音楽制作専用のPC、Sound Cubeは一般のPCと何が違うのか?仕事で確実に使えるハイスペックPCのメリット

DAW、オーディオインターフェイス、MIDIキーボード…などなど、音楽制作する上で必要なものはいろいろあります。でも、その中でもっとも重要にポジションを占めるのはやはりPCでしょう。PC性能によってできることの範囲も変わってくるし、作業効率も変わってきます。音楽制作はビデオ制作ほど処理能力は必要としないとはいうものの、使える音源の数やエフェクトの数、またトラック数も大きく変わってきます。もちろん、Windowsマシンを選ぶか、Macを選ぶかという根本的な問題もあるわけですが、Macを使いつつ、エンジン部分は裏でWindowsを動かしておくといった使い方もあるので、ときには制作環境を見直すのも重要事項なのです。

そのPC選びは単に処理能力に留まりません。基本的には高速だけど、時々PCが落ちたり、DAWが固まってしまう……なんてことがあったら、まともな作業はできません。でも、数多くのプラグイン、場合によってはビデオ制作ソフトも動かす環境ともなると、相性問題も出てくるから、不安定さの原因がどこにあるかを突き止めるのは至難の業です。そうした中、音楽制作に特化したPCメーカーがあるのをご存知でしょうか?OM FACTORYという日本のメーカーで、楽器店のRock oNSound Cubeというブランドで販売している専用機です。実際、このSound Cubeを使って仕事をしているという、モンスターハンターシリーズなどの音楽を手掛けてきた作曲家の裏谷玲央さんにお話を伺うことができたので、紹介してみましょう。

ゲーム、アニメ、CM等の音楽制作を手掛ける作曲家の裏谷玲央さんにSound Cubeを導入した経緯などを伺った(Rock oN店内にて)

--まずは裏谷さんのプロフィールについて教えてください。
裏谷:2008年にカプコンに入社して以降、たくさんのタイトルにコンポーザーとして携わってきました。その中でもモンスターハンターシリーズを担当することが多く、モンスターハンタークロス、モンスターハンターダブルクロスではサウンドディレクター兼メインコンポーザーを務めました。その後、2019年の春に独立し、現在はフリーの作曲家をしています。

--カプコン時代も含めてPC環境はどうしていたのですか?
裏谷:カプコンではWindowsを制作で使っていて、学生時代はMacを使っていたこともあります。

--プロの音楽制作というとMacユーザーが多いイメージですが、やはりゲームメーカーはWindowsが多いのですか?
裏谷:ゲーム業界全体で見ると、MacとWindowsの両方を使い分けているメーカーが多い印象です。僕の場合はProTools用にMacを使い、楽曲制作や実装にはWindowsを使っていました。会社独自のツールやゲームエンジンはWindowsベースであることが多く、DAWで音楽制作をしながら同じマシンでゲームエンジンを動かすこともありました。

 

Sound CubeでCubaseを使い制作をする裏谷玲央さんご自身のREI MUSICスタジオ

--裏谷さんご自身、DAWは何を使ってきたのですか?
裏谷:学生のころはMacでDigital Performerを使用していましたが、カプコンに入社してからCubaseになり、今もWindows上でCubaseをメインDAWとして制作を行っています。

--カプコンから独立して、東京でスタジオを作るとなったときに、PC環境をどうするかという計画はあったのですか?
裏谷:WindowsでCubaseという環境に慣れていたので、同様の環境を構築することは決めていました。もちろん仕事として使うわけですから、ストレスなく快適に作業ができて、安定性のあるマシンということが、重要なポイントでした。

--数多くのPCメーカーがあるなか、楽器店であるRock oNが扱うSound Cubeを導入されたと伺いました。なぜ、これを選んだのですか?
裏谷:Sound Cubeは大阪のOM FACTORYという会社が制作している音楽制作専用マシンです。以前はBTOマシン(※注 BTOは「Build To Order」略称で、ユーザーの要望に応じてCPUやメモリ、ストレージなどのスペックを合わせて受注生産するマシンのこと)を使っていたのですが、カプコン在籍時にSound Cubeを導入しました。その後、フリーになった際に担当の方にPCの相談をしたところ、個人や小規模企業向けにはRock oNが取り扱っていることを聞き、ここで購入することになりました。

--一般的なBTOマシンとSound Cube、実際、どんな違いがあるものなのでしょうか?

裏谷:Sound Cubeは、「音楽制作に特化したマシン」ということが、一番のメリットだと思います。汎用的に使われるマシンより音楽に特化していることで、安心感があると思います。特にWindowsは色々なソフトが使用できる分、多少のトラブルは免れないため、カプコン時代にトラブルが起きたときは、会社に来て1からマシンを調べてくれたこともありました。DAWやよく使うメジャーな音源もセットアップした状態で納品され、ソフトの相性問題が起きたときに電話やメールでもサポートしてくれます。確かに値段はBTOマシンの方がお得だと思いますが、使用したいDAWやプラグインなどの環境から考えて、適切なPCスペックのアドバイス、購入後のサポートがある点で、価値があると思います。

--たしかに普通のPCメーカーだと対応は難しいところですよね。実際これで助かった、という経験はありましたか?
裏谷:カプコン時代にSound Cubeを導入した同僚を含めて、いろいろありました。たとえばWindowsでiLokのドライバーがどうにも入らないことがあり、すごく困ったことがありました。すぐにOM FACTORYに問い合わせたところ、原因はSATAのドライバーがiLokとバッティングしていたことが判明。SATAケーブルを抜くか、ドライバーを最新のものに入れ直したら動くということで、すぐに解決することができました。そんなこと普通のユーザーには分かりませんからね。そのほかにも、あるプラグインが動かなくて問い合わせたところ、特定のWindowsのバージョンだとはじかれるということを教えてもらい、Windowsをアップデートして解決。またCubaseにMOV動画ファイルを貼り付けて再生すると、動画にノイズが乗って、まともに再生できず、とっても困ったこともありました。これについても、OM FACTORYに連絡して聞いてみたら、使っているグラフィックカードとの相性が原因であることが判明。そのグラフィックカードのドライバを最新版に更新することで、すべて解決できたといったこともありました。こうした解決方法を電話やメールですぐに教えてもらえるという安心感は、何にも代えがたいです。

--裏谷さんが先日導入されたSound CubeのPCスペックや価格を教えてもらえますか?
裏谷:CPUはCore i7-9700Kで、メモリ64GB、それからオーケストラのライブラリのような転送速度が求められる大容量サンプルも使うため、NVM Express(NVMe)のSSDを2つ搭載しています。そのほかの使用頻度の高い音源は別の2つのSSDに入れており、バックアップ用には6TBのHDDを積んでいます。値段は40万円ほどでした。

--このスペックのマシンにする上で、特に気にしたことはありますか?
裏谷:ゲームのコンポーザーは少し特殊でして、単に音楽制作をすればいいわけではないのです。やはりゲームのための楽曲制作であり、キャラクターの動きやステージなどにの動きを見ながら、それに曲を合わせていく必要が出てくることもあるのです。そのためDAW起動中に裏側でUnityなどのゲームエンジンを動かすケースもあるので、それが問題なく動くマシンということで、相談していった結果、GPUを強化のためにグラフィックカードを搭載しました。Cubaseはオーケストラなどの大容量サンプルを使用する音源がすぐに鳴るような構成を希望しました。64GBだとさすがに厳しくなってきたので、そろそろ128GBにしようと思っています。

裏谷さんのギター。主にエレキはBaker B1 NAMM Model、アコギはCollings OM-2H Sacha rosewoodを使用

--やはりゲーム用の音楽制作だと打ち込みが多いのでしょうか?スタジオにされているということですが、ここで録りもあるのですか?
裏谷:打ち込みだけで完結する曲もありますが、ギターなどの楽器は自身のスタジオで収録することもあります。オーディオインターフェイスはRMEのFireface UFXを使っていましたが、Unisonテクノロジーを試してみたくて、Universal AudioのApollo x6も最近導入しました。メインで使用しているマイクプリはneve shelford channel、最近のお気に入りのマイクはEarthworks QTC50mpです。

Earthworks QTC50mp

--細かな話まで、いろいろとありがとうございました。作曲家の細かなPC環境を伺う機会はあまりないので、非常に参考になりました。

今回、裏谷さんのPCの導入を担当されたOM FACTORYの平井哲史さんにもお話を伺うことができたので、紹介してみたいと思います。

 

--改めてOM FACTORYのマシンとBTOマシンの違いについて教えてください。
平井:たとえば、フルオーケストラを使いたいとして、CPUやメモリがどれぐらい必要なのか、一般のユーザーだとなかなか分からないと思います。もちろん最高のCPUを搭載し、できる限りいっぱいのメモリーを搭載し、超高速なNVMeを大容量で搭載して……とフルスペックにするのも手ですが、それだと際限なくコストがかかってしまいます。OM FACTORYではユーザー様にヒヤリングして、使う用途によって最適解を出せるのが強みだと思っています。また電源部に気を使っているのも大きな特徴です。急にCPUがフル回転したとき、また商用電源側の電圧が少し下がったようなケースでも、落ちることなくしっかり動く電源にしてあります。またクリエイターにとって一番困るのが、作業している瞬間に止まったり、ブルースクリーンになることだと思います。そうしたことが起こらないよう、日々トライ&エラーを重ねており、安定性という面では最大限の力を注いでいます。またDAWやプラグインなど音楽制作関係のソフトでのチェックを常に行っているので、万が一トラブルがあったとしてもすぐに対応できるのが当社の強みです。

OM FACTORYの平井哲史さん

--裏谷さんの話では、バックでUnityなどを動かすためGPUを強化したとのことでしたが、GPUについてはどのように捉えていますか?

平井:ゲームコンポーザー系の方だと、裏でUnityやUnreal Engineを動かす方もいらっしゃいますが、それだけではなくグラフィック関連のニーズは高まっています。やはり、音楽制作で完了ではなく、YouTubeなどで作品を公開する場合、DAWの裏でAdobe Premiereなどの動画編集ソフトを立ち上げながら作業するというケースも増えています。そのため、どうしてもCPUパワーだけでは力不足となりGPUパワーが必要になるのです。その場合、それに適したマシンをお勧めしています。

GPUパワー強化のためグラフィックカードを使うケースも増えている

--グラフィック以外で、最近のPCのトレンドというのがあれば、教えてください。
平井:やはりメモリの量ですね。裏谷さんのようにテンプレートを使って、全オーケストラ音源をなるべく早く立ち上げたい、鍵盤を弾いたらすぐに音が鳴ってほしい…などの要望が多いので直近の注文はメモリ128GBが多いです。もちろんメモリの量は作りたいジャンルにもよりますので、32GBあれば十分というケースも少なくありません。この点は、相談していただければ、最適なスペックをご提案いたします。またストレージも最近はSSDの大容量化が進んでいるので、オールSSDにする方も多いですね。

--Rock oNでSound Cubeを購入したときのインストールサービスについて教えてください。
平井:Sound Cubeと一緒に買ったDAWや音源がある場合、ご要望があればインストールした上でお渡しすることは可能です。

--OM FACTORYでMacは扱っていないと思いますが、Macユーザーに対して、何か提案できることはありますか?
平井:いくらマシンパワーがある、価格的に断然安い、といってもMacユーザーの場合、なかなかWindowsへ環境を変えることに抵抗を感じられる方は多いと思います。ただ、あくまでもMacを使って作業をしながら、Sound Cuveを用いてマシン環境を高速化するという方法もあります。VIENNA ENSEMBLE PROというソフトを使うのですが、これはDAW自体はすべてMacのものを使いながら、プラグインをLAN環境で接続したWindowsマシンで動かすというもの。これであれば、あくまでもバックエンドでWindowsを動かすだけなので、抵抗感なくWindowsマシンを導入し、システムのパワーアップを図ることが可能となります。

VIENNA ENSEMBLE PROを用いてPCをMacのバックエンドにとして活用するのも手

--Mac ProとSound Cubeの価格を比較した場合、もし同じスペックであったとしたら、どのぐらいの差がでるものでしょうか?
平井:コスト面は圧倒的に安くなると思います。とくにハイスペックになればなるほど、価格差は大きく開いていきます。またMac Proの場合、CPUの選択肢も限られてしまうし、拡張性という面でも限界があります。たとえば、導入後に、SSDを複数追加し、RAIDを組んで爆速マシンにアップグレードできるというのもWindowsマシンのメリットだと思います。とくに仕事で音楽制作をしているという方であれば、安定して使えるという意味で、一度ご検討いただけると嬉しいです。ちょうど12月6日からRock oNでてSound Cubeが期間限定セールを開催しているので、この機会にPC環境を見直してみてはいかがでしょうか。

Rock oNのSound Cube担当、森鉄人さん。Sound Cubeを期間限定セール中とのこと

【関連情報】
Sound Cube製品情報
Rock oN 製品担当 森鉄人

Commentsこの記事についたコメント

3件のコメント
  • 愛のメモリ

    128gbの時代になってきたんですね、夢のようなマシン欲しいです、自分のPCスペック見ると1gbでした,CPUも 1.06ghzでアルバム作りましたが、フリーズしまくりでした(笑)。

    2019年12月7日 4:37 AM
  • DTM初心者にグラボは必要?必要ならどれくらいのスペック? | 96bit-music

    […] 音楽制作専用のPC、Sound Cubeは一般のPCと何が違うのか?仕事で確実に使えるハイスペックPCのメリット […]

    2019年12月9日 3:01 PM
  • SoundSound

    買って内容を見ましたが、特別な設定はありませんでしたよ。
    WEBを調べれば出てくるあくまでもDAWとしてオーソドックスな内容でした。
    PCが苦手な人には良いかもしれませんね。

    2019年12月21日 5:54 PM

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