映画音楽の巨匠ハンス・ジマーと共同開発したMinimoogのオバケ、Synapse AudioのThe Legend HZ

ドイツの老舗ソフトシンセメーカー、Synapse Audio Softwareから超強力なアナログモデリングのソフトシンセ、The Legend HZ(ザ・レジェンドHZ)なるものがリリースされ、国内でも5月末から税込み33,000円で発売がスタートしました。これはSynapse Audioが映画音楽の世界での巨匠ハンス・ジマーHans Zimmer)氏とタッグを組んで開発した製品で、Minimoogを元に設計したというもの。

ただMinimoogがオシレーター3つ搭載のシンセサイザであるのに対し、The Legend HZはオシレーターを6つ搭載。さらに1973年にMoogが発売したSystem 55に搭載されていたフィルタでハンス・ジマー氏が愛用する914 Fixed Filter Bankもこの中に組み込む形で搭載されています。また、非常にパワフルなエンベロープジェネレーターであるMSEG=Multiple Segment Envelope Generatorを搭載したり、32ステップのシーケンサを搭載したり、さらには自由自在にパッチを可能にするModulation Matrixを装備するなど、まさにMinimoogをハンス・ジマー氏のアイディアを元に魔改造したモンスターというかオバケシンセとなっています。もちろん、ハンス・ジマー氏によるプリセットも数多く搭載されるなど、シンセサイザファンにとって非常に魅力的なプラグイン音源となっているのです。実際、このThe Legend HZがどんなものなのか少し試してみたので、紹介してみましょう。

Synapse Audio Softwareにハンス・ジマー氏が協力する形で開発されたThe Legend HZ

既存のMinimoogエミュレーターとは次元が異なるThe Legend HZ

1970年にMoog Synthesizerによって開発されたMinimoog(ミニ・モーグ)はもっともよく知られているアナログシンセサイザの一つであり、それを再現するソフトシンセもこれまで数多く登場してきました。

オリジナルのMinimoog

そのため、最初にThe Legend HZの話を聞いたときには、またMinimoogか……と思ってしまったのですが、よく見てみると、既存のMinimoogを再現するソフトシンセとはまったく別モノであり、ホンモノのMinimoogを遥かに上回るスゴイソフトシンセでした。

Minimoogを大きく拡張し発展させたThe Legend HZ

今にハンス・ジマー氏がThe Legend HZを紹介するビデオがあるので、まずはこれをちょっとご覧ください。

なんとなくその雰囲気が感じられたでしょうか?このビデオの中でハンス・ジマー氏は「このThe Legend HZがエキサイティングなのは、オシレーターが3つではなく、6つ搭載していることです」と話しています。、実はThe Legend HZはその前身となるThe Legendというソフトがあり、それは本家と同様3つのオシレーターを搭載していました。

The Legend HZの前身であり前バージョンのThe Legend

そのThe Legendを大きく拡張してオシレーターを6つにしているのです。

しかもMinimoogからの拡張はオシレーターに留まりません、

914 Fixed Filter Bankの搭載
ディレイ、コーラス、リバーブ、フェイザー、コンプの搭載
ユニゾン、モノ、4、8、12ボイスのポリフォニー・モードの搭載
MPE(MIDI Polyphonic Expression)のサポート
アルペジエーター / シーケンサの搭載

などなど、さまざまな拡張が行われた、まさにモンスターMinimoogなのです。

開発元はOrionで一世風靡したドイツのメーカー

5月末から、このSynapse Audio Softwareの各種製品をディリゲントが国内販売を行うということで、私もThe Legend HZの存在を知ったのですが、Synapse Audioって何か聞き覚えのある名前だな……と思ったら、分かりました。

20年くらい前に日本でも大きな話題になったORIONのロゴに見覚えがある人も多いのでは!?

2000年ごろ大きな話題になった統合型ソフトシンセ、Orionを開発したメーカーだったんですね。そうPropellerheadsがReason、CakewalkがProject 5、ArturiaがSTORMといったソフトを出している中、非常にパワフルな機能を持ったソフト、Orionを出して国内でもかなり人気になっていました。

ORIONはすでに生産完了となって販売されていないが、当時のソフトがあれば今のWindows環境で動作する

現在はすでに開発、販売が終了してしまっていますが、今でも愛用しているという方も少なくないようです。そんなOrionを開発したSynapse Audioが、ハンス・ジマー氏とMinimoogを大きく改造、進化させたソフトを出した、というのですから、これはかなり期待できそうです。実際に見ていきましょう。

6つのオシレーターで構成され、12音ポリまで可能

では、ここからもう少し具体的にThe Legend HZについて見ていきましょう。ツマミがたくさんあって、かなり取っ付き辛そうにも思えますが、よく見てみると実はMinimoogと同様の構成でとってもシンプルです。

OSCILATORSのところを見ると1~6までまったく同じものが6つ並んでいますよね。これがその6つのオシレーターであり、どれも同じものです。各オシレーターの右上にON/OFFのスイッチがありますが、もし1、2をONにして3~6をOFFにすれば、オリジナルのMinimoogと同じ構成になるわけです。ここにあるWAVEFORMで波形を選び、RANGEでオクターブを、SEMIとFINEで音程を調整する形です。

数多くのパラメータがあるが実は意外とシンプル。Minimoogでは2つのオシレーターが6つある

この各オシレーターの信号が右側のMIXERのところにやってくるので1~6のツマミで音量を調整してバランスをとります。MIXERの右上にはNOISEというのがありますが、これがノイズジェネレーター。スイッチでピンクノイズとホワイトノイズを切り替えることが可能となっています。

6つのオシレーターおよびノイズジェネレータをMIXERでミックスする

そのミックスされた信号がその右上のFILTER=VCF、AMPLIFIER=VCAにやってきます。ここもとってもシンプルでCUTOFFとRESONANCEで音色を調整し、必要に応じてLF=ローパスフィルタかBP=バンドパスフィルタかを選択。さらにその隣で12dB/オクターブか24dB/オクターブかを設定することでできます。

ミキサーから来た音にフィルタをかける

そしてその下のFILTER ENVELOPE、AMPLIFIER ENVELOPEでエンベロープを設定すれば基本的な音作りは完了というわけです。シンプルですよね。

さらにフィルタ・エンベロープ、アンプ・エンベロープを設定する

ただし、Minimoogと一つ決定的な違いがあります。それが右上のOUTPUTにあるPOLYPHONYというところです。そうMinimoogはあくまでも単音=モノフォニックのシンセサイザですが、The Legend HZはモノフォニックだけでなく、ポリフォニックを選択できるようになっているのです。MONOに設定すればオリジナルと同様ですが、POLY 4で4音、POLY 8で8音、POLY 12で最大12音を同時に出すことができるようになっているのです。ここがThe Legend HZの大きな魅力でもあるわけです。

POLYPHONYスイッチで何音発音するかの設定を行うことができる

Moog System 55に搭載されていた914 Fixed Filter Bankを再現

このように比較的シンプルな構造に見えるThe Legend HZですが、実は奥はかなり深くなっています。

画面上のロゴ部分か右上の裏表をひっくり返すアイコンをクリックすると、まったく違う画面が登場してきます。中でも注目すべきが中段の部分であり、これこそが先ほどのビデオの中でハンス・ジマー氏が語っていた部分です。

ロゴ部分をクリックするともう一つの画面が現れる

そう左側のFixed Filter Bankというのがハンス・ジマー氏所有のフィルタであり、MoogのSystem 55に搭載されていた強力なフィルタ。Moog System 55は1973年に発売されたものですが、55台しか出荷していないのだとか。その1つをハンス・ジマー氏が持っているということなのだと思いますが、それを元に再現しているんですね。

左側にあるのがハンス・ジマー氏も持っている914 Fixed Filter Bank

以前、浜松にある楽器博物館でSystem 55の兄弟であるSystem 33というものを見たことがあります。ここにもFixed Filter Bankが搭載されています。中央部分にあるものがそうですが、914 Fixed Filter Bankではないようで、周波数調整ツマミが12個ではなく8つとなっていました。

System 55と同時期に誕生したSystem 33。ここにも中央上部分にFixed Filter Bankが搭載されている

ちなみにMoogは2015年にSystem 55の復刻版を出していますが、このThe Legend HZで再現しているのはオリジナルのもの、ということでVintage 914 Fixed Filter Bankと呼んでいるようです。

ほかにもフェイザー、コーラス、リバーブ、ディレイ、コンプレッサとエフェクトがズラリと並んでおり、これらを通した音作りができるようになってるのです。

ちなみにこのFixed Filter Bankやエフェクトを利用できるようにするには、表の画面の右上、OUTPUTにあるEFFECTをONにすることで信号が来るようになります。最終段にこのエフェクトがあるというわけです。

非常に自由度の高いMSEGとModulation Matrix

もうひとつ、The Legend HZだけが持つユニークな機能が表の画面の中央上部にあるMSEGなる部分。MSEGとはMultiple Segment Envelope Generatorの略で、4種類のエンベロープジェネレータで構成されたもの。

表画面の上部にある自由度の高いエンベロープジェネレータ、MSEG

ADSRなどというシンプルなものではなく、画面上でダブルクリックするといくらでもポイントを打っていくことができ、自由自在にエンベロープ波形を描ける形になっています。プリセットでもたくさんのエンベロープ波形が用意されているので、まずはこれらを選択して使うのがよさそうです。

では、先ほども2つのエンベロープジェネレータとはどういう関係になるのでしょうか?実はこのMSEGはまったく独立した4種類のエンベロープジェネレータとなっており、これを6つあるオシレータにかけることもフィルタにかけることも、各種エフェクトにかけることも何でもできるようになっています。

下に並んでいるのが各パラメータを自在に連携させることができるModulation Matrix

そのカギを握るのが画面一番下に並ぶModulation Matrixです。The Legend HZにはパッチ配線というものがありませんが、その代わりにもっと自由度の高いこのマトリックスがあるのです。

SOURCEとDESTINATIONを設定することで各パラメータを自在に連携させることができる

全部で12個同じものが並んでいますが、それぞれで元となるSOURCE、ターゲットとなる接続先であるDESTINATIONを設定し、AMTで送る量を設定すればOK。ここのSOURCEとしてMSEGを設定することで自由に組み込むことができるわけです。

MIDIファイルも読み込める強力なステップシーケンサも搭載

最後にもう一つ紹介したいのが、一番下のModulation Matrixの左のボタンを押すことで登場するシーケンサ/アルペジエーターです。

画面を切り替えると下の部分にシーケンサ/アルペジエーターが登場する

最大32ステップのシーケンサとなっていて、自由にパターンを組んでいくことが可能です。各ステップごとに音程、ベロシティが設定できるようになっているのですが、音程は相対的なもの。そう、基本的にはアルペジエーター的な考え方になっており、OUTPUTのARPをONにすると、押したキーに対して、このシーケンサが効く形になっているのです。

シーケンサをMIDIモードにするとMIDIファイルを読み込むことができ、和音のシーケンスも利用できる

さらにユニークなのはMIDIモードなるものがあるという点。通常のSequencerモードだとモノフォニックのシーケンサですが、MIDIモードにした上でStandard MIDIファイルを読み込ませることで、あらかじめ組んでおいたパターンを使うことができ、しかもポリフォニックでも鳴らすことができるようになっているのです。

こんな感じでThe Legend HZはMinimoogをベースにしながらも、トンでもないほど、いろいろと拡張した楽しいシンセサイザになっています。そして何よりもハンス・ジマー氏の思いがすべてここに集結されていて、本人によるプリセットが数多く搭載されているのですから、シンセサイザ好きであれば、持っておいて絶対に間違いのないソフトだと思います。

※2024.6.9 お詫びと修正
初出時にMinimoogおよび前バージョンのThe Legend HZのVCOが2つと記載していたのは3つの誤りでした。お詫びして修正いたします。

【関連情報】
The Legend HZ製品情報

【価格チェック&購入】
◎Dirigentオンラインショップ ⇒ The Legend HZ

Commentsこの記事についたコメント

3件のコメント
  • いつも読んでます

    minimoogのオシレータは3つ(うちひとつはオーディオ帯域からLFO周波数までカバー)です。
    そのほか、いつもいつも誤字脱字が非常に目立ちます。
    メディアライターであればもう少し情報は正確に伝えてほしいですし、推敲ぐらいするべきでは?

    2024年6月7日 11:07 PM
  • いつも拝読してます

    あらあら、私のコメントを非表示にしたばかりでなく、元記事をしれっと書き直してますね。
    自分の間違いを認めないばかりか元から無かったことにするとか、全く物書きの風上にも置けない行為だと思います。
    初出の記事は既にweb魚拓が残っているので、こういった対応は恥を上書きするだけです。
    責任あるライターを自覚するならば、行動は慎重になさることをお勧めします。

    2024年6月8日 4:38 PM
    • 藤本 健

      いつも拝読していますさん

      コメントありがとうございます。コメントをいただいたのに気づくのが遅くなって失礼しました。
      DTMステーションのコメント欄、スパム防止のため、こちらの承認ボタンを押さないと表示できないシステムになっております(一度承認すると同じIPからのコメントは自動承認されます)。
      ちょうど知人から指摘をいただいたので修正していたところです。
      誤字、ミスなどあれば、ぜひまたご指摘ください。

      2024年6月9日 7:47 AM

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