スピーカー常識を覆す、サーモスが開発した高性能・超ニアフィールドモニター、VECLOS MSA-380Sの秘密

先日「魔法びんの真空二重構造を応用したサーモスの高性能・超ニアフィールドモニター、MSA-380S誕生」という記事でも紹介した、小さなバズーカのような不思議なスピーカー、VECLOS MSA-380S。その後1か月ほど使っているんですが、すごくいいんですよね。一般的なモニタースピーカーと際立って違うのが、音の定位と立体感のある音場。スウィートスポットは狭いけれど、だからこそDTM環境にはとってもマッチするんです。

「重くて大きいものがいい音のスピーカー」という従来の常識を完全に覆すMSA-380S。魔法びんメーカーのサーモスが生み出した「真空エンクロージャー」という真空二重構造が、この音の秘密となっているようですが、これはいったいどういうもので、なぜ迫力あり、かつクリアなサウンドが実現できるのか?その構造面から、このスピーカーの音の秘密に迫ってみたいと思います。


サーモスが開発した超ニアフィールド・モニター、VECLOS MSA-380S



このMSA-380Sを使って、とにかく気に入っているのは、小さいくせに、抜群に高音質で、まさに音が立体的に浮かんでくるという点。席に座って作業する際の耳に目掛けて音が発射されてくる感じだから、結構莫大な音に感じられるサウンドであっても、周囲はあまりうるさくないというのも面白いポイントです。

以前からとても便利で個人的にも愛用している同じサーモスの18,000円のスピーカー、VECLOSシリーズ、SSA-40Sでもその点は同様でした。SSA-40Sは基本的にBluetoothスピーカーであったため、モニタースピーカーというよりも、いろいろな用途に使う高音質なPCスピーカーとして愛用していたのですが、MSA-380Sは本気のモニタースピーカーであり、初めて体験した人は、その音の解像度の高さに驚くのではないかと思います。でも、どうしてここまでの音がこんな小さなスピーカーから飛び出してくるのでしょうか?

まずMSA-380Sの最大の特徴である「真空エンクロージャー」についてですが、これは魔法びんの保温で用いられている構造を応用したもので、ステンレスの二重構造になっています。これはシリンダー形状(円筒)になったもので、内筒と外筒との間に1,000万分の1気圧以下の高真空状態で保たれているのです。この真空層は大気より圧力が非常に低い状態であるため、大気との圧力差により内筒と外筒の間に強い張力が発生します。これによってエンクロージャーの剛性が高くなるとともに、優れたダンピング特性を発揮し、効果的に振動を減衰させるのです。


内筒側に一定荷重を与えたときの変形量の違い。左が真空状態、右が非真空状態。青部が多いほど剛性が高いことを示す

ご存知の通り、音は空気の振動で伝わるわけですが、真空層には音の振動を伝えるための空気がほとんど存在しないため、内筒から発生するレゾナンスに対する優れた遮音性を発揮し、ノイズのないクリアなサウンドを実現するそうです。


真空エンクロージャーの断面図
では真空層が音にいい効果があるのは分かりましたが、その層はどのくらいの厚みがあればいいのでしょうか?実は真空の効果は、真空層の厚さには関係がないのだとか!1mmの真空層であっても10cmの層であっても、同様の効果が得られるのです。サーモスが魔法びんの開発で長年に渡って培ってきた高度な金属プレス加工技術により、最も薄い部分で1mm以下の間隔を保つ容器を作ることが可能になっているそうです。これにより、従来の木製キャビネットよりも側面の厚みを1/8程度と薄くしながらも、より高い剛性を実現できるようになったのです。同じ容積でも真空エンクロージャーであれば必然的に外寸のサイズをコンパクトにすることができるし、反対に内部の容積を最大限確保することで、低域再生も可能になるというわけなのです。

このように高い剛性を実現した真空エンクロージャー。これによって不要な共振を抑制し、明瞭度と定位感を向上させることを実現させているそうですが、音響的に優れている反面、ステンレスはアルミニウムなどの他の金属と比較して、硬く、加工が困難であるという難点があります。ただ、ここについてはサーモス独自の高度な金属プレス加工・溶接のための技術やノウハウがあるため、この新しいシリンダー形状のエンクロージャーが開発できているそうです。

一般的な四角型スピーカーでの音波の伝搬
そしてコンパクトなフロントバッフルと丸みのあるシリンダー形状が不要な音の回折(スピーカーから出た音が、障害物の後ろ側にも回り込む現象)を低減させることからも明確な定位と立体感ある音場を作り出しているのです。実際、早稲田大学・基礎理工学部表現工学科の及川研究室による解析結果を見ると、一般的なスピーカーとの音の伝搬の違いがハッキリと見えてきます。スピーカーユニットを中心にきれいな円形の波面を描きながら崩れることなく伝搬していくのです。

MSA-380Sでの音波の伝搬
通常のスピーカーの四角い形状では、エッジが障害物となり、波面が乱れる原因となるのに対し、MSA-380Sの前面はスピーカーユニットとほとんど同サイズで、フロントバッフルを持たないし、エンクロージャーの形状も円筒形で角を持たないため、音の回折を最小限に抑えています。これにより、フルレンジのスピーカーユニットからの音は、きれいな波面を保ったままリスニングポイン卜に真っすぐに届けられているんですね。これによりナチュラルで濁りの少ない音を実現しているのです。

スピーカーユニットの取り付けには魔法びんの止水技術を応用した直接ねじ込む方式を採用している

ところで、一般的なモニタースピーカーでは、高域を担当するトゥイーターと低域を担当するウーファーが組み合わさって1つの音を出しているのに対し、MSA-380Sでは全音域を担当するフルレンジスピーカー1つで音をだしています。円筒形の内側をフル活用する52mmのフルレンジスピーカーとなっているのですが、1つで音を出しているからこそ、焦点がハッキリし、濁りのないクリアなサウンドになっているのです。


フルレンジのスピーカーユニットひとつで低域から高域まですべてをカバーしている

もっとも、このフルレンジスピーカー自体はサーモスが開発しているわけではなく、パイオニアとの技術協力のもと、パイオニア製のユニットが採用されているのです。軽量で高剛性のピュア・アルミ振動板と広帯域再生技術「HSDOM(=Harmonized Synthetic Diaphagm Optinum Method)」を組み合わせ、再生帯域を広げるとともに、金属振動板固有の音を抑えることにも成功しています。

台座部分がアンプとなっている

もう一つポイントとなっているのが、アンプ部分です。前回の記事でも紹介したとおり、マグネシウム合金の台座部分がフルバランスのアンプとなっており、上の円筒形のスピーカーとは分離独立しているです。通常のモニタースピーカーのようにスピーカーユニットの中にアンプ回路が入っているわけではないのも、音質を向上させる意味で大きくものを言うんですね。ちなみに、入力端子はTRSフォンのバランスとなっている一方、スピーカーへの接続は2本のケーブルでしっかりと接続されるんですね。完全に独立しているから、このアンプで別のスピーカーを駆動したり、反対に別のアンプでこの円筒型スピーカーを鳴らすことも可能です(あまり意味はないですが…)。

リアを見るとアンプ部からスピーカー部へ2本のケーブルで接続されている
そのアンプ回路もパイオニアの技術協力と、プロのレコーディングエンジニアによる細かな調整を何度も何度も繰り返すことで設計されたそうです。すべてディスクリート構成のアンプ回路となっており、オペアンプには低歪率、低ノイズ、広帯域なFET入力のものを採用。また出力段には大電流のパワーMOSFETに加え、音質と電力効率に定評のあるTIのClass-DアンプICを採用。そして電源回路にはオーディオ用アルミニウム電解コンデンサとトロイダルコイルが採用されていたり、アンプICの電源ノイズがオペアンプブロックに入り込まないようにPCBパターンを最適化するなど、かなり細かく作り込んでいるとのこと。こうした積み重ねで、これだけの音を実現しているわけですね。

5度刻みで0度~45度まで調整可能

なおSSA-40Sではスピーカーの角度が30度に固定であったのに対し、MSA-380Sは0~45度まで5度刻みで調整できるのもポイント。カチッ、カチッと動かせるから、左右ピッタリ同じ角度に揃えることができるわけです。

グリル部ひとつを見ても、かなりこだわった設計を感じる
ちなみにスピーカーを保護する表面のグリルは簡単に取り外し、取り付けができるのですが、実際に付けたり、外したりすると、なんか不思議と気持ちいい感触なんですよね。すごくこだわりを持って細かなところまで設計しているんだな…と感心してしまうほどです。

このMSA-380SはRock oN Companyや宮地楽器などの店頭でも展示・デモをしていて、いつでも行けば試聴できるとのことなので、気になる方は、まずは店頭に足を運んでみてはいかがでしょうか?

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Commentsこの記事についたコメント

3件のコメント
  • ・・・

    すごくいい製品みたいですねえ…予算的に手が出ませんが。
    素朴な疑問として、これは魔法瓶の真空技術を使わなくても
    なにかいい音がしそうな気がしますね。
    魔法瓶真空技術とは関係の無い新機軸の発想も、かなり取り入れられていますもん。
    でも、やはり開発費償却が済んでいなくて、それ抜きでもお高くなるのでしょうね。
    魔法瓶真空技術以外のところを真似た安い製品どこか出さないかな。←こらっ!

    2017年12月13日 10:46 PM
  • ささき

    せっかくスタイリシュな商品なのに後ろのスピーカーへの接続は2本のケーブルは醜いな。ユーザーへの親切心だと思いますが・・・・

    2017年12月14日 4:22 AM
  • 値段凄いですね
    安い方ならまだ…
    個人的にサブウーファー出力が無いのは痛いですね
    クロスオーバー的にどのサイズと繋げるか?ってのもあるか
    かなり限られるかなあ

    2017年12月28日 3:37 PM

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