J-POP界を代表する音楽プロデューサーの1人である、本間昭光さん。ポルノグラフィティをはじめ、いきものがかりももいろクローバーZJUJU一青窈広瀬香美浜崎あゆみ……と数多くのアーティストを手掛けつつ、作曲家、アレンジャーとしてスタジオワークをこなしています。さらに、本間さんはライブ活動も数多く行っており、現在はいきものがかり、ももいろクローバーZのバンドマスター、キーボーディストとして、全国を飛び回っているのです。

その本間さんが20年以上前から一貫として使ってきたツールがMOTUDigital Performer。その昔はDAWではなく、MIDIシーケンサPerformerだったわけですが、その業務効率の良さ、ライブステージでの安定性において、これを凌ぐものはないと言うのです。先日、本間さんにお会いして、どうしてDigital Performerがそんなにいいのか、実際どんな使い方をしているのか、いろいろとお話を伺ってきました。


プロデューサーであり、アレンジャー、作曲家、キーボーディストとして活躍する本間昭光さんに、ご自身のスタジオでいろいろお話を伺った
--本間さんが、コンピュータとかシーケンサを使いだしたのって、いつ頃からだったのですか?
本間:大学のころ、YAMAHAのQX3を使ったのが最初で、それからしばらくQXを使っていました。ちょうどMSXなんかも出てきたころで、これからはコンピュータの時代だ、なんて言われていたけど、どうも専用機のほうが好きでね…。その後、23歳で関西から東京に出てきて、ハーフトーンミュージックに入ったのですが、そのころもQX3でした。当時はみんなカモンミュージックレコーンポーザを使っていましたが、PC-9801ってデカいし、出たばかりの98noteは信頼が置けなかった…。やっぱりライブなどへ持ち込むことを考えるとQXだったんですよね。

--ライブにQXを持ち込んで使っていたんですか?
本間:その当時は、QXで打ち込みはしつつも、それを直接持っていくより、Otariの8chテープに流し込んで持っていくことが多かったですね。まずクリックのトラックがあって、となりの1トラックを空けて、リズム、上モノ、コーラスなど6chで構成していました。でも、いよいよコンピュータじゃないと対応できない時代になっていった中、友達とMacintosh SE30を共同で購入し、MOTU(当時はMark Of The Unicorn)のPerformerも買ってこれを入れたんです。当時、「OpcodeVisionのほうがいい」なんて話もあったんですが、あの絵柄が好きじゃなかったんですよ。でも、当時は根拠のなさそうな、いろんな噂もありましたよね。みんなコンピュータに対する妄信もあって、あれは正確なんだと思い込んでいたけど、PCとシーケンサとの相性なのか、MIDIインターフェイスとの相性なのか、結構、テンポに揺れがあったり…。だからボクも1bitズラすとか、いろいろと試しましたね。いまから考えると、ずいぶん大らかな時代でしたね。


90年代前半からPerformerを使っていた本間さん、現在もMIDIシーケンサとして最新のDigital Performerを使用している 

--90年代前半からPerformerを使っていたというわけですね。これはやはり制作用ですよね?
本間:そうですね。このMacを持ち歩くには、重たいし、もしものことを考えると、やはり怖かったので、スタジオに置いて使っていました。ライブ用にSMPTEを使ってテープと同期させて、マルチで書き出していましたよ。SE30時代がかなり長く続きましたが、少しずつマシンをアップグレードさせていくとともに、コンピュータの信頼性も上がり、ライブでも使うようになっていったのです。もっともQX3のころは自分でキーボードを弾きつつ、シーケンサの操作もすべてやっていましたが、コンピュータになってからはマニピュレータに任せられるようになり、多少は楽になったんですよね。そうこうしているうちにDigital Performerというのが出てきました。どうやら、これでレコーディングもできるらしいぞ、と。

--本当にPerformerとともに歩んでこられたんですね。で、すぐにオーディオレコーディングに入っていったんですか?
本間:試してみたいとは思いましたが、やはり楽器を録るというところまでには至らず、まずはクリック用に使っていました。それまではライブでもクリックを鳴らすためだけにKORGDDD1というリズムマシンを使っていたんです。当時、とてもお世話になっていた先輩アーティストチームで生み出された使い方なんですけど、DDD1のカウベルハットの音をクリックに使うことで、しっかり聴こえるのに邪魔にならないと、使っていたんですよ。でも、単にクリック鳴らすだけのためにかなり大きな機材であるDDD1を持っていき、配線し……というのは面倒。だったら、これをDigital Performerのオーディオトラックに入れてみたらいいのでは、と試してみたら大正解でした。このDDD1の音は、いきものがかりのライブなどでも脈々と受け継がれているんですよ。


普段は、都内の本間さんのスタジオで仕事をしつつ、ライブツアーで日本中を飛び回る本間さん 

--クリックにDDD1を使うというのは初めて聞きました!まあ、クリックの音をDAWのオーディオトラックに収録するというのは理にかなってはいるけど、ちょっと贅沢な使い方ともいえますよね。
本間:まあ、いまと違ってメモリーもすごく高い時代でしたからね。ちょうどPowerMacが出たころだったと思うけど、オーディオが使えるようにとちょっとメモリを積むだけで100万円を超えちゃう。だから、オーディオをDigital Performerに任せるのは、まだいいか…と考えていました。デジタルオーディオ録音機材としてはADATからDA88に移っていった時代。当時はDA88を2台持っていて、これをSMPTEで同期させ、同じSMPTEの信号を分岐させて、これにDigital Performerを追従させるといった使い方をしていましたね。だからDigital Performerになったとはいえ、実態は従来通りMIDIシーケンサとして使っていたわけですね。実際に、Digital Performerのオーディオトラックにオーディオを録るようになったのは、10年程度前からですよ。


当時から使っているMIDIインターフェイス、MIDI timepieceは今も現役 

--ようやくですね。どこのスタジオにもPro Toolsが入っていったころだと思いますが、Digital Performerですべてを行うわけですか?
本間:いやいや、ボクはエンジニアではないので、そっちの領域にまでは手を出しません。やはり餅は餅屋ですから。ボクがこのオーディオトラックを利用したのは仮歌のためですね。それまでは、ボーカルトラックの代わりにシンセメロを入れて、それを聴きながらアレンジをしていたんですが、仮歌が入ることで、アレンジの仕方は激変しました。やはりシンセメロで作業するのと比較して、はるかにイメージしやすく、音作りも広がっていきますから、画期的だと思いましたね。オーディオを扱うといっても従来のADATやDA88のように巻き戻し作業は不要だし、そもそもシンクする必要がないから一発。

--なるほど、あくまでもアレンジに使うためのオーディオトラックということなんですね。
本間:そうですね。ボクらは分業の時代で生きてきたので、作曲家の領域、アレンジャーの領域、エンジニアの領域……とそれぞれの区分があり、その領域を侵食しちゃいけないという考えがあったんです。だからDAWが出てきたといっても、自分の中に「これで全部できるじゃん」というような発想はなかったんです。いまのDTMでは、全部自分でやるという風潮だけど、最高の作品を作ろうとしたとき、やはりなんでも一人でやるというのには無理があると考えています。


今も本間さんのスタジオにはFocusriteの8chヘッドアンプ、ISA828などが積み上げられている

--再度、ライブでの使い方について伺いたいのですが、先ほどのお話で、DDD1のクリックをオーディオトラックで鳴らすようになったとのことでしたが、実際の音はどうしていたんですか?
本間:PCの信頼性も上がったこと、マニピュレータが作業してくれるということで、某先輩アーティストチームや槇原敬之君のライブで使いだしたのが最初でした。そのころはマニピュレータが山のようにラック型のシンセを積んで、そこで直接音を出していました。ほんとDigital Performerになれば、予め録音しておいた音を出せばいいわけだし、それなりに信頼性も証明されつつあったけど、現場の意見が大きいライブツアーで使うまでには至ってなかったんですよね。とはいえ、そんなにたくさんのシンセを持ち歩くほうがやっぱり危険。PCなら2台併用することができるし、バックアップもとれる。シンセが飛んだから、この音色は出せない……なんてこともなくなります。そのころになると、世の中のレコーディングスタジオもみんなPro Toolsになっていったので、コンピュータに対する抵抗もなくなってきたということで、オーディオトラックもライブで使うようになっていったんですよ。

--確かに、とくにやり直しがきかないライブでは、信頼性、安全性が重要ですもんね。
本間:そうですね、MOTUのシステムはライブでの信頼性が高いと定評がありますね。自分の知っている人たちの間でもライブはMOTUシステムがほとんど。マニピュレータ飲み会なんかに参加しても、やっぱりDigital Performerを使っている人が多いですね。まあ、家での制作だといろんなDAWのユーザーがいるけど、ライブではMOTU。ここには長年かけて熟成してきたチャンク機能の存在も大きいじゃないですかね。またライブ用では二重化したシステムで、仮に片方のDigital Performerが落ちても、もう一台が並走しているので、そっちに切り替える。また最悪の事態が起きたとしても、マニピュレータも冷静に何小節か先を指定してポンと出すから、瞬間で音が戻ってくる。演奏してる側でも気づかないこともあるくらいで、マニピュレータも言わないしね。最近だと、その仕組みを使って、わざと途中はフリーで演奏し、あるところから同期させる……なんて使い方もしてますね。


現在のDigital Performer用オーディオインターフェイスはMOTU 24i

--ちなみに、オーディオインターフェイスはどうしているのですか?
本間:もうね、何も考えず、最初からMOTUのオーディオインターフェイスを使ってましたよ。いろいろと変えてきたので、しっかり型番までは覚えてないけれど、MOTU2408を使っていた時代が長かったかな。正直なところ、Digital Performerとセットで使わなくちゃいけないものだと信じていたし、他社の製品だとうまく動かないと思っていたくらい(笑)。マニピュレータと相談して、いわれるがままに買ってましたね。自分のスタジオでも使うし、ライブでもそれを使うので、みんな同じ環境をもっていて、完全に共通言語のようになっていますよ。


Prophet 5など、アナログシンセは手弾きでレコーディングすることも多いと話す本間さん

--また話が前後してしまいますが、スタジオでのアレンジの仕事のほうは、その後どのような手法になっていったんですか?
本間:先ほど話をした通り、分業化ということを基本に考えているので、自分でミックスして……というようなことはしませんが、2年前まではDigital Performerである程度のオーディオトラックを作るところまでは行っていました。やはり今でもアナログシンセを使うことは多いので、これらをMIDIでコントロールしたり、手弾きした音をオーディオトラックに録っていくわけです。ほかにも自分でアコースティック楽器を録るというようなことも、ないわけではありません。幸いにして、ヘッドアンプの使い方やマイキングの仕方など、あの時代のスタジオを経験したので、ある程度の知識は持ち合わせているので、ここまでやっておけば、あとはエンジニアがやってくれる……ってね。ただし、渡すときは、極力エフェクトは外してヘッドルームも大きく取った状態でWAVで渡していたのです。ただ、やはり現場からはPro Toolsのデータで欲しいという声が大きくなって、ついに2年前にPro Toolsを導入したんですよ。


現在はDigital PerformerとPro Toolsを同期して動かす環境に 

--え?じゃあ、ついにDigital Performerをやめてしまった??
本間:いえいえ、まさか。なんか原点に戻ったという感じなのですが、Digital Performerはシーケンサに専念する形になり、これと同期する形でPro Toolsを動かしているんです。1台のMacにDigital Performerが入っていて、もう1台にPro Tools。どっちも2012年中期のPower Macですが、これでパワー的に不満はないですよ。使い方はDA88を同期させていたのと同じようなものですね。もっとも、昔と比べるとスペックが上がっているので、いざとなればDigital Performerだけで何でもできるという安心感は大きいですよ。ただし、ライブのときはPro Toolsは使わないので、Pro Tools上のオーディオデータもDigital Performerに持ってきて使うわけです。


数多くのビンテージシンセが並ぶ本間さんのスタジオ

--本間さんのスタジオには、ビンテージシンセを中心に、数多くのシンセ類がありますが、いま本間さんの使うMIDIの音源ってどんなものが多いのでしょうか?
本間:それは、やっぱりソフト音源が中心になっていますよ。定番モノばかりですが、Native InstrumentsのKONTAKTは充実しているから、これが多いかな。また最近はSpectrasonicsTRILIANOMNISPHERESTYLUS RMXが大活躍してますね。でも何といっても一番使っているのはMOTUMach Fiveでしょうね。E-MUのライブラリやAKAIのサンプルからコンバートして持ってきたり、いろいろなところからもらったサンプルを読み込ませてみたりと、Mach Fiveの活躍率は高いですね。あとは生ギターをやるときにはReal Guitarを使うケースが多いですね。まあ、あくまでもアレンジ用にReal Guitarで作って、最後にスタジオで弾いてもらって差し替えることが多いけれど、Real Guitarでもかなりいい雰囲気に仕上げられるので、ものによっては、そのまま使っちゃうケースもありますね。


Digital Performerのチャンク機能を使ってPro Tools側と同期 

--なかなか知れないプロのお仕事現場についてお伺いできて、とっても勉強になりました。最後に、いまのDTMユーザーに向けて、少しアドバイスをいただけますか?
本間:ボクらの世代のアレンジャーは周波数や倍音構成というのをすごく気にして音作りをしてきました。ウワモノ、弦をどのように積んでいくのかを考えてアレンジしていく世代なんですよ。今は、DAWに何でも突っ込んでいくケースが多いけど、もう少しそうしたことを意識してみると作品の質も大きく変わってくると思いますよ。また、さっきも話たとおり、歌をオーディオトラックに貼りつけて、人の声を感じながらアレンジしていくことにすごく恩恵を感じているんですが、そうやって倍音構成をチェックしながら音色決めや音作りができるからなんですよ。また、最近の若い人たちが作ってくるデータのトラックを見ると、最初からコンプをすごくかけて音圧パンパンにして持ってくるケースが多いんです。確かに単音だけ聴くと派手に聴こえるかもしれないけれど、それだともうエフェクトもかけられないし、ミックスで何もできなくなってしまいます。できるだけヘッドルームは多めにとって余裕を持たせておくと、ここに乗せる歌も録りやすいし、最終的に音が前に出てくるんですよ。DAWの機能や性能はどんどん向上しているけれど、その使い方の基本は変わっていないことのほうが多いようにも思います。あまりDAWの機能を過信しすぎずに丁寧に作っていくとクォリティーも上がっていくと思いますよ。

--ありがとうございました。

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