Combo Organ ModelVと、その元となったオルガン、VOX Jaguar
DTMステーションでは、以前にも山崎さんにお話しを伺ったことがありました。その時は、「Mellotronを24/96で収録して再現したSuper Manetronの開発舞台裏」という記事での取材でしたが、ハモンドオルガン、メロトロン、そして今回はコンボオルガンと、山崎さんはビンテージ機材を次々と復刻させているんですね。
こちらはProcol HarumのA Whiter Shade Of Paleを演奏したものですが、オルガン音色がまったく違うのが分かりますよね。
「もともとオルガンは教会のミサで使われる楽器として発展してきました。当初は教会の建築物として組み込まれるパイプオルガンが主流だったわけですが、大きな構造であったこともあり、膨大な費用が掛かっていました。そこに、もっと手軽に導入できる電気式のオルガンとしてハモンドオルガンが生まれ、普及していったのです。構造的にはパイプオルガンのパイプの代わりに、トーンホイールと呼ばれる歯車を高速に回転させて、これをの動きをマグネティック・ピックアップでとらえるというものでした。ただ電気式とはいえ、機械的に動かしているだけにそれなりに大きなサイズにはなってしまいます。そうした中、トランジスタが発明され、これを使って電子的に音を合成して作り出そうとしたのが、このVOX Jaguarをはじめとするトランジスタオルガンなんですよ」(神部さん)。
お二人の話を統合して分かったのはコンボオルガンというのは60年代後半に誕生したトランジスタで作られたオルガンのことで、トランジスタオルガンとほぼ同義。ドローバーを使って音作りをするハモンドオルガンとはまったく違う構造ではあり、音的にもかなり違ったため、当初は批判されることも少なくなかったようですが、価格が手ごろだったこともあり、その後、多くのミュージシャンに使われるようになり、当時のロック、プログレ、サイケデリックを構成する重要な楽器へとなっていったのです。
実際、コンボオルガンが使われた楽曲としては、The AnimalsのHouse of The Rising SunやSteppenwolfのBorn To Be Wildなどが分かりやすいとのこと。私など、アンプメーカーのVOXがオルガンを作っていたこと自体初めて知った次第ですが、当時はVOX以外にもFender、Gibson、YAMAHAほか、多くのメーカーがトランジスタを使ったオルガンを作っていたそうです。
ただし設定画面には、実機にはないビブラートのレート・デプスの設定パラメータが用意されている
そんなシンプルな見た目のCombo Organ ModelVですが、実は羊の皮を被った狼。iOSの最新機能がテンコ盛りの、強力なアプリとなっているんです。それもそのはず、実はこのアプリ、プロデュースは山崎さんが行っているけれど、エンジン部分の開発やプログラミングは、DTMステーションでもお馴染みの音源、bs-16iの開発者であるbismark(@_bismark)さんが行っているんです。
「Pocket OrganやSuper Manetronの開発は笠谷真也さんにお願いしていましたが、今回はbismarkさんとの共同開発となっており、実際、中のエンジンや機能もbs-16iのものが、そのまま採用されています。そのためAudiobus対応やInter-App Audio対応はもちろんのこと、Virtual MIDI対応、さらにはBluetooth MIDI対応など、iOSにおける音源として思い当たる機能は一通り何でも装備されています。実際、内部的にはCombo Organ ModelVもSoundFontで動作しているんですよ」と山崎さんは語ります。
プログラミングをbismarkさんが担当する一方で、山崎さんが全体のプロデュースと、画面のデザイン、そしてサンプリングからSoundFont制作までを取り組んでいるとのこと。
VOX Jaguarのバックパネル。ジャガーのイラストのマークも!
「実際の出音を聴いてもらうと分かると思いますが、結構なノイズ成分も混ざっていることが分かると思います。これはサンプリングした際に実機から出るノイズもそのまま取り込んだためのものですが、だからこそ、実機さながらなリアルなサウンドになっているんです。コンボオルガンをシミュレーションするソフトウェア音源は、いろいろありますが、何かキレイな軽い音になっているのに対し、このCombo Organ ModelVが、実機に近いサウンドになっているのは、そのためですね」(山崎さん)
「要望があれば、SoundFontを販売すること自体は簡単ですし、私自身もテスト段階ではbs-16iに自分で作ったSoundFontをセットして使っていました。が、Combo Organのサウンドを求めるような方は、電源を入れればすぐに使えるこのアプリのようなものを求めていて、SoundFontなんかに興味はないのかな……と思ってますが、どうなんでしょうか?」と笑って話します。言われてみれば確かにそのような気もしますが、興味があれば、山崎さんにSoundFont版のリリースを要望してみるといいかもしれませんよ。