最近、XやInstagram、Facebook、YouTubeなどを開くと、かなりの頻度でACE Studioの広告が流れてくる、という方は多いのではないでしょうか。私のタイムラインにもほぼ毎日のように登場していて、正直「またACE Studioか」と思うくらいの物量です。一方で、これだけ広告を目にしているにもかかわらず、実際にACE Studioを触ったことがないという方が、意外と多いのではないでしょうか。DTMステーションでこれまで4回にわたってACE Studioを取り上げてきたので、昨年末に2.0がリリースされて以降のアップデートがすさまじく、私自身もしっかり把握できていなかった、というのが正直なところです。
改めてチェックしてみるとAI楽器のラインナップ拡充はもちろん、動画に音を付けるVideo Composer、さらには楽曲からミュージックビデオそのものを生成するAI MVといった、歌声合成ソフトの枠を超えた機能をどんどん追加してきています。そこで今回、2.0がリリースされてから現在の最新版v2.1.5に至るまで、どんな進化を遂げてきたのか、実際にソフトを触りながら改めて整理してみることにしました。
AI楽器がオーケストラレベルに拡充
2.0の時点でヴァイオリンやチェロ、サックス、トランペット、ドゥドゥクといったAI楽器が追加されたことは以前の記事でも紹介しましたが、その後もAI楽器のラインナップは着実に拡充を続けています。
なかでも注目したいのが「AIストリングセクション」です。これは単音の演奏を並べるだけでなく、複数のパートが一体となったセクション演奏として、音のつながりやボリューム、強弱、アーティキュレーションまで含めてまとめて生成してくれる機能です。ACE Studio開発元のTIMEDOMAINによれば、このストリングセクションにはBudapest Art Orchestraによる演奏を元に学習したものとのこと。現在、オーケストラ系のプリセットはストリングセクション5種類、ストリングス18種類、ブラス4種類、木管楽器9種類の、合計36種類まで拡充されています。以下が、そのAIストリングセクションを使ったデモです。
非常にリアルな演奏になっているのが分かりますよね。実際に手元でもMIDIで打ち込んでストリングセクションを鳴らしてみると、非常にリアルな演奏が生成されます。
アーティキュレーションについては現状、入力されたMIDIやフレーズの流れから自動で判断される仕組みになっており、ユーザーが個別に指定する機能は今のところ搭載されていません。とはいえ、単に音を鳴らすだけでなく、フレーズのまとまりを考慮した演奏になっている点は、実際に聴いてみると分かりやすいと思います。また各楽器に詳しくないと、実際のアーティキュレーションがどうあるべきかが分からないところですが、ACE STUDIOが最適な形でアーティキュレーションを設定してくれるという意味では、各楽器の初心者にとってはとても助かるところです。
なお、TIMEDOMAINによれば、今後はサンプルライブラリーの老舗であるEastWestとのコラボレーションによる音源も登場予定とのこと。こちらも実装され次第、改めて紹介できればと思います。
動画に音を付ける「Video Composer」
2.0リリース後の大きな機能追加のひとつが、v2.0.7で搭載された「Video Composer」です。これは動画ファイルをACE Studioに直接読み込み、その内容に合わせたBGMや効果音をAIが生成してくれるというもの。
使い方はいたってシンプルで、動画をタイムラインにドラッグ&ドロップし、内蔵のAIエージェントに対してチャット形式で「明るい雰囲気のBGMをつけて」といった指示を出すだけです。ここでは実際にスマホで撮影した海の映像をACE Studioにドラッグ&ドロップしたところ、「Agentで作曲」というボタンが現れたので、これをクリック。
その後、チャット画面が現れたので「さわやかなポップな感じで」と日本語で指示を出してみました。すると、AIエージェントがすべて自動で、動画のシーンやカットの切り替わりを解析したうえで、映像の雰囲気に合わせた音楽を生成してくれるのです、単なるBGMの垂れ流しではなく、場面転換のタイミングに合わせて展開が変化するような音楽を作れるのが特徴。生成された音楽はタイムライン上のクリップとして扱えるため、再生位置をずらしたり、長さを調整したり、別案に差し替えたりといった編集も可能です。
しばらく待っていると、ビデオがアップロードされたり、動画をAIが読み込むなど、AIエージェントがいろいろ考えたり、処理しながら随時メッセージを表示していきます。その後「美しいターコイズブルーの海と爽やかな風にマッチする、アコースティックギターや明るいシンセサイザー、エレクトリックピアノを取り入れた明るくなJ-POPスタイルの楽曲をリクエストしています。現在、音楽を生成中ですので、完了までしばらくお待ちください。」といった表示が。ちゃんと映像を理解して処理しているわけですね。そこからしばらくすると、尺もだいたい合う形で曲が完成。いい感じに出来上がっていて、ちょっと驚きです。
これなら下手にフリー素材を探してBGMをつけるより断然いい感じです。また同時に追加された「SFX Generator」を使えば、選択した範囲に対してプロンプトを入力するだけで効果音を生成することもできます。
商品紹介動画やSNS向けのショート動画、Vlogなどの制作において手軽に、BGMや効果音を入れたビデオを作ることができそうです。
楽曲からミュージックビデオを作る「AI MV」
さらにv2.1.3では、逆に楽曲側から映像を生成する「AI MV」機能が追加されました。ACE Studio内のエージェントが、完成した楽曲を分析したうえでミュージックビデオを生成してくれるという機能です。トラックに、楽曲を読み込んだうえで、ACE Studioの画面右上にある「MV」というボタンをクリックすると「AIエージェントでMVを作成」という画面が出てくるので「MVセッションを開始」をクリックするとスタートします。
ここでは、以前にDTMステーションCreativeレーベルから出した、小岩井ことりさん歌唱の「oyasumi」を、「No.7」に歌わせた曲をワンコーラス分試してみました。ちなみに、No.7はACE Studio標準の歌声ではなく、ACE Studioの機能を利用して私が学習させたもの。これについては「自分の歌声を元に簡単にAI歌声データベースの作成も可能。海外からやってきた歌声合成ソフト、ACE Studioがスゴ過ぎる!」という記事で詳しく紹介しているので、そちらを参照してみてください。
MV制作をスタートさせてしばらくすると、「セッション」と「歌詞」という2つのトラックが作成され、セッションではIntro、Verse、Chorusなど、曲の構成が表示され、歌詞のところには、日本語で歌詞が表示されるんですね。確かに、ボーカルトラックにはひらがなで歌詞を入力していましたが、ここには漢字入りの日本語で表示されています。
その後、画面右上にMVディレクターがチャット形式で現れ、制作の方向性を固めるための質問がいろいろと表示されるので、それに答えていきます。基本的には選択形式で進めていくのですが、ちゃんと歌詞の中身を読み取ったうえで、いろいろ質問してくるし、お勧めもしてきます。
それに答えると、さらに作業が進んでいきます。質問では実写やフィルム調ではなく、「水彩・淡いイラスト風アニメーション」というを選択し、あとはお勧めを中心に選んでいった結果、メインキャラの候補が3つ表示されたので、その中から1つを選択。さらにスタイルやシーンの案が出てくるので、それで問題ないかをチャットでやりとり。さらに、キャラクターのターンアラウンドの見た目を確認したのちに、カメラやライティング設計を含む台本の作成へと進んでいきます。ほんとに、大がかりなビデオ作成と同じ手順を踏んでいくんですね。
最後に絵コンテまで生成され、確認の上、必要あれば修正をしてもらい、これを進めると、ようやく完成。このように、確認する工程が20程度あったように思いますが、勝手に出来上がるのではなく、AIを使って一緒に作っていくので、かなり納得感はあると思います。ここではほとんど修正せずに、そのまま進めていきましたが、リップシンクなどもしっかりしてくれた上で、だいたい完成したビデオが以下のものです。かなりよくできていると思いますが、いかがでしょうか?
同じv2.1.3では、動画トラックが複数扱えるようになったほか、1つの動画トラック内で複数のクリップを配置できるようになるなど、映像編集機能としての完成度も高まっています。ラベル付け用のマーカートラックや、エージェントウィンドウを開かなくても動画をプレビューできるフローティングモニターウィンドウも追加され、動画まわりの作業がひととおりACE Studio内で完結するようになっています。
サードパーティ製VST/AUプラグインにも対応
比較的最近のアップデート(v2.1.2)で見逃せないのが、サードパーティ製のVST/AUエフェクトプラグインへの対応です。これにより、普段DAWで愛用しているEQやコンプレッサーといった各種プラグインを、ACE Studio内で直接かけられるようになりました。
これにより、DAWを介さずとも、ACE Studio内だけで、かなりのことが実現できます。もちろん、普段使い慣れているプラグインエフェクトが利用できる、というのも嬉しいところです。なお現時点で対応しているのはエフェクトプラグインのみで、VSTインストゥルメントへの対応はされていません。
クレジット制度が導入されていた
さて、機能面の進化と並んで、実際に使ううえでぜひ押さえておきたいのが「クレジット(AIポイント)」制度です。これは2.0へのバージョンアップにあわせて導入された仕組みで、初めて知ったという方も多いのではないでしょうか。
まず前提として、AI楽器の演奏やAIボーカルの生成そのものにはクレジットは消費されません。クレジットが必要になるのは、先ほど紹介したVideo ComposerやAI MV、Music Enhancerといった、動画生成や音楽エンハンス系のAI機能を利用する場合です。
プランごとに毎月付与されるクレジット数は、Artistプランが2,500ポイント、Artist Proプランが5,000ポイントとなっており、米国太平洋時間の毎月1日に残量がリセットされ、新たなポイントが付与される仕組みです。
永久ライセンスを購入した場合は、このクレジットが一定期間無料で付与されます。ACE Studio公式サイトから直接購入した場合はこれまで通り2年間ですが、2026年7月30日~9月21日の期間限定で、
無料付与期間が終了したあとも、クレジットが不足した場合は「ポイントパック」を追加購入することができます。こちらは月払い形式で、2,500ポイント(2,400円)/5,000ポイント(4,800円)といった単位から選べるとのことです。月額プランのクレジットとは異なり、ポイントパックで購入したクレジットは使い切らなかった場合でも翌月に繰り越され、リセットされない点も覚えておくとよさそうです。
ここで気になるのは、実際どのくらいのポイントを消費するのかという点でしょう。たとえば先ほどの10秒弱の海の動画に曲を入れたVideo Composerの場合は100ポイントの消費でした。それに対し、MV生成のほうはかなり喰います。イントロからワンコーラス分で2分15秒ほどの楽曲でしたが、これに対してシーン切り替えなどもあって、15のビデオを作って組み合わせ、リップシンクなどをしていく形となりました。
その結果、1シーンのビデオを生成するのに500~800ポイントとなり、もともと持っていたポイントは見る見る減っていきます。ポイント消費をする際に、承認ボタンを押していくわけですが、もともと7,500ポイント程度あったのが、8シーンくらい作ったところで底をつき、2,500ポイントのパックを追加。さらに作っていったのですが、また足りなくなって2,500ポイントを追加。
それでも最後まで終わらずで追加が必要になったのですが、いったんここで終了させました。そのため、一部、リップシンクしていなかったり、画面が4分割されたビデオになっていたりと、若干不具合が残った形ではありましたが、雰囲気は十分伝わるだろうと終えたのでした。
日本語の楽曲テンプレートも拡充
このほか、日本のユーザーにとってうれしい変化として、楽曲テンプレートにTIMEDOMAINが権利を保有する日本語楽曲が新たに追加されています。今後も日本語楽曲のテンプレートは拡充していく予定とのことで、この点も引き続き注目していきたいところです。
半年あまりの間に、ACE Studioは歌声合成・AI楽器演奏というコアの部分を保ちながらも、映像制作の周辺領域までカバーする「音楽制作ワークステーション」へと着実に領域を広げてきていることが、実際に触ってみるとよく分かりました。SNSの広告だけを眺めていると気づきにくい部分ですが、中身は着実に進化しているというのが正直な感想です。まだ試したことがないという方は、この機会に一度触ってみてはいかがでしょうか。
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