ループバック、ルーティング自由自在。高品位なマイクプリが自慢のESIオーディオインターフェイス、U22 XT、U86 XT、U108 PREが再上陸

ドイツのメーカー、ESIのオーディオインターフェイス3機種が先日揃って国内で再発売されました。再販売というのは、もともと販売されていたのですが、ESIの代理店が昨年エレクトロ・ハーモニックスからディリゲントに変更になった関係で、一度国内からなくなっていたものが、価格も安く改定されるとともに、新たに流通されるようになったというものです。

今回新たに発売されたのは2in/2outのU22 XT、8in/6outのU86 XT、10in/8outのU108 PREの3機種。いずれも高品位なマイクプリアンプを内蔵しているのがウリのオーディオインターフェイスで、メタリックオレンジのアルミボディーは見た目にもグッとくるデザイン。実はループバックを含めたルーティングが自由自在なのが、他社のオーディオインターフェイスにはない大きな特徴で、DTMデジタルレコーディング用途にはもちろんですが、ネット配信ゲーム実況オンライン会議……といった用途で大きな威力を発揮してくれます。実際試してみたので、紹介してみましょう。

日本再上陸となったESIのオーディオインターフェイス、上からU22 XT、U86 XT、U108 PRE

ESIについては、昨年秋に「独ESIが再上陸!とっても小さなオーディオインターフェイス、4種類が便利!」という記事でも書いていいるので、ここでは割愛しますが、歴史ある会社であり、世界的にも定評があるメーカーです。とくにドライバの技術力が優れており、非常に自由度高く、マニアックな使い方までできるのが特徴。実はその点が、昨今の外出できない環境において、大きな意味を持ってくるのです。どういうことなのか、順番に説明していきましょう。

今回のオレンジのオーディオインターフェイス、3機種はいずれもマイク接続してボーカルやアコースティック楽器などをレコーディングしていくことを主眼にした製品であり、マイクプリの良さが際立っています。そのため、ネット番組であるDTMステーションPlus!において、クラリネット奏者の若林愛(わかばやしめぐみ)さんをゲストに、クラリネットの音を、これらでレコーディングし、そのレコーディングしたサウンドを公開する実演放送を6月2日に行う予定ですので、ぜひ、そちらも合わせてチェックしていただければと思います。緊急事態宣言で放送が延期になっていますが、近々DTMステーションPlus!の番組で放送する予定です

マイク1本でOKであれば、マイクプリ1つを搭載したU22 XTでもOK。マイク2本が必要ならば、マイクプリ2基搭載のU86 XTが必要となります。さらに、ドラムなどの収録のため、より多くのマイクが……というのなら、マイクプリ10基搭載のU108 PREという選択になってくるのですが、スペックで比較すると以下のような違いがあります。

U22 XT U86 XT U108 PRE
最高サンプリングレート 96kHz 96kHz 96kHz
最大ビット震度 24bit 24bit 24bit
ADコンバーター 102dBA @48kHz
SNR = 102dBA @48kHz
107dB(@ -60dBFS A-Weighted)
20Hz to 20kHz、 +/- 0.02dB frequency response
107dB(@ -60dBFS A-Weighted)
20Hz to 20kHz、 +/- 0.02dB frequency response
DAコンバーター 108dBA@48kHz, SNR = 108dBA@48kHz 112dB(@ -60dBFS A-Weighted)
20Hz to 20kHz、+/- 0.02dB frequency response
112dB(@ -60dBFS A-Weighted)
20Hz to 20kHz、+/- 0.02dB frequency response
入力端子 1 x XLR(マイク用・48Vファンタム電源サポート)
1 x TSアンバランス(ギター・ハイインピーダンス用)
2 x RCAアンバランス(L/Rステレオ・ライン用)
2 x XLR/TRSコンボ(マイク用・48Vファンタム電源サポート/ギター・ハイインピーダンス用)
8 x TRSバランス(ライン用)
MIDI
2 x XLR/TRSコンボ(マイク用・48Vファンタム電源サポート/ギター・ハイインピーダンス用)
8 x XLRバランス(マイク用・48Vファンタム電源サポート)
出力端子 1 x ヘッドホン(ステレオ標準フォン端子)
2 x TRSバランス(L/Rステレオ)
6 x TRSバランス(ライン用)
2 x TRSバランス(ステレオL/R)
1 x ヘッドホン
S/PDIF(コアキシャル)
MIDI
8 x TRSバランス(ライン用)
2 x TRSバランス(ステレオL/R)
1 x ヘッドホン
付属DAW Bitwig Studio 8-Track Bitwig Studio 8-Track Bitwig Studio 8-Track

やや分かりにくい表だったかもしれませんが、マイクプリの性能という面ではU22 XTより、U86 XTやU108 PREのほうが上ということですね。また単純に上位から順番に高性能・高機能というわけではないのも面白いところ。U86 XTはU108 PREにはない、S/PDIFのデジタル入出力を装備していたり、MIDI入出力を持っていたり……と機能面では勝っているので、用途に応じて選ぶ必要がありそうです。

8in/6outのU86 XT

さて、その中で、今回メインとしてピックアップしたいのは実売価格が16,000円(税抜)と安価なU22 XT。前述の通り、マイクプリ性能はU86 XTやU108 PREと比較すると劣るものの、それでも十分いい音でレコーディング可能な機材です。もちろんゲーム実況やオンライン会議、ネット配信用途であれば、オーバースペックといってもいいほど、高品位な音質ですよ。

今回の記事でメインに扱う2in/2outのU22 XT

フロントパネルを見ると、左側にあるのがマイク入力用のコンボジャックで、コンデンサマイクでもダイナミックマイクでも接続可能。コンデンサマイクの場合は+48Vのファンタム電源スイッチをオンにして電源供給して使う形になります。また真ん中にあるのがギター入力用のTSアンバランスのHi-Z対応端子。

とてもうまくできているのはマイクのみ接続している場合は中央上のスイッチをMICにすることで左右両チャンネルにマイク信号が行き、ギターのみ接続しているときはHi-Zにすることでギターサウンドが左右両チャンネルに行く設計です。そして両方に接続している場合はBOTHに設定することでマイクは左チャンネル、ギターは右チャンネルに振り分けられる仕様になっているのです。中央下にあるMIXノブを使うことで入力された音をそのままヘッドホンなどでモニターできるダイレクトモニタリングを行ったり、PCがから出てくる音に変えたりとバランス調整も可能になっています。

U22 XTのリアパネル。入力はフロント、リアがボタンで切り替えられる

さらに、リアにはRCAピンのライン入力がステレオで用意されており、その横のボタンをOFFにするとこちらの入力、ONにするとフロント側の入力となるという、まさにオールマイティーな仕様になっているんですね。

そのU22 XTはMacでも、Windowsでも使えるオーディオインターフェイスであり、USBクラスコンプライアントなデバイスなので、Macの場合はドライバ不要で使うことができます。メーカーサイトには記載はありませんでしたが、USBクラスコンプライアントであるならiPhoneやiPadで使えるのでは……と試してみたところ、電源供給可能なLightning-USB3アダプタを介すことで、2in/2outのオーディオインターフェイスとして認識し、使うことができました。

USBクラスコンプライアントなので、iPhoneやiPadなどでも利用可能

これを使うことでiPhoneやiPad内蔵のマイクを使うより断然高音質で利用できるので、たとえばZoomやSkype、Hangout……といったアプリでミーティングするような場合でも会話が可能になるわけです。もちろん、MacやWindowsの内蔵マイクや内蔵スピーカーと比較しても遥かに高音質ですよ。

まあ、そうした機能の点については、他社のUSBクラスコンプライアント対応のオーディオインターフェイスもほぼ同様であり、似たり寄ったりではあります。が、Windowsを利用している際、ESIのドライバをインストールすることによって、超強力なスーパーマシンへと変身するのです。

具体的に見ていくと、前述のとおりU22 XTは本来2in/2outのオーディオインターフェイスのはずなのですが、Windowsのサウンド設定を見ると出力デバイスとして、

U22_XT_USB Audio driver
U22 XT Virtual CH 3-4
U22 XT Virtual CH 5-6

とステレオ3系統=6chの出力が現れます。

WindowsのサウンドからはU22 XTが3つのデバイスとして見える

試しにCH 3-4やCH 5-6を設定してプレイヤーソフトなどを鳴らしても何の音も出てきません。一方入力デバイスとしても

U22 XT CH 1-2
U22 XT Virtual CH 3-4
U22 XT Virtual CH 5-6

とやはりステレオ3系統=6chの入力が現れるのです。この存在しないはずの3-4ch、および5-6chは何なのでしょうか?これはVirtualという名前からも分かる通り、仮想的なチャンネルとなっており、これらをうまく活用できるようになっているのです。

Bitwig Studio 8-Trackが同梱

その活用法に入る前に、DAWから見えるとどう見えるのかも確認してみましょう。U22 XTを含め、U86 XT、U108 PREそれぞれにはBitwig Studio 8-TrackというDAWが付属しているですが、これのオーディオ設定画面を見ても、やはりASIOドライバが6in/6outという仕様になっているのです。

ASIOドライバとしても6in/6outとして見える

ご存知の方も多いと思いますが、WindowsではWindows Media PlayerやiTunes、Spotify…といったアプリケーション、またZoom、Skype、Teams、Discord……といったオンライン会議システム、さらにはOBSなどの配信ソフトも含め、一般のアプリケーションはオーディオインターフェイスとやりとりするためにMMEまたはWDM、Direct SoundというWindows標準のサウンドドライバを用いています。

一方でDAWでは、より厳密にオーディオの入出力を行うとともに小さなレイテンシーにするためにASIOドライバというものを使っており、このMME/WDM/Direct SoundとASIOは別物という扱いになっています。

入出力のレベル調整やバッファサイズ調整をするためのコントロールパネル

そこを自由自在に扱えるようにするのがESIのDirectWIREという技術です。ドライバをインストールするとWindows画面の右下のタスクトレイにU22 XT Panelというアイコンが表示されるようになるので、これをクリックすると入出力を調整したり、バッファサイズを設定するための画面が合われます。ここで、DirectWIREをONにすると、ちょっと変わった画面が登場してくるのです。

DirectWIREをオンにすると、このような画面が表示される

一番左側がINPUT、中央にWDM/MME、右側にASIOという項目があり、縦に入力の1、2、そして前述の仮想チャンネルであるVIRTUAL 3~6というチャンネルが並んでいます。ここで、マウスをドラッグすることで、仮想チャンネルを含め、各チャンネルの入出力を自由自在にパッチ接続していくことが可能になるのです。

DirectWIRE上で、自由にパッチングができる

また画面下にMIX 3/4 TO 1/2、MIX 5/6 TO 1/2というものがあり、デフォルトではオフの状態になっているため、先ほどのように仮想チャンネルの3-4、5-6で音を出そうとしても何も鳴らなかったのですが、これをオンにすると実在チャンネルである1-2、つまりメインアウトやヘッドホン出力から音が出てくる仕様となっているのです。

では、これは何のためにあるのか?たとえばですが、Zoomのオーディオ設定で、オーディオ出力設定をVirtual CH 5-6に設定すると、このままでは音が出ないわけですが、MIX 5/6 TO 1/2にすることでまずは音が聴こえるようになります。

さらにDirectWIREを使ってMME/WDMのVirtual CH 5-6をASIO側のVirtual CH 3-4にルーティングしてやります。その上で、DAWを起動しCH 3-4をレコーディングすると、Zoomからの音を劣化なく完全な形でレコーディングできるようになるわけです。

Zoomなどのオンライン会議アプリでもループバック設定ができるようになる

同様に、MME/WDMのVirtual CH 5-6をMME/WDMのVirtual CH 3-4にルーティングして、OBSの音声入力をVirtual CH 3-4に設定することでZoomの音をそのままOBSで配信可能となるわけです。いわゆるループバックを行っているわけですが、一般的なオーディオインターフェイスのループバックと比較して、圧倒的に自由度が高く、仮想チャンネルまであるので、アイディア次第でいろいろな使い方が可能になるわけです。

配信ソフトであるOBSでもDirectWIREを利用したルーティングが可能

たとえば、普通は録音ができないインターネットラジオなどのストリーミングをそのまま録音するということも可能なので、著作権などには配慮しつつ、うまく活用すると便利に使えますよ。また、ESIが作成した「SkypeでU22XTとDirectWireを使って、音楽プレイヤーをSkypeで出力する方法」というYouTubeビデオも公開されているので、英語ではありますが、参考になると思います。

なお、この仮想チャンネルを持っているのはU22 XTのみで、U86 XTやU108 PREはもともとチャンネル数が多くあるので、実際のチャンネルのみの扱いとはなっていますが、やはりDirectWIREの機能は持っているので、どのチャンネルをどこにルーティングさせるかは自由に決めることが可能で、それを実際の入出力に割り当てることも可能なので、さらに面白い使い方が可能になると思います。

さらに、実はこのタイミングで、このU22 XTとコンデンサマイク、ヘッドホンをセットにしたU22 XT cosMik SetというDTM&配信用のセット製品も発表され、5月28日発売されることになりました。価格は税抜きで25,000円とのこと、いま品薄のオーディオインターフェイスもコンデンサマイクもこれで揃うので、購入するのにはいいタイミングかもしれませんね。

このタイミングでリリースされたU22 XT、コンデンサマイク、ヘッドホンの3点セット、U22 XT cosMik Set

以上、ESIのオレンジのオーディオインターフェイス3機種について紹介してみましたが、いかがでしょうか?実際のマイクプリの音については、6月2日のDTMステーションPlus!の放送を通じて紹介していく予定なので、ぜひチェックしていただければと思います。

【関連情報】
U22 XT製品情報
U22 XT cosMik Set
U86 XT製品情報
U108 PRE製品情報

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第152回 特集「ESIの超イケてる新オーディオインターフェイス!」