あのDTMスクールが新校舎で極上のモニター環境を実現!マスタリングエンジニアが明かすサウンド空間の魅力

どのようにモニタースピーカーを設置するのがベストなのか?と試行錯誤したり、悩んだ経験を持つ人も少なくないと思います。ウェブで調べたりすると、ある程度基本的な設置方法があるけれど、それがホントに正しいのか、もっといい方法があるのでは……と迷う方も多いと思います。そうした中、「トップエンジニアが作るアコースティックス~音の達人 森崎雅人さんを迎えて~」と題した一般向けの特別セミナーが、DTMスクールのJBG音楽院で行われました。実は、JBG音楽院が先日、新校舎に移転した際、Artisans Masteringのマスタリングエンジニア森崎雅人さんが、教室のモニター環境をチューニングしたのがキッカケなのだとか。

モニター環境にはスピーカー選びだけでなく、スピーカーの位置や方向、部屋の鳴りや机の反響など、多くの要因があるため、細かいところに気を配っているかどうかで、出音に大きな違いが出てきます。マスタリングスタジオで、エンジニア席を中心にモニターするのとは異なり、音楽教室の空間全体にいい音を届けるようにするには、やはり特殊なテクニックも必要そうです。もちろん、そのノウハウは個人のDTM環境を構築する上でも有用なテクニックがいっぱい。今回のセミナーで披露されたセッティング方法が想像以上に面白く、役立つ内容満載だったので、その一部を紹介したいと思います。

JBG音楽院で「トップエンジニアが作るアコースティックス~音の達人 森崎雅人さんを迎えて~」と題した特別セミナーが行われた

これまで何度かDTMステーションに登場している、DTMスクールのJBG音楽院。「社会人が作曲やDTMを本気で学べる学校に体験入学(!?)してみた!」や「DTMスクールの楽曲発表会に第一線のプロデューサーが来るとどうなるのか?」、「プロのマル秘テクニックまで無料で伝授!? 音楽・DTMをいっぱい学べる初心者セミナーに潜入」といった記事で取り上げてきたDTMスクールですが、先日新校舎へと移転し設備も一新されました。

場所は、東京・表参道駅から徒歩5分ほどのビルの1階。その一室が、いい音でモニターできる環境にセッティングされました。といってもレコーディングスタジオを作ったというわけではなく、防音工事をした教室に、吸音材を壁に貼るとともに、正しくモニタースピーカーをセッティングするというもの。吸音材の貼り付けは、JBG音楽院の講師である荒木健先生が行ったそうですが、その後に調整を行ったのがArtisans Masteringのマスタリングエンジニア森崎雅人さんでした。

モニタースピーカーの位置を調整する森崎さん

きっかけは、荒木先生が森崎さんのスタジオに見学にいったところ、そのサウンドの良さに感激して、森崎さんのスタジオと同じモニタースピーカーを新教室に導入したのだとか。荒木先生が見よう見まねで森崎さんのスタジオをイメージしてセッティングしたところ、かなりいい音で、JBG音楽院の生徒さんたちも驚いたそうです。

早速森崎さんにチェックをお願いしたところ、「いい音で鳴ってますね!基本的にスピーカーの位置は合格です。ここから100倍アップしてみせますよ!」とその言葉通り、角度、位置、鳴り方の微妙な調整や吸音パネルの調整などで、あっという間に教室のスピーカーをスタジオのリスニング環境へ格上げしてしまったそうです。

スピーカーのセッティング位置はミリ単位で細かく設定。写真はIK MultimediaのiLoud Micro Monitor

森崎さん自身もこの環境を気に入ったそうで、「日本のこれからの音楽業界を担う生徒さんたちが集まるこの環境で貢献したい」と、教室でのモニター環境のセッティングに続き、セミナーも開いてくれることになったのだとか。実は私も昨年、森崎さんのスタジオに遊びに行ったことがありましたが、ものすごくいい音で感激したので、荒木先生の気持ちがすごく分かるような気がしました。

その森崎さんは、AIや玉置浩二、三浦大知、BIGBANG……といった数多くのアーティストのマスタリングを行ってきたエンジニア。音響ハウス、サイデラマスタリングを経て昨年から現在のArtisans Masteringに所属しています。この日は、新校舎でのセッティングについての解説だけでなく、森崎さん秘蔵の音源を持ち込み、マスタリング前とマスタリング後の聴き比べを行うなど、なかなか聞くことのできないような話もたくさんありました。

メインとなるモニタースピーカーはADAM AUDIO A7X

実際、数ミリ単位でスピーカーの向きや部屋の響きをコントロールする森崎さん。今回は教室のテーブルに着席していることを装置。スタジオのようなエンジニア席にフォーカスしたセッティングではなく部屋のどこに座ってもいい音で聴こえるように調整したとのことでした。設置されたモニタースピーカーは、Artisans Masteringにも設置してある「ADAM AUDIO A7X」と「iLoud Micro Monitor White Special Edition」の2つ。

PIONEERのCDプレイヤー、PD-M580

当日はCDプレイヤーPIONEER PD-M580のアウトが、オーディオミキサーPresonus Studiolive AR12 USBに繋がれ、それぞれのモニタースピーカーにアウトされているセッティング。 実際にリファレンスCDを流してみると、アコギのネックから指を離す音、ピアノのダンパーペダルが上がる音、フロアタムの波打つようなサスティン、ライドシンバルへのスティックの当たり方といった、細かな音がハッキリと感じられ、まるで目の前でミュージシャンが演奏しているかのようでした。

部屋の中で音の違いがあるか歩き周りながらチェック

荒木先生が司会進行を行い、森崎さんが明快に答えていくという形のセミナーでしたが、ここからはセミナーの中で特に面白かった内容をいくつかピックアップして紹介していこうと思います。

--音楽を作る人にとってのモニター環境
まず最初にみなさんにお伝えしておきたいのがモニタ一環境の整備の重要性についてです。みなさん高価なスピーカーをご用意されても、鳴らし方に気を遣わないのは、あぜ道のようなガタガタ道でF1レーサーを目指すのと同じです。レーサーになるにはサーキットを走らないと。全力で走って自分の腕前がどのレベルなのか、何がトップレーサーと違うのか分からない。モニター環境を整備するということは、サーキットを作ること。実力を確認する場所を作るということなんです。世界のトップクリエイターは、音楽業界のトップを走っているという意味でF1レーサーです。みなさんもF1レーサーを目指すなら、自分の運転テクニックをサーキットで磨くことが重要です。トップに躍り出るための自分の走りが通用するのかを知る必要があるからです。もちろん、モニター環境が音楽を良くしてくれるわけではありません。ただ、モニター環境を整備するということは、世界のトップレベルのミュージシャンと勝負をするということです。勝つか負けるか以前に、道路が整備されていなくては話になりませんよね。

モニター環境についてF1を比喩に語る森崎さん

--マスタリング作業の音量はどのくらい?
マスタリング作業するときには、音量を85dB前後に調整して聴いています。ちなみにこの教室も、真ん中で85dBの設定です。なぜかというと、マスタリング作業からマスター作成するまで、自分1人で作業するので、作業時間が長いんです。作業時間が長い上に、音量が大きいと耳が疲れやすくなってしまいます。大きなスピーカーだと、ある程度の音量を出さないと、スピーカーの性能を出し切れません。そのため100dB近くに上げて作業することになるのですが、そんな爆音で作業していたら、4、5時間で耳が疲れ切って終了してしまうんです。大切な音決めのときにフレッシュな耳で作業できなくなってしまうので、部屋のサイズにあったスピーカーを適正な音量で再生してあげることが大切です。 自宅では85dBの音量を出すのはなかなか難しいかもしれません。そういったときには、ここにあるiLoud Micro Monitorのようなスピーカーを使用するのがいいでしょう。

ケーブルには森崎さんがはんだ付けをしたKLOTZ MC5000を使用

--ケーブルによって音に違いは出るの?
今回JBG音楽院のルームBのケーブルは、Artisans Masteringでも使っている、KLOTZ MC5000というケーブルを使用しています。どちらのケーブルも私自身がはんだ付けを行い、カスタムメイドしたケーブルとなっているのですが、BELDENのよさとMOGAMIのよさが掛け合わさったような音になっているんです。まずは、BELDEN、CANARE、MOGAMIというプロ用のケーブルの定番を聴いてもらいたいです。ケーブルがよくないと、低音が聴きにくかったり、音のフォーカスが合わなくなってしまったりします。プロ用ケーブルはそれぞれがキャラクターが存在するので、ぜひ機会があればそれも聴いてほしいですね。

--作品を仕上げる「音楽の聴き方」とは?
音の聴き方で大切なのは、演奏の細かいところまで、いかに聴くか、聴こえるかです。一流のエンジニアが手がけた作品は、それぞれ音のキャラクターはあるものの、ちゃんとそれぞれの演奏が聴こえます。そこを極めていくことが大切で、決して周波数を整えることが正解ではないんです。細かいニュアンスが聴こえるモニタースピーカーであれば、値段の高いスピーカーである必要もないです。

少人数制だったので、活発な質疑応答を交えながらセミナーは進行

--普段音楽を聴くときはCD?それとも圧縮フォーマット?
MP3について良し悪しをいう人がいますが、いい悪いではなく、これが一番たくさんの人が聴くフォーマットであることが事実です。つまり、MP3で一番いい音で鳴らせるか、人の気持ちを動かすことができるかが、大切だと思っています。今の時代だと、スマホからイヤホンで聴く音やYouTube上、サブスクリプションサービス上でどれだけカッコよく聴かせられるかが、重要です。とはいえ、マスタリングエンジニアの仕事はいかにしていい音のCDを完成させるかです。その点も踏まえてトータルで音作りをしていく必要があるのです。

マスタリング前、森崎さんによるマスタリング後の音源比較試聴は圧巻だった

以上、いくつかの話題をピックアップしてみましたが、いかがだったでしょうか? どう捉えるかは、それぞれだと思いますが、実際に第一線で活躍されているプロのエンジニアの話はやはり貴重なものです。ここで紹介したのは、ほんの一部の内容ではありますが、2時間にもおよぶセミナーはかなり濃いものでした。また機会があれば、ほかにもいろいろなテーマで話を聞いてみたいところです。ちなみに森崎さんの話の中で、MP3についての言及もありましたが、「JBG音楽院では、プロフェッショナルを目指す生徒さんたちにCDで音楽を聴くことを推奨しています。最高音質で聴く耳を鍛えることが大事です」と荒木先生は話していたのとともに、森崎さんもその点については念を押していました。

なお、JBG音楽院に行くと、森崎さんがセッティングした教室で音をチェックできるのはもちろんのこと、ここは、まさにプロ目線のアドバイスをもらえる場所。入学説明会で、このモニター環境のある教室の見学もできるそうなので、興味のある方は一度情報をチェックしてみてはいかがでしょうか?
【関連情報】
JBG音楽院サイト
JBG音楽院の入学説明会

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