イギリスのメーカー、audient(オーディエント)のオーディオインターフェイス、iDシリーズ。audientはSSLやNeveと同じく、もともとプロスタジオ向けのレコーディングコンソールを手がけてきた会社で、そのコンソールはビートルズでおなじみのアビーロード・スタジオをはじめ、世界中のスタジオに導入されてきました。そしてiDシリーズは、同社のフラッグシップコンソール、ASP8024-HEと同じディスクリート回路設計のマイクプリを全機種に搭載しているのが最大の特徴となっています。ラインナップは36,850円の一番小さなiD4mkIIから、165,000円のフラッグシップiD48まで現在5機種が揃い、どれを選んでもマイクプリの音質は同じ、というのもポイントです。
現在は、今年1月に国内代理店となったHotone Japanとオヤイデ電気のコラボレーションで、7月31日までiDシリーズの購入者に高品位USBケーブル、d+ USB Type-C to C classB(5,390円相当)をプレゼントするサマーキャンペーンも開催中。ちょうど先日、生配信番組のDTMステーションPlus!でもこのiDシリーズを特集し、Hotone Japanのマーケティングマネージャー、天野玲央さんに詳しい話をうかがったので、その内容も交えながら、各機種の違いや選び方から実践的なレコーディングテクニックまで紹介していきましょう。
アビーロードでも使われる英国の名門、audientとは
DTMステーションPlus!でこのiDシリーズを特集したのは、6月30日に生配信した第259回。当日の模様は、こちらのYouTubeアーカイブでいつでもご覧いただけるので、記事と合わせてぜひチェックしてみてください。
さて、audientは1997年にイギリスで生まれた業務用音響機器ブランド。その成り立ちは、先日の「イギリスの名門コンソールメーカーaudientが手がけた入門機。audient evo 4とevo 8を試してみた」という記事でも詳しく紹介しています。天野さんによると、本国では今もコンソールを作り続けているものの、日本での展開はオーディオインターフェイスとモニターコントローラが中心。国内では、オーディオインターフェイスのメーカーとして認知している人が多いのでは、とのことでした。
その国内での取り扱いは、今年1月からHotone Japanへと移管されました。サポートを含めた体制はそのまま引き継がれているので、これまでのユーザーも安心してほしい、と天野さん。ちなみに番組内で話題になったのが、HOTONEの読み方です。国内ではこれまで「ホットトーン」などと表記されてきましたが、ワールドワイドでの発音に揃える形で、7月1日からは「ホットーン」に統一したそうです。
音楽制作特化のiDシリーズと、手軽なevoシリーズ。audientの2つのラインナップ
現在audientのオーディオインターフェイスには、大きく2つのシリーズがあります。一つは、録音の音質を追求した音楽制作特化のiDシリーズ。もう一つは、より手軽に楽しめるリーズナブルなevoシリーズです。番組ではまず、両方の実機を並べて違いを見ていきました。
evoシリーズの代名詞といえるのが、ゲインを自動で調整してくれるスマートゲイン。緑のボタンを押してマイクに向かって歌う、あるいは楽器を弾くだけで、最適な録音レベルに合わせてくれる機能です。今でこそ同種の機能を載せるメーカーが増えてきましたが、evoはその先駆け的な存在。これさえ押しておけば、音量を間違えて録ってしまう心配がない、という安心感があります。
そしてこのスマートゲイン、多チャンネルになるほど威力を発揮します。たとえばドラムの録音では、キックだけ、スネアだけ、と順番に音を出してもらいながらレベルを決めていくのが基本ですが、evoならマイクを立ててボタンを押し、少し叩いてもらえば設定完了。リハーサルスタジオでのセルフレコーディングなら、大幅な時間の節約になるわけです。
ラインナップは、2in/2outのevo 4、4in/4outのevo 8に加え、多チャンネルのevo 16、そしてスマートゲイン付きマイクプリを8ch分だけ取り出した拡張用マイクプリ、evo SP8も用意されています。SP8をADATで繋げば、他社のオーディオインターフェイスでもスマートゲインの恩恵を受けられるのは面白いところですね。evo 4とevo 8については、先ほど触れた記事のほか、最初に登場した2020年の「英コンソールメーカー、audientが出した14,000円のオーディオインターフェイスEVO4と上位版のEVO8を試してみた」という記事でも取り上げているので、合わせてご覧ください。
では、肝心のマイクプリの音はiDとevoでどう違うのか。天野さんいわく、あえて上下を付ければiDが上。ただしevoが悪いわけではなく、iDシリーズはコンソールのしっかりしたマイクプリで録った音、つまりクリーンで正確でありながら、少し温かみのある音を目指して作られているのが差別化ポイントなのだそうです。
一番小さなiD4mkIIにも最上位と同じマイクプリ。iDシリーズ5機種の違いと選び方
そのiDシリーズ、現在の顔ぶれはiD4mkII、iD14mkII、iD24、iD44mkII、iD48の5機種。いずれもフラッグシップコンソールASP8024-HEと同じディスクリート回路設計のマイクプリを搭載しているのは、冒頭でも触れた通りです。しかも一番安いiD4mkIIでも搭載マイクプリの音質は最上位と同じで、そこでの差別化は行っていません。だから選ぶ基準はシンプルで、必要なマイク入力の数と機能で決めればOK。
最小のiD4mkIIは、マイク入力1系統と、JFETを使ったインストルメント入力1系統を備えた2in/2out。音質に特化した超シンプル機で、マイク1本で歌やナレーションを録る人ならこれで十分です。また、番組で示された対応表によると、iDシリーズの中でiOSに対応するのはこのiD4mkIIだけ。iPhoneやiPadと繋いで使いたい人にとっては、唯一の選択肢になります。
iD14mkIIは、マイクプリが2基に増え、ADATオプティカル入力によって最大10in/6outまで拡張が可能。後述するソフトウェアミキサー、iDミキサーへの対応もここから始まります。発売当時の詳しいレビューは「英audientからプロクオリティーの10in/6outオーディオインターフェイス、iD14 mkIIが誕生。実際どんな機材なのか試してみた」をご覧ください。
iD24では、さらにシステムへの対応力が向上。マイクプリの後段にバランス接続のセンドリターン端子を備え、手持ちのコンプなどのアウトボードを録音時に挟み込めます。しかもリターン端子はマイクプリ回路を完全にスルーしてADコンバータへ直行する設計なので、お気に入りの単体マイクプリを持っている人が、プリの二重掛けなしにピュアな音で録れるのもポイント。このあたりは以前「昔使ったハードエフェクトをDTMの世界へ。アウトボードのポテンシャルを引き出すコンパクトなオーディオIF、Audient iD24」でも詳しく取り上げています。なお、USBバスパワーで駆動できるのはこのiD24まで。上位のiD44mkIIは付属の電源アダプター、iD48は3芯の電源ケーブルで給電する仕様です。
デスクトップ型の最上位となるiD44mkIIは、マイクプリ4基を積んだ20in/24out。バランスインサートは2系統で、ワードクロック出力や独立2系統のヘッドホン出力、トークバックまで備え、まさに小さなコンソールのような1台です。番組では「センドリターンをわざわざ付けているのは、マイクプリによほどの自信があるからでは」という話も。実際、太い音や存在感のある音で録りたいときに単体マイクプリへ手を伸ばす人は多いものですが、その前にぜひaudientのマイクプリを試してほしい、と天野さん。
そしてフラッグシップのiD48は、8基のマイクプリを搭載した24in/32outで、ラックマウントにも対応するモデル。こちらは以前「スタジオ級サウンドと機能が15万円で手に入るプロ仕様のオーディオI/O、AUDIENT iD48を試してみた」で詳しくレビューしているので、大規模なシステムを考えている方はぜひご覧ください。
各モデルの主な違いは、改めて以下通りです。
| モデル | マイクプリ | 主な入出力 | バスパワー駆動 |
価格(税込)
|
| iD4mkII | 1基 | 2in/2out | ○ | 36,850円 |
| iD14mkII | 2基 | 10in/6out | ○ | 51,700円 |
| iD24 | 2基 | 10in/14out | ○ | 68,200円 |
| iD44mkII | 4基 | 20in/24out | ×(電源アダプター付属) | 126,500円 |
| iD48 | 8基 | 24in/32out | ×(3芯電源ケーブル) | 165,000円 |
またiDシリーズ共通の面白い機能として紹介されたのが、ScrollControlです。本体のiDボタンを押すと、大きなノブがマウスのホイール代わりになり、カーソルを置いた場所のパラメータを直接動かせるというもの。DAW上でシンセのフィルターを徐々に開けていく、といった操作が本体のノブでできてしまうわけです。
もう一つ、天野さんが力説していたのがUSBケーブルの話。iDシリーズはUSB Type-C接続で、パソコン側がType-Aのケーブルでも一応電源は入り、動作もします。ただ、本来の性能をフルに引き出すなら、Type-C to Type-Cでの接続が必須とのこと。Type-Cで繋ぐと供給される電力が増えてモードが切り替わる仕組みになっていて、音質が上がるだけでなく、ヘッドホンの音量も大きくなるのだそうです。iDシリーズをヘッドホンアンプとして愛用している人も結構いるそうなので、Type-Aで繋いでいる心当たりのある方は、ぜひType-C のケーブルに替えてみてくださいね。
ドライとアンプシミュレータの音を同時録音。iD4mkIIのループバック活用術
ここからは実演コーナー。まずは天野さん自らギターを持参し、iD4mkIIを使ったレコーディングを披露してくれました。
iD4mkIIはMacならドライバーなしでも動きますが、専用ドライバーを入れると、設定画面からループバックミキサーなどの機能にアクセスできるようになります。今回の実演で紹介されたのは、このループバックを使ったちょっとした便利ワザでした。
手順はまず、Bogren Digitalのワンノブで操作できるアンプシミュレータを、DAWに挿すのではなくスタンドアローンで起動。入力にはギターを繋いだアナログ2を、出力には3/4を指定します。
この3/4がループバックミキサーのソースになっているので、あとはループバック1/2のフェーダーを上げれば、アンプシミュレータを通ったウェットな音がループバック経由でDAWへ流れ込む仕掛け。DAW側で、ギター直のドライとループバックの2トラックを同時に録音すれば、ドライとウェットを一発で両録りできるというわけです。
この方法のメリットは2つ。一つは、ドライが残っているので、後からリアンプのように音を作り直せること。もう一つは編集のしやすさで、ディストーションの掛かった音は波形のつなぎ目がまったく分かりませんが、ドライの波形があれば、どこで切ればよいかが一目瞭然になるのです。
実際に録った音は、ドライの時点でとてもきれいでノイズが少なく、サステインの伸びにキラッとした輝きがあるのが印象的でした。このサウンドは、ぜひアーカイブで確かめてみてください。
iD24とU87Aiで歌を実演。iDミキサーで作るレイテンシのないモニター環境
続いてのボーカルレコーディング実演では、iD24が登場。マイクは定番中の定番、NeumannのU87Aiです。歌ってくれたのは、Ain Sweet(アインスイート)さん。YouTubeチャンネルやTikTokを中心に活動しているボーカリストで、この日は抜群の歌唱力と、きれいな英語の発音で出演者を驚かせていました。バックのピアノとストリングスは、番組でおなじみの作・編曲家、多田彰文さんがNative InstrumentsのピアノTHE GRANDEURなどを使って打ち込んだもの。
ここで活躍したのが、先ほど触れたiDミキサー。iD14mkII以上のモデルが対応するソフトウェアミキサーで、DAWとは別に立ち上がる、録音のためのミキサーです。マイク入力のフェーダーとDAWからの再生のフェーダーでバランスを取れば、レイテンシのないモニターミックスの完成。あくまでモニターのバランスを調整するためのもので、録り音には一切関与せず、プラグインも挿せません。
とはいえボーカリストからすれば、モニターにはリバーブが欲しいところ。実は今回の実演でも、Ain Sweetさんへの返しにはしっかりリバーブが掛かっていました。そこで披露されたのが、天野さん流のセッティングです。
まず、同じマイク入力から録音トラックを2つ作ります。1つ目は本番の録音用で、モニターはオフ。2つ目はフェーダーを一番下まで下げた上で、リバーブへのセンドだけを生かし、モニターをオンにしておきます。すると声そのものはiDミキサーからレイテンシなしで返り、リバーブ成分だけがDAW経由で少し遅れて届く、という状態になります。リバーブはもともと遅れて響く成分ですから、この遅れは気にならない、という理屈です。録音が終わったら、そのリバーブのセンド設定を本番のトラックへコピーすれば、プレイバックでも録音中と同じ響きで聴けるので、ボーカリストの印象が変わらないのも利点ですね。
ボーカル向けのオーディオインターフェイスにはリバーブを内蔵する機種も多い中、audientの製品には搭載されていません。「正直、僕も内蔵リバーブが欲しいと思うことはあるんですけれども」と天野さんは笑いつつ、このルーティングさえ作ってしまえば、レイテンシゼロのモニターとリバーブを両立できるので困らない、と話していました。
ちなみにiDミキサーでは、メインミックスとは別にCue AとCue Bという独立したミックスを作り、それぞれを別々の出力やヘッドホンへ送ることも可能です。たとえばドラマーにはクリック多め、ボーカルには自分の声多め、といった使い分けができるので、二人以上でのレコーディングでは便利な機能ですよ。
192kHzに対応しないのはなぜ?audientが96kHzにこだわる理由
さて、iDシリーズにもevoシリーズにも共通する仕様が、対応サンプリングレートは最高24bit/96kHzまで、という点です。今どき192kHz対応の機種は珍しくないだけに、「audientは音がいいのに192kHzが使えない」という声は、特に日本のユーザーから根強くあるのだとか。それでもaudientは頑なに96kHzを貫いています。そこで天野さんが本国audientに直接理由を聞いてみたところ、詳細は企業秘密としながらも、方針の一つとして挙がったのがエイリアスノイズへの考え方だったそうです。
実はこの疑問、DTMステーションでも2021年、先ほど触れたiD14 mkIIの記事で本国audientに問い合わせたことがあります。そのときの回答は、採用しているコンバータ自体は384kHzまで対応しているものの、可聴帯域のオーディオとして設計する場合に最適なサンプリングレートは60kHz辺りで、もう少し広い帯域までカバーするなら88.2/96kHzが最適、というものでした。今回天野さんが聞き出した説明は、そこからさらに一歩踏み込んだ内容になっています。
少し整理しておきましょう。たとえば44.1kHzのサンプリングレートで記録できるのは、その半分の22.05kHzまでの音。人間に聴こえるのが20kHzちょっとまでであることから決められた数字ですが、これを超える周波数成分が入り込むと、折り返し雑音、いわゆるエイリアスノイズとして可聴帯域の中に現れてしまいます。ところがサンプリングレートを96kHzまで上げてしまえば、折り返しが発生する位置は可聴帯域のはるか外側。96kHzで録音した上で44.1kHzや48kHzへダウンコンバートすれば、エイリアスノイズの影響を耳に聴こえる帯域の外へ追い出せる、というわけです。
つまりaudientの考え方は、エイリアスノイズの影響を排除するには96kHzで必要十分であり、それ以上レートの数字を追い掛けるのではなく、その中での音質をとことん引き出す設計にリソースを注ぐ、というもの。単なるサンプリングレートの高さではなく、音の解像度こそを重視しているのです。というわけで192kHzには引き続き対応しない見込みですが、48kHzや96kHzといった普段使いのレートでの音の良さには自信がある、と天野さんは締めくくっていました。
ちなみにこのテーマ、本国audientも公式サイトのチュートリアル記事で詳しく解説しています。それによると、192kHzは96kHzに比べてデータ容量もパソコンの処理量も2倍になる割に、得られるメリットはごくわずか。だからこそ96kHzまでに絞り、その分コンバータの最適化に注力することで、クリーンでニュートラル、かつ正確な音を製品全体で実現している、とのことです。放送での天野さんの話と合わせて読むと、audientの設計思想がよりはっきり見えてくるはずです。
iDシリーズ購入でオヤイデのUSBケーブルをプレゼント。7月31日までのサマーキャンペーン
番組の最後に発表されたのが、Hotone Japanとオヤイデ電気のコラボレーションによるサマーキャンペーンです。7月3日から7月31日までの期間中、iDシリーズ5機種、iD4mkII、iD14mkII、iD24、iD44mkII、iD48のいずれかを新品で購入すると、オヤイデの高品位USBケーブル、d+ USB Type-C to C classBの1mモデル(5,390円相当)が付いてきます。楽器店でも、Hotone Japan直販のHOT MUSICでも対象。プレゼントは数量限定のため、なくなり次第早期終了する場合もあるとのことなので、狙っている方はお早めに。
「USBはデジタル伝送なのだから、ケーブルで音は変わらないのでは」という定番の議論についても、番組内で率直なやり取りがありました。天野さん自身、伝送されるデータそのものが変わることはないだろう、という立場。ただしiD24までのバスパワー機にとって、USBケーブルは電源ケーブルでもあります。パソコンからどれだけストレスなく電源を引き出せるかは音にも反映される部分があり、これは実際にケーブルをとっかえひっかえして実感した、と天野さん。36,850円のiD4mkIIで考えれば、5,390円相当のケーブルは1割以上のおまけに相当しますね。
以上、audientのオーディオインターフェイス、iDシリーズについて、DTMステーションPlus!第259回の内容とともに紹介しました。一番小さなiD4mkIIからフラッグシップのiD48まで、全機種に同じ設計のコンソール直系マイクプリを積み、96kHzまでの音質を磨き抜くという明快な思想が貫かれたシリーズです。ループバックやiDミキサーを使った録音テクニックも含め、実際の音と操作はぜひYouTubeのアーカイブで確かめてみてください。オヤイデのケーブルが付いてくるサマーキャンペーンは7月31日まで。この機会にiDシリーズを試してみてはいかがでしょうか?
【関連情報】
audient iDシリーズ製品情報
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iD4mk II製品情報
iD14mkIII製品情報
iD24製品情報
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