自宅をレコーディングスタジオに作り変えるNEUMANNのモニタースピーカー、KH 80 DSPのキャリブレーションを試してみた

11月に入り、今年もInter BEEの時期がやってきました。Inter BEEは最新テクノロジを網羅した国内最大のメディア総合イベント。日本随一の音と映像と通信のプロフェッショナル展として、毎年この時期に千葉県の幕張メッセで開催されるもの。昨年はオンラインのみ開催だったので、リアルイベントとして開催されるのは1年ぶりとなりますが、プロオーディオに関する最新製品や最新技術が一堂に会するので、音に関する仕事をしている人であれば、ぜひ行っておきたいイベントです。
今年も数多くの製品が展示されるはずですが、ここでピックアップするのは、Sennheiserのブースで展示される予定の、NEUMANNのモニタースピーカー、KH 80 DSP。以前にもDTMステーションの記事で紹介したことがありましたが、発売されてから3年が経過した今年3月にキャリブレーション用測定マイクのMA 1が登場したことにより、PCとオーディオインターフェイスだけで最適な音響特性を得ることが可能になり、これをInter BEE会場で体験できるからです。ソフトの指示にしたがって測定していくと、ソフトウェアが部屋の音響環境を分析して最適な特性でモニタリングができるように振幅と位相を補正してくれます。Inter BEEでは、キャリブレーションの流れを体験しつつ、適応後と前を聴き比べできる数少ない機会となっています。そもそも、スピーカーを体験できる場所自体は少ないので、こういった体験は嬉しいところ。今回の記事では、事前にKH 80 DSPをお借りすることができたので、どんな感じでキャリブレーションを行っていくのか、試してみたので紹介していこうと思います。

自宅をレコーディングスタジオに作り変える、NEUMANNのモニタースピーカーKH 80 DSP


Inter BEE 2021で、KH 80 DSPはSennheiser(ゼンハイザー)ブースで体験できるのですが、ご存知の通りNEUMANN社はSennheiserのグループ会社であるため、このブースにはNEUMANN製品がSennheiserの機材たちとともに展示されます。担当者に確認したところ展示される予定のNEUMANN製品は、業務用マイクとしてお馴染みU87Aiをはじめ、「マイクのポテンシャルを100%引き出す、Neumann初のスタンドアロン型マイクヘッドアンプV 402。定番マイクと宅録最高峰オーディオI/Fを録り比べ」https://www.dtmstation.com/archives/34288.htmlという記事でも紹介したV 402などがあります。ほかにもSennheiserの新製品である、マイクのMD 435とMD 445。イヤモニのIE 100 PRO。ピンマイクXS Lav MobileとXS Lav USB-Cなど、気になっていた製品があれば担当者の方に直接お話しを伺うことができるタイミングとなっています。

そして、そのNEUMANNコーナーでの目玉企画となるのがKH 80 DSPなのです。以前登場した際には「あのNEUMANNが打ち出すDSP内蔵、小型モニタースピーカー、KH 80 DSP誕生」という記事を書いたり、iPadを使ったキャリブレーションについて「DSPとLAN端子を搭載し、iPadで調整できるNEUMANNの小型モニタースピーカー、KH 80 DSPの威力」という記事で紹介しました。改めてですが、ざっとKH 80 DSPについておさらいしていきましょう。

年々進化を続けているKH 80 DSP

KH 80 DSPは、NEUMANNが開発した4インチ・ウーファーと1インチ・ツィーターを搭載した120W+70Wの2Wayパワーアンプ内蔵のモニタースピーカー。最大音圧は、108.8dBとかなりの音量を鳴らすことができ、自宅で使うのであれば、余裕を持って使うことができます。

ツィーター部分が横に広がる形でくぼむMMDウェーブガイド設計

サイズは、233x154x194mmというサイズの小型スピーカーとなっており、JBL 305P MKⅡと比べると一回り小さいことが分かると思います。

5インチのJBL 305P MKⅡと比べると、小さいことが分かる

フロントには、電源を入れると白く光るNEUMANNのロゴがついていて、クールな見た目をしています。

白く光るNEUMANNのロゴ

リアには、電源ケーブルとXLRケーブルやTRSケーブルを接続する端子があるほか、このスピーカーの特徴でもキャリブレーションを使うためのLAN端子があったり、

リアには電源、コンボジャック、LAN端子が装備されている

INPUT GAIN、OUTPUT LEVEL、ACOUSTICAL CONTROL、SETTINGSなどのスイッチが付いています。

ここのスイッチを使って、スピーカー本体のセッティングを行う

最初にKH 80 DSPをセッティングして音を聴いた印象としては、低音域から高音域までキレイになっていて、解像度も高く、普通にいいスピーカーだなと思っていました。最初はキャリブレーションをしても、元がいいのだから、そこまで変わらないだろうと思っていたのですが、実際にキャリブレーションをした後の音を聴いたら、本当に驚きました。キャリブレーションする前は、部屋の反響によって無駄に鳴ってしまっていた低音域が、補正されて、タイトな音はタイトに、ルーズな音はルーズな音として聴き分けしやすくなったのです。また中音域、高音域に関しても、よりちゃんと聴こえるようになりました。よくレコーディングスタジオにお邪魔させていただく機会があるのですが、まるでそこで聴いているような出音で、自宅でこれを再現できるなんて、すごいなと感じました。もちろん、ちゃんと作られたスタジオには敵わないものの、それに匹敵する音をこんな簡単に実現できるのは驚愕です。

では、どのようにキャリブレーションを行っていったのかを紹介していきます。まずセッティングは、以下のマニュアル画像に書かれている通りにしました。

マニュアルに載っていた配線図

PCは、2020 Apple Mac mini Apple M1 Chipを使用。そこにオーディオインターフェイスUR22mkIIを繋ぎ、UR22mkIIの入力に測定マイクMA 1を接続、出力にKH 80 DSPを繋いでいます。

実際に接続した配線図

また、PCとスピーカーをネットワーク接続する必要があるため、ハブにMac miniとKH 80 DSPのLとRをLANケーブルで接続しています。これは、ローカル接続するだけなので、これをさらにWi-Fiルーターに繋ぐ必要はありません。

ハブを使って、すべての機器をネットワーク接続

そして、KH 80 DSPの裏にあったスイッチをキャリブレーションするためのセッティングに切り替えました。具体的には、ACOUSTICAL CONTROLをFREE STANDING、SETTINGSを上から3番目のNETWORK CONTROLにしています。SETTINGSの3番目と4番目は、長時間音を鳴らさないと電源が切れるオートパワーオフの設定で、ネットワークコントロールをオンにした上で、オートパワーオフの設定を選択します。

snap10 SETTINGSを上から3番目のNETWORK CONTROLに設定

次にインストールしておいた、Automatic Monitor Alignment Softwareを起動しました。これは、NEUMANN MA 1のページ(https://ja-jp.neumann.com/file-finder?product=MA%201&category=monitor_accessories)からインストール可能です。

ソフトウェアを起動

その後、スピーカーを接続しているインターネットを指定して、オーディオインターフェイスを選択、スピーカーの出力先などを選択していって、MA 1のシリアルNoも入力したのですが、面白いことにシリアルNoを使って測定マイク個体の補正を掛けているとの事。プラグインのアクティベートのようなものだと思っていたのですが、測定マイクの個体差を補正してより精度を向上させているとのこと。

シリアルでマイクの特性を管理しているとのこと

指示に従って進めていくと、左右のツィーター間の距離を測り、テキストフィールドに入力する箇所が出てきます。ここでは、実際にメジャーを使って左右の幅を計りました。54.5cmだったので、これを入力します。

ツィーター間の距離を測った

そして、これが終わると、マイクが正しく音を拾っているかを確認するためにピンクノイズを流してくれます。これが結構な音量なので、キャリブレーションするときはお昼に実施するのがいいと思いますよ。また、マイクはファンタムを入れておきます。

リスニングポイントを中心に測定を行っていく

前準備が終わったら、測定に入っていきます。画面にどこに測定マイクを置くのかビジュアルで表示されるので、簡単に測定することができます。測定する際は、マイクスタンドにMA 1を取り付けて、再生されるサインスイープ信号を拾っていきます。位置を変えていき、7回の測定があるのですが、それぞれの測定手順をスキップすることも可能。もちろん、すべて測定した方が、結果は良くなるのですが、KH 80 DSPを外に持ち出した際などを考慮して、最低限測定すればいい仕様になっているようですね。

マイクポジションは、画面に指示されるので、これにしたがって進めた

測定が終わったら、結果が以下の画像のように表示されます。測定後の音と元の出音は、ACTIVATE AUTOMATIC ALIGNMENTチェックボックスの選択を解除することで聴き比べが可能。また、EQが付いているので、これを使ってキャリブレーション後の出音を好みの音に補正することもできます。今回試してみた際には、測定結果の音がよかったので、EQの補正は行っていないです。すべての手順が終了したら、最後に結果をスピーカーに保存します。これで、リアのスイッチがNETWORKを選んでいるときは、今回のキャリブレーション結果がスピーカーに反映され出力されます。補正をオフにするときは、SETTINGSをLOCALに切り替えるだけです。

測定結果

ざっと、キャリブレーションの手順について紹介しましたが、いかがでしょうか?思ったより簡単だと感じていただけたはずです。これだけの手順で、部屋に合った補正をしてくれるのだから驚きです。

といっても、KH 80 DSPは、片方約7万円、ペアで13~14万円。それに加えて、MA 1が約3万円、と決して安い買い物ではありません。「いきなり買うのはちょっとな……」と思っている方がほとんどだと思います。中々試せる機会も少なかったのですが、冒頭でも書いたように今年のInter BEE 2021では、このKH 80 DSPとMA 1のセッティングを体験できます。

机の上にセッティングするとこのような感じになる

会場では、KH 80 DSPを試聴するための半個室スペースが作られ、キャリブレーションする前と後を比較して聴くことが可能になっているとのこと。

Inter BEE 2021では、専用のスペースが用意される

また担当者の方にお伺いしてみたところ、「これまで、DSPにいいイメージがなかった方やキャリブレーションが気になっていていた方に向けて、当日はKH 80 DSPを試聴できるブースを用意いたしました。実際に補正前と後を聴くと、現代の技術の進化に驚いていただけると思います。また、普段試聴している曲など、リファレンスに使いたい楽曲は、USBメモリ(type A)に入れてお持ちいただければ、再生することが可能です。目の前でキャリブレーションする手順から行っていくので、ご興味のある方は、ぜひお立ち寄りください」とのことでした。

USBに楽曲を入れて行けば、流してくれるそうなので、当日行く予定の方は、ぜひ準備してみてはいかがでしょうか。それこそ、Inter BEEは前回がオンラインでの開催でしたので、リアル会場での開催は1年ぶりとなりますね。この期間にも各メーカーから続々と新製品が出ていたりしたので、もちろん私もInter BEE 2021に参加する予定です。

【製品情報】
KH 80 DSP製品情報
MA 1製品情報

【Inter BEE 2021情報】
Inter BEE 2021情報
Sennheiserブース:ホール5 ブース番号5105
Inter BEE 2021出展情報

【価格チェック&購入】
◎Rock oN ⇒ KH 80 DSP(黒:ペア) MA 1
◎宮地楽器 ⇒ KH 80 DSP(黒:ペア) KH 80 DSP(白:ペア) MA 1
◎イケベ楽器 ⇒ KH 80 DSP(黒:ペア) MA 1
◎サウンドハウス ⇒ KH 80 DSP(黒:シングル) KH 80 DSP(白:シングル) MA 1

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