Cubase 10とNuendo 10がARA 2対応で、揃ってアップデート。Melodyneとの融合は何をもたらすのか

6月26日、SteinbergCubase 10のアップデート版となるCubase 10.0.30Nuendo 10のアップデート版であるNuendo 10.1を、それぞれリリースしました。マイナーバージョンアップなので、Cubase 10/Nuendo 10ユーザーは、もちろん無償でのダウンロード、インストールが可能です。

今回のアップデートのポイントはARA 2への対応。ARA 2とはMelodyneVocAlignReVoice ProAuto-Tune ProなどをDAWの一機能として取り込んでしまうという仕組み。VSTなどとも近いプラグインの仕組みの一つではありますが、VSTやAU、AAXなどよりも、もっと有機的にDAWと連携できるようにするもので、ユーザーからはDAWの一機能に見えてしまうというもの。これがCubaseやNuendoに搭載されるとどんな意味を持つのか、見てみることにしましょう。

Cubase 10がARA 2に対応。MelodyneをCubaseの機能として融合できるようになった

ARA 2といわれても、ピンと来ない方も少なくないと思います。ARA 2とは、Audio Random Access 2の略で、DAWを機能拡張する規格の一つ。ある種のプラグインともいえるのですが、VST EffectsやVST Instrumentsとは少し考え方や使い方が異なるものとなっています。以前からあったARAをさらに機能拡張した新バージョンであることからARA 2呼ばれています。その詳細について、以前「ARA 2対応で何が変わるのか?Melodyneの開発者にインタビューしてみた」という記事で書いているので、興味のある方はぜひ参照してみてください。

この記事にもある通り、ARAまたARA 2に対して、すでにさまざまなDAWが対応しているので、Cubaseは後発ともいえます。ただ、実際のところCubaseにはあまり必要でなかったので、対応してこなかったのが実情かもしれません。というのも、先ほど挙げた

Melodyne
VocAlign
ReVoice Pro
Auto-Tune Pro

など

ARA 2対応のクライアントソフトは、いずれもボーカルやソロ演奏の楽器のピッチやタイムストレッチ、タイミングなどをエディットするためのソフト。Cubase Pro 10には、それに相当する優秀な機能であるVari Audio 3が搭載されているから、わざわざARA 2に対応してMelodyne機能を内包させる必要もなかったのだと思います。

Cubase Pro 10にはVari Audio 3機能があるので、必ずしもMelodyneなどが必要でなかったのも事実

メインボーカルとサブボーカルやコーラスのタイミングをキレイに揃えることを目的としたVocAlignに相当する機能は以前のCubaseにはありませんでしたが、Cubase Pro 10になったときにオーディオアライメントという機能を搭載したことで、これについてもCubase内で実現。ますます、ARA 2対応の必要性は薄れていたかもしれません。

とはいえ、Melodyneはボーカルエディットの業界標準的なシステムとなっていることから、Cubaseユーザーの中にもMelodyneを使いたいと思っていた方は少なくなかったでしょう。もちろんVSTプラグインとしてMelodyneを使うことは可能なので、その方法で利用していた方も多かったと思いますが、ARA 2対応であれば、より扱いやすくなり、Vari Audio 3のような感覚で使えますからね。

ユーザーの中には「Melodyneのエントリー版であるMelodyne 4 essentialなら持っている」という人も多いはず。このMelodyne 4 essentialは、何かの製品にバンドルされているケースも少なくないのですからね。Melodyne 4 essentialの場合、あくまでも単音の編集に限られますが、ボーカルエディット用としては十分使うことができます。これがCubaseと融合して使えるわけですから、試してみる価値は大きいと思います。

※2019.6.17追記

当初Cubase Artist 10でもARA 2が使える表記をしていましたが、これは誤りでCubase Pro 10およびNuendo 10のみが対応となります。

では、そのARA 2対応になったということは、どういうことなのか、見てみましょう。

Cubaseは10.0.30というバージョンになったが、基本的に、見た目も機能も従来どおり

これはCubase Pro 10の画面ですが、このUI自体は、これまでと何ら変わりはありません。唯一違うのはAudioメニューに「エクステンション」なる項目が追加されていること。これは、そもそもARA 2対応ソフトがインストールされている場合に出てくるもので、Melodyneなどが入っていないと現れないようです。

オーディオメニューを開くと、「エクステンション」という項目が追加された

オーディオクリップを選択した状態で、この「エクステンション」を選ぶと、サブメニューとして、ARA 2対応のソフトが表示されます。ここではMelodyne 4 EditorとRevoice Pro 4がインストールしてあったので、その2つが現れた形です。

「エクステンション」のサブメニューにARA 2対応のソフトが表示される

ここで、Melodyne 4を選ぶとCubaseの下ゾーンに、Melodyne 4が立ち上がってくるのです。これを見るとわかる通り、Melodyneが完全にCubaseの一機能となっているのが分かりますよね。ちなみに今回使ったMelodyneは最新の4.2.2というバージョン。これによってCuase 10においても、快適に動作するようです。

下ゾーンにMelodyneが、まるでCubaseの機能のように融合されて表示される

このように1度、Melodyne 4で編集すると、その後同じクリップを選ぶと、下ゾーンには波形エディタではなく、Melodyne 4が現れて、編集できるようになるのです。とっても扱いやすいですよ。

もちろん下ゾーンに表示されたエディターを独立したウィンドウで表示させることも可能

もっともMelodyne 4がいいのか、Vari Audio 3がいいのかは、人によって好みも分かれるところなので、ぜひうまく使い分けてください。

では、このARA 2、Melodyne以外はどうなんでしょうか? 以前「イギリスのボーカルエディットソフト、Revoice Proを使ってみた」という記事でも紹介したRevoice Pro 4を入れて試してみました。

「エクステンション」からRevoice Proを選んでみたが、下ゾーンの右上に小さな表示が現れるだけだった… 

結論からいうと、イマイチな感じでした。確かにARA 2対応にはなっているけれど、Revoice Pro 4自体がARA 2対応しているのではなく、DAWからRevoice Proへ橋渡しするためのRevoice Pro LinkなるものがARA 2対応しており、これがエディター部分に立ち上がってくるだけなのです。

「Show」ボタンを押すと、Revoice Pro が別ウィンドウで開く形だった

実際にはRevoice Pro Link内にあるShowボタンを押すと、別ウィンドウにRevoice Pro 4が立ち上がってくるという形。Melodyneのスマートさと比較すると、ちょっと扱いにくく、VSTプラグインで動かしてもあまり変わらないかな…という印象でした。

そしてもう一つ、AUTO-TUNE ProもARA対応ということなので、インストールしてみたのですが、これはエクステンションメニューに表示もされませんでした。原因がしっかり究明できているわけではないのですが、おそらくAUTO-TUNE Proは旧バージョンのARA対応であって、ARA 2に対応していないために、うまく使えなかったのかな…と。これについては、AUTO-TUNE側のアップデートを待つのが良さそうですね。もちろん、VSTプラグインとしてであればCubaseで使うことができますよ。

「選択したイベントからエクステンションを解除」を選べば関連付けが解除され、普通にサンプルエディタが開くようになる

以上、Cubase 10.0.30およびNuendo 10.1でのARA 2対応について見てみましたが、いかがだったでしょうか?Cubase 10ユーザーであれば、誰でも無償でアップデートできるので、ARA 2対応のソフトをお持ちであれば、ぜひすぐにでも試してみてはいかがですか?

※2019.6.26追記

Cubase Elements10およびCubase AI 10の最新版10.0.30で試してみたところ、Audioメニューに「エクステンション」は現れなかったので、Cubase LE 10を含めた下位3ラインナップはARA 2対応とはなっていないようです。

Cubase Elements 10はARA 2非対応だった

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Commentsこの記事についたコメント

3件のコメント
  • SonchoMusicStudio

    いつもお世話になっています SonchoMusicStudioの中窪です。
    待望の・・・Melodyne派の僕には・・・というネタで、早速CubasePro10自体は2ndDAWの僕ですが急遽実験動画を編集しました。
    その実験中、ポリフォニックも実験しましたが「音」自体はまずまずに拾っていますが、ノート表示がまるで「でたらめ」です。
    同じデータで実験の
    ★StudioOne結果
    https://www.dropbox.com/s/f3upen1gyrcqfoj/WWS001052.JPG?dl=0

    ★Cubase結果
    https://www.dropbox.com/s/tf047np553z7pgn/WWS001053.JPG?dl=0

    特に中央のあたりの和音がめちゃくちゃ省略されています

    これではVariAudio3もある現状ではさほど意味のないバージョンアップかもしれません
    StudioOneのようにトラックのイベントFXのインサートでMelodyneを仮にOFFにする機能も無いので
    Before&After比較もできません(ただしこれは各ソフト会社の規格なのでしょうがないが。。。)

    分析結果が少し違うのではなく「大きく違う」というのは問題ですね。

    僕などではなかなかSteinbergへの影響力もありませんので、藤本さんのほうから、つついていただくのはどうでしょうか?

    Cubase&Melodyne 今や業界の主力ソフトです。 一ソフト会社のバグかぁ・・・で納まらないほどの
    重要度。 もしかしたらモノフォニックでも分析に差異があるのかも・・・です
    その検証などは、藤本先生の得意なところだと思いますので・・・

    僕は DNA Direct Note Access™発売当初からMelodyneを使って、【ギターのチューニングが後から直せる!】で
    小さなスタジオながら、全国にプロのミュージシャンのファンが出来て活動しております。
    Melodyneには思い入れがありww 試してみましたが、これではSteinbergも問題ありと思います。

    2019年6月27日 5:02 AM
    • 藤本 健

      中窪さん

      情報ありがとうございます。
      とりあえず、Steinbergに報告をしておきますね。

      2019年6月27日 6:30 PM
  • 中窪啓修 SonchoMusicStudio

    よろしくお願いしますが・・・もっと初歩的なバグも発見しました
    ★切ったり貼ったりしても連動する・・・これが最低限のARA2のポイントのはずですが
    Cubaseの「のり=結合ツール」で結合すると、分析結果がなくなります。

    なんてところを見逃すんだよ!シロウトじゃあるまいし・・・ってバグですwww
    https://youtu.be/jV-q_mkAXcM

    2019年6月28日 2:36 AM

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