開発者に聞く、6オペレーターFM音源搭載のシンセサイザーopsix。常識を打ち破った新世代サウンドの到来

KORGから6オペレーターFM音源搭載のシンセサイザーopsix(オプシックス)が発売されました。今年1月のNAMM Show 2020では、61鍵盤のモデルが展示されていましたが、今回発売されたのは37鍵のモデル。前面に配置された6つのオペレーターを直接動かせるオペレーターミキサーが特徴的であり、「6」という数字をテーマに配置されたボタンやノブの操作性は抜群。32音ポリフォニック、40のプリセットアルゴリズム、FM/Ring Modulation/Filter/Filter FM/Wave Folderの5つのオペレーターモード……など、従来のFMシンセの枠に収まらない作りをしています。

EGとLFOをそれぞれ3系統装備し、12系統のバーチャルパッチも用意。強力なフィルターを11種類も搭載しつつ、3系統まで同時に使用可能な内蔵エフェクトを30種類使うことができます。スペクトラムアナライザー、16ステップのシーケンサー、ランダマイズ機能などを持ったopsixについて、開発者の方々にインタビューをしてきました。インタビューしたのはKORGの岡村剛さん、デービス スプレーグ(Davis Sprague)さん、金森与明さん、井上和士さん。opsixを開発した経緯やopsixの持つ魅力についてお伺いしてきたので、紹介してみましょう。

opsixの開発者のみなさん。左から井上和士さん、デービス スプレーグさん、岡村剛さん、金森与明さん


--まず、みなさんの役割分担について教えてください。
岡村:プロジェクトリーダーと細かい仕様決め、ソフトの実装などを担当しました。
デービス:エフェクトやシーケンサーなど、信号処理系を作成しました。
金森:音色作りを担当しています。また音源パラメーターの調整と仕様をどうまとめるか、サポートしました。
井上:発案者として、最初期のアイディア出しを担当しました。

6オペレーターのFM音源シンセサイザー、KORG opsix

--そもそも、どういったきっかけでopsixを開発することになったのでしょうか?
岡村:KORGとしては、これまでminilogueなど、アナログシンセサイザーのラインナップを充実させていく流れがありました。最近では、デジタルシンセサイザーの面白さにも改めて注目していまして、ウェーブ・シーケンシング2.0を搭載したwavestateがその第一弾です。opsixはwavestateの兄弟機種として、並行して開発していました。opsixの発表は、今年1月に開催されたNAMM Show 2020が最初で、61鍵盤の試作版を展示していました。

KORGはデジタル・シンセサイザーにも力を入れてきていると話すプロジェクトリーダーの岡村さん

--6オペレーターのFM音源は、世の中的にも「欲しい!」という声がずっとあったと思いますが、なぜこのタイミングで、リリースされたのでしょうか?
岡村:FM音源というと、80年代に流行ったもの、過去のものというイメージがあるかもしれませんが、最近の電子音楽でも、FM特有のギラギラした音色なんかで目立っていると思います。世の中的には、ソフトシンセでのFM音源や普通のシンセの中にFM的な要素を含んだ製品も存在していますが、FM音源を全面に押し出したハードシンセは少ないですよね。そんな音楽シーン、製品動向などを考えた上で、KORGだからこそできるFM音源搭載のシンセサイザーを作りました。

--最初から6オペレーターで作ることは決まっていたのですか?
井上:大枠の部分で6オペレーターで作ることは、企画段階で決めていました。ですが、そのまま作ってしまっては、ただのFMシンセ。そこで、オペレーターをある固有の仕方で音を生成・変調させる存在として抽象的にとらえ、それらを組み合わせることができるシンセにしようとしました。また、6オペレーターなので、6という数字を使って、ノブやボタンの個数を決めました。

従来の6オペレーターのFM音源からどのように広げていくかいろいろ考えたという井上さん

--たしかに、昔の考えで作ったらそのままDX7になってしまいそうですね。でも。opsixは、これまでにないFMシンセに仕上がっていますが、ここに至ったのにはどんな秘密があるのでしょうか?
井上:結果として、アルゴリズム、つまりオペレーターのつなぎ方のことですが、これによって、様々なシンセサイザーに変容するということが、発見できたし、面白さの源泉の一つになったかと思っています。もともと FMはツリーの立て方で 2ティンバーだったり、3ティンバーだったりするシンセだと思いますが、それが例えば、フィルターつき3VCOバーチャルアナログ+1FMだったり、組み合わせとモジュレーション・タイプでガラッとある種音源の仕組み自体が変化します。もちろんオーセンティックな使い方もできます。組み合わせの面白そうなパターン集としてopsixでは全部で40種類のアルゴリズムを提案することになりました。また、ユーザーが独自にオペレーターの組み合わせを定義することもできます。これもこれまでのハードシンセにはなかった面白い機能だと思います。

プリセットのアルゴリズムは40種類。DX7にはない6つ直列のものもある

 

各オペレーターの役割を5つの中から選択できる

ーーDX7の場合、各オペレーターが出力する波形はサイン波のみでした。それに対し、opsixはサイン波以外も扱えるわけですよね?
金森:はい、キレイなサイン波のほかに、12bit解像度のサイン波、8bit解像度のサイン波も用意しており、より昔のFM音源風なサウンドにすることも可能にしています。また三角波、ノコギリ波、矩形波、さらにはノコギリ波の最初の3つの倍音を生成するものや、矩形波の最初の3つの倍音を生成するもの、ホワイトノイズ、サンプル&ホールドによるノイズなど、いろいろなウェーブフォームを用意しています。これらを使ってFMを行うことによって、サイン波だけで行うのとは大きく異なる、複雑なサウンドを作っていくことが可能になっています。

サイン波以外にもさまざまな波形を出すことで、音色の幅を大きく広げられるという金森さん

ーー6オペレーターのFM音源としては、以前、KORGでvolca FMを出していました。これはDX7のシステムエクスクルーシブを読み込んで音色の再現ができる点も面白かったですが、opsixではどうなっているのでしょう?
岡村:opsixもDX7のシステムエクスクルーシブ・メッセージを読み込むことは可能です。ただし、1音色だけのメッセージはロードできず、32音色のDX7サウンドを含んだバンクである必要があります。また、DX7のエンベロープジェネレーターは8パラメーターによる複雑なものでしたが、opsixではADSRの4パラメーターです。そのため、受け取ったメッセージを元にADSRに変換するので、100%完全に再現できるわけではないですが、だいたいのニュアンスは再現できるようになっています。

opsixのエンベロープジェネレーターはADSRの構成

--ユーザーインターフェースに関しても、すごく分かりやすいですが、とくにオペレーターミキサーのアイデアについてはすぐに決まったのですか?
岡村:結構悩みました。当初の案だとカットオフなどもっとわかりやすいパラメータを前面に出していたものもありました。FMってレシオやレベルをちょっと触っただけでも極端に音が変わったりするので、ちょっと危なっかしいんじゃないかという不安もありましたね。実際にプロトタイプを作って試してみたところ、プリセット音色を調整してバリエーションを作るのにも使えそうだし、極端な設定でFMの暴れっぷりを楽しむこともできる、ということがわかったので、採用しています。ぜひFMを直接触る体験をしていただけたらと思います。

6つのオペレーターを直接触ることができるオペレーターミキサー

--FM音源は、レシオを何倍にすると、金属音になるとか、エレピっぽい音になるなど、特性があるから、選んでいくという印象があったのですが、ノブで回していくというインターフェースも斬新ながら、楽しいし、思いのほか使いやすいですね。
井上:実際にFM音源を触っていく中で、スペクトラムアナライザーを見ながら、レシオやレベルを変えて、実験していた時期があったのですが、その体験が楽しかったので、opsixにはスペクトラムアナライザーを搭載しています。モジュレーターのレシオを変えると、倍音の立ち上がりが変わって音色が変わる。これって、FMのシンセの面白さの源泉だと思うんです。これを体験できる方がいいな、毎回オペレーターを切り替えボタンを押してからレシオやレベルを触る仕様にしてしまっては、この面白さに到達できない気がしたので、左側に直接FMを触れるミキサーが、少なくとも私にとっては、あります。このミキサーはFMシンセの学習素材ですね。

最終段の出力波形をオシロスコープで見ることができるほか、スペアナで見ることも可能

--その昔、FMを理解するためにBASICでプログラムを書いて波形を表示させてシミュレーションしていましたが、波形がすぐに目で見えるのはいいですよね。ところでopsixにはシーケンサーも搭載してありますよね。これはminilogueなどに搭載されていたシーケンサを流用した形なのですか?
デービス:minilogueのシーケンサーと比べると、いろいろと進化している点があります。特に新しくユニークな機能が、スタートパラメーターです。たとえば、1ステップ目にドミソを入れたとして、このドミソそれぞれの音のスタートタイミングをずらすことができます。ヒップホップ系のグルーブを作るのに使えますし、ギターのストラム奏法やストロークみたいな表現もできる強力な機能です。各ステップごとに、スタートパラメーターは変えることも可能なので、1ステップ目はダウンストロークっぽく、2ステップ目では別の演奏にすることなども可能です。

シーケンサ部分やエフェクト部分のDSPプラグラミングを担当したというデービスさん

ーーそうか、ストロークのような演奏ができるということは、このシーケンサ自体ポリフォニックで組むことができるわけですね。そもそも、opsixって、何音ポリなんですか?
岡村:opsixは、32音ポリでの発音が基本ですが、選択するオペレーター・モードや波形の組み合わせによってはもう少し発音数が少なくなるケースもあります。ただ、最低でも24音ポリでの発音はできるようにしています。
デービス:とはいえ、24音ポリでシーケンスを組むことはないでしょうし、あまり複雑にするとUIがややこしくなってしまうので、opsixのコンセプトでもある「6縛り」によってシーケンサーの仕様としては6和音としています。

--最終段に搭載されているエフェクトについても教えてください。
デービス:3系統まで同時に使用可能な内蔵エフェクトを30種類搭載しています。
金森:今回エフェクトはすごく使いやすくなっています。というのも、従来のエフェクトは2つのノブで2パラメーターのみを操作する機種か、反対にパラメーターが10個以上搭載されていて複雑すぎる製品が多かったのですが、今回は1ページ内で表示できるパラメータ数の制限もありますので、必要最小限で効果的なパラメータに厳選しブラッシュアップしたことで、ものすごく使いやすくなっています。また新規のエフェクターも制作しました。特にユニゾンアンサンブルというエフェクトは、デービスの自信作です。

エフェクトはA~Fの6つのノブで操作していく
デービス:ユニゾンアンサンブルは、モジュレーション系コーラスで、昔からあるユニゾンボタンのイメージで使えるエフェクトです。ボイスを重ねて音が厚く、ゴージャスになる感じを再現しています。最大8ボイスまで設定可能です。
金森:またリバーブ系の音色は全部いいですよ。フィードバックディレイネットワークというアルゴリズムのおかげで、単純なリバーブの音質がかなり高品質になっています。

--ランダマイズボタンがハードウェアに付いているのが面白いと思ったのですが、これについても教えてください。
デービス:全体をランダマイズしたり、対象を選んでランダマイズできるボタンになっています。なるべく音が出ないケースが出力されないよう調整はしています。たとえば、オシレーターだけをランダマイズして、そこからベーシックとなる音を決めて、音作りしていくことが可能です。ランダム具合を決めることもできますし、出来上がった音はそのまま保存することもできます。サイコロのアイコンが施されたランダマイズボタンで一期一会な音色を作り出すこともできる

--opsixだけでも、いろいろなことができると思った一方、もっと俯瞰的に見れるPC用のエディターがあったら面白いと思ったのですが、opsixとPCの関係はどうなっているのでしょうか?
岡村:基本的なところですが、USB MIDIはもちろん使えます。また現在、音色の管理ができるライブラリアンソフトも開発中です。それ以外は、まだ決めているものはありませんが、今後ユーザーのみなさんの反応を見ながら、考えていこうと思います。

opsixを囲む開発者のみなさん

--楽しみにしています。本日はありがとうございました。

【関連情報】
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1件のコメント
  • M

    藤本さん、こんばんは。
    記事の「DX7のエンベロープジェネレーターは8パラメーターによる複雑なものでしたが、opsixではADSRの4パラメーターです。」について、安価なvolca FMでさえ8パラメーターに対応していたにもかかわらず、より高価なopsixはなぜ対応しなかったのか理解に苦しみますね。記事以外の掘り下げた情報は無かったのでしょうか?
    ADSRの4パラメーターも分かり易くていいですが、”FM音源といえばDX7”の8パラメーターも対応して欲しかったですね。
    せっかくDX7を意識したFM音源メインのハードシンセを作ったのに、DX7の世界中の膨大な音色データが(100%互換で)使えないのがすごく残念ですね。

    2020年11月29日 11:09 PM

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