でも作曲かぁ。教えるのは別にいいんだけど、作曲って大変だぞ?
うん。それはもう何となく……
おどかすわけじゃないけどさ、作曲ってほかの創作と比べて敷居高めなんだよ。絵とかだとさ、下手でも下手なりに1枚描き上げるってのわりとできるけど、作曲ってその最初の1枚を書き上げるまでが大変なんだ。本屋とか行ったら『誰でも作曲はできる!』とか『サルでもわかる作曲』みたいな本いっぱいあるけど、あんなの嘘だよ。作曲は明らかに、特殊技術だ
それ! 私その本買った! あんなの嘘だよね!
ああ、買ったんだ。全然わかんなかっただろ?
うん。なんか、いろんな用語とか全部知ってるのが前提っていうか……これ絶対サル知らないでしょってことも普通にいっぱいあるし……あ、それはいいんだけど。小さい楽譜みたいなのとか書いてあるんだけど、それがどういう音なのかとか、そもそも何の話をしてるのかとか、どういう時に使う知識なのかとか、全然わからなくて……


『作曲少女』登場キャラクタである山波いろは(左)と黒白珠美(右)
だろうな。普通作曲を始めるという場合において必要なのは、楽器経験だ。ギターでもピアノでもトランペットでも、何でもいいからとにかく1種類は楽器ができるっていうのが、まず導入で大事な部分だろうな
そうだよね……
その前提条件を満たしていない完全初心者のいろはが作曲をするっていうのは、現実的に考えてかなり厳しい
うん……
でも大丈夫だ。あたしに考えがある
え?
 そう言うと、珠ちゃんは本棚にある本を一束掴んで、ドサッと机の上に置いた。本のタイトルは……『楽典』に……『コードワーク』……『ジャズ・セオリー』……? あ、私が買った本も何冊かある。
ここに、世にあるさまざまな音楽理論書がある
うん。なんか良さそうだね~! そっか、本選びの時点ですでに違うんだ……
『楽典』。音楽の基本ルールがわかる本だ。好みや作風とは関係ない常識の本。『コードワーク』は、おおむねのテクニックが載ってる本。そして『ジャズ・セオリー』は、即興音楽のアプローチからスケールやモード、サークル・オブ・フィフスなんかを完全理解するための音楽全図みたいな本だ。印象的なメロディとは何なのかって話にも触れてる。これらは、あたしが音楽の作り方を理解する上で一番参考になった本だ。ハッキリ言って素晴らしい
「そうなんだ。私、買う本からすでに間違ってたのかな……
いいや違う。そういうことじゃないんだ、あたしが言いたいのはそういうことじゃない
え、うん……
 珠ちゃんはちょっと黙って頭の中でいろいろ言葉を考えているようだった。そして、少しの沈黙のあと、こう言った。
あたしがこの本に書いてあることを理解したのは、曲を書けるようになってからだったんだ

……え?


現在、大ヒット中の作曲入門ライトノベル、 『作曲少女 ~ 平凡な私が14日間で曲を作れるようになった話 ~

ライトノベル風な出だしに戸惑ってしまったDTMステーション読者の方もいたかもしれませんが、これは今、作曲系の本として大ヒット中の書籍『作曲少女 ~ 平凡な私が14日間で曲を作れるようになった話 ~』の一節。この本を書いたのは作曲家・作詞家としても活躍する仰木日向(おうぎひなた)さん、また挿絵を描いているのは、『女子高生 エフェクター買いに行く!!』の大ヒットで大きな注目を集めている、漫画家・イラストレーターのまつだひかりさんです。



先日、そのお二人とお会いする機会があったので、どうしてこんな本を企画することになったのかなど、お話を伺ってみました。


『作曲少女』著者の仰木日向さん(左)とイラストレーターのまつだひかりさん(右)


--『作曲少女』もともとのキッカケはどういうことだったんですか?
仰木:もともと私が『できるかなってDTM』という4コマ漫画を同人誌として書いていたんですが、それを見た出版社の編集長から「これを書籍にしてみませんか?」って連絡をもらったのがスタートでした。


仰木さんが描いた漫画、『できるかなってDTM』の表紙


--ええ?仰木さんが、漫画を描くんですか?
仰木:はい、作曲家として活動する一方で、DTMの入門漫画も描いていたんですよ。それが、作曲やDTM初心者の方から「分かる分かる!」と感想をいただいたりして……。ただ、漫画という性格上テンポが遅く、なかなか話が進展しません。だから、これを書籍にして作曲のすべてを描くとなると、膨大なシリーズになってしまいそうで現実的ではありません。そこで小説にしてみませんか?と提案したんですよ。


『できるかなってDTM』は以前、仰木さんが描いていた4コママンガ

--それにしても仰木さん、多彩すぎますね。この『作曲少女』もメチャメチャ楽しかったです。でも、それなら仰木さんご自身で挿絵を描くということも可能だったわけですよね?
仰木:でも今回は、僕は小説に専念したほうがいいかな、と。それで「イラストレーターは誰にしましょう?」と言われたときに、とにかく頼みたい人がいます、まつだひかりさんです、ってお願いしたんですよ。
まつだ:仰木さんとは以前にもお会いしていたこともあったので、喜んで引き受けさせていただきました。その時点では、まだ仰木さんが原稿を書き始めていない状況だったんですが、コンセプトを教えてもらって、タッチやキャラクタの雰囲気などアイディアを出していったんです。


『作曲少女』の挿絵は『女子高生 エフェクター買いに行く!』とはだいぶ違うタッチ

--『女子高生 エフェクター買いに行く!!』のインパクトが強すぎるので、ずいぶん違うカワイイ絵だなって……。
仰木:『女子高生 エフェクター買いに行く!!』のファン向けというよりも、ぜひ、新しい読者開拓をしたかったので、違うタッチのものをお願いしたのですが、表紙の案を見たときは、瞬間で「まつださんに頼んでよかった!」って思いましたよ。絵力があるというか、良さが0.1秒で分かる!僕がイラスト描かなくてよかったと思いましたよ(笑)。


表紙に採用されたまつださんのイラスト

--この本は、もともとどんなコンセプトになっていたんですか?
仰木:譜面が一切出てこないけれど、曲が仕上げられる小説ができたらいいね」と編集長からの提案があり、それは面白そうと思ったものの、当初そんなことが本当にできるのかな…と不安もありました。一方で、作曲本は勉強と思って読むと、すぐにつまずき、努力が必要になって、結局つまらなくなってやめてしまうケースが多いと思うんです。だから、最初の最初から遊べる内容、楽しめる内容にしたい…というのもコンセプトのひとつですね。そして、この本では「分かった」は、「できる」んじゃないという話をしているんです。ぜひ「分かった」ではなく、「やる人」になって欲しい願いをもって、この本を書きました。


挿絵のラフスケッチ

--まつださんの作業は、その後、仰木さんの原稿が完成してから行ったんですか?
まつだ:原稿が完成してから、それを読んで描くパターンが多いと聞きますが、今回は1章ずつ上がってきた原稿を読みながらイラストを描いていくという流れでした。
仰木:僕とまつださん、編集の担当さんの3人のLINEがあって、2人を相手に連載をしていたような感じでした。そして、ときどき「ここに絵を入れましょう」なんていうやりとりをしていったんですよ。まつださんからのイラストが上がってくると、僕自身も大きな刺激を受けたんです。絵を見ることで、「この子には、こういう一面があるぞ」なんてイメージも膨らみ、それをその後の原稿に反映させていきました。またある時は珠美らしさを担当さんと激しく議論したこともありました。結局、担当さんの案でもいいか……ということになり、原稿も修正していったんですよ。結果的にはそれが正解でした。だから、登場人物の人格は、この3人で形成していったといって間違いないと思います。


登場人物の人格は仰木さん、まつださん、編集長の3人のキャッチボールで形成されたという 

--DTMユーザーにとって、この本の良さ、面白さってどうですか?
仰木:以前は『できるかなってDTM』というマンガを描いたこともありましたが、この本でDTMについては、直接扱わないことにしたんです。では、DTMユーザーに関係ないのかというと、その逆なんですよ。やっぱりDTM機材って、ハードもソフトもそうですが、買って満足しちゃうケースって多いと思うんです。でも、かなりお金も掛けているんですから、そのまま眠らせていたらもったいないじゃないですか。曲を書くことが、どう楽しくて、面白いのかを感じることで、自慢の機材のすべてが輝きだすキッカケになると思うんです。
まつだ:DTMユーザーに限らず、クリエイター全般にとって面白い内容になっていると思います。プロの方が読んでもきっと面白いと思うし、作ることへのモチベーションも上がると思いますよ。


『作曲少女』には4コマ・マンガが入ってくるのも楽しいところ


--作曲の本って、いろいろあるし、その手法についても、いろいろな解説書がありますよね。そうした作曲本と『作曲少女』の違いはどこにあるのでしょう?
仰木:分からない人の場合、その手法のところまでも行かないケースが多いと思うんです。言われていることはある程度分かるけれど、そもそも「自分で何が分からないのかが、ハッキリしない」ケースが多いと思います。そうしたジレンマに応えようとしたのが、この本なんですよ。主人公の山波いろはが挫折する下りがあるのですが、同じように作曲で挫けて、暗いトンネルを歩いている人も多いと思うのです。そうした人に音楽の楽しみ方を伝えるとともに、作曲の面白さを再認識してもらえればと思って書いています。


書籍内に使われた4コマ漫画のラフスケッチ

--お二人でセミナーも開かれているんですよね?
まつだ:どれくらい人が来るのかな……とちょっと心配していましたが、毎回思っていた以上に多くの人が来てくれてビックリしています。見た感じだと20代の人が多いけど、10代、30代、40代と幅広い年齢層の方ですね。中には遠方から来てくださる人もいて嬉しかったです。
仰木:セミナーでみなさんに聞いているんですが、「この本を読んで曲を書きました」という人が結構いるんですよ。それだけでも、この本を書いた甲斐があったな、と感じています。ぜひ、もっと多くの方に読んでいただき、作曲したいという気持ちになってもらえたらな、と思っています。

--ありがとうございました。

【関連サイト】
「作曲少女~平凡な私が14日間で曲を作れるようになった話~」(ヤマハミュージックメディア) 

【書籍購入】
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