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ゲームサウンド制作の現場は、なぜHD 480 PROを選んだのか? ソノロジックデザインが語る「音作りの基準」

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2026年8月1日、東京・恵比寿にあるゲームオーディオ制作スタジオ「ソノロジックデザイン re:voix studio」にて、ゼンハイザージャパンソノロジックデザインの共催による「スタジオ&ヘッドホン試聴会」が開催されました。会場となったre:voix studioは、WWEシリーズのサウンドデザインやAudiokinetic(Wwise)でのプロダクトエキスパートといった経歴を持つ牛島正人さんが代表を務めるソノロジックデザインが運営する、ゲームオーディオ制作専門のスタジオです。同社は今年4月に発売されたばかりの密閉型ヘッドホン「HD 480 PRO」を、早くもリファレンスモニターとして社内に順次導入しており、今回のイベントはその導入事例を軸に、ゼンハイザーの新製品を実際に体感してもらう場として企画されたものでした。

当日は「密閉型スタジオヘッドホンの試聴」という製品紹介だけにとどまらず、牛島さんによる「ゲームオーディオ制作ワークフローセミナー」が大きな柱として用意されていたのが特徴的でした。ゲームサウンド制作は、映画やドラマのようにリニアな尺で完結するコンテンツとは異なり、実装と実機での確認を何十回も繰り返しながら音を作り込んでいくという特殊なプロセスを踏みます。複数人が同時に関わる制作現場では、スタジオという場所そのものが常に取り合いになり、デスクで作業する時間の方が長くなる。そうした現場ならではの事情から、なぜMT 48HD 480 PROという組み合わせが「答え」になったのか、牛島さん自身の言葉で語られました。セミナーのあとには来場者が2グループに分かれ、実際のスタジオを巡りながらスピーカーとヘッドホンの聴き比べを行うツアーも実施されています。当日20人近い来場者が集まったこのイベントの模様を、セミナーの内容から試聴会の様子まで、順を追ってレポートします。

ゼンハイザージャパンとソノロジックデザインの共催による「スタジオ&ヘッドホン試聴会」が開催された

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ゲームサウンドを外注で支える会社、ソノロジックデザインとは

会場となったのは、ゲームオーディオの制作を専門に手掛ける株式会社ソノロジックデザインが運営するスタジオです。代表取締役の牛島正人さんはBerklee College of Musicでミュージックシンセシス学科を卒業後、WWEシリーズのサウンドデザイン/ディレクションを3年間担当し、その後はゲームオーディオミドルウェア「Wwise」を開発するAudiokineticでプロダクトエキスパートを5年間務めた経歴を持ちます。2021年にソノロジックデザインを設立し、これまでに大小合わせて300件以上のプロジェクトに関わってきたといいます。ゼンハイザーとは、以前からアンビソニックスやVRコンテンツをテーマにしたセミナーなどで接点があったとのことです。

ソノロジックデザインについては、以前「既存のスタジオでは世界の潮流に対応できない…。ソノロジックデザインが世界標準に対応させた横浜・恵比寿のスタジオ」という記事で紹介したことがありましたが、現在は15人のスタッフが在籍し、ゲームオーディオの制作を外注で請け負う立場にあります。牛島さんはこの日のセミナーを、次のような趣旨で始めました。

ソノロジックスタジオの牛島正人さん

牛島正人さん:本日は、うちのスタジオがどういうことをやっているのか、そしてどういう考えでこのスタジオを作っているのか、その延長線上で今回ゼンハイザーさんが新しくリリースしたHD 480 PROを、社員15人のうち今10台ほど導入していて、順次リファレンスモニターとして入れ替えている状況です。その理由を説明させていただきたいと思います

ゲームサウンド制作の実態 — 「作る」より「鳴らして直す」時間のほうが長い

セミナーの前半で語られたのは、ゲームサウンド制作という仕事の特殊性についてです。映画やドラマのようなリニアなコンテンツは尺が固定されているのに対し、ゲームはプレイヤーの遊び方によって再生時間も再生順も変わります。1本のゲームプロジェクトの制作期間は短くても3年、平均すると5年ほどかかるとのことで、企画からプロトタイプの段階ではサウンド担当は1、2人程度、ソノロジックデザインのような外注のオーディオ開発会社が本格的に関わるのは制作フェーズに入ってからが多いそうです。

牛島さんが強調していたのは、作業工程全体に占める「収録・素材制作」の比率の低さです。

牛島正人さん:収録して音を作るというのは、全体の作業のうち大体3割くらいという印象です。結局、一番作業時間がかかるのは実装と実機確認の部分で、ここが6割くらいを占めています。ゲームは開発中バグが非常に多く、それが音の要因なのかそうでないのかも含めて、1000個、2000個、3000個というバグチケットをどんどん潰していく作業が発生します

つまりDAW上で仕上げた音がそのまま完成形にはならず、実際にゲームへ実装して鳴らし、耳で確かめるというサイクルを何十回と繰り返すことこそが制作の本体だという考え方です。この反復をどれだけ多く回せるかが最終的な品質に直結するため、実装と確認にかかるコストを下げることが最優先課題になると説明されました。

また、インディーズから中規模、開発費100億円を超えるようなトリプルA級のタイトルまで、規模によって体制や予算は大きく異なるものの、求められる音の品質基準はほとんど変わらないとも述べていました。ソノロジックデザインのような外注専門会社にとって、品質の低下はそのまま仕事の減少に直結するため、プロジェクトの規模を問わず一定の品質を担保する必要があるという事情も語られました。

2つのスタジオに分かれた設計思想 — 「デジタルはデジタルのまま」「生音は生音のまま」

こうした制作実態を踏まえ、ソノロジックデザインでは横浜のse:design studioと、今回の会場である恵比寿のre:voix studioという、目的の異なる2つのスタジオを運用しています。牛島さんはこの使い分けの根底にある考え方を、次のように説明していました。

牛島正人さん:ゲームはマルチプラットフォーム展開が標準になっていて、携帯のスピーカーで遊ぶ人もいれば、サウンドバーやヘッドホンで遊ぶ人もいる。再生環境が本当にバラバラです。だからこそ、パッケージの中に入っているデジタルの音のデータが、自分が意図したとおり正しく入っているかを確認したい。それで、できる限りデジタルの環境のまま聴けるスタジオを作りました

7.1.4chのDolby Atmos環境を備えるse:design studioは、AoIP(Audio over IP)による全デジタル配線を徹底し、Wwise、Unity、Unreal Engineをはじめとするあらゆる開発ツールに対応した、アセット制作から実装確認までを一貫して行えるイマーシブルームです。一方、この日の会場でもあるre:voix studioは、音声収録や楽器収録を目的としたスタジオで、こちらは逆に「色付けのない生音」をそのままモニターできることを重視して設計されています。

牛島正人さん:ゲームの音作りでは、空間表現はあとからリアルタイムで付加するものなんです。街の中ならドライな音、教会の中に入ったらリバーブをかける、というように。だから波形データそのものはとにかくドライに録っておきたい。ドライに聴きたいし、ドライに録りたい。それがこのスタジオを作った一番の理由です

2m×4mの防音ブースと厚さ1mのコンクリート製フォーリーピットを備えたフォーリーブースもこのスタジオの特徴のひとつで、足音や小道具の音をその場で収録し、すぐにゲームへ実装できる環境が整っています。独自のサウンドデザインやフィールドレコーディングに加え、パートナーシップ契約を結ぶ世界的なSFXライブラリーのアセットも活用しているとのことです。

「スタジオはいつも取り合いになる」という現実からMT48とHD 480 PROへ

セミナーの後半、いよいよ本題であるMT 48とHD 480 PROの導入経緯に話が移ります。牛島さんがまず語ったのは、複数人が同時にプロジェクトへ関わるゲームサウンド制作ならではの課題です。

牛島正人さん:アセットを作る段階になると、同時に作業する人がぐっと増えます。うちは15人スタッフがいますが、コントロールルームは2つしかない。残りの13人はどうするのか、という単純な問題が出てきます。そうすると、スタジオでモニタリングできなくても、同じ品質で作業できる環境を作らないといけません

デスクで判断した音がスタジオに持ち込むと違って聴こえてしまうと、スタジオに戻るたびに修正ややり直しが発生し、担当者ごとに音の基準がずれてミックスが揃わなくなる。結果として工数と手戻りが積み重なっていく、というのがソノロジックデザインが抱えていた課題でした。

牛島正人さん:そこで差が出てしまうと、自分の作り方が悪かったのか、それともスピーカーの設定が違ったのか、判断がぶれてしまう。それがすごいタイムロスになるし、クリエイティブの技術の向上という意味でもぶれてしまいます。作業デスクでもスタジオでも、できる限り同じ環境で聴きたいというのが一番大きな理由です

この課題への解として選ばれたのが、Neumann(ゼンハイザーグループ)のオーディオインターフェース「MT 48」と、密閉型ヘッドホン「HD 480 PRO」の組み合わせです。MT 48はDante対応で、既存のAoIPネットワークにそのままLANケーブル1本で接続でき、7.1.4chの再生環境ともシームレスに行き来できる拡張性の高さが決め手になったといいます。ソノロジックデザインでは、社内15人のうち8割ほどの社員にすでにこの組み合わせが行き渡っており、標準的な作業環境として定着しつつあるとのことでした。

HD 480 PROについては、牛島さんは「コントロールルームで聴く音とほとんど同じ感覚でヘッドホンでも聴ける」という点を、導入の最大の決め手として挙げていました。

牛島正人さん:これまでもヘッドホンでミックスの仕込みをして、最後にスタジオのスピーカーで最終チェックをすると、特に低域を中心にかなり差があって、それを埋める作業に1曲1、2時間かかることもありました。HD 480 PROで仕込むと、その作業がほとんどなくなるのではないかと感じています。それくらい、スピーカーと同じ感覚で聴こえるというのが本当に大きな理由です

スタジオとデスクの間の「段差」をなくすことで、確認のためだけにスタジオへ戻る回数が減り、複数人が関わっても全員が同じ聴感を基準にできる。実装と実機確認の反復をより多く回せるようになることが、最終的な音の品質向上につながるという考え方が、このセッションを通じて一貫して語られていました。

密閉型フラッグシップ「HD 480 PRO」— 開放型HD 490 PROが残した宿題

セミナー後半では、ゼンハイザージャパン株式会社 ビジネスディベロップメントマネージャーの祷悠己さんからHD 480 PROの開発背景についても説明がありました。まず紹介されたのが、2024年3月に発売された開放型のフラッグシップモデル「HD 490 PRO」です。DTMステーションでも以前「現代スタイルの理想形、音楽制作とミックスの2通りで使い分けれるモニターヘッドホンHD 490 PRO」という記事で紹介しましたが、ヘッドホンが制作の補助ツールからメインツールへと役割を変えつつある中で、長時間でも疲れにくい快適性、制作とミックスを1台でこなせる汎用性、そして洗濯や交換が可能な耐久性を掲げて開発されたモデルです。

ハウジング内部で音の反射や振動が起きにくいオープンバック構造により、輪郭や定位、残響をより正確に確認できる点が評価された一方で、開放型ゆえに残った課題もあったといいます。

HD 480 PRO(左)とHD 490 PRO(右)

祷悠己さん:HD 490 PROはユーザーのニーズにこたえることができましたが、開放型のヘッドホンでは対応できないケースも残りました。夜遅くに作業したい、家族や近隣への配慮が必要、音響の良くない部屋で作業している、といった声がユーザー調査で多く挙がってきたんです

ゼンハイザージャパンの祷悠己さん

実際に公開されたユーザー調査では、ヘッドホンの用途として「音楽のミキシング」が87%、「音楽の録音」が80%を占める一方、使用理由としては「夜遅くに作業するため」が58%、「家族・友人・近隣への配慮が必要なため」が40%にのぼっていました。密閉型でなければ対応できないこれらのニーズにこたえる形で開発されたのが、今回の主役であるHD 480 PROです。

密閉型のヘッドホンは音を遮断できる一方で、ハウジング内側での反射や振動が音の濁りや低域の膨らみ、細かな音の埋没といった問題を引き起こしやすいという構造的な課題を抱えています。HD 480 PROではこの課題に対し、「Vibration Attenuation System(振動減衰システム)」と「複数段階のパッシブ遮音構造」という2つのコア機能で対応しています。超軽量ボイスコイルと最先端のネオジム磁石でドライバーの動きを正確にコントロールしつつ、振動が伝わりにくい接合部設計やイヤーカップ自体が鳴らない構造によって、内部の反射音をしっかり処理する狙いです。

HD 490 PROと共通する快適性や耐久性への配慮も引き継がれています。272gという超軽量設計、どんな頭の形にもフィットする特許取得済みのヘッドバンド、眼鏡使用者向けの溝付きイヤーパッド、点字ガイド付きイヤーカップなど、細部にわたる作り込みが特徴です。ドイツで設計され、ルーマニアの工場で手作業により組み上げられる堅牢な構造で、イヤーパッドは洗濯機での洗浄にも対応しているとのことでした。

スタジオツアーと聴き比べ — どこで聴いても同じ音を体感する

セミナーのあとは、来場者が2グループに分かれてスタジオツアーへと移りました。当日は20人近い来場者が集まり、スタジオ業務に携わる方やヘッドホン愛好家など、幅広い層が参加していたのが印象的でした。ツアーではre:voix studio内の2つのコントロールルームを両グループが順番に巡り、それぞれの部屋でソノロジックデザインの制作用スピーカーとHD 480 PROの聴き比べを行うという構成です。

案内を務めたスタッフからは、まずスタジオのシステム構成についての説明がありました。モニターコントローラーにはVMC 105を使用し、Danteで各機器を接続。Reaperを収録ソフトとして使い、RMEとMATRIXという2系統のオーディオインターフェースを用途に応じて切り替えられるようにしているとのことです。スピーカーはAoIPで接続され、マイクプリアンプにはSSLのPure Driveや同社の9000シリーズチャンネルストリップ、RND(Rupert Neve Designs)のNewtonチャンネル、Avalonなどを揃え、楽器収録と音声収録の両方で用途に応じて使い分けているという説明もありました。

試聴の中心となったのは、MT 48とHD 480 PROの組み合わせによる聴き比べです。各MT 48には2系統のヘッドホンアウトが備わっており、1台で2人が同時に試聴できる仕様になっています。まずヘッドホンでストリングスカルテットの収録音源を聴いたあと、同じ音源をスピーカーで再生し、両者の音量レベルを揃えたうえで聴き比べる、という手順が取られていました。

スタッフ同士で「MT 48側をマイナス2dBに合わせるとスピーカー側と同じ数値になる」といったやり取りが交わされる場面もあり、単なる感覚的な比較ではなく、しっかりとレベルを揃えたうえでの厳密な聴き比べになっていたのが印象的でした。ストリングスカルテットに続いては、ソノロジックデザインが実際にミックスを手掛けたゲームトレーラーの音源も題材として使われ、スピーカーとヘッドホンの双方で確認する流れとなっていました。

2つのコントロールルームを行き来しながら同じ体験を繰り返す構成には、「どの部屋で聴いても同じ音が再現できる」という、この日のセミナーで語られていたテーマそのものを、来場者が身をもって確認できるようにするというイベント全体を通じた狙いが感じられました。

おわりに

今回のイベントは、単なる新製品の試聴会にとどまらず、ゲームオーディオ制作という特殊な現場が抱える課題と、それに対する機材選定の実例を、当事者である牛島さんの言葉で聞くことのできる貴重な機会でした。「実装と実機確認の反復こそが制作の本体」というゲームサウンド制作特有の事情から、「スタジオとデスクの間に段差をなくす」という結論に至るまでの筋道は、ゲーム開発に限らず、複数人で音を扱うあらゆる制作現場に通じる示唆を含んでいたように感じます。

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ソノロジックデザイン

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この記事を書いた人

DTM、デジタルレコーディング、デジタルオーディオを中心に執筆するライター。インプレスのAV WatchでもDigital Audio Laboratoryを2001年より連載。「Cubase徹底操作ガイド」(リットーミュージック)、「ボーカロイド技術論」(ヤマハミュージックメディア)などの著書も多数ある。趣味は太陽光発電、2004年より自宅の電気を太陽光発電で賄うほか、現在3つの発電所を運用する発電所長でもある。

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