“青春系ソングボイス CeVIO AI 双葉湊音”開発秘話。青春を追いかける、ネット・同人音楽の古今東西

すでにご存じの方や購入したという方も多いと思いますが12月2日、CeVIO AIのソングボイスとして新キャラクタである双葉湊音(ふたばみなと)が発売されました。「青春系ソングボイス」とあるようにストレートで芯がありながらも、青く透き通ったクリアボイスであることが特徴。CVは声優の三澤紗千香(@misawa_official)さんが担当していますが、双葉湊音を企画し、制作、製品化までのすべてを手掛けてきたのは、作詞・作曲・編曲家である千葉直樹(作家名 千葉”naotyu-“直樹)さん。ソニー・ミュージックパブリッシング所属の作家として乃木坂46、≠ME、三澤紗千香、水瀬いのり、などのアーティスト・声優の作品を手掛けたり、「バンドやろうぜ!」、「マギアレコード 魔法少女まどか マギカ外伝」、「グランツーリスモ7」などアニメやゲームの楽曲も手掛けるなど、人気のクリエイター。

が、実は同人音楽歴約20年という人でもあり、近年の「音声合成」の盛り上がりにどっぷりと浸かった結果、ついには自身でオリジナルの製品を作ってしまった…という奇特な方なのです。かなりの思い入れもあって製品化したようですが、千葉さんにいろいろ話を伺ってみたので紹介してみましょう。またその千葉さんが双葉湊音の第1弾のデモソングの制作を依頼したのは高校1年生のクリエイターである晴いちばん(はるいちばん)さん。中学・高校時代から同人音楽の世界にハマっていった千葉さん自身と重ねつつ、青春系ソングボイスのデモソング1曲目は彼しかいない、と指名したそうですが、『これからの世代がネット音楽の世界をどう見ている、見えているのか聞いてみたかった』という千葉さんたっての希望が実現し、その晴いちばんさんにもオンラインインタビューできたので、紹介してみたいと思います。

CeVIO AIの青春系ソングボイスとして双葉湊音がリリースされた

千葉さんのインタビューに入る前に、まだ双葉湊音の歌声を聴いたことがない方もいると思うので、まずはその晴いちばんさんによる楽曲、「季節のレンズ」を聴いてみてください。

とっても自然な歌声で、非常に気持ちいい歌い方をしているように思います。この双葉湊音がどのようにして誕生したのか、いろいろ聞いてみました。

千葉 直樹(作家名 千葉”naotyu-”直樹”)
株式会社ガソリンアレイ 代表取締役
音楽作家として:株式会社ソニー・ミュージックパブリッシング所属
Twitter : @naotyu_ch

--まずは音声合成ソフトに触れることになったキッカケを教えていただけますか?
千葉:はい。まずはじめに、もう何年も前から音声合成の特にトーク寄りの動画が好きで、いち視聴者としてずっと楽しませてもらっていました。中でもはじめに車載動画という分野が好きになってよく見ていたのですが、動画を上げている皆さんすごくフレキシブルに日本中を旅してたりするんですね。その中でよくフェリーで北海道とかに行かれていたりして、私は実家が札幌なのですが、影響を受けてある時あえて飛行機を使わずにフェリーで帰ってみたりとか。カレンダーを掘り返したら2017年の8月でした。もう5年前!そんなに前から見ていたんですね。
それから少し後でしょうか、今度は「歌うボイスロイド」という分野に興味を持って、普段の仕事とはまったく関係なく、趣味で久しぶりに同人のアルバムに参加したりしたんですよ。とくに、なんか良い雰囲気だなぁと思ったのは結果的にコロナの直前になりますが「声月(この声届、月までも)」というイベントに遊びにいったときに、私が高校生の時に初めて「M3(音系・メディアミックス同人即売会)」に行った時と雰囲気がなんとなく似ていた気がしたんですよね。会場が同じ大田区産業プラザPiOだったからという思い出補正もあるかもですが。今後もっと大きく盛り上がって行くんだろうなぁという空気感と、それでもまだ午後になったら半分サークル関係者ばっかだよね…みたいな身内感と。たしかこのタイミングでDTMステーションPlus!の番組にも出演されていた、いるかアイスさんのCDにゲストとして1曲提供する形で参加したんですが、懐かしい思いが込み上げてきて、ホントに楽しかったですね。そしてその頃から、こことはもっと深く関わって行けたら楽しそうだなとぼんやり思っていました。

--では、そこから実際に双葉湊音を作ることになった流れを教えていただけますか?
千葉:2021年の夏ごろになりますが、当時Soundmain Studioというブラウザで動くDAWの開発のお手伝いを少ししていまして、ふとここで音声合成ソフトが動いたらすごく便利なのでは、と思ったんです。というのも、私は普段の音楽制作環境がMacだったので、CeVIOやボイスロイド(A.I.VOICE)を使うのにやや苦労していたんですね。bootcampで試してみたりとか、結局は手頃なWindowsパソコンを買う事にしましたが。それがVOICEVOXが出る直前くらいかな…?CeVIO Pro(仮)(現VoiSona)もまだ発表前で、Macだとなかなか選択肢が少ない頃でした。
それがもしブラウザで動かせたらプラットフォームの制約が大分減るんじゃないかと思ったので、ある時『Soundmainに音声合成ソフトって載せられないですか?』と相談をしたんですね。そこから話が進んで私は企画立案者という事で、音声合成のメーカーさん何社かに問い合わせをして、Soundmain、メーカー、私と三者でミーティングを行ったりしていました。結果的にSoundmain Studioには知声が搭載されたりして。私は最初はそこで外部アドバイザー的な立場でいるくらいのつもりだったのですが、次第に『自分は自分で音声ライブラリを作れたら楽しそうだなぁ』と思うようになり、そことは別に独自でもソフトを作ろう、となっていきました。

--でも、どうしてトークボイスが好きだったのにソングボイスになってしまったのですか?
千葉:あわよくばSoundmainにもトークを載せて欲しかったのですが、まあ、そこは音楽ソフトなんだから歌唱でしょう、と(笑)。また私も本業が音楽作家なので、そこは自然とそうなっていきました。結果的にディープラーニング用の録音にしても、特典の音声素材についても、作家の知識をフルに活かして用意する事ができましたし、まずはソングボイスを作る形にして良かったと思っています。

--この双葉湊音というキャラクタはどのように誕生したのですか?
千葉:個人的にもこれまで多くの音声合成・歌声合成のキャラクタを見て、聴いて、使ってきました。そうした他社さんのソフト、キャラクタを見てみると、設定やビジュアルをすごく作り込まれた、とても濃い魅力のある子が多いですよね。一方で黒髪ロングの普通っぽい子って意外といないなぁ…と前から不思議に思っていて、たまたま注目されていないのか、それでは売れないと各社が考え抜いた結果なのかわかりませんが…。あと実はもうひとつぶっちゃけると、丁度キャラクタを考え始めたころが、VOICEVOXのずんだもんと四国めたんさんが出てきたころで、「どれだけ考えてもこの強烈な子たちにはかなわない!」と早々に白旗を上げまして(笑)。ならこっちは無色透明で行こう、というのも実は少しだけあったりしました。

--イラストや中の人というかCVはどう決めたのですか?
千葉:イラストよりCVのほうがちょっと先に決まりました。三澤紗千香さんにお願いしたのですが、元々三澤さんのアーティスト活動を長年お手伝いしていまして、雑談をしている中、彼女も音声合成好きで、かなりの作品も聴いているし、投稿者のことも結構知ってたりする事を聞いていました。だから、こちらの意図も分かってくれるし、何より歌声が間違いない。そんな経緯でお願いをしました。もちろん、あとでマネージメントとの話し合いもしましたけどね。春先には正式OKとなり、そこからすぐに収録も行っていきました。このディープラーニング用の歌の収録についてはよい音で録るために出来る限りの事はやりましたが、それを投げたらどうなるかはわからないですし、結果が上がってくるまではドキドキの日々でしたよ。

--実際上がってきてどうでしたか?
千葉:実際にできたものを使っていると、なるほどこう録ったから、こう仕上がったのか…ということも見えてきました。だから次に作るならこんなことをしてみたい…という思いもいろいろ。できるならバージョン違いを作ったりとか、いろいろチャレンジもしてみたいですね。

--もう一方のイラストのほうはどうしたんですか?
千葉:Twitterやpixivなどで気になるイラストを見つけてはブックマークしていました。春先に、三澤さんのOKも取れて正式にスタートしようとなった段階で、イラストに一目惚れしていたイラストレーターのひとば(@hitoba_)さんにまったく交流のない方でしたが、pixivのDMでご依頼をしました。今回は純粋に自分が好きで、この人とこう物作りをしたいを第一に決めていきました。会社が実績も何もない所から今回スタートしているので、いろいろな意味で若い人たちの力を借りて一緒に進めていきたいという思いもありました。このことは、1曲目のデモソングを晴いちばんさんに頼んだことにも通じていますね。

--晴いちばんさんを、指名した経緯というのは、どうだったんですか?
千葉:実は私の作家名をエゴサしていてたまたま見つけたんですよ(笑)。晴いちばんさんがソニー・ミュージックの新人発掘プロジェクトである『Puzzle Project』のインタビューの中で、好きな作家として私の名前を上げてくれていたんですよね。そこでTwitterをフォローしてみたらすぐに向こうからDMが飛んできて「嬉しいです!コード進行、アレンジとか勉強させていただいてます。」と。「いつか何かご一緒出来たらいいですねー。」なんてやり取りをしたのが今年の春頃でした。そこから数カ月後デモソングの依頼を始めようとなった時に、直感的に1曲目は彼だな、と。極論、曲を作るなら自分でもできるわけですが、そうではなく、勢いと脆さ、絶妙なところを今の晴いちばんさんなら突いてくれるんじゃないかな、そんな思いがありました。
そこでまたTwitterのDMで「実はいまCeVIO AIの歌唱ソフトを作っているのですが、デモソングをお願いできませんか?」と連絡をしました。結果的にデモソング1曲目としてこれ以上ない素晴らしい作品になったと思っています。

--このようにして、だいたい固まったわけですね。
千葉:その先、夏以降はあっという間に時間が流れていきました。人生で経験したことのないくらい多くのメールを書き、契約書などをかわし…。楽曲制作の仕事をしていると平日も休日も関係ないですが、ビジネス関係だと相手は土日はお休みなんだ!、とか(笑)。この歳になって社会人経験をしています。

--パッケージにもこだわったという話を先日ちょっと伺いましたが…。
千葉:デジトレイのトールケースに透明のスリーブケースを使って薄っすらと色をレイヤーさせたデザインは、イラストがひとばさんに決まった時から絶対したいと思っていました。とにかくひとばさんの綺麗な青の淡い世界観を形にしたくて、また絶対に合うと思っていました。実は私も度々参加しているとある同人CDのパッケージデザインを元々は参考にしています。
しかし、実際に話を進めてみると予定していたプレス枚数では少なすぎて受けてくれる工場がないと。特殊パッケージはある程度どかんと数を作らないと工場も割に合わないですからね。だけどどうしても作りたいんですとプレス業者さんにお願いして探し回ってもらい、なんとか比較的少数でも受けてくれる工場を見つけてもらいました。ただその代わり、スリーブケースだけでも単価がとんでもない事になってしまったので、パッケージ版を購入された方はぜひ、透明ケースも捨てずに残しておいて頂けると嬉しいですね…。

--実際に発売してみた結果、反応はいかがですか?
千葉:正直知名度もまだまだだし、ある程度厳しい覚悟もしていたのですが、ただ私が思っていたよりははるかに多くの人の手にとっていただいているようで、嬉しい限りです。またユーザーとしても初心者や、はじめてCeVIO AIに触れたという人に購入いただいているようです。自分なりに分かりやすい説明を作ってアピールしていた意味も少しはあったかな?…と思っているところです。

--分かりやすい説明とはどういう点ですか?
千葉:たとえば製品の中にCeVIOのデモソングをいろいろ入れているので、まだ一度も触ったことがない人でもインストール後、データをダブルクリックして起動してもらえれば打ち込みデータを見ることができるし、それを改良していくことも可能にしています。初心者や若い子に向けて作っているので、ぜひうまく活用していただければと思っています。一方で声ネタも数多く収録しています。喋り用に利用していただいてもいいですし、実験的にbpm合わせのよりサンプリング素材的なものも用意しているので、中・上級者の方でもなかなか楽しめるのではと思っています。ぜひ多くの方に活用していただけると嬉しいです。

--製品が出たばかりのタイミングではありますが、今後どのような展開を考えていますか?
千葉:ありがたいことに新規ユーザーさんも多くいらっしゃるようなので、まずは何か気軽に参加出来る投稿イベントができたらいいですよね。また3Dモデルなんかも作れたらいいなと思っています。そうしたモデルがあれば、ライブイベントなんかもできますし、素材を配布する事ができればユーザーさんの表現の幅も広がるはずですから。
もうちょっと中長期的にいうと、はじめにお話したプラットフォームの問題なんかも行く行くは考えていけたらいいなぁと思っています。そこはなかなか私一人で解決できる事ではないですが。
あとはもちろん、将来的にはトークも作れるといいですよね。私のトーク熱がキャラクターから漏れ出てるのもあってか、トーク版も欲しいですという声もちらほら見かけます。ただ特にこの1年、急激にソフトの種類やキャラクターも増えてきて、ちょっと界隈として生き急いでる感がある気がしていて、そこであまり無理をして倒れてしまうよりは、まずは今の双葉湊音を焦らず大切に育てていきたいと考えています。

--ありがとうございました。

双葉湊音のデモ曲を制作した高校1年生、晴いちばんさんインタビュー

晴いちばん
ボカロP・作編曲家
Twitter : @Haru1_kaze_

--晴いちばんさんは、いま高校1年生ということですが、音楽、またDTMはいつごろから始めたんですか?
晴:3歳ごろからピアノを習っていて、中学校に入るまでの9年間続けてきたのが音楽をやっている根底にあります。中学校に入ってボカロ曲に触れて興味をもつようになり、DTMに入っていきました。最初はたまたまセールで広告に出ていたACIDを使いはじめ、ゲームの音楽などを耳コピするようになりました。まだネットのSNSをやっていなかったから、教えてくれる人もいなくてすべて手探りの独学。でも操作そのものより、難しかったのがピアノ以外の楽器の知識をまったく持っていなかったことでした。たとえばドラムの知識がなかったから、本来スネアが鳴るべきところで似た音のロータムを鳴らすとか…。そこでYouTubeなどの解説動画でドラムやギターなどの演奏しているところを見ながら、どうやって鳴らしているのかを地道に勉強していきました。

--すごい。ホントに独学で学んでいったんですね。その後、作品を作るようになっていった?
晴:ACIDだとやはり限界もあったのと、好きなボカロPさんや好きなプロデューサーさんの多くがCubaseを使っていることをしって、セールのタイミングで導入しました。これを使いながら勉強しつつ、VOCALOIDを買ったりソフト音源を買うなどしながら、慣れていきました。最初にボカロ曲を投稿したのは、その半年後、中学1年の12月です。クリスマスをテーマに曲を作り、自分の好きな要素をいっぱい詰め込んでみて、曲作りって楽しいなと思うようになりました。ただ、動画の作り方などが分からないので実写の写真に歌詞を入れるだけのもので寂しい感じでした。ただ、それをたまたま聴いてくれた2つ年上の中学生がイラストを描いてくれる…ということになり、その後はその人にお願いするようになりました。投稿がキッカケに人のつながりができることに感激するとともに、同世代のイラストレーターなので友達感覚でお願いできたのもよかったです。

--その後、注目度も上がってった?
晴:少しずつ曲を作っては発表していったのですが、中学3年の10月に「アブセンティー」という曲を発表したのが大きな契機になりました。Flowerを使い、それまでとは曲調の違うカッコイイ曲にしてみたところ、アクセスが大きく増え注目されるようになりました。ボカコレに投稿したところルーキーランキング6位に入り、レーベルとか事務所とか多方面からも連絡もいただくようになりました。その頃にソニー・ミュージック主催の『Puzzle Project』というのに応募してみたところ、ここに選ばれ、いまは活動のサポートを多方面からしていただいています。また今年に入って「沼にハマってきいてみた」というNHKの番組に呼ばれて生放送で出演させていただいたのも大きな経験になりました。

--その『Puzzle Project』のインタビューがキッカケで、今回の双葉湊音のデモ曲の声がかかったんですよね。
晴:はい。CeVIO AIの可不は少し使っていたので多少の知識は持っていましたが、そのCeVIO AIの新キャラクタのデモソングをご依頼いただけるなんてとても光栄だなと思い、即お受けしました。VOCALOIDの場合、息継ぎなどが調整が必要ですが、双葉湊音なら普通に打ち込むだけで、自動でしかるべき場所で息継ぎしてくれるので、人間みたいだな、と。ほかもとにかく自然で、使ってみて驚きました。明るい感じにも歌うし、切なくも歌ってくれる。今回は青春がテーマということもあって、明るく作ってみましたが、今度は切ない感じの曲とかも作ってみたいですね。10月29日に発表したら「晴いちばんさんがデモソング!マジか!」といったコメントもたくさんいただいて嬉しかったです。今後も、双葉湊音をいろいろと使っていきたいですね。

 

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<ダウンロード版>
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