SpotifyやApple Musicをはじめ、音楽を聴く手段として広く定着した音楽サブスクリプションサービス。DTMユーザーの間でも、楽曲を制作し、YouTubeやニコニコ動画などへアップする次の手段としてサブスクリプションサービスへの登録を行った人、これから登録を考えている人は少なくないと思います。CDを流通させ、販売するのと比較して、とても気軽にリリースできるようになったのも事実ですが、気になるのは著作権の問題や、その収益についてです。配信された楽曲が聴かれた結果、どのようにして、いくらくらいの収入が得られるのかという点でしょう。
権利関係の話は複雑で難しそう……と敬遠している人も多いと思いますが、音楽で稼ぐということを考えているのなら、やはり知っておくべき重要なことです。昨年11月にJASRACのネットメディア部に「DTMerもJASRACに入れば、YouTube動画再生収益が増えるってホント?JASRACに行って聞いてみた」という記事でYouTubeでの音楽利用と権利処理について取材したことがありました。今回は、前回に続き、この音楽サブスクリプションサービスを中心に、作家への分配の仕組みや信託するメリットについて取材しました。今回もネットメディア部ネットメディア課の生田智嵩さんと瀧本奈緒さんに話を聞いてみました。

改めてJASRACにネット配信に関して話を聞きに行ってみた
音楽サブスクリプションサービスの使用料はどう決まる?
――前回のインタビューでも伺っていますが、改めてネットメディア部とはどのような部署なのか教えてください。
生田:インターネットの音楽利用全般に許諾を出している部署です。イメージしやすいのがYouTubeなどの動画投稿サイトや音楽サブスクリプションサービスですね。また、企業のホームページに動画をアップロードする場合や、歌詞や楽譜を掲載したい場合など、インターネット上のあらゆる音楽利用に対して許諾を出しています。大きな利用から小さな利用まで、幅広く対応しているのが特徴です。

JASRACのネットメディア部ネットメディア課の生田智嵩さん(左)と瀧本奈緒さん(右)
――今回は音楽サブスクリプションサービスに関する部分を伺っていきたいのですが、著作権使用料はどのように決められているのでしょうか?
生田:音楽サブスクリプションサービスにおける著作権使用料は、サービス内容や月額料金、加入者数などによって決められています。JASRACの規定では「月間の情報料収入及び広告料等収入の7.7%~12%」または「月間の総加入者数に77円~120円を乗じて得た額」のいずれか多い額と定めています。プレイヤーの埋め込み機能など、音楽サブスクリプションサービスの機能が多いと、料率は高くなります。また、無料トライアル期間や他サービスとのバンドル、セット料金、ファミリープランなどの割引価格などで、著作権使用料が安くならないよう、最低使用料を設定しています。また、サービスの状況を常に把握し、機能拡充などがあれば配信事業者と交渉のうえ、契約を更改して適切な使用料となるよう努めています。
サブスクって稼げるの?1再生あたりいくらになる?
――サブスクでの再生は作家にどれくらいの収益をもたらすのでしょうか? 1再生あたりの単価などはありますか?
生田:音楽サブスクリプションサービスにおける1再生あたりの単価は、各サービスによって異なります。単価は予め固定されているわけではないので変動しますが、分配額は再生回数(リクエスト回数)に応じて計算されるため、再生回数が多くなればなるほど分配額も増えるという仕組みです。
瀧本:配信事業者側の取決めで、基本的に30秒以上再生されないとリクエストとしてカウントされず、分配の対象にならないことが多いですね。

JASRACネットメディア部ネットメディア課の生田智嵩さん
――前回はYouTubeでのJASRAC信託のメリットを伺いました。そもそも、自分の曲を音楽サブスクリプションサービスで配信するにはどうしたらいいですか?JASRACに信託しなくても音楽サブスクリプションサービスで自分の曲の配信は可能ですが、JASRACに信託するメリットは何ですか?
瀧本:自分の曲を音楽サブスクリプションサービスで配信するには、音楽配信をサポートする「音楽ディストリビューター」を利用するのが一般的です。音楽サブスクリプションサービスに曲を配信している個人のクリエイターがJASRACに信託すると、著作権料の分配を受けられるようになります。著作権料は音楽出版社経由でも受け取り可能ですが、JASRACに個人で信託している場合、JASRACと海外の著作権管理団体との相互管理委託契約により、海外で再生された場合も、分配を受け取れるという大きなメリットがあります。海外ではクリエイターが著作権管理団体のメンバーであることがスタンダードで、所属していないと、個人で著作権を管理しているとみなされます。そのため、クリエイターの取り分は著作権料の支払い対象にならない、つまり、その分の分配は受け取れないんです。
生田:また、YouTubeなどの大きなサービスでの楽曲利用が想定される場合(動画のBGMや「歌ってみた」などでの利用)、JASRACなどの著作権管理団体に所属しない場合は、クリエイター本人が個々のユーザーやプラットフォームと利用条件や使用料について交渉しなければ著作権料を受け取れませんが、信託者になるとJASRACが代わりに交渉し、個人での交渉では難しい、よりよい条件を勝ち取ることができます。信託するメリットは大きいと言えます。
――音楽サブスクリプションサービスで配信する場合、クリエイターは何か著作権の手続きをしないといけないのでしょうか?
生田:いえ、お手続きはAppleやSpotifyなどの配信事業者が行っていますので、個人のクリエイターの方に特別な対応をしていただく必要はありません。ただ、通常は楽曲を配信登録すると、世界共通の楽曲コードであるISWCが付与されます。このコードによって全世界での正確な再生回数を把握することができるのですが、このISWCを取得するためには、世界共通のクリエイター識別コードであるIPIが必要です。IPIをお持ちでないクリエイターの方は、KENDRIX※というサービスで、IPIを取得することができますので、是非使ってみてください。

JASRACが運営するKENDRIXサイトのトップページ
※KENDRIXとは、JASRACが展開する音楽クリエイター向けの無料DXプラットフォームです。このプラットフォームでは、アップロードした楽曲情報をブロックチェーンに登録することで、その音源ファイルを誰が、いつ所有していたかを客観的に証明することができます。また、JASRACへの著作権管理委託手続きをオンラインで簡単に行える、IPIを取得できるなど、多彩な機能を備えています。以前「楽曲のブロックチェーン登録や存在証明ページの発行が無料でできるKENDRIXとは!?」という記事でも紹介しているので、興味のある方はぜひ参照してみてください。
JASRACに曲を委託する条件は?その手数料は?
――JASRACに曲を信託するための条件はありますか? YouTubeだけで活動している場合でも信託できますか?
瀧本:はい、できます。YouTubeなどの商用配信サイトで楽曲が使われている動画の再生数が過去1年間で1,000回を超えれば信託が可能です。

JASRACネットメディア部ネットメディア課の瀧本奈緒さん
――視聴された曲の分配はいつごろ受け取ることができるのでしょうか?
生田:サービスにもよりますが、利用があってから6ヶ月~9ヶ月後に分配されるものがほとんどです。JASRACでは、クリエイターの方により早く正確に分配するため、日々取り組んでいます。
――JASRACに信託する場合、入会金であったり、年間の会費などはいくらくらいになるのでしょうか?またJASRACの手数料はどれくらいですか?
瀧本:JASRACと信託契約するための初期費用は一切かかりません。入会金・年会費も無料です。準会員、正会員というステータスのメンバーの方には、会費をお支払いいただきますが、弁護士による法律相談、税理士による確定申告や税務相談などさまざまなサービスを受けることができます。管理手数料率は、演奏(演奏会、カラオケ等)、放送(放送、有線放送)、録音(CD、DVD等)などの区分ごとに「管理委託契約約款」で定め、文化庁長官に届け出た手数料率(届出料率)の範囲内で決定していて、配信については、手数料率(実施料率)は9.5%です(2025年6月時点)。なお、管理手数料は著作権管理等を行うための業務運営の経費に充てられます。
生田:年度ごとの運営経費に余剰金(収支差額金)が発生した場合は、翌年度に権利者の皆さまに還元しています。つまり、手数料収入が余った場合は、全て委託者に還元しています。また、収支差額金となることが確実に見込まれる場合は、より早く権利者の皆さまに還元するため、年度内最後となる3月分配の手数料率を引き下げて対応も行っています。
インターネット配信における著作権管理の最新動向
――JASRACのインターネット関連の徴収額はどのように推移していますか?
瀧本:JASRACのインターネット関連の徴収額は着実に増加しており、2024年度には563億円となり、JASRACの総徴収額1,445億円(過去最高額)の約39%を占めるまでになっています。2016年度に100億円を、2019年度に200億円を、2020年度に300億円を、2022年度には400億円を超え、急速に伸びています。
生田:2015年以降の音楽サブスクリプションサービスの本格上陸とともに、動画サービスも追随し、サブスクが浸透しました。コロナ禍においても「巣ごもり需要」で、各サービスの加入者数が増加し、以降も音楽サブスクリプションサービスやYouTubeなどの動画投稿サービス、NetflixやU-NEXTなどの動画配信サービスが堅調に推移していること、また、機能追加などによりサービス内容の変更があった場合は配信事業者と交渉し、契約更改を実施していることなどが好調の要因としてあげられます。
――今回のお話をまとめると、どういったことが言えるでしょうか?
生田:音楽サブスクリプションサービスの急速な普及により、インターネット上での音楽利用は大きく拡大し、日本国内のみならず、世界中で楽曲が利用される機会が増えています。その対価をきちんと受け取っていただくためには、世界と共有するデータベースに楽曲情報を正確に登録しておく必要があります。JASRACのような著作権管理団体に登録することで、世界と共有するデータベースに楽曲情報を登録することができます。
瀧本:楽曲がどこでどのように利用されたとしても、適切に使用料の分配が受けられるよう、作品をJASRACに信託してもらいたいです。サブスクリプションサービスでの再生回数が増え、海外でも利用される可能性がある場合には、JASRACに信託するメリットは大きいと言えます。独自に楽曲を創作・配信している方は、ご自身の状況に合わせて、JASRACに信託するかを検討してみてはいかがでしょうか。
――ありがとうございました。
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