鈴木Daichi秀行、田辺恵二、松隈ケンタ、瀬川英史、水島康貴……ガチプロ作家勢がSynthesizer Vのコンピアルバムを作成!?一般枠の公募も開始

AI歌声合成の技術が急速に進化した2022年でしたが、なかでも目立っていたのがDreamtonics開発のSynthesizer Vだったように思います。先日、Synthesizer V Studio Proユーザー向けに無料でリリースされたMaiの歌声は衝撃的であり、その波紋は各所に広がっていきました。その影響は、プロのミュージシャン、プロの作曲家にも届いているようで、SNSを見ていてもプロがSynthesizer Vを導入して、いろいろと使っている動画などをよく見かけます。

そうした中、作編曲家・プロデューサーとして幅広く活躍している鈴木Daichi秀行さんが、気になる動きをしています。ガチプロ勢でSynthesizer Vを使ったコンピアルバムを作ろう、とメンバーを集め、アルバムの配信リリースが決まった、というのです。さらにそのコンピアルバムには2つ、3つの一般枠も設け、広く作品の募集を開始しています。1月20日に締め切った上で、来年春ごろのリリースを目指すとのこと。プロが何を狙っているのか、プロから見てSynthesizer Vの何が魅力で、どんな可能性がありそうなのか。Daichiさん、作曲家の田辺恵二さんに、話を伺ってみました。

プロの作曲家が集まってSynthesizer Vを使ったコンピアルバムを作るという田辺恵二さん(左)と鈴木Daichi秀行さん(右)

Maiの歌声に衝撃を受け、SNSを通じてプロジェクトスタート

--ガチプロ勢でSynthesizer Vを使ったコンピアルバムを作るという話を先日、DaichiさんのFacebookで見かけましたが、これはどういうキッカケでスタートしたプロジェクトなのですか?
Daichi:Synthesizer V、それまでまったく使ったことはなかったのですが、Maiの歌声を聴いて驚きました。僕もレーベルをやっているので、これを使ったコンピアルバムを作ったら面白いのでは…と思ったのです。その夜にTwitterのSpaceで話をしてみたところ「やりたい、やりたい!」とプロの面々から声があがり、Facebookにも書いてみたところ、すぐにメンバーが10人ほど集まりました。あまりいっぱい人が集まりすぎても、収拾がつかなくなりそうなので、即メンバー募集は終了し、詳細を練っていくことにしました。
田辺:僕は何か月か前からSynthesizer Vを使いだしていたんですが、1.6.0、1.7.0、1.7.1……とスゴイ勢いでバージョンアップを繰り返し、1.8.0となっていったじゃないですか。自分でも仮歌などに使っていたんですが、これはかなり使えるぞ…と思っていたところ、DaichiさんがTwitterのSpaceでコンピアルバムをやる、という話を切り出していたので、即参加したい、という話をしたんですよ。

--その後、Daichiさん、実際Synthesizer Vは使ってみたんですか?
Daichi:はい、もちろんです。実はすでに持ってはいたけど、使ったことがなかった状況だったので、すぐに試してみました。田辺さんも、いろいろ動画を作ってアップされていたので、その辺も参考にさせてもらいながら実際に僕もプリプロで歌わせてみたところ、メチャメチャ自然なんですよね。でも、まだ今の時点ではDTMや宅録をしてる人ならSynthesizer Vについて知っていても、一般の人には知られていないんと思うんです。だからこそ、AIの歌声がこんなに凄くなっていることを感じてもらうのにはいいチャンスではないかと思ったのです。従来のボカロっぽい人工的な歌声ではなく、普通の曲を歌わせてまったく違和感がないあたりを感じてもらえればな、と。

--田辺さんはVoiSona登場当初、かなり興味を持たれて、その後Synthesizer Vを使ったり、NEUTRINOを試してみたりといろいろ使っていましたよね。その中で、今回Synthesizer Vに絞った経緯を教えてもらえますか?
田辺:VoiSonaというか、その前身であるCeVIO Pro(仮)が出たタイミングで使ってみて、今のAI歌声合成のすごさに驚きました。VOCALOID以来、久しぶりに使った歌声合成でしたが、その進化具合に驚いて、いろいろ試してみたのです。Macがメインであるため、CeVIO AIは対象外だったのですが、NEUTRINOを試したり、Synthesizer Vを買ってみたり…。なかでも数か月の間でSynthesizer Vがどんどんバージョンアップして、より人間らしく成長していく点には度肝を抜かされました。Daichiさんと、コンピアルバムの話をしていているなか、AI歌声合成なんでもよしとするより、ある程度の条件を付けたほうがみんな取り組みやすいだろう、ということになったのです。やはりMacユーザーが多いこともあり、Macで動くこと、そしてDAWのプラグイン環境で動作すること、そして歌声が複数あり、選択肢があること……となったとき、必然的にSynthesizer Vになったわけです。

Mac/Windows/Linuxで動き、プラグインで使え、歌声にそこそこの選択肢があるということで、Synthesizer V限定で行くことに

Synthesizer Vは音楽制作の工程を大きく変える

ーーDaichiさんも実際にSynthesizer Vを使ってみていかがでしたか?
Daichi:めちゃめちゃ使いやすくて驚きました。ベタ打ちで、かなり自然に歌ってくれるのはすごいな、と。作家として曲を作るときの効率が大きく変わるのではないかと感じました。曲を作ったとき、自分が歌えればいいけれど、ほとんどの人はそうはいかないし、かといっていちいち仮歌さんを呼んで録るというのもなかなか面倒。ちょっと変えよう、ワンフレーズだけ変えてみよう…といったことが簡単にできるのは嬉しいですね。自分で歌詞を書いて、それを仮歌さんに渡して、はめてみたら思ってた感じと違う…というケースはよくあります。譜割りの仕方を含め、そこまで攻めた形にはなかなかできないというか…。そんなとき、Synthesizer Vにやってもらえれば、簡単に試行錯誤もできるし、トライがしやすくなる。曲の作り方が大きく変わってくると思います。

 

鈴木Daichi秀行(すずき・だいち・ひでゆき) Twitter @daichi307
バンド「Coney Island JellyFish」のメンバーとしてSonyMusicよりメジャーデビュー。YUI、絢香、miwa、家入レオなどのアレンジ、サウンドプロデュースからハロー!プロジェクト、SMAPなどの編曲など幅広く活動している。近年では新たな才能を求め新人発掘、育成などにも力を入れ自社スタジオ【Studio Cubic】を活動拠点として、自身の音楽レーベル【Studio Cubic Records】を設立、運営している。

 

--田辺さんは、いかがですか?
田辺:作詞・作曲・編曲・レコーディングまで全部やるケースなんかもよくありますが、その場合、全部平行して進めるんですよ。この歌詞でいくなら、このフレーズに…って。そんなとき、Synthesizer Vを使えば、簡単に行ったり来たりできるというのはいいですね。仮歌さんにリモートでお願いするとして、譜割まではなんとか伝わったとしても、歌のニュアンスまでは伝わらない。もちろん、ここに来てもらって一緒にやるのがベストだとは思うけど、作業スピードとかを考えると、いまはだいたいデータのやり取りですからね。そう考えると、手元で全部できると効率は上がりますね。
Daichi:アレンジの面からいうと普通はシンセサイザをメロディラインとして入れて作っていいくのですが、どうしても音域的なところが想像しながらやるしかなくて…。歌が入ると、この感じだから、ここの部分は開けておこうみたいなのは感覚的にやるしかないんです。でも、Synthesizer Vでボーカルが入ることによって、音の逃がし方とか、歌にぶつかっているところをアレンジ段階で回避させるとか、その場で判断できるのは、めちゃめちゃ分かりやすくて便利です。
田辺:VOCALOIDと違って、出ない音域は出ないというか、無理やり出しても明らかに変になるという点もリアルですよね。すごく感じたのは、若手の作家が曲を作るとき、実際の生歌を入れて……というのは簡単じゃないと思うんです。仮歌代など予算を考えると、その前段階で、AIボーカルに歌わせる意義は大きい。いい曲作るんだけど、実際には音域を広く作りすぎちゃう子も多いんです。Aメロが低すぎ、サビは高すぎちゃうとか……。なんとか低い歌声が出たとしても、もごもごしちゃって、まったくダメとか…そういった学習用途としても意味がありますよね。

 

田辺恵二(たなべけいじ) Twitter @KG_Tanabe
1991年よりCHARAや古内東子のデビューアルバムに参加。及川光博やゴスペラーズのアルバム、ツアーに音楽監督、作編曲家として関わり以降SMAP 浜崎あゆみ 柴咲コウ 岡本真夜 AKB48 SKE48 他多数の作品に作編曲家として参加。2002年2006年日本レコード大賞金賞受賞(編曲)、現在は作家活動のほかネットTV MCやラジオパーソナリティなど、他分野にも精力的に活動中。

 

--ちょっと話がズレちゃうかもしれませんが、Synthesizer VなどのAIボーカルでコンペに出すというのは可能なんですかね?よくVOCALOIDはNGなんて話を聞きますが。
Daichi:たぶん、気づかないんじゃないですかね?「最近、この子の仮歌増えてるな……」なんて思われるくらいで(笑)。下手にガチガチにピッチを直した人間より、Synthesizer Vに歌わせたほうが、自然ですからね。たまに音痴になるところがあるあたりが、より人間らしく聴こえたりして……。課題があるとしたら声の種類ですかね。この辺が充実してくれば、ますます使えるようになると思いますよ。
田辺:実際、僕はSynthesizer Vで歌わせたもので出しているし、実際にそれでキープとなっている作品も出ていますが、先方は全然気づいてないと思いますよ。この辺の手法は大きく変化していくと思います。

現時点、9名のガチプロ勢が集結

--さて、本題ですが、今回そのガチプロ勢、かなり集まったとのことですが、具体的にはどなたが参加されるのでしょうか?
Daichi:TwitterのSpaceで最初に話をしたときに田辺さんが参加してくれたほか、ちょうど瀬川英史さん、中土智博君が入っていたのでお願いしました。またMiliというユニットをやってるYamato Kasai君も、「何それ??」と言ってきたので、「じゃあ、入ってよ!」と。その後、Facebookで告知したら、水島康貴さんが入ってきて…。
田辺:その後個別にコモリタミノルさん、松隈ケンタ君、ケンカイヨシなんかに声を掛けたら即答でやる、という返事をもらったんですよ。ここまで揃うと面白いかな、と。

--そして、それを配信リリースするんですね。
Daichi:はい、いま配信の形でのアルバムリリースを予定しています。いろいろな方々から意見を聞いてみたところ、「若者を入れたほうがいいんじゃないか!」という声があがったんです。そこについてはもともと一般枠を設けて……と考えていた一方で、このコンピアルバム、ボカロと差を付けなくては、という命題を設けていたんです。ここに若手で人気のある作家を入れるとなると、結局ボカロになっちゃう。だから「あの曲を作った人」みたいな打ち出し方のほうがキャッチーじゃないか、そっちに振っちゃったほうがいいんじゃないか、と。確かにおじさん連中だけでアルバムを作るのって寒いのでは…というところから若者を…というアイディアだったのですが、やはり差別化しなくちゃいけない。
田辺:だから参加してくれるみなさんには、あまり新しいことチャレンジするんじゃなくて、いつも通りにやってください、と(笑)。「この人が作る曲って、やっぱりこういう曲だよね」って王道的な作り方をしてほしいんですよ。
Daichi:せっかくなので、この1回で終わらせるのではなく、続編も作っていきたいんですよ。たとえば松田聖子のアルバムとか、昭和アイドルのアルバム…とかね。プロが作るとこうなる……みたいなことをいろいろできたらいいな、と思ってます。

プロの作家陣が、本気でSynthesiezer Vを使った作品作りに取り組んでくという

一般公募を開始、締め切りは2023年1月20日

--そのガチプロ勢の中に一般枠を設けるというのはどういう意図なんですか?
Daichi:このコンピアルバム、確かに主役はSynthesizer V、AIボーカルではあるんだけど、実際にはそれは1つのテーマであって、ホントの主役は作家なんですよ。商業作家的な感覚でいうと、作家が主役になれるという機会って、ほとんどない。そういう人たちが集まって、一緒に何かをするという機会もなかなかないので、面白いんですよね。そこに一般枠を設けるということは、新人発掘というか……。当然、業界関係者もみんな見ていると思うので、注目度は高いと思うのです。僕らとしても、才能ある子を見つけていきたいし、大きいチャンスになるんじゃないか、と。

--その一般枠に参加するための条件って何かあるんですか?
田辺:そこは、我々みんなと一緒ですね。同じAIボーカル、つまりSynthesizer Vを使って作品を作るだけですよ。Synthesizer Vでどのくらいのことができるのかをチャレンジしたいので、その後にMelodyneとかAutoTuneとかでピッチを補正するのっていうのは無しにしようという話をしているんです。
Daichi:基本的なところでいうと、歌はあくまでもSynthesizer Vのエディタ内だけでつくる。その後にEQとかコンプは使ってOKなんだけど、ピッチ補正はしないようにしよう。それだけが条件ですね。

--ということは、別に素人であることが条件じゃないのなら、プロが参加してもOKということですか?
田辺:はい、プロ・アマ関係なく、エントリー自体は同じです。誰でもいいです。まあ、でもエントリーして落ちたときのショックはなかなかかもしれませんね。もちろん、落ちているから発表はしないけれど、SNSで「エントリーしたぞ!」なんて宣言すると…(笑)。
Daichi:まあ、今回は見送りつつ、次のアルバムに参加してもらうとかね……いろいろやり方はあるとは思いますが。もっとも今回の一般枠、「若者にチャンスを!」というのを掲げているから、実績あるプロ作家があんまりエントリーしてくることはないとは思うけど(笑)。

--そのエントリーや実際のリリースなど、今後のスケジュール的にはどんな感じでしょうか?
Daichi:一般公募は12月26日にスタートし、来年1月20日に締め切ります。その後なるべく早めに選考し、2月15日までには結果発表ができればと思っています。その上で制作をすすめ、4月末ごろのリリースを目指しているところです。今後、このプロジェクトに関わるエンジニアなども含め、メンバーも増えてくると思うので、最新情報は随時、「Synthesizer Vコンピアルバムプロジェクト一般公募枠のお知らせ」のページを更新していきます。ぜひ多くの人に参加してもらえたらと思っています。

--ありがとうございました。今後の展開、楽しみにしています。

【関連情報】
Synthesizer Vコンピアルバムプロジェクト一般公募枠のお知らせ
Synthesizer V製品情報

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