ライブ会場でのレコーディングってどんな機材、どんなシステムを使っているのでしょうか?実は、それが最近結構難しいことになっているそうなのです。とくに大きい会場はPAにデジタルコンソールを入れてあるケースが多く、各チャンネルをパラ出しすることができなくなっているため、単にMTRを持ち込むだけではうまく録れないそうなのです。もちろんレコーディング用のコンソールを持ち込んで、PA卓とは別に操作すればいいのですが、予算だけでなく手間も大きく掛かります。
そんな中、先日、渋谷 duo MUSIC EXCHAGEで行われた大石昌良さんのライブでは、Pro Tools 9を入れたiMacとRolandのSTUDIO-CAPTUREの組み合わせだけで32chのレコーディングが行われたとのこと。それってDTMユーザーでも実現できそうな組み合わせですが、実際どんなシステムだったのかちょっと気になるところです。そのレコーディングを行ったシンク シンク インテグラルの岸田充善さんにお話を伺ってみたので、紹介してみたいと思います。
岸田:もともとSound&Recording Magazineの使用レポートということで、RolandからSTUDIO-CAPTUREを借りて大石のレコーディングに使ったのがキッカケなんですよ。そうした中、duo MUSIC EXCHAGEでのライブレコーディングという話が来たのです。通常ならモバイル録音車またはスタジオ機材を仮設置で組み上げます。しかし、いろいろな制約がある中でライブ録音する場合、PAエンジニアとの相談のもと、PAコンソールのDirect OutからHA後の信号をいただき、ALESISのHD24あたりを2台持ち込んで48chで録るんですが、、最近それができなくなってきていて、duo MUSIC EXGHAGEもできなくなっていたんです。
岸田:いま大きい会場は、みんなデジタル卓が入っていて、duo MUSIC EXCHAGEもMACKIEのデジタルコンソールです。こうしたコンソール、INPUTは数多くあるけれど、アナログのOUTPUTは8つしかないんです。やはりライブは一発勝負ですから、できるだけ全チャンネルをパラで独立して録音しておきたいところ。8chでは厳しいですからね…。そのため、スプリッターを使って、PA用のコンソールに行く前に分岐させて、信号を取り出し、それを録っていくという形になります。ただ、HD24にはマイクプリがないので、ラインレベルでしか録ることができなく、これを使うには大掛かりになってしまうため、どうしようかと思っていたのです。
岸田:はい、ちょうど直前に触っていたので、もしかして……と思ったのです。STUDIO-CAPTUREなら2台リンクできて32chまで行け、マイクプリも12基ずつ搭載されているため、計24chまで使うことができます。ちょっと偶然ではあったけれど、この会場でも32chだったため、ピッタリだなぁ、と。ただ、ライブにコンピュータを持ち込むというのには不安があったのは事実です。現場に持ち込んで起動しなかったり、何か不具合が出たりしたら大変ですからね……、正直なところ実績がないだけに、不安だったんですよ。ただ、そうはいってもほかに手段はないし、今回のシステムはiMacに2台のSTUDIO-CAPTUREを繋ぐだけで、かなりシンプル。このシステムの可能性に賭けてみました( 笑 )。
岸田:メーカーからは内蔵のSSDが推奨だとは言われていましたが、HDDで問題ありませんでしたよ。ちなみに使ったのは外付けのHDDでFireWire 800での接続というものでした。大石の通常のセッションデータって、コーラスをいっぱい重ねるので、50chを超えることがよくあります。だから32chなら大丈夫だろうと考えていました。とはいえ、セッティング位置がステージ脇だったので、スピーカーの位置も近く、振動もちょっと心配でした。でも、本番はトラブルもまったくなく、うまくレコーディングすることができました。
岸田:便利でよかったですよ。とくに重宝したのが、STUDIO-CAPTUREに搭載されている、AUTO-SENS機能です。これは入力レベルの調整をするのに、すごく楽で助かりました。チャンネル数が多いと、一つ一つのレベルを調整するのにかなり時間がかかりますが、これなら、すぐですからね。ライブは、やり直しは効かないから、安全策としてリハ時の最大音量が各チャンネルとも-12dBに設定する形でAUTO-SENSを使って自動設定。その後、ドラムなどを微調整してバランスをとれば終了ですから、本当に効率的でいいですね。ちなみに、その微調整も本体のつまみを使うのではなく、画面上のコントロールパネルで操作しています。そのほうが、全体を見渡すことができ、調整しやすかったからです。
岸田:スタジオでのレコーディングと異なり、ライブのレコーディングは時間的な制約もあるので、役立ちますよ。本来ならもう少し音量を上げて録ってもいいのですが、初めての機材ということもあって、-12dBの設定にしました。とはいえ、24bitで録音していますから、ミックス時に音量を上げればいいだけで、まったく問題はないですね。
岸田:まだ、本当にラフなミックスですが、これを聴いてもらうとわかるように、すごく臨場感のあるサウンドで、またとても太い音で録れているんですよ。普段は192I/Oを使っているのですが、それと比較しても元気があるサウンドでいいんですよ。ある意味、楽器っぽくなるというか……。
岸田:192I/Oって、よくも悪くも素なんですよね。だからこそ分かりやすいということはあるんだけど、素直で何もない。それに対しSTUDIO-CAPTUREで録ると、楽器っぽさがより表に出て、楽しい音になるんですよ。内蔵のコンプを入れてみたところ、音に暖かみが出るのもよかったです。
岸田:全チャンネルをオンにしたけど、スレッショルドを引っかけない、つまり何もかからない形にしています( 笑 )。でもこれによっていい音になるんですよね。ただ、これを使うかどうかはシチュエーションにもよるかもしれませんね。何のキャラクタも入れないのであれば、オフにしたほうがいいでしょうし、今回のようなロックのサウンドで、アナログのテープを回したような雰囲気を出すのなら、オンにすると元気が出るという印象です。なお、二階席とPAスピーカーの脇に立てた4本のオーディエンスマイクだけはローカットを入れています。それ以外は何も使っていません。
ボーカルにコンプをかけて、少しリバーブを加えたというだけという音を再生してもらったが、
非常に臨場感のあるサウンドだった