アナログシンセとはまったく違う、“誰でもわかるFM音源”講座

サンプラーやアナログモデリング音源の音作りはある程度分かるけど、FM音源だけはさっぱり分からない」、「FM音源、フィルターがないって意味分かんないですけど」……そんな思いの人は少なくないと思います。その昔、8ビットパソコン内蔵のFM音源をいじったり、携帯内蔵のFM音源をハックして使っていた人でも、「音作りだけはさっぱり…」という人も多いようですね。

それはFM音源がほかのシンセサイザと仕組みがまったく異なるためなのですが、9月にヤマハからreface DXが発売されたことにより、またFM音源に大きな注目が集まっています。reface DX自体は品不足でなかなか入手困難という状況のようですが、そうした中、ヤマハ主催による「誰でもわかるFM音源」というセミナーが先日、開催されました。講師は、DX7の音色カートリッジ「生福」で一世風靡した音楽プロデューサーの福田裕彦(@YasuhikoFK)さん。それを聞いて、「懐かしい!」という人もいると思いますが、生福は、現在テルミン奏者として活動している生方則孝さんとのユニットで、当時、さまざまなFM音源独特なサウンドを生み出して、みんなを驚かせていました。福田さんは、先日発売されたreface DXの音色づくりにも携わっているとのことですが、その福田さん直伝のFM音源セミナーを覗いてきたので、そのエッセンスを少しお伝えしてみたいと思います。

生福の福田裕彦さんによって行われた「誰でもわかるFM音源」講座


DX7に代表されるFM音源。楽器としてのシンセサイザーの世界では、1981年にヤマハが240万円で発売したGS1が最初でしたが、83年に発売されたDX7が世界で15万台売れるなど、記録的なヒットとなり、いまでも多くのサンプリング音源にエレピやブラスなどDX7のきらびやかな音色が収められているのはご存じですよね。

9月に発売されたreface DXは、いま入手困難なほどの大ヒット製品になっている 

 

その後、FM音源はSY77SY99などに引き継がれましたが、音作りの難しさから、その後楽器の世界からはほとんど消えてしまっていました。その一方でPC内蔵音源として、また携帯の着メロ用音源としてなど、ヤマハのFM音源はさまざまなところで使われていましたが、それも最近ではPCM音源に押されて、あまり目立たなくなっていました。


福田さんが30年前に書いたDX7の本を手にFM音源の面白さを語る福田さん

そこに誕生した久しぶりのFM音源楽器、reface DXは多くの人から注目を集め大ヒット製品となっているようです。私個人的にもFM音源はSFG-01というMSX用音源の利用に始まり、それと同じ音源チップを使ってHAL研究所で「」という製品を大学時代に開発するなど、深い思い入れのあるシンセサイザ。1985年に購入したDX100は今でも稼働する状況で手元にあるのですが、reface DXと並べて置いてみるとグッときますね。

1985年発売のDX100(上)と2015年発売のreface DX(下)
さて、そのFM音源について「我々FM音源リアルタイム世代のシンセユーザーには、FM音源のロジック、サウンドクリエイトの方法を若い世代のシンセサイザーユーザーに伝える義務がある」といってセミナーを行った、福田さん。受講者にはプロミュージシャンもチラホラ見かけましたが、3時間の長時間セミナーにも関わらず、みなさん、福田さんが実現する魔法のような音作りテクニックにくぎ付け。

前半は、歴史やアナログシンセに関する音作りの基本などが中心だったので、ここでは後半のFM音源部分に絞ってみていきましょう。

まずFM音源のFMとは、Frequency Modulationの略で、FMラジオのFMと同じもの。デジタルシンセの代表のようには言われますが、実は仕組み自体はとてもシンプルなもので、アナログ的なものなんです。FM音源のもっとも単純な例とはビブラートとのことなんですよ」と福田さん。ビブラートとは、出ている音を、ある一定の周期で音程を揺らすというもの。

ビブラートは音程が揺れることですが、この際音程を揺らす速度をどんどん速くしていったらどうなると思いますか?またビブラートを非常に深くかけたらどうなると思いますか?実は元の音程とは関係ない倍音が出てきて、音色が大きく変化してくるんです。これを側帯波と呼んでいるのですが、これがFM音源の音作りの基本です。つまり音をくすぐることで音色を作っていくわけですね」と福田さん。つまりフィルターで音を削っていく減算式アナログシンセサイザーとは音の作り方がまったく異なるわけですね。


オペレータはPG、SWM、EGから構成されている1つの箱である

FM音源の基本が分かったところで、もう一つ重要な要素となるのがオペレータの存在です。オペレータとはサイン波を出す単純な発振器なのですが、構造的にいうとPGフェイズ・ジェネレータSWMサイン・ウェーブ・メモリーEGエンベロープ・ジェネレータという3つの要素で構成されています。
あまり難しく考えることはありません。オペレータとは、鍵盤を弾くと“ポー”となるもの、以上(笑)! 鍵盤を弾く場所によって、PGのスピードが変わるから音程が変わる仕組みになっているんですね。DX7の場合はこのオペレータが6つ、今回発売されたreface DXの場合4つが搭載されている。たったそれだけの仕組みなんですよ」と福田さんは、FM音源が単純な仕組みであることを力説します。サイン波が発生した後に、エンベロープ・ジェネレータがかかるので、音の立ち上がり=アタックとか、ディケイ、余韻=リリースといったものが調整できるのですが、この辺はアナログシンセサイザと基本的に同じですね。ただし、単にADSRというだけでなく、もう少し細かく設定できるのがreface DXの特徴ともなっています。

オペレータを4つ横に並べればオルガンが出来上がる
このポーって鳴るオペレータを4つ横に並べて音を出せばオルガンになります。たとえばOP1がド、OP2は1オクターブ上のド、OP3が2オクターブ上のド、OP4は1オクターブ下のド、というようにすれば、重厚なオルガン音になります。しかも普通のオルガンよりいいのは、各オペレータごとに独立したエンベロープ・ジェネレーターを搭載していること。これによって、いろいろな音作りが可能になります」(福田さん)

FM音源とはオペレータの出力で別のオペレータを「くすぐる」ことだと説明する福田さん
でも、これではFM音源じゃないじゃん! そうFM音源とは周波数変調をかける音源であり、OP2でOP1にビブラートをかけるというか、くすぐるんです。OP1はもともとポーっと鳴っていた音が、くすぐったいのでピーとかジーとがギャーって鳴るんです」と福田さんはオペレータを擬人化させながら、分かりやすく説明してくれます。

くすぐり役(OP2)をモジュレータ、くすぐられ役(OP1)をキャリアと呼ぶ
ちなみにくすぐり役のオペレータのことをモジュレータと呼び、くすぐられ役で、実際に音を出すオペレータをキャリアと呼びます。つまりモジュレータになったオペレータは音を出すのではなく、あくまでもくすぐるのみ。このくすぐり具合いによって、キャリア側の波形はゆがみ、出力される波形もサイン波から大きく変わってくるわけです。

各オペレータのOUTPUTレベルを変更することで、モジュレーションのかかり具合が変わってくる
これがFM音源のシンセサイザであり、アナログシンセとはまったく違うところなんです。フィルタで削っているのでも、足しているのでもなく、こうした音がいきなりオペレータから出てくるわけです。キャリアにとって、OUTPUTレベルは音量を意味するのに対し、モジュレータ側のOUTPUTレベルはくずぐる強さを意味します。もちろんベロシティーが効くように設定すれば、鍵盤を強く叩くと、強くくすぐることになり、やりすぎれば過変調として、音色が大きく変わっていくわけですね」(福田さん)


reface DXには全部で12種類のアルゴリズムがある

ところで、ここまでの話は、2つのオペレータをキャリアとモジュレータとして使った場合の話。でも、reface DXには4つのオペレータがあるので、もっといろいろな組み合わせができるのです。具体的には全部で12種類の組み合わせであり、これをアルゴリズムと呼んでいます。


 アルゴリズム1はOP1がキャリアでOP2~OP4がモジュレータ

どのアルゴリズムにするかによって、音作りが大きく変わってくるわけですが、この画面を見ても分かる通り、□がキャリアで、○がモジュレータを意味しています。たとえばアルゴリズム1はOP1がキャリアで、OP2~OP4はすべてモジュレータ。OP3はモジュレータであるOP2をくすぐり、さらにOP4はOP3をくすぐるわけですから、正直なところ、何がどうなっているのか分からない状況です。


アルゴリズム5もOP1がキャリアでOP2~OP4がモジュレータだがモジュレーション先が異なる 

またアルゴリズム5はOP1に対しOP2~OP4の3つが寄ってたかって、くすぐるという構造になっていますから、これまたずいぶんと違った波形が出てくるわけですね。ちなみに、モジュレータはOUTPUTレベルの差だけでなく、周波数の違いによってもずいぶんくすぐり方が変わってきます。つまり、RATIOというパラメータで何倍音に設定するかによって、音の雰囲気が大きく変わってくるのですが、ここには重要な経験値があるとのこと。


OP1のRATIOを1.00、OP2のRATIOを2.00に設定すると矩形波っぽいサウンドになる 

キャリアに対してモジュレータを1:1で設定するとノコギリ波っぽいサウンドになり、1:2で矩形波っぽい音、そして1:3で設定するとパルス波っぽいサウンドになります。ブラスはノコギリ波だから、1:1を設定すればいいわけですね。また1:3.5で設定すると落ち着いた金属倍音ができます。キャリアのRATIOを2.0、モジュレータを7.0としても同じですね。ここで、アタックを速く設定すると鐘の音になるんですよ。この際、エンベロープのリリースはモジュレータだけじゃなく、キャリアも長くすることで、鐘の余韻が出てきますよ」と福田さん。
※初掲載時、1:2がノコギリ波と記載してしまいましたが、1:1がノコギリ波っぽい音、1:2が矩形波(スクェア)っぽい音の間違いでしたので、修正しました。
私もFM音源の音の作り方は分かっていたつもりでしたが、こうやって整理して考えたことがなかったので、とっても勉強になります。

まあ、正直なところ、1倍、2倍、3倍、3.5倍までが分かりやすいところで、そこから先はもう分からない。本当に試行錯誤するしかないんですよ。ただし、1:15というのも1つのキーですね。こうすることでFM音源特有のエレピ・サウンドを作ることができます。ただし、絶対15というわけでもなく、14とか12.65とかにしても、それほど大きく音が変わるわけではないんです。2か1.99では全然違うのに……」(福田さん)


OP2のRATIOを15.00に設定するとエレピサウンドになる 

その話を聞いて、実際にRATIOを15に設定してみると、なるほどDXエレピの音ができるから不思議です。このRATIOについて覚えておくだけでも、FM音源の音作りにおいて、大きなノウハウがついたような気がしますね。

自分で自分をくすぐるフィードバック

ところで、DX7を知っている人はreface DXが4オペレータであることを知って「なぁんだ…」と思った方がいるかもしれません。DX7は6オペレータだったことが、ある種のステータス的な存在ではありましたからね。それに対し、福田さんはreface DXは4オペレータではあるけれど、音作りの面ではDX7より遥かに優れている、と宣言しています。それはフィードバックという機能が大きく進化しているからなのです。


reface DXでは4つのオペレータすべてでフィードバックがかけられ、しかも-127~+127で設定可能

reface DXのフィードバック機能はDX7のそれとは比べものにならないほどに進化しています。このフィードバックというのはオペレータの出力を自分に戻すというもの。つまり自分で自分をくすぐってる、かなりヤバイですね(笑)。DX7を含め、当時のDXシリーズでは、フィードバック機能が使えるのは1つのオペレータのみでした。またフィードバックも7段階しかなかったのです。それに対し、reface DXでは-127~+127までの256段階。従来はモジュレータがないとできなかったノコギリ波をオペレータ1つだけで作れてしまうわけですから、その威力が分かるのではないでしょうか」と福田さん。

実はこのフィードバックレベルを+127にすると完全なノコギリ波に、-127にすると完全なパルス波(矩形波)を作ることが可能になっています。つまり、従来のDXシリーズでは、サイン波に対してサイン波でモジュレーションをかける(くすぐる)ことしかできなかったのに対し、reface DXではパルス波でノコギリ波をモジュレーションしたり、ノコギリ波でサイン波をモジュレーションするなど、従来では考えられなかったほど複雑なことができるわけなのです。

DX7では、ストリングスのキレイなパッドは苦手でした。その理由はキレイなノコギリ波を作ることが難しかったからです。確かに1:1で組み合わせれば、ノコギリ波っぽくはなるけれど、キレイな波形ではない。そこで、3つ、4つとオペレータを直列に接続していき、さらいフィードバックを使うことで、それなりのノコギリ波に近づけるという感じだったのです。それに対して、reface DXではフィードバックを+127に設定するだけで、キレイなノコギリ波ができるわけですからね。パッド系サウンド作りはDX7よりも圧倒的に簡単ですよ」(福田さん)

以上、福田さんによる「誰でもわかるFM音源」セミナーから、そのエッセンス部分だけを抜き出してみましたが、いかがだったでしょうか?パラメータが山ほどあって、さっぱり分からないと思っていたFM音源も、こうしていくつかのパラメータの動きに着目すると、だいぶ音作りができそうな気がしてきますよね。


大盛況だった福田さんによるFM音源セミナー 

確かに当てずっぽうでパラメータを動かすことで、偶然に音ができる可能性はありますが、FM音源の音作りは、ある程度目的を立て、それを予想した上でパラメータを設定していく必要があります。たとえば生ギターっぽい音を作りたいのであれば、まず生ギターに含まれている音色を頭で解析したうえで、『指が弦に触ったときに、フォワって音がする』、『もっと高い倍音が出ているぞ』、『もっと、中域のあたりが凹んでるよね』……などと分解していき、どのオペレータにどんな役割をさせるのかを考えていくんです。DX7などと違って、reface DXなら、よりグラフィカルにエディットしていくことができるので、音作りも断然しやすくなっているので、ぜひいろいろと試行錯誤をしてみてください」と福田さんは締めくくりました。

それにしても、「モジュレータがキャリアをくすぐる」という表現、すごく分かりやすくていいですよね。また全オペレータでフィードバックを利用するとどんな音になるのか、という点も興味津々です。reface DX、なかなか入手しづらいようではありますが、多くの人で音作り大会とかをしたら楽しそうだなと思いました。

※2015.11.18追記
福田さんの「誰でも分かるFM音源」、11月21日(土)に大阪でも行われる予定です(無料)。定員を20名増やし、11月17日いっぱい申し込み可能となっているので、参加したい方はお早目に申し込みを!

※2016.3.6追記
このセミナーが再度3月19日(土)大阪で、3月26日(土)東京で行われるそうです。参加したい方はお早目に!

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