【NAMM2023レポート4】Danteの競合!?Analog Devicesが打ち出すオーディオとMIDI 2.0の伝送システム、A2Bとは

先日アメリカ・アナハイムで行われたThe 2023 NAMM Showでは、さまざまな新製品、新サービスの発表がされていました。規模が少し小さくなったせいもあるのか、目立った製品が少なかった印象ですが、その中で、個人的に非常に興味を持ったのがAnalog Devices(アナログ・デバイセズ)が展示していたA2B(エーツービー)という伝送技術です。2線のツイストペアケーブルやUTPケーブルでデジタル的にオーディオおよびMIDI 2.0の信号を伝送するというもので、ここではLANケーブル(RJ45)やXLRケーブルを用いて接続したデモが行われていたのです。24bit/48kHzのオーディオであれば、同時に32chの伝送が可能で、単に1:1での接続だけでなく、最大16台までのノードをデイジーチェーン(数珠繋ぎ)で接続できるという技術とのこと。

その最大16のノード間は完全に同期し、その遅延はすべてのノートで50μsecちょうどというので、ほぼゼロレイテンシを実現。またノード間は最大30mで、16ノードまで繋いだ全体の長さは最大300mとなっているので、さまざまな応用が可能なようです。NAMMで展示されていたデモを見せてもらうとともに、A2Bの詳細についてAnalog DevicesのマーケティングディレクターであるDavid Dashefskyさん、アプリケーションエンジニアのリーダーであるEric Clineさんにお話しを伺うことができたので、その内容を紹介していきましょう。

Analog DevicesがNAMM ShowでA2Bというオーディオ、MIDI伝送システムを発表

Analog DevicesはUniversal AudioのUAD-2デバイスの中に入っているDSPなどを開発するメーカーとしてDTMの世界でも著名なLSIメーカー。そのAnalog Devicesがこれから普及を進めようしているのが、今回展示されてA2B(Automotive Audio Bus)というものです。

LANケーブルを使って接続するタイプと、XLRケーブルを使って接続するタイプの2種類がありますが、このA2Bで接続するとオーディオやMIDI 2.0を伝送できるいう面では、Danteとも近い規格であり、Danteよりもシンプルで、価格的には断然安い値段で提供できる、とAnalog Devicesは言っています。

デモ1:XLRケーブルで接続されたシステム

今回LANケーブル接続のもの、XLRケーブル接続のもの、それぞれ展示されていたので、具体的にどんな内容だったのか紹介してみましょう。

MIDIキーボードやギター、マイク、パソコンなどを接続するデモが行われていた

まずはXLRケーブルで接続されたデモのほうからです。キーボードやギター、マイク、パソコン、スピーカーなどが並んでいますが、それぞれの楽器やデバイスが、黒いボックスに接続されています。

A/DやD/A、またMIDI 1.0-MIDI 2.0変換器などが内蔵された黒いボックスがデイジーチェーン接続されている

そしてこの黒いボックス同士がXLRケーブルで数珠繋ぎになっているのです。この黒いボックスこそが、今回Analog Devicesが打ち出すA2Bの半導体デバイスを搭載した機能評価用基板を内蔵したデモ機であり、これらを単にXLRケーブルで繋ぐだけで、簡単に接続できてしまい、オーディオやMIDI信号が流れるようになっているのです。

Danteのようにマトリックスを組んで信号のルーティングを設定するのではなく、接続すればすぐ使えるという点では、よりシンプルなシステムです。ブロックダイアグラムがあるので、こちらを見るとより詳細が確認できます。

XLRケーブルで接続されたA2Bのデモのブロックダイアグラム

それぞれのボックスにAという端子とBという端子があり、それぞれを数珠繋ぎにしているわけです。各ボックスともオーディオの入出力、MIDI入出力が搭載されており、目的に応じてMIDIキーボード、ギター、マイク、スピーカー……などが接続されている形でえす。

ここで気になるのは、なぜMIDI 2.0対応になっているのか、ということ。実は既に昨年のNAMMで「MIDI 2.0 over A2B」というものをアメリカのMIDI管理団体であるMMA(MIDI Manufacturers Association)が発表しており、それに則った仕様になっているのです。ただし、現状まだMIDI 2.0対応のキーボードなどは出ていないので、普通にMIDI 1.0で接続した上で、今回のデモしていたボックスの中でMIDI 1.0ーMIDI 2.0の変換をした上で送受信しているんですね。

MIDIキーボードやモニタースピーカー、ギター、MacなどがA2Bで接続されている

一方、A2BはオーディオやMIDIの伝送だけでなく、電力も送れるというのも大きな特徴となっています。具体的には1つのネットワークで最大50Wまで送れるとのことで、ここに並んでいるボックスはそれぞれXLRケーブルから電力供給されているので、ACアダプタや電池不要となっています。

デモ2:LANケーブルで接続されたシステム

では、もう一つのLANケーブルを用いたデモのほうも見てみましょう。こちらは、YAMAHAのデジタルミキサーであるQL1と、KORGのvolcaを2台接続したシンプルな構造です。普通ならミキサーのアナログ入力に1本ずつのケーブルで接続するところを、ここではA2Bを使ってデイジーチェーン接続しているというのがポイントです。

YAMAHAのデジタルミキサーQL1の拡張スロットにA2Bのボードが入っている

また、QL1内には、Analog Devicesが製作したPOC基板によるA2B拡張ボードが装着されており、ここにLANケーブルを挿せば使えるようになっている点ではDanteともよく似た構成ですね。

QL1とvolca Drum、volca FMがA2Bで接続されている。ケーブルにはRJ45が利用されている

本来であれば2つのvolcaにもA2Bからの電源供給をしたかったようですが、A2B信号線は24Vで50Wの伝送をしているいっぽう、A2B評価基板ではこれを5Vにして基板上のデバイスなどに電源供給している形です。一方でvolcaは9V駆動。評価基板上の5Vから9Vへの昇圧回路を搭載すればvolcaへの電源供給も不可能ではなかったようですが、今回は準備ができなかったために、volcaに対してはACアダプタでの電源供給だったようです。

手前のA2Bデバイス(左側は黒いボックスに入っていて、右はその中身のボードむき出し)を通じてvolcaが接続されている

さてそんなデモを見つつ、Analog Devicesのお二人にインタビューしてみました。

 

Analog Devicesインタビュー

--このA2Bはどのような経緯で登場したものなのでしょうか?
David:A2Bは、もともと車載用のシステムとして2018年ごろに開発したものです。クルマの中には数多くのスピーカー、オーディオデバイスがされていますが、それらを効率よく配線することを目的に開発したものです。この技術をもっと広く利用するために改良して作ったのが今回のコンシューマー向けA2Bです。車載用のA2Bと似ているけれど、接続距離や電力供給、MIDI 2.0などいろいろな面で大きく改良したICを使っています。

--車載用のシステムを応用して作られたというわけですね。
David:その通りです。いい技術ができていたので、ほかにも用途があるのでは、と社内で検討していました。たとえばラックマウントされたオーディオ機器の接続には使えるはずだ、というのが最初にありました。その関連で音楽系にニーズがあると考えたほか、オンラインミーティングなどの分野でも利用できそうだという調査結果も出て、開発へ進んでいったのです。

アプリケーションエンジニアのEric Clineさん(左)とマーケティングディレクターのDavid Dashefskyさん(右)

--48kHz/24bitで32チャンネルということでしたが、1本のケーブルで双方向でやりとりできるのですか?
Eric:はい、双方向混在可能です。すべて登り方向に32chでもいいし、すべて下り方向32chでもいい。登りも下りも16chでも組み合わせは自由です。このとき、最大16個まで接続できるノードすべてが同期がとれているので、ノード間での音のズレはなく、レイテンシーは50μsec以下です。もちろん、96kHz/24bitや192kHz/24bitの伝送も可能で96kHzの場合、48kHzを2つ束ねることになるので最大16ch、192kHzなら最大8chとなります。

--A2BではMIDI 1.0ではなくMIDI 2.0対応となっていますが、この背景について教えてもらえますか?
David:これまで楽器業界などと話し合いを行ってきた結果、A2B上で通すのであればMIDI 2.0にしよう、ということになり、2022年6月1日に、MMAが「MIDI 2.0 over A2B」という発表を行っています。MIDI 2.0であればMIDI 1.0を包括するので、現行のMIDIも問題なく使うことが可能です。ここでのでデモではRolandのキーボードのMIDI 1.0の出力を取り込み、これをMIDI 2.0にリアルタイム変換した上でA2Bに流している形です。同様にMIDI 2.0で流れてきた信号をMIDI 1.0に変換した上で、Garagebandの音源を鳴らしているのです。

YAMAHAのQL1に内蔵されていたA2Bのボード

--LANケーブルを用いてオーディオ伝送するというとDanteが思い浮かびますが、A2BはDanteと戦っていくのですか?
David:Danteはすでに大きな実績があるし、これと競合したいとは考えていません。我々はDanteをパートナーと考えており、うまくすみ分けができればと思っています。A2BはDanteと比較してシンプルなシステムであり、価格も非常に安いので、うまくブリッジして使うなどの方法を模索したいとも考えています。

--Danteの場合、Dante Controllerというマトリックスを組んでいくコンフィギュレーターがありますが、A2Bの場合はどうなっているのですか?
Eric:将来的にコンフィギュレーターを作るというアイディアはありますが、現在のところは接続すればすぐに使えるPlug&Playを基本にしています。そのため使い方もシンプルです。

--A2B、とっても興味がありますが、これはいつ頃、発売されるのでしょうか?
David:Analog Devicesはあくまでもチップメーカーなので、最終的な製品は楽器メーカーやオーディオ機器メーカーが、発売する形になるので、いつということは名言することはできません。われわれが、このコンシューマー向けのA2Bのチップの出荷を開始するのは今年の夏を予定しています。これを各メーカーが採用して、製品化していくため、一般論的にいえば、その1年後くらい、つまり2024年あたりになるのではと思います。

A2B機器には今年夏出荷予定のAnalog DevicesのA2Bチップが搭載されている

--各楽器メーカーやオーディオ機器メーカーの反応はいかがですか?
David:CES2023でも、今回のNAMMでも音楽業界のみなさんは大変ポジティブに捉えていただいています。みなさん興味は持ってくれてはいますが、やはり新しい規格だけに、各社の動向の様子見という面はあると思います。われわれとしては、ぜひ各メーカーに具体的な利用例などを提案しながら、進めていきたいと思っています。

--ぜひ低価格で使い勝手のいい機材が登場してくれることを楽しみにしています。ありがとうございました。

 

A2Bの機材、ぜひDTMユーザーも気軽に便利に使える製品が登場してくれることを期待したいところです。Analog Devicesはもちろん日本法人もあり、幅広い展開をしているので、今後もA2Bの動向を追いかけていきたいと思っています。

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Analog Devices A2B情報

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