ベルギーのデベロッパDRUW AUDIOが、展開するブランドBEATSURFINGの各種プラグインが国内販売を開始しました。中でも大きな話題になっているのが独創的なマルチエフェクトプラグイン「CHEat code」です。今年3月に海外で発売されたこの製品は、カニエ・ウェストやローリン・ヒルなどの作品を手がけた経歴を持つプロデューサ、Che Pope(チェ・ポープ)が共同開発に加わっているという点も大きな特徴となっています。
その名の通り、まるでチートのように、直感的かつスピーディに思い通りのサウンドを生み出せる、というのがコンセプト。4つのスロットに16種類のエフェクトモジュールから好きなものを自由に立ち上げ、強力なマクロ機能でそれらを操ることで、複雑な音響変化を生み出すことができるのです。そんなCHEat codeは現在、通常価格22,000円(税込)のところ、セール価格の10,450円(税込)で販売されています。実際にCHEat codeを試してみたので、紹介していきましょう。
伝説的プロデューサChe Popeとの共同開発
CHEat codeが他の多くのプラグインと一線を画す大きな理由の一つが、その開発背景にあります。この製品は、カニエ・ウェスト、ローリン・ヒル、ドクター・ドレーといったアーティストの作品を手掛けてきたプロデューサ、Che Popeとのコラボレーションによって生まれているのです。トッププロデューサが制作において重視するのは、クオリティはもちろんのこと、アイデアを瞬時に形にするワークフローの速さ。CHEat codeは、まさにそのプロの要求に応える形で設計されているというわけです。
そんな思想を突き詰めた結果、CHEat codeは単なるマルチエフェクトの枠には収まらない、非常に強力なプラグインとして完成しました。CEO兼ヘッドデベロッパであるPascal(パスカル)が目指したのは、個別のプラグインとしても通用するほどパワフルで、ディテールに富んだ16種類のサウンドエンジンを、柔軟に組み合わせられる一種の「サウンドデザイン・システム」を構築すること。そのため、若干複雑さがありますが、その分あらゆるサウンドを作ることができるような設計になっています。
実際に動画でサウンドを確認していただきたいのですが、いかがでしょうか?単調なループサウンドでも、超個性的なサウンドに生まれ変わるのです。元の素材を活かしたサウンドにでも、まるで別物のグルーブを持ったサウンドにでも、1つのループから無限の表現を引き出す、そんな可能性を秘めています。
4スロットのモジュールラックと強力なマクロコントロール
CHEat codeの中核となるのは、4つのモジュールを自由に組み込めるエフェクトラック。後述する16種類の個性的なモジュールの中から最大4つを同時に立ち上げ、自分だけのオリジナルエフェクトチェーンを構築できるようになっています。
そして、このプラグインのパワーの秘密が、左側に配置された4つの大きなマクロコントロール。これらのマクロノブには、4つのスロットに立ち上げた各モジュールのパラメータを自由に割り当てることができるようになっています。
たとえば、Macro1のノブに、スロット1のフィルターのカットオフ、スロット2のディレイのフィードバック、スロット3のリバーブのサイズ、スロット4のモジュレーションの深さ…といった具合に、複数のパラメータを同時にアサイン可能。これにより、たった一つのノブを回すだけで、4つのエフェクトが有機的に絡み合いながら、複雑でダイナミックなサウンドの変化を生み出すことができるのです。DAWでのオートメーションも、このマクロノブに対して記録するので、曲の展開に合わせて大胆な音作りができるようになっています。
搭載されている全16種類のエフェクトモジュール
さて、CHEat codeの個性豊かな16種類のエフェクトモジュールについてもう少し具体的に紹介していきましょう。それぞれがユニークな機能を持ち、単体でも強力なサウンドメイクが可能。ここでは特に特徴的なものをいくつかピックアップしていきましょう。
Reverser
このモジュールは、入力されたオーディオを2つの仮想的なターンテーブル(デッキ)で再生し、それらをミックスするという、独創的なアイデアで作られています。XYパッドのX軸でデッキの再生速度を、Y軸でどちらのデッキを長く再生するかのカーブを調整する、という仕組み。片方のデッキを逆再生に設定すれば、滑らかな逆再生サウンドの中に元のサウンドがリズミカルに顔を出す、といった複雑な効果も直感的に作り出せるようになっています。
Spin
Spinも、単なるパンナーではないユニークなモジュール。入力されたサウンドを7つの周波数帯に分割し、それぞれを非同期に動かすことで、非常に自然で複雑なステレオイメージを生み出せます。XYパッドでは、LFOの周期(Spin LFO frequency)や揺れの大きさ(Spin overshoot)、さらには7つのバンドの動きの非同期性(Asynchronicity)や非対称性(Asymmetry)までコントロールできるので、モノラルの素材に適用するだけで、まるで生きているかのようなワイドなステレオサウンドに変化させることができるのです。
Fractal Delay
このディレイは、入力された信号がフラクタル図形のように自己増殖していく、という面白いコンセプトで作られています。最初の信号から2つのディレイが生まれ、次に4つ、さらに8つと、信号が4段階にわたって増殖し、合計30ものディレイ音が複雑なリズムパターンを形成するのです。XYパッドでディレイの増殖率(Fractal delay ratio)とフィードバックを調整すれば、シンプルなフレーズがリズミカルで複雑なグルーヴへと変貌していきます。
Reverb
リバーブも非常に強力で、キャラクターの異なる8種類のリバーブエンジンを搭載しています。「Blur」セクションでは、リバーブ音の輪郭をぼかすDiffusionや、音の揺らぎを生むDrift、残響音の色合いを決めるColorといったパラメータを調整できます。これらを駆使することで、クリアなルームリバーブから、ローファイでざらついた質感のアンビエンスまで、幅広い空間表現が可能になっています。
ここまで特に特徴的な4つのモジュールを見てきましたが、CHEat codeにはこれらを含む、合計16種類のユニークなモジュールが搭載されています。それらも、以下にリストアップしてみました。
モジュール名 | 概要 |
Bubble Grain(バブルグレイン) | サウンドを「泡」のような粒子にしてしまうグラニュラーディレイ。独特の質感とキャラクタが面白いモジュール。 |
Chorus(コーラス) | サウンドに厚みと広がりを加えるコーラス。それぞれ質感の異なる8種類のアルゴリズムを搭載しています。 |
Detune(ディチューン) | アナログ機材のような、心地よい不完全さを加えます。わずかなピッチの揺らぎから、不安定なサウンドまで作り出せます。 |
Flanger(フランジャー) | サウンドのトーンを自在に操るフランジャ。高域を狙えばきらびやかに、中域を狙えば温かみのあるサウンドに変化します。 |
Fractal Delay(フラクタルディレイ) | ディレイ音が自己増殖していく、深くリズミカルなディレイ。4つのステージにわたって30ものディレイタップが配置されています。 |
Grain Delay(グレインディレイ) | 複雑な反響を生み出すグラニュラエコー。4つのエンジンとクロスフェード機能で、独特のテクスチャを作り出します。 |
LOFI(ローファイ) | 古典的なサンプルレートリダクション。デジタルならではのザラついた質感をサウンドに加えます。 |
Reverb(リバーブ) | 空間をデザインするリバーブ。かすかな空気感から、どこまでも広がるような壮大な残響まで対応します。 |
Reverser(リバーサー) | 時間を自由に操るリバーサ。瞬時のハーフタイム効果や、リズミカルな逆再生グリッチを生成します。 |
Sequence Delay(シーンスディレイ) | まるでシーケンサのように、ディレイタイムやフィルター、パンなどをステップごとにプログラムできるリズミカルなエコーです。 |
Shaper(シェイパー) | デジタルな歪みで、サウンドに独特の質感を加えます。倍音とは異なるアーティファクトを積極的にコントロールできます。 |
Shufflers(シャッフラー) | リアルタイムでビートを再構築する、3バンド構成のビートスライサ。オーディオをその場で切り刻み、並べ替えます。 |
Slicer(スライサー) | サウンドを正確に切り刻み、リズミカルなスタッター効果やゲート効果を生み出すモジュールです。 |
Spin(スピン) | ステレオ空間をアニメーションさせるパンナー。周波数帯ごとに、非同期で複雑なパンニングが可能です。 |
Tap Delay(タップディレイ) | まるで楽器のように、リズムをタップしてディレイパターンを直感的に作り出せる、音楽的なディレイです。 |
Viber(バイバー) | 周波数帯を分割してピッチを揺らすビブラート。高域だけ、あるいは低域だけを揺らすといった使い方が可能です。 |
直列と並列を自在に行き来する「Fluid Routing」
これら16種類のモジュールを、ただ並べるだけではないのがCHEat codeの面白いところ。さらにユニークな方法で組み合わせることを可能にするのが、次に紹介する「Fluid Routing」機能。画面下部にあるA、B、C、Dと書かれたルーティングノブで、モジュール間の接続をコントロールします。
直列接続は、入力された音が順番に処理されていくため、音そのものを大きく変化させるのに向いています。一方、並列接続は原音とエフェクト音が混ざり合うため、テクスチャや空間を加えるのに適しています。CHEat codeでは、各モジュール間の接続を、専用のノブを使ってシームレスに変化させることができるようになっています。
偶然性を味方につけるランダマイズ機能
これら16種類の個性的なモジュールを組み合わせ、さらに偶発性を取り入れることで、CHEat codeの機能はより深く活用できます。そのための機能が、強力なランダマイズ機能。
サウンドデザインに行き詰まったときや、予期せぬアイデアを求めているときに効果を発揮するのが、CHEat codeのランダマイズ機能なのです。インターフェイス上部にあるマスターランダマイズボタンは、現在ロードされているすべてのモジュールのパラメータを一度にランダム化します。面白いのは、この機能が完全に新しいモジュールを勝手にロードすることはないという点です。あくまでユーザーが選んだモジュールの組み合わせの中で、サウンドのバリエーションを探す手助けをしてくれます。
さらに、各モジュールごとにも個別のランダマイズボタンが用意されています。そして重要な点として、前述のマクロにアサインされたパラメータは、このランダマイズ機能の影響を受けません。これにより、サウンドの核となる部分を固定したまま、ほかの要素をランダムに変化させるという高度な使い方もできるのです。
即戦力となる豊富なプリセット
「多機能なのは分かったけれど、どこから手をつけていいか…」と感じたときに、非常に頼りになるのが、豊富に用意されたプリセット。左側のブラウザから、著名なアーティストやサウンドデザイナによって作成された、多数の即戦力プリセットを呼び出すことができるのです。プリセットをロードすることにより、複雑なモジュールの組み合わせやマクロの割り当てが瞬時に完了。その後、各モジュールのパラメータやマクロノブを微調整するだけで、元のサウンドを劇的に変化させることが可能です。
プリセットは、完成されたエフェクトとして使うだけでなく、プロがどのようにCHEat codeを使いこなしているのかを学ぶことができるので、まずはプリセットを試してみるといいと思いますよ。
以上、DRUW AUDIOのマルチエフェクトプラグイン、CHEat codeについて紹介しました。CHEat codeは、複雑なエフェクト処理を、まるでゲームのように楽しみながら、サウンドを構築できるようになっています。新しいアイデアやインスピレーションを求めているDTMer、ライブパフォーマンスでダイナミックな音響変化を取り入れたいと考えている方は、このプラグインが持つサウンドメイク能力を、ぜひ試してみてはいかがでしょうか?
【関連情報】
CHEat code製品情報
BEATSURFINGページ
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