15年近くCubaseを使っているというマリモレコーズの代表取締役/プロデューサーの江夏正晃さん
江夏:小学生のころから、ヤマハ音楽振興会でピアノと作曲を習っていました。ただ、当時子供ながら、自分には才能がないな……と思ってはいたんですよ。中学校のときにピアノについては辞めてしまったのですが、そのころにYMOの音楽に出会い、ここにハマってしまったんですよね。ちょうどYMOの活動後期あたりからシンセに興味持ち出して、坂本龍一さんがDX7を使っているのを見て、あぁ、カッコイイってね。それで、音楽振興会でシンセサイザーの音作りなんかも習うようになり、そこからはシンセサイザー道まっしぐらですね(笑)。
江夏:はい、当時は趣味としてやっていたので、夜と週末に音楽制作をしていましたし、堅い会社であったため、そうした音楽活動については完全に秘密にしていたし、朝いちばんに出社して黙々と仕事をしていたから、上司からは「お前も、何か趣味でも持ってみたらどうだ……」なんて言われたりもしましたよ(笑)。さらに第2弾で出したものは、インディーズチャートの1位になるなどしたのです。何を勘違いしたのか、2003年に会社を辞めて、音楽一本に絞ることにしたのです。会社の回りの人からは、別の会社に転職すると思われたみたいで、「音楽をやるんだ」という話をしたら、信じてもらえないし、驚かれたり、呆れられた感じでしたね(苦笑)。
江夏:ファーストアルバムからCubaseで、当初はCubase VST5だったと思います。それまでVisionなど、いくつかのシーケンサは使っていたのですが、VST5に出会って、これはすごいな、と。当時はオプションだったテープシミュレータのMagnetoなんかも、その音質に驚いて購入しました。ただ当時のVST5は音質にクセがあってフェーダーワークに苦労しました。だから、Cubase内においては、できるだけフェーダーをいじらないようにして、バランス調整は外で行うなどの工夫をしていました。でも、その後Cubase SXになって、音質が劇的に向上したんですよ。そこからは私もCubase一辺倒ですね。ただ、Cubase SXになる際、OSがMac OS9からMac OSXになったため、OS側のトラブルが続出。これじゃあ作業にならないし、すべてシステムを作り直さなくてはならず、どうしようかと思ったのですが、どうもWindowsがいいらしい、という話を聞いて、Cubase環境をWindowsに移行させたんですよ。驚いたのは、当時Macに挿していたRMEのオーディオインターフェイスが、そのまま使えてしまったことです。これですべてが解決するし、プロと十分渡り合えると実感しました。当時はまだSONYのPCM-3348が現役で使われていた時代ですが、レコーディング機材として見て、それとそん色がないように感じるくらいでした。プロの現場との音の違いはレコーダーではなく、マイクとかマイクプリアンプが問題である、という認識もハッキリとしました。
江夏:実は本業にした途端に、仕事がパタンとなくなってしまい、大変なことになりました。営業しても仕事はもらえないし……1年ほどで貯金も底をついて、もうバイトをしなくちゃ、というギリギリにところで1つ仕事が入り、それをキッカケに回るようになっていきました。CMの仕事、展示会での音楽、売り出し中のアイドルの楽曲作成から学校の校歌までいろいろやりましたね。当時、弟はテレビ局で映像の仕事をしていたのですが、2007年に弟も会社を辞めて、株式会社マリモレコーズとして本格的なスタートを切ることになったのです。音楽と映像をワンストップで制作できることが話題になり、少しずつ仕事が増えていきました。音だけでなく、エンジニアもできるし、ディレクションもできるし、演出もできる。音楽も映像もワンストップでできる会社は少ないので、口コミも含めて仕事は広がっていったのです。音質についても、こだわるようにして仕事をしてきました。Cubase SX以降もCubaseのバージョンアップを重ねながら使っているのですが、Cubase SX時代にNuendoが出てからはNuendoと並行して使っています。
江夏:スタジオではNuendoを使い、外ではCubase というのを基本にしています。ただ僕の中ではNuendoとCubaseの違いはほとんど意識せずに使っています。うちの場合MAもするし、映画のダビングなんかもするため、やはり Cubaseに比べ、MA向けの機能が数多く搭載されているNuendoは映像との関わりが多い弊社では便利なことも多いんですよね。もっとも NuendoもNEK(Nuendo Expansion Kit)をインストールしてしまえば、ほぼすべてのCubase機能が実現できるので、まったく違和感はないですよ。
江夏さんと弟で映像作家の江夏由洋さん、アニソンDJのサオリリスさんの3人のユニット、SAOLILITH 2 FILTER KYODAI
江夏:これも、やはりNuendoで制作を行っているのですが、単にプロジェクトを96kHzに設定したというだけではなく、VSTiのシンセもVSTのプラグインエフェクトも96kHz対応のものを用いて作っていったのです。やはりハイレゾで作ると音が見えてくる感じがするんです。コンプもかけ過ぎはよくないですが、適度にすることで、いいサウンドになってくるのです。クラブでDJをしていても、やはりハイレゾだと、明らかに違いが出てくるように感じるのです。トラックメイキングにおいても、その感覚は同様です。48kHzと96kHzの違いって、高域をよりハッキリ捉えられるということだけでないと思うんです。いちばん感じるのはEQです。昔やっていた48kHzでは1dBの差が分かりにくかったけど、本当に0.5dBずつの違いが感じられるように思うんです。すでにフルアコースティック作品でやっているのですが、できれば、打ち込み作品でも192kHz、32bit Floatでやってみたいところですが、その辺はプラグインなどを含め、まだ環境が整っていないというのが実情ですね。
江夏:ソフト音源としては、SpectrasonicsのOmnisphereやTrillian、ArturiaのV Collection、iZotopeのBreak Tweakerなんかを中心に使ってます。また、ハード音源はとにかくビンテージから最新シンセまでたくさん使います。面白いところでは、ピコピコサウンドが欲しいときにTenori-Onなんかも使いますよ。ステップシーケンスの作り出すフレーズって好きなんですよ。
江夏:OVERLOUDのBREVERBなんかはよく使います。軽くて音も好みなんです。またUAD-2が刺さっているので、このプラグインエフェクトもいくつか使っています。とくにNeve 1073は大好きだし、Pultec Passive EQ、Manley Massive Passive EQ、EMT 140 Classic Plate Reverberator、SSL G Series Bus Compressorなどは、他の作品同様、よく使っていますね。あとはWavesのL2、L3、RenaissanceComp、JJP collection、また飛び道具としてSoundShifterを使ったりしましたよ。
--そうしたデータもここのスタジオで制作していたんですね。
江夏:そうです。結構便利なのは、Nuendoのディスプレイのすぐ前に小さなキーボード、Xkeyを置いて打ち込み用に使っているほか、ちゃんと演奏してリアルタイム入力するときには、横に置いてあるStage Piano CP33で弾いているんです。ただ、ここだとPCと少し離れてしまうので、このピアノの上にPCのキーボードを置いて、ショートカットでいろいろ操作できるようにしているんですが、これが便利ですよ!
なお、コラボ企画としてSteinberg Japanのサイトに乗せている江夏さんの記事には、ハイレゾ作品をどう作るか、ということについて詳しく書いているので、そちらも参照していただければと思います。
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