すでに多くのみなさんもご存知のとおり、昨年11月、SONARを開発するCakewalk社の親会社である米Gibson BrandsがSONARの開発や製造・販売の打ち切りを発表し、Cakewalkは事実上解散状態になってしまいました。最終版のSONARは今でも使えるものの、未来を絶たれたSONARユーザーにとっては、行き場のない状況になっていました。親会社であるGibson自体の経営危機が報道されている状況を考えると、仕方ない選択だったのかもしれません。

そんな中、先週世界を駆け巡ったのが、シンガポールのBandLab Technologiesという会社がGibsonからCakewalkを買い取り、ソフトウェア資産やブランドなどの全権を掌握したというニュース。詳細が発表されていなかったので、事実関係がよく見えていなかったのですが、BandLab TechnologiesのCEO兼共同創設者であるメン・ルー・クォック(Meng Ru Kuok)さんとコンタクトをとることができ、今後の展開について話を聞くことができたので、最新情報として紹介していくことにしましょう。


Cakewalkを買収したBandLabのCEO、メン・ルー・クォック(Meng Ru Kuok)さん

私自身、Cakewalkの復活については昨年の時点で諦めていたし、会社組織自体解散状態という情報を聞いて、完全に無理だと思っていました。それだけに今回のBandLabによるCakewalkの買収は寝耳に水であり、衝撃的ではありましたが、「BandLabならできる!」という確信も持ったのです。というのも、昨年末、ちょうどCakewalk終了の発表のすぐ後に、たぶん偶然のタイミングだったと思うのですが、メンさんと日本で会って話をしており、ものすごくパワフルで、実力ある人であることを実感したからです。


クラウド型のDAWである、BandLab。すべて無料で使えるのが大きな特徴

その時のインタビューの詳細についてはAV Watchの連載記事、Digital Audio Laboratory 第748回「スマホとPCで曲作り&コラボが全て無料、Androidでも低遅延。BandLabでできること」で書いているので、ご覧いただきたいのですが、同社はクラウド型のDAWであるBandLabというサービスを2015年にスタートさせ、今すごい勢いでユーザー数が増えているのです。というのも、かなり高機能、高性能のシステムなのに、すべて無料でサービス展開しているからなんですよね。


昨年お会いしたときは、メンさん自らギターを弾いてBandLabのデモをしてくれた。冒頭の写真もその時の撮影

ちょうど、日本語対応をしたということで、プロモーションのためにメンさんが来日したタイミングでインタビューしたのですが、メンさん自身もギタリストとしてなかなかの腕前であり、自らデモをしながら、BandLabの面白さを紹介してくれたのです。


12月にBandLabのサービスは日本語対応するようになった

実は、BandLabは、こうしたサービスを展開する一方で、2016年にはアメリカで50年の歴史を持つ音楽雑誌、Rolling Stone誌を買収しているほか、ギターブランドのTeiscoとHarmonyを復活させたり、米Heritage Guitarsとの提携を発表するなど、音楽業界に大きな話題を振りまいてきているんですよね。


1月にアメリカで行われたNAMM SHOWに出展していたBandLabのブース

メンさんと会ったときは、本当にBandLabの機能の話で盛り上がっただけで、あまり彼のバックグラウンドについての話はしなかったのです。でも後で知ったのですが、実は超超超がつくほどの大金持ちだったんですよね。

お父さんであるKuok Khoon Hong氏は世界最大のパーム油企業ウィルマー・インターナショナルのCEO。Wikipediaで見ると、その資産は23億ドル!さらに、お父さんの伯父さん、つまりメンさんにとっての大叔父さんはシャングリ・ラ・ホテルズなどを作ってきた実業家で世界の大富豪として知られる Robert Kuok氏であるというのですから、もうよく分からない違う次元の方ですね(笑)。


そのメンさんが、Cakewalkの買収を2月23日に発表

でも、そのメンさん、私が会ったときも御付の人がいるわけでもなく一人。広報会社を通して最初にコンタクトをとったこともあり、その会社の会議室を借りて通訳の人を付けてのやりとりではありましたが、すごく気さくな方であり、そのときは、まさかそんな大金持ちだとはまったく思いもしませんでした。音楽にも技術にも長けていて、BandLabのすごく細かい技術的な話までしてくれたので、バリバリのエンジニアなんだろうな……なんて思ったくらいですから。


Cakwalkサイトから買収に関する詳細ページに行くとこんな表示が…

今回のニュースを見て、メールでメンさんに連絡をしたところ、驚いたことに「いま東京にいる」というお返事。ただ、スケジュールが完全にいっぱいでお会いすることはできなかったのですが、何度かのメールのやりとりをしながら、Cakewalk・SONARの今後について、また日本での展開などについて、考えを教えてもらいました。


私の手元で今もしっかり動いてくれているSONAR Platinumの最終バージョン

「ちょうど先日、CakewalkのForumに今後についてはいろいろ書いたので、まずは、それを見てもらうと現状について、だいたい理解いただけると思います」とのことだったので、探してみると、かなり詳しく書いてありました。英語の得意な方は、そちらを読んでみると詳細が分かると思いますが、要点になる部分と、私からメンさんへ送った質問の答えをまとめてみると、かなり意訳していますが以下のようなニュアンスです。

現在、Cakewalk買収に関する事務的手続きを進めるとともに、さまざまなことについての整理を行っているところです。日本のSONARユーザーを含め、世界中におる多くのSONARユーザーのみなさんは、いろいろと心配されていると思います。とくにライフタイムアップグレードのサービスを購入された方は、困っていることでしょう。私たちとしては、まずそうした心配を少しでも早く取り除けるよう、努力したいと思っています」

まだ、状況の整理をしている段階なので、正確なことは言えません。ただ、できる限りさまざまなことをオープンに、透明にして公開していきたいと思っています。少なくとも今から4週間以内(メールをもらった日付から計算すれば2018年3月中)には、製品のロードマップ、計画について発表するので、そこまでお待ちいただければと思います。

私の考えとしては、ライフタイムアップグレードを購入したユーザーのみなさんはもちろんですが、それに限らず旧バージョンのSONARユーザーに対しても、クロスグレードやバージョンアップ費用をいただくことなく、無償で新バージョンのSONARをお使いいただけるように準備を進めたいと考えています。その詳細については、まだ正確にはお伝えできない段階なので、もう少しお待ちください。

ただし、現状を見る限りまだ予断を許さない状況のようでもあります。

ソフトウェア資産の洗い出しをしているところであり、まだそれらがそのまま使えるものなのかの見極めができていません。もし問題なく使えるものであれば、比較的早期に販売やアップデートなどを再開できると思います。でも、それらが、あまり使えるものでなかったとしたら、我々の独自のテクノロジーに置き換えていくか、またはほかの企業にも協力を仰ぎながら作業を進めたいと考えています。

とはいえ、実は嬉しいニュースもあるんです。Noel BorthwickとBen Statonの二人が、我々の開発チームに参加してくれることになったのです。

そう、Noel Borthwick氏とは、CakewalkのCTO=最高技術責任者であり、Ben Staton氏とは、SONARのシニアソフトウェアエンジニア。まさにSONARを開発してきたトップの二人がこの新チームに参加することになったというのです。NoelさんもTwitterで


と、新しいバンド(笑)に参加し、Cakewalkを続けられることを喜ぶ発言をしていますからね。そこで、メンさんに、Cakewalkの組織を、これまで通りアメリカ・ボストンに置くのか、メンさんのいるシンガポールに移管するのかをたずねてみました。

我々はCakewalkという会社組織を買ったのではなく、Cakewalkの持つすべての知的資産など買ったのです。が、実質的なCakwalkの開発拠点はボストンからシンガポールへと移します。現在シンガポールには非常に大きなエンジニアチームがあります。われわれのこの技術力、開発力ははCakewalkにといっても非常に大きく役立つものだと考えているからです。そこにNoelとBenが加わってくれるというのは非常に心強いところでもあります。

Noelとは、今回の件について、いろいろと話をしましたが、方向性も一致させることができ、うまくいくだろうと確信しています。またジャズギターを教えてくれるという約束もしましたしね。またBenともいろいろな話をしました。彼はもともとSONARユーザーで、SONARの大ファンであったことから、Cakewalkに入ったそうですが、それだけにSONARに対しては人一倍の情熱を持っているから、彼と一緒に仕事ができることをとても楽しみにしているところです。
と言っているので、期待しながら3月中の発表を待ちたいところです。ただ、その後、メンさんからさらなる発表がありました。

新製品については、少しずつ状況が見えてきました。そして、当初想定していたよりも早くフラグシップ製品を出すことができそうです。ただし、その新製品にはSONARという名称は使わないことにしました。いろいろな混乱を引き起こす可能性があるために、避けることにしたのです。当面は仮称としてTDDFKAS (The Desktop DAW Formerly Known As SONAR) と呼ぶことにします。詳細については、もうしばらくお待ちください。

とのことです。ちなみに、こちらからはほかにも「Windows版の復活だけでなく、Mac版の開発というのはありえそうですか?」、「BandLabとの機能統合といったことはありそうですか?」「日本国内での販売体制など計画があれば教えてもらえますか?」といった質問も投げかけました。


私が購入したSONAR Platinum、ライフタイムアップグレードのバージョンであるため使用期限は∞

これらについては、やはり「現状ではまだお話すことができないのです。いずれもロードマップの発表において明らかにするので、もう少し待ってください。あまり細かな話をできずごめんなさい」とのお返事。

まあ、まだ大きな組織を買収したばかりで、メンさん自身、状況をハッキリ掌握できていない状況ですから、仕方ないところですよね。また、新しい情報が入ったらお伝えしていきたいと思います。私自身ももちろんライフタイムアップグレードユーザーですから、BandLab、そしてSONARの将来を期待しながら待ちたいと思っているところです。

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