先日の記事「進化は止まらない。国産DAW、ABILITYが2.0へ大きくパワーアップだ!」でも紹介した、インターネット社のDAW、ABILITYの新バージョン、ABILITY 2.0。前回、上位版のABLITIY 2.0 Proをちょっと使ったときはまだベータ版でしたが、5月19日の発売を目前にして、正式バージョンが完成したという連絡をインターネットの村上昇社長からいただきました。
「とにかくステップシーケンサは他のDAWにはない強力なものに仕上がっているので、ぜひ使ってみてください」ということだったので、実際どんなものなのか、ステップシーケンサを中心に試してみたので、紹介してみましょう。
強力なステップシーケンサを搭載したABILITY 2.0
言うまでもなくABILITYはSinger Song Writerから進化・発展してきた国産のDAW。Singer Song Writerの初期バージョンは1991年のPC-9801用ですから、もう25年もの歴史を持つ由緒あるソフトです(カモンミュージックとの関係など歴史的話は「インターネット村上昇社長と昔話(上) (下)に詳しく書いているので参照ください)。
PC-9801時代のMS-DOS版 Singer Song Writer V2
そのカモンミュージックのレコーンポーザ形式の数値入力機能など、日本独自の機能を持って進化しつつも、海外の各種DAWと歩調を合わせる形で、MIDI機能、オーディオ機能を発展させてきたわけですが、今回の目玉となったのがMIDI機能として搭載されたステップシーケンサです。
日本の伝統文化ともいえるカモン・レコンポーザ方式の数値入力方式がABILITYには残っている
ステップシーケンサ自体は、大昔からあるシステムであり、それこそRolandのTR-808やTB-303などが採用していたもの。特にドラムパターンを入力する場合には、ピアノロールや譜面で入力するのと比較して、圧倒的に効率よく打ち込むことができるのが特徴です。
ステップシーケンサの元祖的存在、1980年発売のドラムマシン、Roland TR-808
デフォルトでは16ステップ/4Beatとなっているので、従来のステップシーケンサをご存知の方なら、何の違和感もなく、即、使うことができると思います。また、最大32ステップ/64Beatまで設定できるなど、とっても柔軟なシステムになっています。もちろん、まったくの初心者であっても、触れば5分で使いこなせるはず。簡単にその手順を紹介してみましょう。
ABILITY 2.0 Proにバンドルされているドラム音源、BFD Eco
ドラムを打ち込む場合、あらかじめMIDIトラックにドラム音源を設定しておきます。ここではABLITIY 2.0 Proで追加されたBFD Ecoを使います。MIDIトラックの設定部を右クリックすると、メニューが現れるので、STEP SEQUENCERを選択すると、ステップシーケンサのレーンが作られます。このステップシーケンサのレーンは各MIDIトラック毎に作成できるのでそれぞれのMIDIトラックで個別にステップシーケンサを使用したシーケンスを組むことも可能になっていますよ。
さて、ステップシーケンサの画面を開き、ここで「Dr」というボタンをクリックすると、BFD Ecoに現在設定されているドラムパーツの名称一覧が表示されるので、この中からキックやスネア、ハイハットなどを選びます。
あとは、16個あるステップボタンにパターンを入力していけばいいんですね。ツールバーにあるスピーカーのアイコンをONにするとステップシーケンサの再生がスタートし、16ステップをループする形になります。そして再生しながら入力もできるので、とっても分かりやすいですよ。
たとえばキックを設定し、数字の1、2、3、4の真下をONにしていくと、ドンドンドンドン、という4つ打ちができます。さらにハイハットを設定して、16個すべてのステップをONにしていけば、チチチチチ…と16ビートができるというわけです。必要に応じてスネアやタム、シンバルなど加えていけばOKです。
パターンが入力できたら、シーケンストラックにループ素材として貼り付ける
パターンができたら、ツールバーにある黄色い上向きの矢印アイコンをクリックすると、出来上がったパターンがシーケンストラックに入力されます。そして、これはループ素材として使えるようになっているので、1曲を通じて同じパターンを鳴らしていくのなら、マウスでドラッグしていくだけで、もう完成。とっても簡単でしょ。
ステップシーケンサで入力したものが1小節のループ素材になるので、あとは引き延ばしていくだけ
こんな簡単なABILITYのステップシーケンサですが、実はかなり複雑な入力までできるのが面白いところなんです。一番上にあるBEAT、STEPを使うことで何拍か、1拍を何ステップに分割するかを設定できるほか、入力するステップのGT=ゲートタイム、VEL=ベロシティの設定を選択できるようになっているほかDEV=Deviationでスウィングを作るといったことも可能です。
各ステップごとにGTやVEL、DIVなどを細かく設定できる
しかも面白いのは全体のGTやVEL、DEVを設定するだけでなく、各ステップ単位で細かく設定することも可能になっていること。ステップボタンをダブルクリックするとノートパラメータ変更というダイアログが現れるので、ここで個別に設定できるんです。しかも分割パラメータを使い、1つのステップを2分割、4分割……最高で16分割までできるんですね。しかも、分割した結果の比率を決めたり、GTを決めることもできるなど、かなり自由度が高いです。
もちろんステップシーケンサはドラムだけでなく、ベースパターンや、シンセのパターンなど、いろいろなシーケンスパターンを作っていくことができます。またステップボタンをドラッグすると、それらが連結して1つの音符になるなどなかなか良くできています。
ここまでマニアックにいろいろ設定できるステップシーケンサを搭載したDAWって他にないんじゃないでしょうか?ステップシーケンサだけで1日遊べてしまうほどですね。
さて、このステップシーケンサはMIDIの機能であり、簡単にループ素材が作れてしまうという点で、とっても便利なツールですが、ABILITY 2.0にはオーディオループ素材、つまりACIDデータを作る機能も搭載されています。いわゆるアシッダイズ、というヤツですね。
使い方はとっても簡単。オーディオトラック上で、アシッダイズしたいイベントを選択します。ここでは、あらかじめ1小節とか2小節、4小節などループ素材として使いたいサイズにトリミングしておき、あとは右クリックして「オーディオプロパティ」を開き「ACIDに変換」というボタンを押すだけ。
基本的にはテンポもキーも自動的に取得されますが、必要に応じて手動で設定もできるので、これで確定させれば完了。これでもうループ素材となったので、ソングエディタ内で自在に繰り返し並べて使うことができるし、テンポを変えれば、それに追従してきます。これはメチャメチャ便利ですよ。
このように、MIDIとオーディオの両面からループ素材を作って、それを利用した曲構築が簡単にできるようになったのがABILITY 2.0の大きな特徴だと思います。ABILITY 2.0には上位版のABILITY 2.0 Proと普及版のABILITY 2.0 Elementsの2種類がありますが、ステップシーケンサとアシッダイズ機能は双方に備わっていますよ。
エフェクト名 | Pro | Elements | 特徴 |
8BAND EQ | ○ | - | 24dB/OctまでのHPF/LPHを備えた |
LINEAR PHASE EQ | ○ | - | FIR フィルタを使用した周波数による位相崩れから起こる歪みを排除 |
COMP GATE | ○ | ○ | コンプレッサーとゲートを1つのエフェクトに統合 |
LINEAR PHASE MULTIBAND COMP | ○ | - | バンドスプリッターにFIRフィルタを使用し、周波数による位相崩れから起こる歪みを排除 |
MULTIBAND DELAY | ○ | - | 位相崩れによる歪みを排除したしバンドごとにディレイ効果を設定できる |
MODULATION DELAY | ○ | - | フランジャーやコーラスエフェクト、テープエコーのような効果も与えられる |
STEREO DELAY | ○ | ○ | LR独立でディレイの設定ができピンポンディレイなども行える |
REVERB2 | ○ | ○ | EQ搭載のリバーブ |
IR REVERB | ○ | - | ホールやスタジオなど演奏する空間の特性を正確に再現したリバーブの設定が行える |
そのほか、ABILITY 1.xからABLITIY 2.0への強化機能としては、9種類のプラグインエフェクトが追加されたことが挙げられます。具体的には上記の9つで、こちらはProとElementsではちょっと差があるみたいですね。
楽器の音を大きく変化させるにはぴったりのMODULATION DELAY
実際に使ってみたところMODULATION DELAYは、すごくいい効果が出るし、COMP GATEもいい効き具合で使いやすいですよ。さらにEQで効果の調整ができるReverb 2も結構便利に使えるように思いました。さらにもう一つ追加されたIR Reverbは「インパルスレスポンス」と呼ばれる実際の空間の反響音を利用して、それを再現するリバーブ。そのため、ホールなどはかなりリアルな音の響きを得られます。いずれもインターネット社独自開発のVSTプラグインであり、他のDAWメーカーに負けない機能と性能を備えていますよ。
インパルスレスポンスを利用したリアルな空間を再現するIR Reverb
なお、今回のバージョンアップではほかにもVSTラックが搭載されたり、新音源としてfxpansionのドラム音源BFD EcoとUVIのピアノ音源Grand Piano Model Dが追加されたほか、ボーカルエディタが強化されてより自然なビブラート設定も可能になったり、ビートエディタにクオンタイズ機能を搭載されるなど、かなりいろいろと強化されています。
そのエッセンスをまとめたビデオもインターネット社が公開しているので、興味のある方はぜひご覧になってみてはいかがでしょうか?
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