この写真に写っている、緑色の電子基板むき出しの機材が何だかご存知ですか? iPad Air 2の手前でちゃんと動作しているので、かなり不思議な組み合わせではあるけれど、これはちょうど40年前の1976年に日本で初めて誕生した一般ユーザー向けのコンピュータ、TK-80です(正確には、この写真の機材は1977年にTK-80のエコノミータイプとして発売されたTK-80E)。

当時はまだパソコン(Personal Computere)なんて呼び名はなく、マイコン=マイクロコンピュータとかワンボードマイコンなんて呼んでいましたが、このTK-80は私が大切に保管しているもので、久しぶりに電源を入れたらしっかり動作することも確認できました。今回は、このTK-80にスポットを当てて、DTMとの関係性について考えてみたいと思います。


40年前のワンボードマイクロコンピュータ、NECのTK-80
 
TK-80を初めて見た、という人も少なくないと思いますが、このコンピュータは本当にこの基板1枚だけのものであり、液晶ディスプレイはもちろん、ブラウン管のディスプレイだってありません。マウスもなければ、タイプできるキーボードすらないんです。


コンシューマ用として発売された国産初のコンピュータ、TK-80はワンボードですべて完結 

それのどこがコンピュータなの?意味わかんない!」という人も多いとは思います。でも、ちゃんと入力装置もあるし、表示装置もあり、ちゃんとプログラムを動かすこともできるんです。私がこのTK-80に初めて出会ったのは中学校1年生のところだから1978年。当時入っていたアマチュア無線部の先生が持っていたのを見せてくれたんですよね。まあ、先生の私物の宝物ですから、本当に触れた程度ではあったし、自分に購入できるような値段ではありませんでした(当時の定価で88,500円)。しかも、売っているのはキットであったため、これを動かすためには自分でハンダ付けして組み立てなくてはならない、というすごい製品だったんですよね。


手元に残っている電源も当時使っていた+5Vと+12Vが出せる非常にズッシリと重たい安定化電源 

ちなみに、ここにあるTK-80は大学時代の同級生とブツブツ交換で入手したもの。まあ、滅多に電源を入れることもないのですが、昔の日本の製品はとっても丈夫だから、適当な保管であるにも関わらず、今でもしっかり動作するんですよね。


ディスプレイは8桁の7セグLEDだけ

さて、ではこのTK-80はどうやって使うのでしょうか?その操作は基板上に載っている電卓のような5×5のキーを使って入力するとともに、その上にある8桁の赤い7セグLED(8という文字を構成する7つのセグメントとピリオドがあるので、そう呼んでいます)で文字を表示させて行います。この表示機能、電卓と同じように、これで0~9までのA、b、C、d、E、Fと16種類の文字を表示することが可能になっているんです。


入力は電卓のようなキーボードを用い、16進数を入力する。 

それで16種類の文字を使って入力するのが、プログラム。プログラムといってもマシン語と呼ばれるタイプのもので、単純に00~FFという16進数の数字を打ち込んでいくかなりマニアックなものなんです。詳細については割愛しますが、これによっていろいろなさまざまな計算をさせたり、とっても原始的なゲームを動かしたりすることができます。


7セグのディスプレイを使って、こんな文字表示も…(実機で表示させるプログラムを組めそうになかったのでこれで代用…)

たとえば当時あったゴルフゲームでは、このようにオープニングでPLAY GOLFなんて文字が表示されて、「すごい!」と思ったのを覚えています(思い切り、原始的なことに感激していたわけですが…)。


CPUとして搭載されていたのはIntelの8080A互換のチップ、NECのD8080AFC 

ちなみに今のPCというと、CPUにはIntelのCore-i7といったものが使われていますが、このTK-80にもIntelの8080というCPUの互換品であるNECのチップが搭載されていました。演算処理性能で比較するとCore-i7の1/20万くらいの性能ですね(笑)。メモリも最大で1KBですから…、これで何をしろというんだ…というくらい小規模なものでした。

と、ここまでDTMとはまったく関係ない話をしていたわけであり、実際TK-80には音を出す機能なんて何ひとつありませんでした。でも、TK-80は回路むき出しの基板であり、自由にハンダ付けもできる構造だったんで、ちょっと工夫すると演奏させることもできたんです。

そんなことをしていたのが私が高校生1年生のとき。1981年だから、そのころは、すでにPC-8001MZ-80Kなど、もう少し現代のパソコンに近いコンピュータも登場してきていたし、私自身も貯めてきたお小遣いやお年玉をすべて使ってPC-8001を入手して遊んでいたのですが、学校にTK-80が転がっていたので、これで自動演奏をさせていました。すでに先人が実現していたのを雑誌などで見て真似ただけだったと思いますが、とっても原始的な方法を使っていたんですよね。


8255というチップが汎用ポートとして利用できる設計になっていた 

まずTK-80には8255という名前のパラレルポートICが搭載されていました。この8255は今でいうところのUSBみたいなもので、外部機器と接続するための機能。もっとも、接続先の周辺機器も自分ではんだ付けして作らなくちゃいけなかったのが、大きな違いではありますが、A、B、Cと3つある入出力ポートの1つに簡単なブザー回路を接続してみたのです。

先ほどの16進数を使ったマシン語プログラムを使って8255の先に接続したブザーをオンにすると、ピーと鳴り、オフにすると音が止まります。まあ、これだけでは音楽とは程遠いわけですが、プログラムを使ってオンとオフを高速に切り替えてループさせると、ビーっと発振して違う音になってくるのです。そして、このオンとオフの間隔をプログラムで制御することで、音階がついてくるんですよね。

基本的にはスピードを倍にしたら1オクターブ上の音程になり、当時覚えたばかりのLogの計算を使って速度調整するとそれなりに思った通りの音程を出すことができたんです。もちろん、ブザーを発振させているだけなので、音色も何もあったもんじゃなかったですが……。この速度調整をプログラムで制御することで、ごく短いフレーズを自動演奏させることが可能になりました。

当時試したのは、「Tighten Up」のベースフレーズを2小節を単純にループさせただけ。しかもベースみたいに低い音が出ないので2オクターブくらい高い音程だったと思いますが、それでもこの自動演奏ができたときの達成感はすごくありましたね。

当然プロの世界ではMC-8などというすごいシーケンサは存在していたんですが、MC-8だけで120万円、そのほかにもっと高価なシンセサイザが必要だった時代ですから、高校生に手が出せるはずもありません。


2000年にはアスキーからWindowsで動くTK-80シミュレータとセットになった書籍「復活!TK-80」という書籍も発売されましたが、いまは絶版となってますね 

一般ユーザーが手ごろな価格でコンピュータを使った自動演奏をするという意味でのDTMは、このTK-80あたりからスタートしたんじゃないかな…と思っています。ちなみに、DTMという言葉が誕生したのは、1988年にRolandが「ミュージくん」を発売したときなので、TK-80時代から見ると、かなり後のこと。MIDIの誕生も1983年なので、そのころはまさにコンピュータと音楽の関係が急速に進化していった時代だったな…と改めて思うところです。

そんな懐かしいDTMの昔話は、インプレスから出している電子書籍の3部作、「DTMの原点Vol.1」、「DTMの原点Vol.2」、「DTMの原点Vol.3」でも、いろいろと書いているので、よかったらご覧ください。

【関連書籍】
◎Amazon(Kindle) ⇒ DTMの原点 Vol.1
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◎その他デバイス ⇒ DTMの原点 Vol.1
◎Amazon(Kindle) ⇒ DTMの原点 Vol.2
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◎その他デバイス ⇒ DTMの原点 Vol.2
◎Amazon(Kindle) ⇒ DTMの原点 Vol.3
◎iBook Store(iOS) ⇒ DTMの原点 Vol.3
◎その他デバイス ⇒ DTMの原点 Vol.3