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「初音ミクV6」はこうして生まれた――クリプトン×ヤマハ開発陣が語る「初音ミクらしさ」をAIで実現するまで

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多くの方もご存じの通り、2026年4月14日、VOCALOID6に対応した歌声合成ソフトウェア「初音ミク V6」が正式リリースされました。VOCALOIDとしては「初音ミク V4X」以来となる大型バージョンで、ボイスバンクも「Original」と「Soft」の2種類が同梱される形での登場となりました。DTMステーションでは、これまで「初音ミク NT(Ver.2)」に関するインタビュー(過去記事参照)や、「鏡音リン・レン NT」とVOCALOID 6の相互互換に関するインタビュー(過去記事参照)の中で、開発中だった初音ミク V6の状況について少しずつお伝えしてきました。

そして先日、この初音ミク V6を実際にiPhone/iPad用の「Mobile VOCALOID Editor」で使ってみようとしたところ、無事にV6のボイスバンクが購入できる状態になっていることを確認できました。Mobile VOCALOID Editorについては、2025年10月にリリースされた新バージョンをレビューした記事(過去記事参照)でもお伝えした通りですが、そこからどのような経緯で初音ミク V6が搭載されるに至ったのか。またそもそも、初音ミク V6はどのようにして生まれたのか。今回は、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社から初音ミク プロデューサーの佐々木渉さん、SONICWIRE・音楽事業チーム チームマネージャーの小泉聖道さん、そしてヤマハ株式会社から新規事業開発部 VOCALOIDグループの才野慶二郎さん、新規事業開発部 VOCALOIDグループの吉田雅史さんの4名にオンラインで集まっていただき、初音ミク V6誕生の舞台裏と、Mobile VOCALOID Editorへの展開について、たっぷりお話を伺いました。

2026年4月にリリースされたVOCALOID6 初音ミク V6

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すべての始まりは2023年末、佐々木さんと吉田さんのやりとりから

――前回、初音ミク NT(Ver.2)についてお伺いした際に、VOCALOID6版の初音ミクも同時に動いているという話をチラッと伺っていました。VOCALOIDとしては「初音ミク V4X」以来の大型バージョンということになりますが、まずはV6が生まれた経緯からざっくり教えてください。
佐々木:吉田さんとのメールのやりとりを見返してみたのですが、「VOCALOID6」で検索すると出てくる一番古いものが、2023年12月ごろでしたね?
吉田:そうですね、2023年の12月くらいに「年明けにお話しできませんか?」というようなやりとりをしていた記憶があります。そこから具体的に話が動き始めたのは2024年の春ごろで、24年の「マジカルミライ」の前に発表、という流れでした。
佐々木:2024年の春先の段階では、正直「どこまでできるんだろう」という手探りの状態でした。当時のメールを見返すと、自分でもかなり探り探りの内容が残っています(笑)。

クリプトン・フューチャー・メディア株式会社 初音ミク プロデューサーの佐々木渉さん

きっかけは「ピアプロキャラクターズ・スーパーパック」の相談だった

――そもそも、どちらから声をかけたのがきっかけだったのですか?
吉田:最初は私からですね。当時ちょうど「ピアプロキャラクターズ・スーパーパック」のご相談をいただいておりました。そこで私からVOCALOID6についてもご説明させていただきました。
佐々木:そのスーパーパックの話と並行して、「初音ミクをV6にするか、ご検討いただけますか」というオファーをいただき、私たちとしても「ぜひ検討したい」とお返事した、というのが最初の流れです。

ヤマハ株式会社 新規事業開発部 VOCALOIDグループの吉田雅史さん

NTとVOCALOID、2つのラインナップを並走させる理由

――一般のユーザーからすると、「初音ミク NT」が出た時点でVOCALOIDから離れたのかと思っていた方も多かったと思います。そこからNTとVOCALOIDの両方のラインナップを展開することになった理由を、改めて聞かせてもらえますか?
佐々木:そもそも初音ミクとして「AIシンガーをやる」ということ自体、最初はあまり考えていなかったんです。初音ミクには実在のモデルとなる人物がいないので、人間の歌声をリアルに再現するタイプのAI技術に、初音ミクの声がうまく乗るのかどうかも未知数でした。ですから、まずは「作る」ではなく「検証する」ところから始めないといけない。そのコストとリスクを、一緒に負っていただけるお相手がいなければ、そもそも始められない話だったんです。

初音ミクNTの最新版、初音ミクNTバージョン2

――まさにやってみないと分からない、という状態だったわけですね。
小泉:いわゆる「AI」という言葉があちこちで聞かれるようになってきた時代の中で、私たちのNTのエンジンは、あくまで楽器やシンセサイザーとしての演奏の楽しさに立ち返りながら、初音ミクらしさ、ピアプロキャラクターズのキャラクターらしさを再現できるように組み上げていく、という方向性で開発してきました。一方でVOCALOIDは、ヤマハさんの中でより人間らしい歌声を目指す方向でエンジンが進化を続けていらっしゃると思います。そちらに私たちが今お話ししたような考え方を持ち寄って連結させる必要があったんです。クリエイターのみなさんにとっての選択肢を増やせるならという想いは常にあって、いろいろな議論を積み重ねていく中で、自然とこの形に固まっていったという流れですね。

クリプトン・フューチャー・メディア株式会社 SONICWIRE・音楽事業チーム チームマネージャーの小泉聖道さん

既存の技術資産を活かした、初音ミク V6への提案

――吉田さんとしては、そうした話を持ちかけられた時、どう感じましたか?
吉田:私からVOCALOID6での展開をご提案しましたが、AI技術を使う場合でも、クリプトンさんが大事にされることは、「初音ミクらしさをどう表現するか」だと思っていました。ヤマハでは以前、「ZOLA Project」のVOCALOID6対応ボイスバンクを制作する際に、VOCALOID3の合成音声や当時の収録音声などを組み合わせ、ボカロらしさを保ちながら新しいボイスバンクを制作した、という経験がありました。もちろん、初音ミクにそのまま当てはめられるものではありませんが、既存の音声資産とVOCALOIDの技術的な知見を組み合わせることで、新しい選択肢を作れるのではないかと考えました。そのうえで、「こういう方法もありますが、一緒にできませんか」とお声がけした記憶があります。

VOCALOID6のVOCALOID:AIのボイスバンクとして登場した初音ミク V6

――佐々木さんとしては、その話を受けて、すぐに「これはいけそうだ」という感触はありましたか?
佐々木:いえ、全然なかったです(笑)。初音ミクらしい声というのは、ある種ロボティックな声質だったり、ある種の“癖”を含めての初音ミクらしさだったりするわけですが、ZOLA Projectにあるような、平均的な男性の声の中の一人という方向性とは、そもそも傾向がまったく違います。どこを丸めていいのか、どこは個性として突出させたままにしないといけないのか、その塩梅がまったく別物だろうと思っていました。
ただ、V4までの素片接続のアルゴリズムがどう動いていて、どんな癖が生まれているのかをロジカルに理解している吉田さんが相手だったので、「ここは再現できるはずです」という会話が、ちゃんと技術的な裏付けを持って成立する。VOCALOIDの仕組みを知らない第三者と、抽象的な話だけですり合わせていくのとは、そこが大きく違いました。

「初音ミクらしさ」とは何か、を問い直すところから

――具体的な開発は、どんな進め方だったのでしょうか?
小泉:本当に毎週何時間もミーティングをしていた記憶がありますね。
吉田:佐々木さんとサンプル音源をお送りしながら、VOCALOIDのエンジンにおける素片接続の話もしつつ、技術的な部分は基本的に才野が窓口となって詰めていく、という進め方でした。

――そこに才野さんも加わっていくわけですが、通常のボイスバンク開発だと吉田さんがディレクションを進めることが多いと思います。才野さんが入ることになった理由や役割は、どのようなものだったのですか?
吉田:実在の方の歌声を録音して作るのであれば、収録のスケジュールを組んで現場をディレクションするのが私の主な仕事になります。でも今回は、どういう学習データを用意すればいいのか、そのデータをどう作ればいいのか、というところから考えないといけない。そこで才野に入ってもらいました。学習データをどう作り、それをどうAIに学習させるか、という部分は、才野が一番深く考えたところだと思います。

才野さんが担った「学習データ」と「パラメータチューニング」

才野:手法としてはそういうことになるのですが、根っこの理由でいうと、これまで私たちが扱ってきたボイスバンクとは、毛色がだいぶ異なるターゲットだったからだと思います。初音ミクの歌声は人間の自然歌唱とは異なって、声の音色の時間的な変化などに特に特徴があり、もともと人間の歌声をリアルに再現することを主眼に作ってきたVOCALOID:AIエンジンで初音ミクらしさを表現するには、合成器や学習アルゴリズムの振る舞いまで立ち返って考える必要があったため、そこを技術的に把握している人間が直接手を動かしたほうがいい、ということで私が担当することになりました。

ヤマハ株式会社 新規事業開発部 VOCALOIDグループの才野慶二郎さん

――才野さんが入ったというのは、V6のエンジン自体をミクのために改造した、というイメージですか?
才野:基本的には、今あるVOCALOID6のエンジンに対して、どうやって学習させるかという方法論の部分です。学習データそのものを作ることに加えて、用意した学習データをどんなパラメータ設定で学習させるか。これは機械学習の勘どころのようなものが必要で、データをただ投げて待っていればできる、というものではありません。特に初音ミクの場合は、普通に人間の自然歌唱のデータに対して行うようなやり方ではうまくいかないので、学習アルゴリズム自体はそのままに、設定できるパラメータのほうを調整していく、というイメージに近いです。
吉田:才野は、素片接続の合成エンジンについての知見と、AIの合成エンジンについての知見の両方を持っている、数少ない人間なんです。「こういうデータを作って投げると、こういう音が出てくるだろう」という勘所が分かっているので、彼と佐々木さんの二人三脚で進んでいった、という感じですね。

――手探りだった、というのは具体的にどのあたりだったのでしょうか?
才野:私たちがこれまで扱ってきたのとは違うターゲットに対して、どこまでのことができるのか、それ自体を探っている状態でした。本来であれば「これができます、どうしますか」と提示するのが自然だと思うのですが、これまでの知見を活かしてどこまでできるのか、「初音ミクらしさ」とは何かを一緒に探るところから始まっていて。前半は本当に手探りが長く、後半になってようやく、できることとできないことが見えてきて「この辺りを目指しましょう」という話ができるようになっていきました。

「初音ミクらしさ」の再定義と、タイミングモデルの調整

――才野さんの話に、佐々木さんから補足はありますか?
佐々木:手探りというか、「初音ミクの声って結局何なんだっけ」というところをリマインドするところから始まった感覚があります。私たち自身が持っている「うまく再現できた初音ミクの声」のイメージはもちろんあるのですが、その何百倍、何千倍という数の意見が、ニコニコ動画のコメントから論文まで、世の中にはあふれています。私たち自身が思う初音ミクの声ではなく、クリエイターのみなさんが思う初音ミクの声とどう向き合うか。どこまでAIらしさに寄せて、どこまで従来のぎこちなさを残すか、そのさじ加減を自分たちの中で定めきれない時間が長くありました。
才野さんが「VOCALOID6の中にはこういう決まりごとがあって、ここはチューニングできる」と開示してくれるたびに、そこから出てくる音を聴き比べて、「これは初音ミクの許容範囲」「これはちょっとはみ出しているかもしれない」ということを、一つひとつ指差し確認するように決めていきました。これはかなり終盤まで続いていましたね。
声質の面でいうと、ヤマハさん側でもともと持っていた「タイミングモデル」という、発音の始まりから安定するまでの時間を、人間らしいオーガニックな感覚に近づけるための仕組みがあります。これを、初音ミクらしいVOCALOIDのタイミング感に、ある程度アジャストさせていく作業もしました。V2からV4の時代、素片接続で発声するうえでの技術的な制約が、結果的に初音ミクの個性として定着していた部分もあったので、どこまでが“味”で、どこからが技術的な制約による“癖”なのか。そこを切り分けながら、揺らぎがあってもオーガニックに気持ちよく聞こえるならOK、初音ミクらしさがぼやけてしまうならNG、という判断を積み重ねていきました。
これは、いわゆるシンセサイザーの作り方としては、おそらく逆なんです。普通は音の仕組みが先にあって、そこから音作りをしていく。今回は「初音ミクのイメージ」が先にあって、そのイメージに近いパラメータはどれなのか、という順番で詰めていきました。彼女に、それだけの知名度と存在感があったからこそ成立した、ソフトウェアシンセサイザーとしてはかなり珍しい作り方だったと思います。

開発の難所は一つではなかった

――当初の予定から発売が延期になった経緯もありましたが、開発の中で一番大変だった部分はどこでしたか?
佐々木:一つというより、いろいろな要素が重層的に絡み合っていました。ソフトウェアそのものの開発の進み具合に濃淡があったのはもちろんですが、途中から英語をはじめとした多言語対応が加わったことで、一度頭を切り替えなければいけないタイミングもありました。
それと、パッケージのイラストの制作が相当に大変になるだろうというのは、最初から予感していました。一般のお客さんからすると、声や歌はもちろんですが、「姿」こそが初音ミクそのもの、というくらいの受け止め方をされる部分があります。今回はこれまでお付き合いのあったイラストレーターさんとは別の方(LAMさん)へお願いすることになりましたが、これまたいろんなところで引く手あまたな方でして、「AIとは何か」「初音ミクの新しさとは何か」「私たちが考える将来像はどういうものか」ということを、しっかり説明する準備が必要でした。それがちゃんと言葉にできるようになるまでにも、それなりの時間がかかりましたね。進行スケジュールとしては、常に不安と隣り合わせだったかもしれません。

LAMさんが、初音ミク V6のイラストを担当した

小泉:すでにリリースを延期させていただいた経緯がありましたので、4月14日のリリース日が決まってからは、佐々木との会話で何度となく「締め切りは絶対に落とさないでくださいね」とお願いしていました(笑)。でも、きっちり仕上げていただけましたね。

佐々木:イラストレーターさんご自身も、AIという概念に対して、音楽制作者以上にいろいろな葛藤を抱えている印象がありました。才野さんには、今回のVOCALOID:AIの中身やパラメータ、人間らしさをどう引き出しているか——ただし相手は初音ミクなので、「ここはあえて人間らしさではなく機械っぽく残しましょう」というようなやり取りをたくさんしていただいて、それを私が間に立って、イラストレーターさんとの橋渡しをしていく形になりました。一つ判断を誤れば、まったく無責任なものになりかねなかったと思いますし、今振り返ってもかなり緊張感のある作業でしたね。

発売してみて——想像以上に温かく迎えられた

――実際にリリースしてみて、世の中の反応と想定していたものとの間にギャップはありましたか?
佐々木:歌声のディテールについては、100曲くらい歌わせてブレを検証するなど、事前にできる限りの想定はしていたつもりです。それでも、これまでの製品リリースの時もそうだったように、私たちの想定とはまったく違う受け止め方をされる方は一定数いらっしゃいます。ただ今回は、「自分がイメージする初音ミクと大きく違う」というご意見が、想像していたよりもずっと少なかった。想定の10分の1、20分の1くらいの印象です。
小泉:普段は、あえて厳しいご意見をくださるお客様もいらっしゃる中で、ある意味で異様な光景だったとは思いますね。
吉田:私は、Early Access版で最初に公開したデモ曲「Prism」を出した時に、すごく安心したのを覚えています。あの音源を公開する前は、正直かなり怖かったんです。佐々木さんと才野が積み重ねてきたことが、世の中からどう評価されるのか。ただ、公開後にSNSやYouTubeでいただいたコメントを見ても、想像以上に暖かく受け入れていただけて、肩の荷が下りたような気持ちになりました。

才野:私が一番印象に残っているのは、あるSNSで見かけた「これは初音ミクの正当進化だ」というコメントです。新しい初音ミクを作るにあたって、いいものを目指したいという想いはありつつも、「今までと違う初音ミク」になってほしいわけではない。初音ミクではあるけれど、より良いもの——というところを目指して試行錯誤していたので、まさに一番言ってほしかった言葉をもらえたようで、狙っていたことがちゃんと届いたんだな、という実感がありました。

佐々木:開発の途中では、何人かのボカロPさんに実際にVOCALOID6の初音ミクを聴いていただいて、感想やアドバイスをもらう機会もあったんです。その中では「初音ミクだというのは分かるけれど、V4の頃にあった声のバリエーションが削がれていて、これで自分の初音ミクの声を作ろうとは思わない」という、かなり辛辣なご意見もいただきました。V4Xのように複数のデータベースを混ぜ合わせて使い込んできた方からすると、「AIで色々できるようになった代わりに、声としては決まった一色しか出ないんでしょう」と見えてしまう。その気持ちは、私自身、とてもよく分かるんです。だからこそ、最終的に「Original」と「Soft」という2つの声を届けられたことには、大きな意味があったと思っています。

OriginalとSoftの2つボイスバンクが収録されている

「Soft」ボイスバンクが生まれた、ギリギリの舞台裏

――「Soft」は最初から入っていたわけではなかったんですね。
吉田:はい。Early Access版は「Original」のみだったのですが、その後、製品版には「Original」と「Soft」の2つの音色が収録される形になりました。
小泉:これは、発売の1〜2カ月前くらいまで、佐々木も相当悩んでいましたよね。入れるか、入れないか。
佐々木:そうなんです。もともと初音ミクには「アペンド」という形で、収録データを増やしていく歴史がありました。ただ、V4Xのアペンドのように、属性やキャラクター性そのものが変わって聴こえるような声を増やすのは、今回の方向性とは違うだろうと考えていたんです。
声質そのものの傾向を操作する「ファインチューニング」という手法を試したところ、リリースの4〜5カ月ほど前になって、これが案外うまくいくことが分かりました。もともとの初音ミクの声は、元気で張りのある「Light」というアペンドのデータベースがベースになっているのですが、その成分を活かして声をシャキッとさせ、輪郭をはっきりさせたパターンと、逆に柔らかく優しくしたパターンの、2つがきれいに切り分けられることが見えてきたんです。1つ作ろうとしていたら、結果的に2つできてしまった。これは何とか両方入れさせてもらえないか、と、社内でも画策したんです(笑)。
小泉:この判断が固まったのが、本当に1月から2月にかけてで、2月中旬にはパッケージ(製品の箱)のデータ入稿という、製造上の締め切りが控えていたんです。前の週まで「入れる、入れない」を話していて、伊藤(※クリプトン・フューチャー・メディアの代表取締役、伊藤博之さん)と佐々木の間で最終的に決まったのが本当にギリギリでした。スリーブの裏面には収録ボイスバンクの一覧をデザインとして刷り込む必要があるので、「Softを入れるならこのデザインで進めるけど、大丈夫?」というやり取りを、最後の最後まで詰めていました。あの1週間は、かなりヒリヒリした記憶があります。
吉田:私も同じでした。パッケージの確認をお願いされたタイミングで、「あれ、先週のチェック時にはなかったSoftのロゴが入っている!」という感じで(笑)。
才野:開発中は、うまくいくこととそうでないことが交互に出てくるものですが、今回のプロジェクトでは終盤にかけて特に大きな手応えを感じていました。結果として2つの声を届けられたことで、1人のキャラクターがどれだけ表現の幅を持てるかという、音楽制作にとって本質的な部分に貢献できたのではないかと感じています。ご尽力くださったみなさんには、本当に感謝しています。

Piapro StudioとVOCALOID6、プロジェクトファイルの相互互換

Piapro Studio(NTシリーズ)とVOCALOID 6の間でプロジェクトファイルを相互に読み込めるようにする取り組みについては、2025年8月の「初音ミク『マジカルミライ 2025』」のステージ企画で発表された後、11月19日に正式に実現しています。この経緯は過去記事で詳しく触れているので、そちらもあわせてご覧ください。今回の座談会でも、この話題に少し触れる場面がありました。
小泉:あれは、ステージ企画の舞台袖で「やりましょうか」という話になったんです。VOCALOID6を使う人も、VOCALOID4版を使う人も、これから先はVOCALOID6版やPiapro Studioを使う人もいる中で、プロジェクトファイルに互換性がないと、みなさん困ってしまいますよね。

VOCALOID6で、Piapro Studioのプロジェクトファイルである「PSFファイル」のインポートが可能になった

吉田:そういう話を8月にして、そこから年末のEarly Accessのタイミングまでに実装まで持っていきました。お互いにかなりのスピード感で開発を進めていましたね。

Piapro Studio NT2でもVOCALOID6の「.vpr」ファイルが読み込めるようになった

そしてMobile VOCALOID EditorにもV6が搭載された

――無事4月にV6のリリースにこぎつけたわけですが、ここからはMobile VOCALOID Editorの話にもつなげていきたいです。Mobile VOCALOID Editorに初音ミク V6が搭載されるというのは、当初から決まっていたことだったのですか?
吉田:初音ミク V6の話が始まった時点では、Mobile VOCALOID Editorはまだバージョン1で、VOCALOID:AIには未対応でした。あと、実は販売している国が日本だけだったんです。それが2025年10月に、Mobile VOCALOID Editorのバージョン2をリリースし、VOCALOID:AIに対応したことで、VOCALOID6のボイスバンクを移植できる状態になったんです。そのころから、「V6ボイスバンクを移植できるだけではなく、ワールドワイドでも販売していきますので、ぜひご検討いただけますか」というお話をさせていただいていました。

Mobile VOCALOID Editor V2で初音ミク V6が利用できるようになった

小泉:バージョン2の企画をご相談いただいた時点で、グローバル展開についてもお話があって、そこにはとてもポジティブな印象を持っていました。ちょうど佐々木がLAMさんとイラストの相談を始めていたタイミングでもあって、初音ミク V6のビジュアルは、シャープで立ち絵としても映える、国内に限らず海外の方にも見ていただきやすいものになっていました。グローバル展開を見据えたMobile VOCALOID Editorと、そういった方向性がうまく噛み合うのではないか、と考え始めたのが最初のきっかけだったと思います。スケジュール的にもうまく調整いただいて、本体ソフトウェアの発表と合わせて企画を進めていただけました。

PC版とMobile版で、音や仕様の違いは?

――佐々木さんとしては、あれだけ苦労して仕上げたVOCALOID6版の表現力が、Mobile VOCALOID Editorに移植されるにあたって、音質や声の変化について気になるところはありませんでしたか?
佐々木:特にありませんでした。むしろ、AIによって生成される部分も含めて、勢いのままiPadなどで曲を作れるという場面において、VOCALOID6の初音ミクのポテンシャルはとても高いと思っていたので、みなさんにカジュアルに触れていただけるのは、純粋に嬉しかったですね。誰でも、iPhoneでもiPadでも使える、というカジュアルなシチュエーションの初音ミクという意味では、これまでで一番のものになったんじゃないかと思っています。

Mobile VOCALOID Editor においてもPC版のVOCALOID6と基本的に同じエンジンが搭載されている

――実際に出てくる歌声としては、PC版と違いはないのでしょうか?
吉田:技術的な補足をすると、Mobile VOCALOID Editorには、PC版VOCALOID6とほぼ同じエンジンが搭載されています。ただ、Mobile版は使い勝手を考慮して一部の仕様をPC版と変えていますが、出てくる歌声は、VOCALOID6とほぼ同一です。

――印象としても、誰が聴いても近いものになる、ということですね。ちなみに、初心者がMobile VOCALOID Editorから始めて、「これは面白い」とPC版に興味を持った場合、シーケンスデータはそのまま持っていけるのですか?
吉田:シーケンスデータの移行はPC版⇔Mobile版の双方向で可能です。ただし、ボイスバンクのライセンスは別になりますので、たとえばPC版で購入していたボイスバンクをMobile版でも使いたい場合は、あらためて購入いただく必要があります。

おわりに

2023年末、佐々木さんと吉田さんのやりとりから始まったプロジェクトは、才野さんによる学習データとパラメータの地道な調整、そして発売直前まで続いた「Soft」ボイスバンクをめぐる攻防を経て、2026年4月14日の正式リリースにたどり着きました。そしてそのわずか数カ月後には、Mobile VOCALOID Editorにも同じ歌声が宿ることになりました。

PCの前でじっくり調声を楽しみたい人はVOCALOID6版の「初音ミク V6」を、思いついたメロディをすぐに形にしたい人はMobile VOCALOID Editor版の「初音ミク V6」を——同じ声でも、シーンに応じて使い分けられるのは、今回大きな魅力の一つといえそうです。まだ触れていない方は、この機会にぜひ、初音ミク V6の歌声に触れてみてはいかがでしょうか。

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