コンボリューションリバーブの代名詞、AUDIO EASEのAltiverbが12年ぶりの新バージョンをAltiverb 8を発売。高性能で圧巻のバリエーション数

すでにご存じの方もいらっしゃると思いますが、オランダ・ユトレヒトのソフトウェアメーカー、AUDIO EASEからコンボリューションリバーブ・プラグイン、Altiverbの新バージョン、Altiverb 8が発売されました。いまやコンボリューションリバーブ自体は、DAWにも標準搭載されるようになり、フリーウェアも存在するなど、珍しい存在ではなくなりましたが、プラグインの世界でコンボリューションリバーブの凄さを世に知らしめたのはAUDIO EASEのAltiverbであり、まさにコンボリューションリバーブの代名詞として20年以上の歴史を誇ってきています。

そのAltiverbが2011年以来、12年ぶりに新バージョン、Altiverb 8を出したということで、大きな話題になっていますが、さすがAltiverbの新製品だけに、その機能・性能は抜群。そして何より膨大なインパルスレスポンスの数を誇り、音楽制作用、ポストプロダクション(アフレコ)用など、さまざまなシチュエーションにおいて自在に音作りができる製品に仕上がっています。製品としては標準版でモノラル・ステレオで利用できるAltiverb 8 Regular(税込標準販売価格77,000円)と上位版でDolby Atmosなど最大9.1.6chで利用できるAltiverb 8 XL(同133,100円)の2種類。実際どんなプラグインなのか少し試してみたので紹介してみましょう。

AUDIO EASEのコンボリューションリバーブ、Altiverb 8が発売された

コンボリューションリバーブとは?

「コンボリューションリバーブって何?」という人もいると思うので、まず簡単に紹介すると、これはサンプリングリバーブやIRリバーブなどとも呼ばれるリバーブで、たとえば教会やコンサートホール、スタジオといった部屋で、信号音をサンプリングしたインパルスレスポンス(IR)と呼ばれるデータを用いて、その場所の音を再現するタイプのリバーブです。その音を再現する過程で、コンボリューション=畳み込み演算という方式を利用するために、コンボリューションリバーブと呼ばれているのです。

現場にレコーディング機材を持ち込んで、正確にIRの収録を行う

リバーブにはバネを用いたスプリングリバーブや鉄板を用いたプレートリバーブなどのアナログリバーブと、演算によって反響音を作り出すデジタルリバーブがありますが、そのデジタルリバーブにも、アルゴリズムリバーブとコンボリューションリバーブの大きく2種類があります。アルゴリズムリバーブは反響音的になるようにディレイを調整して音を作るものであるのに対し、コンボリューションリバーブはIRを用いて畳み込み演算をするため、仕組みは複雑で、実際に教会やコンサートホールなどの場所に行って、正確な作業を元にサンプリングをする必要があるため開発にも莫大な労力とコストがかかります。

IRの収録にはかなり多くの機材とスタッフが必要となるため、多くのコストがかかるのも事実

またコンボリューションリバーブという言い方はするものの、必ずしもリバーブというニュアンスとは異なるものケースも多いのもユニークな点です。たとえば、クルマの中の音や寝室での音、キッチンでの音……など、いろいろな場所の音場を再現するエフェクトと考えたほうがいいかもしれません。

世界初のコンボリューションリバーブ、Altiverbの最新版が誕生

そんなコンボリューションリバーブを2001年に世界で初めてソフトウェアで実現させたのが、AUDIO EASE社のAltiverbだったのです。AUDIO EASE社自体は1994年にオランダのヒトレヒト芸術大学music technology科の卒業生によって設立され、音響ソフトウェアの開発を行っていましたが、このAltiverbのリリースにより、世界中に広く知られるようになり、音楽、ポストプロダクション、ビデオゲーム、アミューズメント産業……など、幅広い世界で利用されるようになっていった、という経緯があります。

そんなAltiverbが2011年登場のAltiverb 7以来12年ぶりの登場となったわけですが、そのAltiverb 8を紹介するビデオがあるので、こちらを見ると、どんなソフトで、どんな効果があるのかがとってもわかりやすくなっています。

このAltiverb 8は、Mac、Windowsの双方対応となる予定ですが、12月18日時点では、Windows版が出ておらず、Macのみの対応となっています。macOS 10.15(Catalina)以降に対応となっており、最新のmacOS 14(Sonoma)も対応しており、今回そのSonomaで試してみました。

現時点ではMac版のみで、AAX、VST3、Audio Unitの3つのプラグイン形式に対応している

またプラグイン規格としてはAAX、VST3そしてAudio Unitに対応しており、インストール時に選択できるようになっています。

冒頭で示した通り、ラインナップとしてはAltiverb 8 RegularとAltiverb 8 XLの2つがありますが、その違いは以下のとおりです。

Altiverb 8 Regular Altiverb 8 XL
入出力フォーマット モノラル/ステレオ モノラル~最大9.1.6ch(DAWの仕様に依存)
対応サンプルレート 最大96kHz 最大384kHz
Dolby Atmos互換入出力対応
音源位置にリバーブ成分を絞り、パン動作に追従

いくつかの違いはありますが、一般的なステレオでの作業、つまりほとんどのDTMユーザーであればAltiverb 8 RegularでOKで、Dolby Atmosなどイマーシブ環境でリバーブを使いたいのであれば、Altiverb 8 XLが必要となる、と考えればいいと思います。

Altiverb 8 Regularと上位版であるAltiverb 8 XLの2種類の製品がある

気になるIRライブラリの数自体はRegularもXLも同じ。25年に渡って世界中で収録してきたオリジナルのIRが入っており、単にファイル名だけでなく、それを示す写真やイラストがセットになっているので、パッと見で選ぶことができるのも便利であり、楽しいところです。

イメージにマッチした画像を選ぶだけで即利用可能

さて、Altiverb 8を起動すると、AVアンプみたいな雰囲気のUIが登場し、中央には現在選択しているIRデータを示す画像が表示されます。リバーブなのでセンド/リターンの形で使ってもいいのですが、音作りをすべてAltiverbに依存する…という意味ではインサーションで使うというのが分かりやすそうです。

Altiverb 8を起動すると、AVアンプのようなUIが立ち上がる

左側の大きいノブを使ってリバーブタイムを調整することが可能になっていて、右側の小さなノブで出力ゲインやドライ/ウェットの調整を行う形です。

そして、Altiverb 8の一番の醍醐味が、IRライブラリの豊富さにあります。先ほどのコンサートホールが表示された画像もしくは、その左下のライブラリボタンをクリックすると、IRライブラリのブラウザが現れます。

メイン画面の画像部分をクリックするとIRのブラウザが表示され、ここから選ぶことができる

左側で大きなジャンルを選択し、そこに表示された画像の中から目的のIRを選ぶというのが基本的な選び方です。そのジャンルとしては大きく

MUSIC
POST
GEAR
DESIGN

とあります。文字通りで、MUSICが音楽制作用、POSTがポストプロダクション(いわゆるアフレコ)用、GEARは実際の場所での音ではなくリバーブ機器などを使ってIRを作りだしたもの、さらにDESIGNも場所というよりも、道具を使ったシチュエーションです。つまりバケツの中とか、洗濯機の中、土管の中……などの音を再現するものとなっています。

もちろん、ジャンルで選ぶだけでなく、タグなどを使って検索していくことも可能です。

音楽制作に使える数多くのIRを収録

この大きく4つのジャンルの中には、膨大なIRデータが並んでいます。たとえばMUSICを選んでみると、さらにその中は小ジャンルとして

concert hall:コンサートホール
religious:宗教施設(教会やモスク)
studio:レコーディングスタジオ
scoring stage:大規模スタジオ
opera&theatre:オペラハウス/シアター
staduum:スタジアム
mausoleum:ピラミッド・霊廟
club:クラブ
miscellaneous:その他

となっており、それぞれに数多くのIRがあるので、それらをちょっと選んでみるだけで、音場の雰囲気が大きく変わってくるのが分かります。

世界中の教会やモスクでのIRライブラリが用意されている

音楽制作に非常に役立つコンサートホールやスタジオ、スタジアムといったバリエーションが数多く用意されているところはうれしいところですし、それも世界の名だたるところが揃っています。

さまざまなレコーディングスタジオの音の響きを再現することができる

一方で、教会・聖堂での音の響きって、独特で深いものがありますが、そうした施設でも数多くのIRが用意されているだけでなく、イスラム教のモスクでのIRもいろいろあるのも面白いところ。確かに、聖堂の響きとはちょっと違った音のニュアンスであるため、どう使うかはアイディア次第です。

ポスプロで利用できる数多くのシチュエーション

さらにAltiverbの凄いのは、ポストプロダクション用としても数多くのIRが収録されている、という点です。こちらも選ぶと、さらに以下のような小ジャンルが表示されます。

domestic:家の中
car:クルマの中
aircraft-train&boat:飛行機、電車、船
outdoor:野外
undergraoud:地下施設
next door,wall,floor:部屋空間シミュレーション
corridor&stairs:廊下・階段
public spaces:公共施設
school&office:学校・会社

これらは、前述のとおりポスプロの世界で使うことを想定したIRです。つまり映画などの音声収録をする際、スタジオでレコーディングしたものを、あたかもその場所で収録したかのような音に仕立てるもので、家の中や乗り物、学校など、さまざまな空間が用意されています。

ポストプロダクション用途として、家の中のさまざまな部屋のIRも収録されている

が、もちろん、これらポスプロ用のIRを音楽で使うのもアリ。想像以上に多くのシチュエーションが想定されていいます。同様に、DESIGNも、さまざまなサウンドになり、Altiverb 8を通すことでとてもユニークな音の響きになるので、いろいろ試してみると面白いです。

クルマの中の音を再現することも可能

GEARを利用してビンテージエフェクトを再現

もう一つ重要なのがGEARです。本来、IRは現場にいってインパルスという信号音をスピーカーで出し、それをマイクで収録する形で作成するのですが、いわゆるエフェクト機器の入力にインパルスを入れて、出力をそのまま収録することでIRを生成することができます。そして、このIRを利用すれば、エフェクト機器と同様の音の変化をさせることが可能です。

数々のビンテージ機材の音を再現することも可能

そのような方法で、作成したIRがAltiverb 8に数多く収録されているのです。主にはビンテージ機材を収録しているのですが、具体的にあげるとEMT 246 Digital Reverb、Arp2600に内蔵されているスプリングリバーブ、AMS RMX16、SONY SDR1000、Roland RE-201 Space Echo、Lexicon L480……とさまざまな機材のIRが収録されており、それらビンテージ機器を正確に再現することができる、という意味ではAltiverb 8は非常に強力なツールだと思います。

アナログ機器を中心に多くのビンテージ・アウトボードを再現できるので、これだけでも大きな利用価値がある

音作りも自由自在

こうしたIRを読み込んで、そのリバーブタイムと出力レベルを調整するだけでも、十分すぎるほど多くのバリエーションがあるのですが、もう少し音を調整してみたい……というケースもあるでしょう。Altiverb 8ではもちろん、そした音作りの面でも大きな威力を発揮してくれます。

まず音色づくりという意味ではCOLORタブを用います。ここにはEQがあるので、これを使って周波数調整をするとともに、SIZEで部屋の広さを調整していきます。

COLORで音色作りをしていくことができる

さらにDAMPINGスイッチをオンにすることで音の減衰部分の調整も可能になります。HIGH、MID、LOWなど5つのパラメータがあるので、これらを使って調整していくことができます。

そしてTIMEタブを使うことで時間に関する音作りも可能です。アタックやプリディレイの調整ができるだけでなく、REVERSEをオンにすると逆再生の形になるほか、一番右の項目でゲートリバーブを設定するといったこともできるようになっています。

TIMEではATTACKやPre DELAYなどの設定が可能

さらにユニークなのがPOSITIONERというタブでの調整です。ここでは、音の位置を調整することが可能となっています。つまり、大きなホールなどで音の発生源となる位置が遠いと、非常に遠い音になってしまうのに対し、これをもっと近くに持ってくると直接音もハッキリと聴こえて、近い音になります。その場所の調整をできるようになっているので、どこに音源を置くかここで決めることができるのです。

POSITIONERで音源の位置を決めることができる

Altiverb 8 XLならイマーシブオーディオにも対応

ここまではモノラル、ステレオで使うことを前提に紹介してきましたが、Altiverb 8 XLであれば5.1chなどのサラウンドはもちろん、7.1.4や9.1.6などのイマーシブオーディオにも対応しています。

昔から多くのマイクを立ててIRの収録をしてきたからこそ、実現できるわけですが、いま需要がどんどん大きくなっている空間オーディオ用のコンボリューションリバーブとして、Altiverb 8 XLを活用することができるのです。

画面右上にイマーシブ環境におけるスピーカーの位置が表示されている

7.1.4chなのか、9.1.6chなのかなど、DAW側でチャンネル設定をしたうえで、Altiverb 8 XLを挿入すると、画面右上に、そのチャンネルの状況が表示されるようになっています。そのうえで、各チャンネルごとにミュート、ソロ、ゲイン、ディレイなどの設定ができるので、そこで調整をすれば、あとは、先ほどのモノラル/ステレオと同様の使い方で、イマーシブサウンドを構築していくことができるようになっているのです。

各チャンネルごとにSOLO/MUTE、ゲイン、ディレイの設定ができる

以上、コンボリューションリバーブの元祖であり、今も最先端を行くAUDIO EASEのAltiverb 8について紹介してみました。リバーブの音をさらに向上させたい、もっと工夫したいという思いがあるのであれば、この機会にコンボリューションリバーブの本家ともいえるAltiverb 8を導入してみてはいかがですか?

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