続的に注目してきたメーカーで、Heavier7Stringsの時代からその動向を伝えてきました。Heavier7Stringsは7弦ギターに特化した音源として、ギターサウンドのリアルさと演奏表現の柔軟性を高い次元で両立させた画期的な製品として登場し、国内のDTMシーンでも大きな話題になりましたね。
その後もThree-Body Techは独自路線を歩み続け、Kirchhoff-EQやFuture MB、Deep Vintage、Cenozoix Compressorといったプロクオリティのエフェクトプラグインを次々とリリースしてきました。既存の名機をそのままモデリングするのではなく、独自のアルゴリズムと音響理論に基づいた設計にこだわるメーカーで、製品ごとに明確な個性と実用性があります。今回のUNMASKも、その姿勢を色濃く受け継いでいます。
まずはプリセットから試してみよう
UNMASKを初めて起動したら、難しいことを考える前にまずプリセットを試してみることをおすすめします。プリセットブラウザを開くと、素材の種類ごとに整理された豊富なプリセットが用意されているのがわかります。
ボーカル系だけでもVocal – Female、Vocal – Male、Vocal – Soft、Vocal – Rap、Vocal – Honky、Vocal – Nasalと細かく用意されており、声質や用途に応じて選び分けられるようになっています。ギター系もAc. Guitar – Fingerstyle、Ac. Guitar – Strumming、E. Guitar、E. Guitar – Funk、E. Guitar – Distortionと、奏法やサウンドキャラクターに合わせたプリセットが揃っています。
ドラム系はDrum Bus、Drum Bus – Tighten、Drum Room – Enhance Space、Kick、Snare – Enhance、Cymbals – Remove Harshnessと、楽器単体からバス処理まで対応。ミックスバス向けにもMix Bus、Mix Bus – Natural、Mix Bus – Enhance、Mix Bus – Tighten、Mix Bus – Aggressiveと複数のアプローチが用意されており、そのほかBass、Piano、String Ensembleなどのプリセットもあわせてカバーされています。
使い方はシンプルで、トラックにUNMASKをインサートしてプリセットを選ぶだけ。まずはそのままの状態で再生してみて、気に入ったらDepthノブを少し動かして調整する——というフローで十分です。「何から手をつければいいかわからない」という初めての方でも、プリセットを起点にすれば迷わずに使い始められます。
プリセットはあくまで出発点ですが、そのまま使えるクオリティのものが揃っているので、時短にもなります。ひと通り試した後で、各モジュールの動作を理解してから細かく追い込んでいくと、UNMASKをより深く活かせるようになります。
SPEC・TILT・TIMEの3モジュールを理解する
プリセットの感触をつかんだところで、UNMASKの3つのモジュールがそれぞれ何をしているのかを見ていきましょう。
SPEC — 周波数のマスキングをダイナミックに解除する
人間の耳は、ある帯域に強いエネルギーがあると、その隣接帯域の音を知覚しにくくなります。これが周波数マスキングで、ミックスで「何かが埋もれている」と感じる原因の多くはここにあります。単純にその帯域をEQでブーストしても、ほかの帯域との関係性が変わってしまうため、根本的な解決にはなかなかなりません。
SPECはこの現象をリアルタイムでモニタリングし、「埋もれている音」を動的にブーストしながら、「出すぎているピーク」を同時に抑える処理を行います。重要なのは、これが静的なEQではなく、入力信号の変化に応じて絶えず動くダイナミックな処理だという点です。
パラメータはDepthとSmoothの2つ。Depthは処理の深さ、Smoothは処理の解像度を調整します。Smoothを高めに設定するとアコースティック楽器に適した自然な補正になり、低めに設定するとシンセサイザーなどのより細かいマスキングにも対処できます。
このSPECを機能させるためにはSPECという文字の左側のスイッチをONにしておく必要があるのですが、SPECという文字の右側には2つのヘッドホンアイコンがあります。この左側のヘッドホンのアイコンをONにすると、ブーストした音だけを聴くことができ、右側をONにすると、カットしている成分だけを聴くことができるようになっています。これを使いながらモニターすると、よりハッキリとその効果がわかると思います。
TILT — 耳が心地よいと感じるトーンバランスに自動補正する
人間の聴覚は、高域に向かってなだらかに減衰する周波数特性——ピンクノイズやブラウンノイズのような傾き——を自然で心地よいと感じる傾向があります。ミックスを重ねていくうちにこのバランスが崩れ、「なんとなく耳に疲れる」「高域がうるさい」「低域が出すぎている」といった状態になりやすいのです。
TILTはこのことを踏まえ、入力信号のスペクトルエンベロープをリアルタイムに分析し、指定した傾き(Slopeパラメータで-3、-4.5、-6 dB/oct)に向かって全体のトーンバランスを誘導します。広域EQをあれこれいじることなく、自動的に整えてくれるイメージです。自然な音を保ちたい場合は-6 dB/oct付近が適しており、よりモダンでブライトな仕上がりを目指すなら-3 dB/octに設定するといった使い分けができます。
DepthとShapeの下にあるパラメータで帯域を指定することもできるようになっています。
TIME — トランジェントの影に隠れたサウンドを蘇らせる
スネアのアタック、ギターのピッキング、ボーカルの子音——こうした強いトランジェントは、その直後に続く音を「時間的マスキング」によって聴こえにくくしてしまいます。スネアのテール、ピッキングの後ろに続くサステイン、リバーブの余韻などが、実際には録音されているのに知覚しにくい状態になっているのです。EQでもコンプレッサーでも、この問題を直接解決するのは困難でした。
TIMEはこのトランジェント直後の「影の部分」を全帯域にわたって検出し、動的に復元します。「音の奥行きや余韻の薄さ」という問題に、これまでになかったアプローチで直接対処できる機能です。パラメータのSpeedは処理の反応速度を調整するもので、ドラムのような動きの速い素材にはFast、マスタリングや持続音にはSlowを選ぶのが基本です。
この3モジュールはそれぞれ独立してオン/オフできます。まずSPECだけを試してみて、次にTILTを加え、最後にTIMEをオンにしてみる——という順番で効果を確認していくと、各モジュールが何をしているのかがわかりやすくなります。
EXT Glueとそのほかの機能——価格・入手方法も
ボーカルとインストを自然に溶け込ませるEXT Glue
UNMASKにはさらに「EXT Glue」と呼ばれる、外部サイドチェインを活用したユニークな機能も搭載されています。
従来のサイドチェイン処理といえば、コンプレッサーのダッキングや、競合帯域をダイナミックEQで抑制するアプローチが主流でした。EXT Glueはそれとは根本的に異なり、ボーカルとインストの間に生じている「音響心理学的な衝突」そのものを分析し、その矛盾を解消するよう処理します。
ボーカルトラックにUNMASKをインサートし、インストゥルメントトラックをEXT Glueの入力にルーティングすると、ボーカルが単に音量を下げたり特定の帯域を避けたりするのではなく、インストと同じスペクトル空間・エンベロープ・ダイナミクスを共有するよう調整されます。ボーカルが「乗っている」のではなく「溶け込んでいる」感覚のミックスが自然に実現します。
Masterセクションとそのほかの機能
プラグインのUIにはMasterセクションが用意されており、Smooth、Scale、Attack、Release、Gain Range、Processing Frequency Range、Priority Curveなどを全モジュールにまとめて適用できます。多くのセッションではMasterセクションの調整だけで十分です。
Priority Curveは帯域ごとに処理強度を変えるカーブで、「ボーカルの明瞭度が集中する中域は強め、低域は重みを残すために弱め」といった設定が直感的にできます。各モジュールのブースト分・カット分・デルタをそれぞれ個別にモニタリングできるMonitor Mode機能も搭載されており、UNMASKが実際に何をしているかを耳で確認しながら追い込めます。
ゼロレイテンシーモードも備わっており、通常のリニアフェーズフィルターとゼロサンプル遅延のミニマムフェーズフィルターを切り替えられま す。ライブ演奏やトラッキングの際にも遅れなく使えます。そのほかLR/MS/Mid-only/Side-onlyなどのチャンネルモード、Dry Mixによるパラレル処理、A/B切り替え、オーバーサンプリング、GPU対応のリアルタイムスペクトラムアナライザーなど、プロ用途を意識した機能が揃っています。Apple Siliconへのネイティブ対応も済んでいます。
価格と入手方法
UNMASKの通常価格は$129(国内SONICWIREでは22,011円)ですが、現在イントロプライスとして$59(SONICWIREでは10,067円、54%OFF)でのセールが実施されています。このセールは2026年7月29日(水)までの予定です。
無償体験版(デモ版)も用意されており、15分ごとに1.5秒のミュートが入るものの、時間制限なしで試すことができます。セーブ/ロードは無効ですが、実際の処理効果をじっくり確認できますので、まずはデモから試してみることをおすすめします。
対応フォーマットはVST2、VST3、AAX、Audio Units(64bitのみ)。macOS 10.15以降、Windows 8以降に対応しています。
【関連情報】
UNMASK製品情報(Three-Body Technology公式ページ:英語)
UNMASK製品情報(SONICWIRE)
UNMASK体験版ダウンロード Windows版 Mac版
【価格チェック&購入】
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