楽器を弾けない人でも楽器演奏を存分に楽しめるKANTAN Playが無料で公開。10万曲以上の専用楽譜も無料で入手可能

Windows、Macはもちろん、iPhone/iPad、Androidでも、インストール不要ですぐに楽しめるユニークな楽器アプリ、KANTAN Playというものが無料で公開されています。これは楽器が苦手な人でも、楽譜がまったく読めない人でも指一本ですぐに弾けてしまうという画期的なアプリです。KANTAN Musicという音楽システムにのっとったアプリであり、これまでDTMステーションでも何度か紹介してきた電子楽器、InstaChordの姉妹ソフト的なものでもあります。

KANTAN Musicは、InstaChrodの開発者である、ゆーいち(永田雄一:@u1_nagata)さんが考案したものですが、KANTAN Playというアプリは、ゆーいちさんとコラボする形で、日本におけるVRの先駆者であるGOROman(近藤義仁:@GOROman)さん、それにオーディオプログラマである、よしたか@TyounanMOTI)さんが開発したもの。実際KANTAN Playを使ってみると、笑ってしまうほどよくできた楽しい楽器なんです。何でこんな凄い楽器が無料なのか、InstaChord販売の邪魔にならないのか……など気になることもいっぱいです。そこで、KANTAN Playの使い方を、簡単に紹介するとともに、KANTAN MusicやKANTAN Play登場の背景などを、ゆーいちさん、GOROmanさんにインタビューしたので、その内容を紹介しましょう。

インストール不要で誰でも無料で簡単に演奏が楽しめるKANTAN Playが公開。写真は開発者のGOROmanさん(左)とゆーいちさん(右)

KANTAN PlayはNAMM Show初日にヒッソリと発表されており、「【NAMM2023レポート2】ブラウザで使えるInstaChordやオンラインセッションできるREALTIME PORTALなど…」という記事でも少し紹介していました。紹介ビデオもあるので、これを見るとすぐに雰囲気はつかめると思います。

このKANTAN Play、パソコンでもスマホでもインストール不要ですぐに楽しめる楽器なので、まずは以下のQRコードを読み取るか、URLをクリックする形でKANTAN Playサイトに行ってみてください。

KANTAN Play

ここに「START」というボタンがあるので、これを押すると電卓のような画面が表示されます。1~7の数字と記号のようなボタンが並んでいますが、この数字部分をクリック(タップ)してみてください。

KANTAN Playの起動画面。数字ボタンを押せばじゃら~んとギターの音でコードが演奏される

どうですか?「じゃら~ん」ってアコースティックギターの音が鳴るのが分かると思います。違う数字を押してみると、別のコードの音で「じゃら~ん」って鳴りますよね。

また電卓のようなボタンの上に、グラフィックの模様のようなボタンが5つ並んでいて、デフォルトでは一番左のボタンがONになっていると思いますが、試しに一番右のボタンをONにした状態で、改めて「1」のボタンを押したり、離したりを繰り返してみてください。いかがですか?押したり離したりに合わせてギターのアルペジオが弾けてしまうことが分かると思います。

数字のボタンの上にあるグラフィック模様はアルペジオパターンになっている

このグラフィックの模様のようなもの、「アルペジオパターン」というのですが別のボタンを選んで、再度「1」を押したり、離したりすることで、別のアルペジオが演奏できるのも分かると思います。カンタン、ですよね。

また、Ac.Guitarというボタンを押してみてください。すると画面表示はPianoに切り替わり、アルペジオパターンも異なるものに変わるのですが、この状態で、また数字ボタンを押してみてください。どうですか?今度はピアノ音での演奏に切り替わりますよね。これでピアノを簡単に弾けちゃうわけです。

KANTAN Play の意味は、このGIF動画を見れば、分かる人にはすぐ分かると思います。

電卓のように並んでいる数字と、オレンジ色の「~」と書かれたボタンを組み合わせるだけで、ほとんどの曲を演奏できる、というのがゆーいちさん考案のKANTAN Music(※KANTAN Musicの詳細はこちら)という音楽システムの特長です。

でも、「これだけじゃサッパリ分からない」、「コードがまったく分からないので……」という人も少なくないでしょう。しかし、KANTAN Musicの楽譜はそのまま数字が書かれていますから、その数字の通りにテンキーをポチポチ連打するだけでちゃんと演奏になってしまうんです。

一般的なコード譜(左)とKANTAN楽譜(右)。コードが数字で表されているから誰でもわかりやすくなっている

そして、そんな数字で表現された10万曲以上という膨大な楽譜を、誰でも無料で使えてしまう、と言ったら驚いてしまいますよね。でも、ホントなんです。この楽譜を入手するためには、ブラウザにKANTAN Chordというブラウザ用のプラグインやアプリをインストールし、これを有効にします。そのうえで、

U-フレット
楽器.me
J-Total Music
ULITIMATE GUITAR TABS

の各種コード譜サイトにアクセスすると、まさにKANTAN Musicに対応した数字が歌詞とともに表示されるんです。あとは、KANTAN Playを使って演奏すれば、楽器経験がまったくない人でも、楽譜がまったく読めない人でも、すぐにギターやピアノの演奏ができてしまうのですから、とっても楽しいですよ。

ブラウザのプラグインとしてKANTAN Chordを入れておくと、コード譜サイトがKANTAN楽譜で表示されるようになる

また、以下のGIFアニメのように先に弾きたいコード譜を見つけてから、KANTAN Chordで数字に変換するということもできます。

ちなみにこのKANTAN Chrodを使って各種楽譜コード譜サイトを数字表記させた結果は、KANTAN Playだけでなく、InstaChordをはじめとするKANTAN Music対応楽器であれば演奏できるようになっています。KANTAN PlayもKANTAN Chordも広告表示すらないので、ユーザーからするととっても快適。さらに、最近のアップデートで、LV.0、LV.1,LV.2というレベル選択ができるようになっているのもスゴイところ。

KANTAN楽譜の一番上の部分に、レベル選択機能が装備されている

LV.2ではオンコードやsus4、dimといったコードまでサポートされているのに対し、LV.1にするとsus4やdim といった複雑なコードが違和感のない簡単なコードに置き換えられます。さらにLV.0にすると、1~6の数字と「~」のみで楽譜が表示されます。テンションやオシャレな音は一切なくなりますが、すごく弾きやすく、それでも弾いてみると自然な演奏になります。

でも、どうして、こんなすごいものが無料で公開されているのか、いろいろ不思議にも感じるところ。そこで、ゆーいちさん、GOROmanさんに話を伺ってみました。

ゆーいちさん、GOROmanさんインタビュー
--KANTAN Play、アルペジオパターンが搭載されるなど、NAMMで見たときよりも、さらに進化していたんですね。それにしても、Webアプリとは思えないレスポンスで、ほとんどレイテンシーを感じないことにも驚きます。
GOROman:たとえばiPadで使う場合、画面分割を使て左側に楽譜サイトを表示し、右側にKANTAN Playを置いて使うと、とっても便利ですよ。さすがにiPhone 6とかiPad mini 3、またAndoroidの古いタブレットやAmazon Fireなどだと、上手く鳴らないケースもありますが、ほとんどの機材で簡単に演奏できます。今回アルペジエーターをつけたことで、ただ連打する形でリズムを刻むことで、演奏できるので、弾いている感は高いと思います。
ゆーいち:楽器はピアノとギターの2種類で、それぞれ異なるアルペジオパターンが用意されています。これまでもワンキーでコードを弾けるという機材やソフトはいろいろありましたが、押す、離すという操作で弾けるため、かなり演奏している感は高いと思います。また外部のキーボード入力にも対応していて、テンキーや数字キーを使って演奏することも可能です。

パソコンのブラウザ、スマートフォン、タブレットなど、さまざまな機器でKANTAN Playが楽しめる

--このKANTAN Playの演奏の基本はInstaChordと同じですね。
ゆーいち:はい。演奏の難易度という観点では、メロディ演奏よりコード演奏のほうが切り替える頻度が少ないので簡単だと言えます。そして、ポピュラーミュージックは1度~6度の基本コードと、そのメジャーとマイナーを入れ替えたコードだけで大体弾ける、という法則に着目して、「楽譜の表記」と「楽器のインターフェイス」をまるごと再構築したのが KANTAN Musicという規格です。

InstaChordは、KANTAN Musicを実装した最初の楽器として世に出しました。このユーザーインターフェイスが世間に受け入れられるのか、ある意味実験でもあったわけですが、InstaChord に触れて「これで楽器が弾けた!」、「とっても楽しい!」とおっしゃってくださる方が大勢いることがわかりました。また、音楽の専門家の方からも、「作曲の学習に役立つね」とか「学校教育にぜひ活用したい」という声が多数寄せられました。

KANTAN Musicという規格を発明し、InstaChordを生み出したゆーいちさん

--確かに学校の音楽教育に取り入れると楽しそうです。
ゆーいち:いま、小学校5、6年生の音楽の授業では創作という単元で、コード進行に合わせてメロディを作るという授業が行われていたりします。でも、そもそも楽器を弾けないとコード進行を鳴らせないので作曲するなんて至難の業です。ですから「インスタコードがあれば数字を選ぶだけでコード演奏ができるし、コードを感覚で捉えられるのがいい」と学校の先生から高い評価をいただいています。
とはいえ、1台4万円のInstaChordを生徒全員に配布するのは現実的ではありません。そこで、児童、生徒は1人1台タブレット端末を持っていることに注目しアプリを作ることにしました。そして、GOROmanさんの提案でWebアプリとしてリリースしたんです。Webアプリならインストール不要なので学校でもすぐに導入できると喜んでいただいています。

--しかしKANTAN Playのようなものを無料で出したら、InstaChordが売れなくなるのではないですか?
ゆーいち:現在は無料版のみですが、いわゆるフリーミアムの考え方で、有料の高機能版をリリースする予定です。アルペジオパターンのエディット機能や、サウンドフォントへの対応、WEBMIDIへの対応など、まだまだ進化する予定なんですが、それらの機能は「課金してね」となると思います。またInstaChordは、アプリとは比べ物にならない表現力を持ったリアルな「楽器」ですから、KANTAN Playで演奏や作曲の楽しさを知った人が、次はリアルな楽器で…という時に InstaChord へステップアップしてもらえば良いと考えています。しかしこのアプリを無料で提供している本当の狙いは、KANTAN Musicのコア部分の収益化にあるんです。

いまは無料のKANTAN Playだが、今後、有料の追加機能も用意していくという

--KANTAN Musicのコア部分での収益化とはどういうことですか?
ゆーいち:私は「全ての人が演奏を楽しめる世の中」を目指してInstaChord株式会社を創業しました。そしてそのためには 世界中の楽器メーカーや玩具メーカーから KANTAN Musicに対応した楽器が発売されて、KANTAN Music が1つの楽器のジャンルとして確立しないといけないと考えています。そこで、弊社が保有する国際特許を世界中のメーカーが健全に使えるようにするにはどうすれば良いか、というのを、ある日GOROmanさんに相談したんです。
GOROman:品川の居酒屋での話ですよね?そこで私が「ARMみたいなモデルが良いんじゃない?」と提案しました。ARMはCPUのアーキテクチャを設計して、Apple、Qualcomm、SamsungといったあらゆるメーカーがCPUに採用しています。同じようにKANTAN Musicのアーキテクチャを設計して、そのIP(知的財産)を楽器メーカーに販売する。そのためにはアーキテクチャを実装して動くようにしたリファレンスモデルが必要だから、スマホでもPCでも使えるWEBアプリで出せば良い。なんなら俺作りましょうか?っていう流れです。

KANTAN Playの開発者であるGOROmanさん

--ところで、GOROmanさんと、ゆーいちさんはどこで出会ったんですか?
GOROman:2020年にInstaChrodのクラウドファンディングを行っているのを見て知ったのが最初です。DTMは昔から大好きだけど、自分自身は楽器が弾けないので、このコンセプトに非常に興味を持ったんです。ただ、まだまったく世の中にない機材のクラウドファンディングだっただけに、ホントに大丈夫だろうか……とは思いました。が、このクラウドファンディングの説明ページを見ると、開発に関わるメンバーとしてジェネシスホールディングスの藤岡さん、ミューシグナルの宮崎晃一郎さんなど、知っている人がいっぱい。これなら信用できそうだ、とすぐに購入したんです。

--その時点では、ゆーいちさんとの繋がりはまったくなかったわけですね。
GOROman:そうですね。その後、予定通りには機材が届かず、しばらく待たされた面はありましたが、実際に届いてみて触ってみたら、予想以上によくできていてファンになりました。これは絶対に広めたいと思って、知り合いとかに紹介したり、大学や専門学校で講演する際などにもいろいろ紹介していきました。InstaChordの一番のエバンジェリストなんじゃないかな、と(笑)。あるとき、ゆーいちさんが出るイベントがあったので、ひとりのユーザー、ひとりのファンとして会いに行き、InstaChordを持っていってサインをしてもらったんです。その後、InstaChordのユーザー合宿があって、富士山のふもとにユーザーとして参加したり……。
ゆーいち:最初にお会いしたのは2021年11月のビックサイトですね。東京都の世界発信コンペティションで都知事から表彰された時です。それ以来、GOROmanさんとは、いろいろやりとりさせていただいています。

--GOROmanさんのTwitterを見てると、結構InstaChrodをハッキングした話もよく登場してますよね?
GOROman:そうですね。InstaChrodを弾くとシーケンスが走るVSTを作って持って行ったり、InstaChrodをBluetoothで飛ばしてMIDIコントローラとして使う音ゲーを作ってみたり、DMXを連動したり……といろいろやりましたね。個人的にボランティアとしてInstaChrodを応援したいな、と。本当にMIDIコンとしてInstaChrodは優秀なんですよ。あくまでファンとして楽しいからやっているんです。
ゆーいち:僕もKANTAN Chrodの概念は頭に浮かんでいたんですが、それだけだとボランティアになっちゃう。楽器メーカーやオモチャメーカーに使ってもらえるようにするにはどうしたらいいんだろう……となんとなく考えていたときに、GOROmanさんからARMのようなIP(知的財産)を売っていくのがいいのではと言われ、それは画期的だなと思いました。ただ、最初から有料だとなかなかとっつきにくいからブラウザで使えるものを作るといいのでは、と提案され、すぐに作ってくれたのが、KANTAN Playだったんです。

--そういう発想でKANTAN Playが生まれたんですね。
GOROman:ブラウザで気持ちよく使えるようにするには、やはり低遅延にすることが重要です。そのため、インターフェイスのほうは私が作りつつ、コア部分は、よしたかさんに作ってもらった結果、とてもいい感じに仕上がりました。先日さらにアップデートしてアルペジエーター機能を載せましたが、今後は有料のオプション機能などを追加することも考えているところです。

--ほかにも今後のビジョンがあれば聞かせてください。

ゆーいち:KANTAN Musicは、Kawaii とか、Emoji とか、Karaokeのように、KANTAN を世界共通語として広めたい、という気持ちを込めてこのネーミングにしました。InstaChordを販売してきて、KANTAN Musicの仕組みは世界中で受け入れられることが分かりましたが、InstaChordが完成形だとは思っていません。プレイステーションやNintendo Switch みたいに世界で1億台以上売れるプロダクトを、ぜひ日本のメーカーと一緒生み出したいですね。ぜひ私とGOROmanさんのコンビにご相談ください。

--楽しみにしています。ありがとうございました。

【関連情報】
KANTAN Play
KANTAN Music
InstaChord株式会社