けいおん!の平沢憂役、WHITE ALBUM2の小木曽雪菜役の声優、米澤円さんが語る、VOCALOID/VOICROIDの『紲星あかり』誕生の裏舞台

2017年12月に音声合成でしゃべるソフトのVOICEROID版が誕生し、今年5月には歌声合成で歌うソフトのVOCALOID版が誕生した「紲星(きずな)あかり」。その詳細は「ボカロユーザー集団、VOCALOMAKETSが生み出した、VOCALOID&VOICEROID、紲星あかり。中の人もいよいよ発表に!」や「結月ゆかりに続く、VOCALOMAKETSプロデュースの第2弾キャラクタ、紲星あかり誕生!」という記事でも紹介してきました。

この紲星あかりの声を担当しているのが、声優の米澤円(よねざわまどか)さん。アニメ「けいおん!」の平沢憂役や、「WHITE ALBUM2」の小木曽雪菜役、また「RDG レッドデータガール」宗田真響役……などで知られる方。その米澤さんに先日インタビューすることができ、VOCALOIDやVOICEROIDの制作に関するさまざまな話を伺うことができたので、紹介してみましょう。


「紲星あかり」の声を担当した声優の米澤円さん

--ボーカルが非常にうまいことでも知られる米澤さんですが、米澤さん自身は楽器経験や音楽を習ってきた…というのはあるのですか?
米澤:私の母がピアノの先生であったのと同時に、母の趣味でさまざまな楽器を収集していたので、ウチには音楽部屋というのがあったんです。ピアノやエレクトーンがあったのはもちろんですが、ギター、ベース、ドラム、コンガやボンゴ、木琴、鉄琴、カウベル……本当にいろいろな楽器があったので、私も子供ながら興味は持っていました。
--そんな音楽に溢れた環境で育ったんですね!
米澤:母に習ったわけではなく、小学校に入る前からヤマハの教室に通ってピアノを習ったのですが、家で練習するというのがなかなかできなくて、長続きしませんでした。ほかの楽器も面白そうで触ったりはしたものの、結局、うまくなるまでの道のりが長くてどれもダメ(苦笑)。でも、歌だけは好きだったんですよ。

--ピアノの代わり?に歌を習ったわけですか?
米澤:子供のころはとくに習っていたわけではありません。あまり記憶はないのですが、先日、母に聞いたら、小さいころから歌が大好きで、母のピアノの伴奏に合わせていろいろ歌っていたみたいです(笑)。実際に、歌を意識するようになったのは専門学校に入ってからですね。歌も歌える声優になりたいと、学校とは別に歌のレッスンを受けるようになりました。でも、そうやって歌をやっていたからこそ、けいおん!やWHITE ALBUM 2などに関われたんだろうな、と思ってます。


VOCALOID 4 紲星あかりのインストーラー画面

--ところで、米澤さんがVOCALOIDの存在を知ったのっていつ頃でしたか?
米澤:新しいモノに敏感な友人が周りに多かったこともあり、結構早いタイミングで初音ミクは知っていたし、ボカロにしか歌えない超早口な歌や、すごい高低差がある歌には興味を持っていました。一緒に「Prism」というユニットを組んでいた伊東久美子さんとは、一緒にカラオケに行くことも多かったのですが、彼女がボカロ曲をよく歌ので、自然と知るようになり、鏡音リン・レンの「下克上」をライブで歌ったりもしましたよ。このボカロのおかげで、従来だったらあり得ないような曲がどんどん登場してきました。そしてDTMによって以前なら作曲家じゃないとできないようなことが誰でもできるようになって、ヒット曲が生まれちゃう。「何だこれ?」という不思議な曲もいろいろあり、思い付きで、気軽にさまざまな曲が作れる、とっても面白い世界になったな、と思っていました。

--米澤さんご自身、そのVOCALOIDの声を担当しているのが声優さんであることを、その当時からご存じでしたか?また、いつかは自分も…なんて思いを持っていたのでしょうか?
米澤:もちろん、狭い声優の世界ですからね、初期のころから初音ミクを藤田咲さんが担当していたり、鏡音リン・レンを下田麻美さんが担当しているという話は聞いていました。けれど、特定の事務所の話であって、ウチの事務所には関係ないんだろうな……と思っていました。ところがMegpoidで中島愛さんや、がくっぽいどでGACKTさんが……という話を知って「ボカロって、初音ミクと鏡音リン・レンだけじゃないんだ、まだまだ広がる可能性があるんだ!」ということが分かり、いつかは自分もできたらいいな……といった思いを持つようになりました。


かなり以前からVOCALOIDについては知っていたと話す米澤さん

--でも声優さんにとって、歌うVOCALOID、さらにはしゃべってしまうVOICEROIDは、仕事を奪われる敵のようにも思いますが、その辺、心配はありませんでしたか?
米澤:仕事を取られてしまうから心配、というのは全然なかったですね(笑)。まったく別のモノであるという認識でしたよ。実際、私のやっている「紲星あかり」はひとつのキャラクタ。だからあかりが歌ったらあかりの曲ですから、アニメやゲーム作品などと近い感覚ですね。そのため仕事を奪われるというより、逆に仕事を広げてくれるんじゃないかなと思っています。そうした中、たまたまVOCALOMAKETSのアカサコフさんと接点があったことから、オーディションのお誘いをいただき、参加したんです。


VOICEROID2 紲星あかりのパッケージ

--オーディションはどのようなことをしたのですか?
米澤:もともと「自分の好きな曲を1曲歌ってもらので、練習してきてください」とだけ言われていて、ほかにどんなことをするのかもまったく知らず、ちょっとドキドキしながら参加したんです。スタジオに入ると、男の方が4人座っていて、そばにマイクスタンドと譜面台がある、ちょっと不思議な空間。アカサコフさんがいらしたので、そこまで緊張はしなかったですが、これから何をするんだろう…と。そうしたらニュース原稿をナレーションとして読んだりしたのです。一番ワケが分からなかったのが「トーンカツー」みたいな言葉を一定の音程で歌わされたことでした。その際に「もうちょっとカワイめな声で」とか指示を出されるんですが、いったい何をしてるんだ??と。後から聞いたんですが、この文字と文字の間からVOCALOIDに使う母音とか子音を抜き出しているそうなんですよね。最初、VOCALOIDって「あ」、「い」、「う」…「か」、「き」、「く」……って録っていくものとばかり想像していたので、ビックリでした。結局その日のオーディションは30分程度だったように思います。イマイチ状況がつかめなかったこともあり、「やり切った!」とか「頑張った!」という充実感があったわけでもないんですが、やれることはやったので、あとはなるようになる、と(笑)。


オーディオションはかなり不思議な感じだった…!?

--その後、結果が出るまでどのくらい時間がかかったんですか?
米澤:このオーディション自体は2016年11月でしたが、3か月後くらいに事務所を通じて連絡を受けました。もともと、「トーンカツー」とかから、オーディオションした10人くらいの人のVOCALOIDの簡易版を作成してから判断すると聞いていたので、時間はかかるとは思っていました。だから「結果を早く!」という思いより「お疲れさまです!」という思いでしたよ。合格だと聞かされて、すごく嬉しかった、メッチャ嬉しかったんですが、あんまり実感もわかないんですよね。ちょっと不思議な感覚でもありました。

--でも、きっとそこから先の収録も大変だったんじゃないですか?
米澤:そうですね、いろいろとありました。最初に、まずは仮VOCALOIDを録ります、ということで1日かけて収録を行ったんです。この時点では、「紲星あかり」という名前はもちろん決まってないし、どんなキャラクタかも決まっておらず、私の声をもとにどんなキャラクターを作っていくかを考えるんだ、ということでした。いくつかのパターンを収録したうえで、一番よさそうなものを決める、というお話でした。

--それからどうなったのですか?
米澤:しばらくたってから、私の声を収録して作ったVOCALOIDで歌わせた「赤とんぼ」を聴きました。歌ったことがないのに、歌ったことになっている。これはちょっと感動しました。その歌の中で「あ、ここは私の成分だ!」って分かるところが多々あるんですよ。私もVOCALOIDが何であるかを知っていたはずなのに、再認識した感じでした。ホントに凄いなぁ…って。でも、VOCALOIDの制作においては、そこがようやくスタート地点だったんですよね。そこからVOCALOMAKETSのみなさんとともに、いろいろ議論しつつ、ちょっとふわふわっとした、透明感のあるような歌声にしようということになっていったんです。「もう少し細くしてください」とか「もう少しダーク目で」……なんて具合で5バージョンの収録を行いました。といっても、これも仮VOCALOID用なんですけどね……。


VOCALOIDの声の収録はかなり時間のかかる仕事だったとのこと

--なかなかスパンの長い、根気のいるお仕事ですね……。VOCALOIDの一方で、VOICEROIDのほうも収録があるんですよね。
米澤:はい、ちょっとそこから期間が開いて、8月にVOICEROIDの収録を2日かけて渋谷のスタジオで行いました。これが、また不思議な収録なんですよ。まさに支離滅裂な怪文書、笑っちゃうような変な内容をニュース原稿的に読まされるんです。変な文章で笑っちゃいそうになるんですが、それを淡々と。不思議な体験で面白かったですね。この際、事前に作った仮VOCALOIDの歌声を聴かされて、そのキャラクターの声でしゃべるように、という指示がありました。とても楽しかったですよ。その後にVOCALOIDの収録が9月、10月にあったのですが、こちらはとにかく大変でした。「トーンカツー」どころじゃない。ほんとにさまざまな単語を歌い続ける作業で、私の喉が持つかなぁ…って。でも、慎重にやらないと目的のキャラクタから音がブレたりするので、結構神経を使いましたね。リテイクも1ワードごとにあるくらいで、いいものを作るために何回も録り直すんですよ。体力の分配にも気を使いました。でも、VOCALOIDの中の人になるというのは、とにかく自分としてやりたかったこと。この作業が終わったら私のボカロができるんだ!というのを励みに頑張りました。


VOICEROIDの画面。文字を入力すれば、すぐにしゃべってくれる

--このVOCALOIDの本番収録の時点では、キャラクターも定まっていたんですか?
米澤:名前は決まってないけれど、絵のラフまではできていた段階でした。確か、そのレコーディングの初日にラフが届いたんです。この絵があるかどうかで全然違うんですよ。形がないと方向が定まらないので、いかにブレないようにするか気をつけなくちゃならない。ここは難しかったですね。ここまで自分の声に合わせてキャラクタを作っていく形でしたが、普通の声優の仕事であれば、私がキャラクタに寄り添っていくので、アプローチがまったく逆。そうした中、ラフとはいえ、キャラクタを見たら、自分としても違和感なく、いい感じに落ち着いていった感じです。さらにこのVOCALOIDの収録が終わったら、もう一つあるよ、って知らされてはいました。

--exVOICEの収録ですね!
米澤:はい、これは2回録ったんですが、1回目は音声素材集「紲星あかり exVOICE」用に収録したものでした。この時点では、紲星あかりの発表前でしたが、私のTwitterでも「今日の収録楽しすぎた」って書いちゃったほどメチャ楽しかったです。同じセリフでも、雰囲気を変えながら、いろんなパターンを録ったし、中にはキャラクタからブレちゃってるんじゃないの?なんていうのまでいっぱい。だから、この中で使える好きなものを利用してください、という意味だったんですが、明らかなNG以外全部採用になっちゃった(笑)。トータル1,000以上あるんですよ!ちなみに、この日にVOCALOID用のグロール音も収録しました。私、ゾンビみたいな声は得意なので、すごく楽しくやりましたね!VOCALOID用のexVOICEは、VOICEROIDが発売になった後、2月に収録をしています。

--こうしてようやく2017年12月にVOICEROID版の「紲星あかり」が発売され、2018年4月にはVOCALOID版の「紲星あかり」が発売されました。実際に、出来上がったものを見て、聴いていかがでしたか?
米澤:収録した意味不明な言葉の羅列が、どうやったら、こんな風に組みあがったんだろう…、このシステムを作った人、スゴいなぁ…って。人によって、作る作品の雰囲気がまったく違うのも面白いところです。めちゃめちゃノリのいい曲からバラードまであって……。分かっていたつもりではあるのですが、実際自分の声がVOCALOIDになるのって、不思議な感覚です。私自身は早口で歌う曲はちょっと苦手だし、そんな歌詞は覚えられない。無理にやってもワチャワチャしちゃうし、キレイに歌えない。でもそれが紲星あかりなら早口も得意だから、彼女に任せられるというのも嬉しいですね!

--そのVOCALOID版が発売された1か月後の6月3日、ようやく中の人、お披露目となりました。このときはニコニコ生放送内での発表だったんですよね。
米澤:ずっと、ずっと言いたくて仕方なかったんですが、やっとみなさんに発表することができて、嬉しかったです。これでようやく正式に自分の声がVOCALOIDになったんだな、って実感しました。

--すぐに多くの作品も上がってきてましたよね。
米澤:この紲星あかりは、もともと公式としても性格を設定してないんですよね。「いろんなあかりちゃんを作って、発表してください」というスタンス。だからこそ、ユーザーがいろいろと創作してくれる。見てみると元気なあかりちゃんだったり、ちょっとドジだったり、なんかギャグっぽかったり……(笑)。そのどれもが面白く、楽しく、私もYouTubeなどで作品を見てますし、周りからも「こんな作品あったよ……」と教えてもらって見てみたり……。自分でもしょっちゅう「紲星あかり」で検索して、新曲が上がってないかなどチェックしているんですよ。どんどん増えてきているから、全部追い切れているかどうか分からないけど、楽しいですね。

--米澤さん自身で、VOICEROIDやVOCALOIDを使ったりしてますか?
米澤:私は、あんまりパソコン、得意じゃなくて、自分で使ってはいないのですが、ここでVOICEROIDにしゃべらせてみたら、すごく簡単で楽しいですね。ぜひ、自分でも少し使ってみたいと思います。


実はあまり紲星あかりを使ったことがなかったという米澤さんも、簡単に使えることが分かってビックリ

--一方で、9月には紲星あかりの中の人として、初ライブも行われたましたが、いかがでしたか?

米澤:2日間行われた「ゆかりあかりフェス!奏2018」の初日、紲星あかりバンドで出演し、あかり曲をいろいろ歌わせていただきました。すごく楽しかったですね。いま個人のライブ活動はあまり行っていない中、やはりこうしたライブができるのは嬉しいですし、いろいろ登場してくる素敵な曲にも挑戦していきたいです。動画を見ていても、ゆかりとあかりが二人で絡んでいる曲も多いので、ぜひ次回はゆかりさんとのデュエットもしたいですね。


紲星あかりは最新のVOCALOID5上でも問題なく使うことができる

--最後にDTMステーション読者へのメッセージをお願いします。
米澤:VOCALOID、VOICEROIDの2つで登場した「紲星あかり」は、本当に自由度の高いキャラクタだと思うので、いろいろな作品作りに活用できると思います。もし、「次はこんな作品を作りたいな」というアイディアがあれば、きっと、あかりがそのお手伝いをできると思うので、ぜひ使っていただけると嬉しいです。もちろん、聴くのが専門という方も、あかりを通じて、いろいろと交流ができたら楽しいな、と思ってます。これからも紲星あかり、結月ゆかり、ともども、どうぞよろしくお願いします。


--ありがとうございました。

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【関連情報】
VOCALOID4 紲星あかり製品情報
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VOCALOMAKETSサイト
VOCALOMAKETS公式ブログ

紲星あかりスペシャル・公式生放送【結月ゆかり・紲星あかり】

Commentsこの記事についたコメント

3件のコメント
  • LZd

    こんばんは。
    かつてV3の結月ゆかりを使っており、しばらくボカロから離れていましたが、今回、この記事を見て妹分が出ていることを知り興味を持ちました。
    でも、調べてみると、V3の時とは異なりTinyEditorは付属しておらず、V4Editorの販売は終了している模様。
    そうなれば、V4の紲星あかりを使いたいと思っても、ソフト代金に加えて、23,000又は43,200円もするV5Editorの購入が必須となるものなのでしょうか。

    V3ではTinyEditorを使っていたので、アップグレードの対象にもならない自分のようなユーザーにはあまりにも敷居が高いように感じてしまうのですが、最近のボカロソフトは、一般ユーザーには手の届かない代物なんでしょうか…(こちらで話すことでないのかもしれませんが、記事を読んでボカロ復帰したいと思った矢先に気持ちが折れてしまいました)

    2018年11月29日 8:26 PM
    • 藤本 健

      LZdさん

      そうなんですよね。紲星あかりの場合はV4なので、クリプトンのPiapro Studioを使うという手はあります。
      初音ミクなどの製品に付属しているので、V5Editorを買うより安いですね。

      2018年11月29日 11:06 PM
  • LZd

    ありがとうございます。ピアプロ、クリプトン以外のライブラリでも動作するんですね!
    各社から新旧魅力的なライブラリが多く販売されている中で、リーズナブルな旧版Editorの販売を停止させたメーカーの業は深いです…。

    2018年11月30日 7:00 AM

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