ありそうでなかった、本当の和太鼓を再現する専用音源、Taiko-Motofuji-の実力

「和太鼓を楽曲の中に入れようと思ったけど、探してみると、しっかりした音源が見つからない…」という話はよく聞きます。たしかに昔からマルチティンバー音源の中に「TAIKO」といった音源は入っているのですが、本格的な和太鼓にはほど遠く物足りない存在でした。また、海外メーカーの音源の中にも太鼓らしきものが入っているけれど、鳴らしてみると中国やアジアの太鼓だったりするのもしばしば。

そうした中、先日リリースされてプロ作曲家などからも注目を集めているのが、日本を代表する太鼓奏者である茂戸藤浩司(もとふじひろし)さんが演奏した太鼓をKONTAKT音源化したTaiko-Motofuji-(税込価格:22,000円)というもの。茂戸藤さんは、『NARUTO-ナルト-疾風伝』、『イノセンス』など日本を代表するアニメーションのサウンドトラックを演奏していることでも知られる方です。しかも、そのレコーディングは、茂戸藤サウンドを作り上げてきたレコーディング・エンジニアである青砥州比古(あおとくにひこ)さん。96kHz/32bitのハイレゾ・クオリティで録音した後、編集で48kHz/24bitにダウンサンプルして収録されているのですが、総容量10GBという膨大なものです。茂戸藤さんと青砥さんという、まさに黄金のコンビで作り上げた和太鼓音源なのです。実際どんなものか試すとともに、この音源の企画、開発をおこなったKay Productionの代表である河原嶺旭(かわはらみねあき)さんにもお話を伺ってみました。

茂戸藤浩司さんが叩く和太鼓を音源化したTaiko-Motofuji-がリリースに

これまで、和太鼓を実現する音源がまったくなかったかというと、もちろんそういうわけではありません。以前、「日本・中国・韓国の伝統楽器を収録した最高品質音源、Native Instruments EAST ASIA」という記事で取り上げたNative InstrumentsのEAST ASIAなんかも太鼓音源が入っています。

また「歌舞伎と能に使われる本物の和楽器65種を収録。24bit/96kHzのハイクオリティなサンプルライブラリKabuki & Noh percussion 96k Master Edition」でとりあげたソニカのKabuki & Noh percussion 96k Master Editionにも太鼓類はいろいろ収録されています。

でも、和太鼓だけにフォーカスを当て、本当の和太鼓奏者が叩く音をしっかり収録した音源となると、ほとんど存在しなかったのが実情だと思います。そんな中、登場したのが日本のメーカー、Samurai Samplesが出したTaiko-Motofuji-です。Samurai Samplesなんて聞くと、なんか海外のインチキメーカーのような気もしましたが、実は日本の作編曲家である河原嶺旭さんが代表を務めるKay Productionという音楽制作会社の持つ音源ブランド。まさに茂戸藤さんの太鼓音源を出すために立ち上げたブランドなのだとか……。

Taiko-Motofuji-は和太鼓だけもフォーカスしたKONTAKT音源

河原さんはAKB48の『風は吹いている』の作曲・共編曲、乃木坂46 『世界で一番 孤独なLover』の作曲などでも知られる作曲家。その河原さんが、どうしても茂戸藤さんの叩く和太鼓を音源化したい…という思いで、自ら企画、製品化したのがTaiko-Motofuji-なのです。まずは、そのTaiko-Motofuji-を紹介するビデオがあるのでこちらをご覧ください。

これを見ればその雰囲気は理解いただけるのではないでしょうか?まさに茂戸藤さんが叩く太鼓を再現する音源になっているのです。このTaiko-Motofuji-を使うにはNative InstrumentsのKONTAKT 6もしくはKONTAKT 7が必須となります。無料のKONTAKT Playerでは動作しないので、その点はご注意ください。見てみると

01_Okedou_Snare Taiko 桶胴太鼓(高/低)
スネア太鼓(茂戸藤氏オリジナル)
02_Shime_Maruichi Taiko 締太鼓(高/低)
丸一太鼓
03_Miya Taiko 宮太鼓
04_Katsugioke Taiko 担ぎ桶太鼓
05_Chappa_Chanchiki_Houkou チャッパ
チャンチキ
咆哮

 

と5つのバンクがあります。それぞれの中にBPM 90、BPM 120、BPM 150の3種類が入っているので、たとえば、「04_Katsugioke Taiko」の中のテンポ120のものを選んで読み込むと、「担ぎ桶太鼓」のUIが立ち上がってきます。

Katsugioke Taikoを起動するとこんな画面が登場する

キーボードを表示させてみると分かる通り、キーごとに役割が割り当てられています。低いほうの水色がワンショットとなっていて、ベロシティーによってその雰囲気が大きく変わるようになっています。

また高いほうの水色や黄色はフレーズとなっていて、まさに茂戸藤さんが叩いたBMP120でのフレーズが数多く収められているのです。ここで赤のキースイッチを切り替えることにより、類似する別パターンが再生できるため、直感的な演奏をサポートしてくれるのも嬉しいところです。

音を出すと画面上部には波形が表示されるので、出音と同時に視覚的にもサウンドを確認できるようになっています。一方LoopをONにしていれば、フレーズをループ再生することができ、REVERBのパラメータを上げていことで、リバーブが深くかかっていきます。また右側はMASTERによって最終出力が切り替えられるようになっています。

音を鳴らすと画面上部に波形が表示される。また左でリバーブ、右でマスター音量の調整が可能

UI的には01の桶胴太鼓、02の締太鼓、03の宮太鼓、05のチャンチキも基本的には同様であり、難しいところは特にないので、誰でもすぐに使えると思います。以下の機能の全体紹介ビデオを見ると、さらによくわかると思います。

使い方として、もちろんワンショットを使って自分でリズムを組んでいくのもいいのですが、やはりTaiko-Motofuji-の最大の醍醐味は、茂戸藤さんによるフレーズ。この絶妙な太鼓のリズム、ノリは打ち込みで簡単に作り出せるものではありません。テンポさえ合わせれば、そんなホンモノの太鼓を自分の曲に簡単に入れることができるのですから、活用しない手はないでしょう。

締太鼓・丸一太鼓の画面

とはいえ、前述のとおり入っているのはBPM90、BMP120、BPM150の3種類なので、自分の曲でそのまま使えない…という人はもちろん多いと思います。その場合、いったん自分の曲のテンポを90、120、150のうち一番近いBPMに設定して、Taiko-Motofuji-を入れてしまい、その後、そのトラックをオーディオとしてバウンスしてから、テンポに合わせてタイムストレッチしてしまえばいいのです。多少手間はかかりますが、茂戸藤さんによるホンモノの太鼓が入れられることを思えば、簡単な作業だと思いますよ。

茂戸藤さんによる掛け声やチャッパ・チャンチキなどの音源の画面

10GBの容量が必要なので、それなりのストレージの空きは必要となります。また快適に使うには読み込み速度の速いSSDのドライブがあると嬉しいところ。1、2年前だとそれはちょっと贅沢な環境ではありましたが、いまや2TBのSSDが1万円前後で入手できる時代。私もM.2の2TBのSSDと、M.2をUSB3のドライブにするケースをセットで12,000円ちょっとで入手して、Taiko-Motofuji-を入れてみたところ、とっても快適に使うことができました。そんな外付けドライブと併せて、このTaiko-Motofuji-を入手してみてはいかがでしょうか?

基本的にはいじる必要はないが、必要に応じて音量バランスの調整も可能

Taiko-Motofuji-を開発したプロデューサー、河原嶺旭さんインタビュー

--河原さん、作曲家でありながら、音源開発をするって、なかなか珍しい経歴ですよね?
河原:私は2009年〜2013年まで日本で作曲家をやっておりましたが、この先大丈夫なんだろうか…と不安を感じていました。そうした中、たまたま知人の誘いもあり、言葉も分からない中、北京に行ったことがキッカケで、2013年〜17年までは北京に住んで中国での作家活動をしてきました。その後、帰国してからは音楽制作プロダクションを立ち上げ、作家はお休みしてプロデュースや経営を中心に活動しています。そうした中、音源を作るといった方面もスタートさせたのです。

Taiko-Motofuji-を開発したプロデューサーであり作曲家でもある河原嶺旭さん

--今回のTaiko-Motofuji-のメーカーとしてのSamurai Samplesのほかにも、Kawaii Future Samplesというブランドも展開されているんですよね。
河原:そうですね。Kawaiiのほうを先に立ち上げていたのですが、もともと茂戸藤さんの音源を作ることが目的であって、そのための実験というか準備のような感じでKawaiiを作っていたんです。

--茂戸藤さんの音源を作ることが目的とは、どういうことですか?
河原:音楽制作の仕事をする中で、茂戸藤さんにレコーディングのお願いをし、その演奏を聴き、この音を自分でも欲しい!と思ったことがキッカケです(笑)。和太鼓の素晴らしさを感じ、何度も茂戸藤さんにレコーディングをお願いしていたのですが、そうすればするほど、和太鼓が欲しい、というより茂戸藤さんの音が欲しいと思うようになって……。茂戸藤さんの太鼓音源がないなら、自分で作るしかないな、と。


和太鼓奏者の茂戸藤浩司さん

--ちなみに和太鼓奏者というのは、やはり数少ない存在なのですか?
河原:太鼓団体が全国に1万以上あるということなので、指導者も含めると太鼓で収入を得ている方は数万人はいると思われます。ただし専業で食べられている方は少ないですし、専業の方も食い扶持はレコーディングではなく、お祭りや儀式、イベントごとです。学校行事、文化教育という場で演奏をするというケースも多いようです。また、宮太鼓や桶胴太鼓など、一つ一つはよく使われていますが、それらをまとめて使う奏者というと少なくなってきます。そして、実際レコーディングを行い、ロックなどに使う演奏を録れるプロの和太鼓奏者となると、もう茂戸藤さん以外、なかなかいないのが実情だと思います。そんな茂戸藤さんに、何の経験もないヤツがいきなり、音源を作るから協力してほしいというのも失礼じゃないですか。そこで、まずは自分で本当にちゃんとした音源が作れるのか、それを探るために立ち上げたのがKawaiiであり、これを通じて音源メーカーとしての実績を積み重ねていった感じです。

--実験とはいえ、すでにかなりの製品を作り出していますよね?
河原:Kawaii Future Samplesは、Kawaii Future Baseに特化したライブラリメーカーとして展開しており、もともと、茂戸藤さんの音源を作るためのお試しではあったのですが、かなり多くのユーザーから評価いただいていることもあり、その後も毎月1本のペースでリリースしています。たとえばKawaii Voice Vol.1は歌い手のななひら(@nanahira)さんをCVに起用したカワイイ声専門の日本語ボイス素材ライブラリとなっています。このでもムービーをご覧いただくと、雰囲気はお分かりいただけるかと思います。

--さて、そのKawaii Future Samplesが無事リリースされたことを持って、茂戸藤さんにアプローチした、ということですね。
河原:はい、すぐに了承いただけました。また、茂戸藤さんの音を録るなら、いつも茂戸藤さんの音を録っていらっしゃる青砥さんにお願いするのがいちばいいだろう、ということで、青砥さんにお願いしました。また、レコーディングはお二人がよく使っていらっしゃるスタジオであるスタジオ サウンド バレイを使いました。実際のレコーディングにかかったのは4日間ですね。定番の桶胴太鼓、宮太鼓、締太鼓だけでなく丸一太鼓、担ぎ桶太鼓、本人オリジナルのスネア太鼓も収録しました。さらにチャッパ、チャンチキなど珍しい楽器も収録するとともに、咆哮(かけ声)も録っています。

--かなりいろいろなフレーズが入っていますが、これはどのようにしていったのですか?
河原:BPMを決めた上で、あとは茂戸藤さんがフレーズも作ってくださっています。4小節で1つのループとなるのですが、録りっぱなしで、何度か繰り返し同じフレーズを叩いてもらっています。これをそのまままとめずに、キースイッチで切り替えられる変形バージョンということで収録しています。4日間という短い時間ではありましたが、膨大な量のサンプルを録ることができましたね。

--その膨大な量である分、編集作業も大変そうですが、これはどなたが行っているのですか?
河原:編集はすべて私が行っています。結局2年近くかかってしまいましたが、すべてにおいてビートディテクティブは使わず、オリジナルのグルーヴを残しつつ、頭はキレイに揃うよう、Pro Toolsを使ってすべて手作業で行いました。

--2年かけて作るというのも、尋常ではない作業ですね。
河原:せっかく作るので、本当に使えるものを作りたかったので、茂戸藤さんの音を一番よく知っている作曲家の高梨康治さんに試してもらいながら、作業を進めていったんです。高梨さんにちゃんと使ってもらってOKをもらえれば間違いないですから。その結果、2年もかかっちゃったわけですね。その高梨さんにインタビューさせてもらったのが以下のビデオです。

--実際、河原さん自身が使いたいということで作った作った音源ですが、実際使ってみていかがですか?
河原:個人的には単純に音色が他社のどの製品よりも使いやすいというか、欲しい和太鼓の音がする音源なので、とっても気に入って使っています。もちろん私がNARUTOの高梨さん、イノセンスの川井憲次さんと仕事しているから、聴き馴染みがある音だからすごくいい音に感じる、という点はあるかもしれません。でも一歩引いて聴いてみてもも、とてもいい和太鼓の音なので、客観的に見てもいいはずだ、と思っております。ぜひ多くのクリエイターのみなさん、とくにボカロPのみなさんをはじめとする新しい音楽を制作しているみなさん、またダンスミュージックなどを作られている方にも使っていただきたいですね。箏などと組み合わせるなど、日本っぽいテイストをうまく打ち出しながら、これで海外ウケする曲を作ってくれるととっても嬉しいです。

--ありがとうございました。

【関連情報】
Taiko-Motofuji-製品情報(SONICWIRE)
Kawaii Future Samples製品情報(SONICWIRE)

【価格チェック&購入】
◎SONICWIRE ⇒ Taiko-Motofuji- , Kawaii Voice Vol.1
◎Rock oN ⇒ Taiko-Motofuji
◎Booth ⇒ Kawaii Voice Vol.1