Future BassやElectronicなど幅広いジャンルで楽曲を制作し、国内外のクラブシーンで活躍するアーティスト・YUC’e(ゆーしえ)@yuce_eさん。小学生時代のミュージカル経験から始まり、ニコニコ動画での「歌ってみた」を経てトラックメーカーとして活動をスタート。2015年にSoundCloudで楽曲発表を開始してから、同人イベントでのCD制作、国内外でのライブ活動、さらには海外レーベルからのオファーまで、着実に活動の幅を広げてきました。
代表曲「Future Cαndy」をはじめとする楽曲は海外でも高く評価され、アメリカ、中国、東南アジアなど世界各地でのライブ出演も果たしています。そんな彼女に、音楽制作環境の変遷や海外展開の経緯、そしてグローバルに活動する上で重要となる著作権管理について詳しく話を伺いました。同人活動から始まって海外でも活躍する現代のトラックメーカーの一つのモデルケースとして、多くのクリエイターにとって参考となる内容です。

トラックメーカーのYUC’eさんにインタビューしてみた
トラックメーカーへの歩みとDAWとの出会い
--音楽に興味を持つようになったきっかけを教えてください。
YUC’e:小さいころからミュージカルを勉強していました。小学生くらいから中学生にかけて劇団に所属して、歌って踊るという活動をしていたんです。その一方で、インターネットが趣味だったので、高校生くらいからニコニコ動画で「歌ってみた」をやるようになりました。友達と一緒に楽しくやっていて、それがきっかけで音楽制作の世界に入っていったという感じですね。歌を録るのにDAWを使うじゃないですか。それで、確か当時使っていたオーディオインターフェース、UR22に付属していたCubase AIだったと思うんですけど、それ以来、今に至るまで使っているDAWはずっとCubaseです。

DTMを始めた当初からCubaseを使っていたと話すYUC’eさん
--曲を作るようになったのはどういうきっかけでしたか?
YUC’e:DAWを触っているんだったら曲が作れるかもしれないっていう安易な考えから作り始めました(笑)。その時は結構インターネットで調べながら、手探りで作っていましたね。でも最初は1曲作るのにめちゃくちゃ時間がかかってしまい、結局、最初の作品を発表するまでに2年くらい、普通に遊びながら作っていました。私はデモみたいなワーク・イン・プログレス的なものは外に出さずに、作り終えたものを出したいなと思っていたので時間がかかってしまったんですよね。
同人イベントからスタートした活動
--最初に発表した曲はいつごろ、どんな曲だったんですか?
YUC’e:コミケに出した「COSMOSOUP」というCDアルバムが最初だったと思います。それが2015年ですね。その時はCDで出すとともに、そのクロスフェードをSound Cloudに音だけで上げました。映像もないし、YouTubeにも上がっていない状態で。Sound Cloudで、その当時見つけた外国人の方に勝手にYouTubeに転載されて、それでちょっと広がったみたいな感じでした。まあ、無断転載ではあったんですけど、それがきっかけで広まっていったのは嬉しかったですね。だから、また次のCDを作ろうと思って、2016年春のM3で「CHERRY CUBE」を出しました。
--Future Cαndyが最初の大きなヒットになったと思いますが、どのように生まれたのですか?
YUC’e:その前に出した3作品目のEP「Toy Frappe」の中の1曲を、とあるDJさんがクラブでかけてくれたんです。それをきっかけで、もうちょっとクラブトラック的なものを作ってみようと思って作ったのがFuture Cαndyでした。その時、自分の大先輩でめちゃくちゃ尊敬しているPa’s Lam Systemというアーティストさんがいて、Pa’s Lam Systemの曲が大好きで、それにめちゃくちゃ影響されて作った曲なんです。それを本人たちにも伝えてあるんですよ。
もっとも、Future Cαndyを出した当初はとくにヒットということもなく、そんなに他の作品と変わらない感じだったんです。それが、Pa’s Lam Systemさんとかを聞いていた層に「こういう曲を作っている人がいるぞ」みたいな感じで聞いてもらえるようになり、Twitterでリツイートしてもらったりして、そこから徐々に再生回数が増えていった感じですね。
--国内に限らず、海外のリスナーも多い著名なトラックメーカーであるYUC’eさんですが、いまも同人イベントには普通に参加されていますよね。
YUC’e:そうですね。M3やコミケは多くの方に作品を手に取っていただける機会なので大切にしています。みなさん、結構リサーチしてブースに来ていただくことも多く、それをきっかけに聴いていただけることもあるので、重要なイベントだと感じています。コミケは音楽以外にもさまざまなジャンルがあって分散してしまうから、参加できるときだけ参加している感じですね。M3の方はできる限り毎回参加するようにしています。
--一方で、ライブ活動もかなり積極的に展開していますよね。ライブはかなり以前から行っていたんですか?
YUC’e:はい、最初のCDを出したころからライブは行っていました。ただ、当初はシンガーソングライターの弾き語りの方たちと一緒にライブをしていたので、ライブハウスでみんな着席という感じでしたよ(笑)。でも、「Toy Frappe」の中の1曲、”真夏のドラマチック”をDJさんがかけてくださったのをきっかけに、クラブなどへつながっていって、ライブハウスよりもクラブを中心に活動するように変わっていきました。
現在の音楽制作環境
--YUC’eさんの現在の制作環境について教えてください。
YUC’e:ハードのシンセは使わないんですよ。家が狭いので置けなくて、全部ソフトです。メインで使っているのは、Massive、Serum、Nexus2、あとUVIのToy Suitsですね。ドラム系は全部サンプリングです。Spliceからサンプルを取ってきて、いろいろ並べていって、音も結構変えちゃいます。ディストーションをかけたり、EQをかけたりして。サンプラーはCubaseのサンプラートラックに入れて使っています。初期の頃はCubaseにサンプラートラックがなかったので、オーディオトラックにひたすら貼って作ってました。だから当初のプロジェクトを開くとめちゃくちゃ重い状態でしたね(笑)。
--エフェクトはどういうものを使っていますか?またオーディオインターフェイスなどは?
YUC’e:Cubase標準のエフェクトはまったく使わないですね。XferのOTTは絶対に何かしらで使っているし、Sonoxのinflatorとか、音圧アップできる系のエフェクトは結構使っています。あとはWavesのS1とか、EQはPro-Q4とか……。オーディオインターフェースは今は、Fireface UCXを使っています。Apollo Twinも持っていて、UADはかなり使いますね。1176はWavesと使い分けていて、APIや Distressorもかなり使っています。
コンピューターはMacBook Proです。最初はWindowsだったんですけど、DAW上で出る音がちょっと違うなと思ってMacに移行しました。ただ、CubaseとMacの相性が悪くて、かなり落ちるんですよね。でもUADはMacの方が使いやすいので、そこがちょっと困っているところです。
海外展開と著作権管理の課題
--海外での活動について教えてください。
YUC’e:クラブトラック的なものは、当時日本にはそんなにインターネットで普及している感じがなくて、みんな海外のトラックメーカーの曲を聴いていたんです。なので、おそらくこういうトラックを作ると、日本よりは海外で再生されるだろうという思いはありました。
初めてアメリカに行ったのが2017年ですね。海外のレーベルが日本人と海外の人たちを合わせたコンピレーションアルバムを出すということで、ある日突然メールが来て、声をかけていただいたんです。嬉しかったですね。このとき、アニメ・セントラルというコンベンションにも参加させていただきました。夜にホールでクラブイベント的なものをやるんですが、それに出演した形です。その後も中国でツアーをやったり、マレーシア、シンガポールのコンベンションに参加したりしています。
--ところで、YUC’eさんの著作権管理についてはどのようにされてきましたか?
YUC’e:最初は配信が始まったときに、日本にまだTuneCoreみたいなサービスがなくて、海外のアグリゲーターにお願いしていました。トラックメーカー界隈はみんなそこに委託していて、全部英語だったんですけど、なんとかやりとりできて、配信収益を得ることができるようになりました。その後、日本にTuneCoreができて、しっかり配信できる環境がととのってからは、TuneCoreを介して配信しています。
著作権管理で言うと、以前からJASRACについて興味はあるんですが、個人でやっていると、JASRACの仕組みとか、入り方など結構難しそうに感じてしまって、結局これまで入ることがないまま、今に至っています。周りのトラックメーカーもみんな同じような人が多いように思いますね。トラックメーカー界隈、クラブ界隈だと、YouTubeなどで楽曲が再生されることはあるんですけど、カラオケやBGMで利用されることはあまりないと思います。TuneCoreの著作権管理サービス(音楽出版社としての機能)を活用して曲ごとにJASRACに著作権を預けているので、それで十分かな、と。
--とはいえ、海外で楽曲が使用された分の著作権使用料は、クリエイター自身がJASRACなどの著作権管理団体に入っていないと、もらい損ねている分があるようですよ。
YUC’e:そうなんですね。
--こちらでも、JASRACに話を聞いてみようと思います。これからの世界中での活躍、楽しみにしています。本日はありがとうございました。
JASRACからのコメント
後日、JASRACにYUC’eさんの状況を伝えたところ、JASRACから以下のコメントをいただいたので、参考までに掲載いたします。
日本国内で使用された楽曲の著作権使用料は、クリエイターが個人でJASRACに所属していなくても、音楽出版社を活用してJASRACに間接的に著作権管理を任せている場合は、JASRACは、音楽出版社の分だけでなくクリエイターの分の著作権使用料も集めています。集めた著作権使用料は、音楽出版社とクリエイターの間で決められた取り分に応じて分配されます。
一方で、海外で使用された日本の楽曲の著作権使用料は、JASRACと相互管理契約のある海外の著作権管理団体が集めてJASRACに送金してくれています。ただ、多くの海外の著作権管理団体は、クリエイター個人が著作権管理団体に所属していない場合は、音楽出版社の分しか著作権使用料を集めてくれません。これは、海外ではクリエイター個人でも著作権管理団体に所属していることが一般的なため、所属していないということは、個人で著作権を管理していると判断され、著作権管理団体は使用料を集める権利がないとされているからです。つまり日本のようにクリエイターの分まで使用料を集めてくれていないため、YUC’eさんの場合ざっくり言うと、半分ぐらいは使用料をもらい損ねていると思われます。
海外でも活躍されているYUC’eさんの場合、個人で著作権管理団体と契約していないことは、お金の面ではかなりもったいない状態です。ぜひご入会をご検討いただけると嬉しいです。
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