9月末に発売されるTASCAMのUSB 3.0対応オーディオインターフェイス、US-20×20
小泉:企画段階において基礎技術の調査を行った際に、フラグシップモデルということで24bit/192kHzに対応させるとともに、多チャンネルのオーディオ伝送を確保しようとしたとき、USB 3.0を利用することでより高いパフォーマンスを発揮できそうだということがわかったからです。Thunderboltも研究をしてきていますが、WindowsでもMacでも扱いやすい機材にしたいということからUSB 3.0を採用することにしたのです。
--でも、USB 3.0接続でなく、USB 2.0接続でも使えてしまうんですよね?どちらで接続するかによって、同時入出力のチャンネル数が変わるなど、仕様の違いはあるのですか?
小泉:開発していた当初は、仕様を変えるつもりでいました。やはりUSB 2.0で20IN/20OUTは負荷が大きいだろう……、と。ところがハードウェアの開発とともに、ドライバについても突き詰めていくと、USB 2.0でもなんとか動くところまで持っていくことができたのです。確かにUSB 3.0のほうが伝送速度的に見ても余裕があり、安定して動くのですが、USB 2.0でも動いたので、社内においてもどうすべきか議論になりました。つまり、よくあると思いますがUSB 2.0の場合は入出力数をあえて落とす仕様にするかどうかです。議論の結果、USB 2.0でも全スペックがしっかり動くのであれば制約を設けない方が高い利便性を提供できる、ということで、USB 3.0接続でも、USB 2.0接続でも仕様上は同じにすることにしました。
先日のニコニコ生放送DTMステーションPlus!では2台のUS-20×20を使ってのレコーディングを行った
--USB 3.0とUSB 2.0ではバンド幅というか転送速度に結構大きな違いがありますが、その差をクリアしたというわけですね。でも実際USB 3.0にすることで、よりレイテンシーを縮められるといったメリットもあるのでしょうか?
小泉:これも当初、違いがでるだろうと考えていたのですが、ドライバの開発を進めていき、さまざまな試行錯誤から新しい手法を模索していった結果、ここでも差はなくなりました。その意味では、ユーザーのみなさまへの説明がとても難しいところなのですが、USB 3.0を使った場合とUSB 2.0を使った場合での見かけ上の違いはありません。ただし、先ほども説明した通り、USB 3.0を使った場合のほうが、余裕がある分、より安定して使えるのです。もちろん、USB 2.0を使うとうまく動かない……というようなことはありませんよ。
小泉:Windows 10とUSB 3.0の組み合わせで、非常に高いパフォーマンスを得られることが確認できたので、現在のところWindows 10のみでの提供としています。ただ、今後もドライバのチューニングは行っていくので、よりUSB3.0の扱いを研究する上でクオリティが確保できれば、新たに提供させて頂ける可能性はありますね。
--USB 3.0対応のオーディオインターフェイス、最近になっていくつかのメーカーから発表されてきていますが、まだ製品として出ているのは僅かです。そうした中、USB 3.0対応というのは簡単にできたんですか?
小泉:かなり苦労したし、いろいろと難しい面もありました。そもそもUSB 3.0対応させるということで、コントローラチップも違ってくるので、見た目はUS-16×08と似てはいるものの、システム構造は大きく異なるものなのです。そのため、ドライバ周りは、完全に作り直しとなり、非常に苦労しました。
小泉:もちろん、アナログでのノウハウはそのまま生かしていますし、音作りにおけるチューニング方法なども受け継いでいるので、音の質感的には、いかにもTASCAMの音である点は共通です。マイクプリアンプもUS-16×08と同じUltra-HDDAマイクプリを搭載しています。またチップは違うとはいえ、ドライバに関する基本的なコンセプトは一緒なので、まったく別物とはいえませんが、やはり開発し直していることは事実ですね。
バンド、Trinoteの演奏でドラムには7本のマイクを立て、ベースとギターはライン録り。そのほかボーカル用、ピアノ用のマイクも立てた
小泉:はい、基本的にはそのまま引き継いでおり、アナログデバイセズ社のBlackfin という高性能DSPを採用しています。デュアルコアの構成となっておりデバイスは同じですが、信号処理の割り振りなど使い方はそれぞれのモデルで異なっています。先日のニコニコ生放送においても、各チャンネルごとに最適なEQ設定、コンプ設定
を行うととも、ボーカル用にはリバーブをかけた形でモニターを返しましたが、これらはすべてBlackfinのパワーのみで行っているため、PCのCPU負荷はかかっていません。
小泉:US-366では違うDSPを使っていましたが、最近TASCAM製品ではBlackfinを使うケースが増えており、リニアPCMレコーダーのDRシリーズでも採用しています。そうした意味では、開発するエンジニアも慣れていますので、クオリティの高い製品をお届けすることができます。US-366に対してDSPミキサーの内容もグレードアップしており、各チャンネルへのコンプ、EQなどの搭載、出力パッチベイの搭載などを実現しています。
小泉:マイクプリアンプとしては同一ですが、これはフラグシップモデルという位置づけなので、A/DやD/Aなどもすべて上のグレードのチップを採用しているほか、ディスクリートの部品類もより高品位なものを採用して、192kHzのサンプリングレートにふさわしい形で音質を向上させています。またボリュームも特注のものを採用するなど、アナログ周りにはかなりコストをかけています。
US-20×20の内部をコントロールするミキサー画面。画面は先日のレコーディング中の設定
小泉:20IN/20OUTで使えるのは、44.1kHz、48kHzでの動作時ということになります。アナログの入出力は8系統のXLR/TRS入力、2系統のTRS入力、10系統のTRS出力とトータルで10IN/10OUTあり、これらはすべて24bit/192kHz動作時に有効に使うことができます。ところがデジタル端子のほうは、サンプリングレートによって扱えるチャンネル数が変わるため、どうしても利用可能なチャンネル数は少なくなってしまいます。
小泉:ところが、US-20×20では192kHzでは12IN/12OUTになるように制限をかけています。つまりデジタルはオプティカルかコアキシャルのどちらかしか使えないようにしているのです。というのは現段階ではMac OSXのCoreAudioの仕様で192kHz動作時は12chまでしか扱えないという制限があるからなんですね。逆にいうとWindowsは14IN/14OUTも不可能ではないのですが、Mac/Winにまたがってお使いの方も多いと思いますので、混乱しないようにあえて12IN/12OUTとさせていただております。将来的に14IN/14OUTにできる可能性もあり、引き続き調査、開発を進めているところです。
--先日のニコニコ生放送では、2台のUS-20×20を使い、片方をオーディオインターフェイスとして使う一方、もう一つはマイクプリモードとして利用しましたが、この辺の仕掛けを改めて教えてください。
小泉:US-20×20ではオーディオインターフェイスモード、マイクプリモードに、ミキサーモードという3つのモードを備えており、用途に応じて切り替えて使えるようになっているのです。US-20×20に搭載されているマイクプリは8つですが、先日の放送では、マイクを12本接続し、ライン4本の計16chとなっていました。そのため、明らかにマイクプリが足りないので、片方をマイクプリモードにし、マイク入力をそのままADATへ変換し、もう片方のオーディオインターフェイスモード側へと送ったわけです。これにより、最大で16chのマイクプリを装備したオーディオインターフェイスとして扱うことができたわけです。
小泉:DAWを立ち上げなくてもPCで操作する単体ミキサーとして使うことが出来るモードです。PC接続時は一般的なミキサーとして使うことができますので、小規模なライブのPAや、キーボードミキサー的な使い方が可能です。ミキサーモード時は出力パッチベイも有効なので、色々な使い方ができると思います。
小泉:基本的にはパソコンから操作するのでパソコンが必要です。ただし、本体メモリーにミキサー設定を記憶するコマンドがあるので、その場合調整はできませんが本体だけでもミキサーとして活用できます。パッチングやフェーダーの設定、PANやEQ、コンプの設定などを行っておくと、パソコンを切り離してもその設定を有効にすることが可能で、スタンドアロンのミキサーになるわけです。スタンドアロンの状態でフェーダーなどを動かすことはできないものの、固定で使うケースは少なくないと思うので、そうした際に有効に活用いただけると思います。
US-20-20製品情報