謎の黒い楽器、ウダーについて宇田道信さんに聞いてみた!

ウダーという電子楽器をご存知ですか? これまでも、いろいろなところで話題になっているので、見かけたことがある方もいらっしゃると思いますが、これは宇田道信さんによって作られた、まったく新しい楽器。

ネジの頭と頭をくっつけたような不思議な形をしたウダーには、左右にらせん状にまかれたロープがあり、これを指で押して演奏するという構造になっています。完全な面対称な構造になっており、両手で持ち、ひざ上で回転させながら演奏するのです。先日、そのウダーを開発した宇田さんにお会いし、ウダーの開発背景についていろいろと伺いました。

不思議な形をしたウダーは両手で持ってひざの上で回転させながら演奏する



実際に、宇田さんのインタビューの前に、宇田さんがウダーを演奏した最新のビデオがあるので、ぜひこれをご覧ください。不思議な演奏法ですが、とっても優しい音色ですよね。強く弾く(押す)と“ポー”というサイン波、弱く弾くとブレスの効いた感じのかすれた音色となっています。

--まずは、ウダーを作ったきっかけを教えてください。

宇田(敬称略):高校3年生までまったく楽器に興味を持っていなかったのですが、急に音楽をやってみたいと思うようになりました。受験勉強の逃避かな(笑)、音楽理論を読んだりしたのですが、さっぱり分からなかった。そもそも音程とは、というところから…。とりあえず楽器を弾けるようになろう。そうすれば分かってくるだろうと、大学入学後、いい演奏をしていたのを聴いたのをキッカケにクラシックギター部に入部したのです。

ウダーの開発者、宇田道信さん

--それが初の楽器だったのですね?

宇田:はい、実際に演奏してみると本当に楽しかったです。実は、楽器を弾くまでは楽器を演奏することは、とてもナンセンスだと思っていました。だって、どんなに練習しても、速く弾けるように訓練しても、スピードや正確さではDTMで打ち込んだものに人間がかなうはずがない。それなのに練習するなんて、ナンセンスだ、と。でも楽器を弾くようになって、その考えは一変しました。こんなに面白いことをPCにやらせるほうがもったいない、ってね。プロギタリストになりたいとも思ったほどです。

左右が面対称になっているウダー

ウダーの構造図(電子楽器「ウダー」公式ページより)
--かなりギターにハマったわけですね。
宇田:ただ、あるときギターに大きな疑問を持ってしまいました。演奏したい曲がスタンダードチューニングではないチューニングだったのです。でもチューニングを変えると、いままで覚えたコードの形がすべて使えなくなってしまう。そもそもスタンダードチューニングが本当に一番いいチューニングなんだろうか……。なんで6本の弦なんだろう、5本ではいけなかったのか、弦と弦と音程の差が5フレット分になっているけれど、1オクターブになっているほうが自然なのではないか……と次から次へと疑問というか、納得いかない面が出てきたのです。それならもっと別の楽器を探してみようと思うようになりました。ところが、ピアノを見てもバイオリンを見ても、それぞれ納得がいかず、いろいろ考えるとギターがまともなのかなぁ、と。
宇田さん愛用の「ウダーモバイルLite」は、拾ってきたクラーボックスに
音源やスピーカーなどを内蔵させ、操作部も収納可能にしたもの

--ではギターは続けていったんですね?
宇田:やはり一度心が離れると元には戻れず、10ヶ月程度でギター部も辞めてしまいました。そこで、いま存在する楽器でなくてもいいので、空想で楽器の理想形というものを考えるようになったのです。最初はやはりギターをベースに考えて生きました。弦と弦の音程の間隔が気持ち悪いので、やはり1オクターブにしよう、弦は押さえれば音が出るようにし、押さえる強さによって音量が変わるといいのではないか、12音階の形が絶対だとは思えないので、無段階にする……と考えていってできたのがこのウダーなのです。

--結局、実際に動く形になったのはいつごろだったのですか?

宇田:2006年ごろですね。ウダーを考え付いてから、授業にも行かなくなり、結局、留年を4回もしてしまいましたが、入学後7年ほどたってからのことです。大学の研究室は情報工学科のヒューマンインターフェイスのところにいたこともあり、ここでウダーの制作をしたりもしていました。ただ形になったとはいえ、「こうじゃない!」と思う点が多々ありました。やはりレイテンシーが大きかったのが一つ。また強く押さないと発音されないことがあるなど、まだまだ完成はしていませんでした。ようやく、これならOKというものができたのは、昨年の年末のことでした。

桐箱にウダーの音源やスピーカーを組み込んだウダーモバイルKiri2

--確か、以前に見せてもらったときは、音源部分にはRolandのSC-8820を採用していましたよね?

宇田:はい、でも今は使っていません。ウダーの操作部から音源へはMIDIを使って音程、音量、エクスプレッション、ピッチベンドといった情報を送っていました。ただ、そのすべてを送っていては、MIDIの通信がいっぱいいっぱいになってしまう。そこで、情報を間引くなどして限界までMIDIメッセージを絞り込むことで、ある程度反応はよくなったのですが、それでも限界があったので、MIDI音源を廃してウダー専用音源にするとともに、操作部と音源部との接続もMIDIではなく専用のプロトコルを使うようにしました。

ウダーを演奏する宇田さん

--専用プロトコルですか?MIDI信号をUSBを使って高速に流すとか?
宇田:いいえ、今はMIDIを使っていたことはウダーの黒歴史にしたい、そんな時代もあったな……という思いです。通信速度は20~30倍に高速化しました。またMIDIというのは一度データを取り逃がすと大変なことになってしまいますが、ウダー専用プロトコルでは、仮におかしいデータを受け取っても、次に流れてくるデータが正しければ復帰できるようになっています。
PSoc5というチップ上でプログラムを載せることで作り上げたウダーの音源部
--専用音源というのはどういうことですか?

宇田:それが、このチップです。これはサイプレスのマイクロコントローラチップ、PSoC5というものを使いアセンブラで私がプログラムを書いています。サイン波のテーブルが入っており、強く弾けばこの音が出て、弱く弾くとノイズっぽい音になるようにしています。ただ、ブレスノイズっぽい音から、サイン波へ自然につながるようにするのが難しく苦労していたところ、電子音楽家のkatsuhiro chiba(@chi6a)さんにアドバイスをいただき、いい感じに仕上げることができました。

ウダーモバイルKiri2内にPSoc5による音源も内蔵されている

--これでかなり完成形に近づいたと思うのですが、一方で、ウダーが学研の大人の科学として発売することを発表されていましたよね。とても楽しみにしているのですが……。
宇田:なかなか出せていなくてごめんなさい。この点については大人の科学編集長から次のようなコメントをもらっています。「思っていた以上に簡易化することが難しい。しかし、なんとかして製品化を実現したい。引き続き鋭意開発中」とのことです。ぜひ、多くの方にウダーの面白さを知っていただきたいですね。
ウダー一式を持ち歩く宇田さん
--ありがとうございました。