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「JASRAC嫌い」はもう古い?和田貴史さんと見るアンケート結果から分かる、変化するクリエイターとの関係性

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音楽クリエイターとして活動していく上で、切っても切り離せない存在である著作権、そして一般社団法人日本音楽著作権協会JASRAC。DTMステーションではこれまでも、杉山勝彦さん、神前暁さん、tofubeatsさん、Akira Sunsetさん、Carlos K.さんといったトッププロの方々にインタビューを行い、どのように著作権と向き合い、収益を得ているのかを取り上げてきました。そんなJASRACが、クリエイターの生の声を運営に反映させるべく実施している「音楽著作権とJASRACに関するアンケート」が、今年もスタートしました。昨今大きな議論を呼んでいる生成AIと著作権や、会報誌のあり方など、現代的なテーマにも踏み込んだ内容となっています。

今回、このアンケート実施に合わせてインタビューを行ったのは、NHKの番組やアニメ、ゲーム音楽など多方面で活躍するトップコンポーザでありながら、多くの登録者がいるYouTubeチャンネルを持つことでも知られる和田貴史さん。MSXでの打ち込みからキャリアをスタートさせ、現在は収入の9割がJASRACからの分配だという和田さんに、プロとしてJASRACとどう付き合っているのか、そして生成AIについてどう考えているのか、お話を伺ったので紹介していきましょう。

株式会社Dimension Cruise代表 和田貴史さん

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MSXとBASICでプログラミング、最初はゲームプログラマになりたかった

ーー和田さんといえば、YouTubeでの機材レビューや制作ノウハウの解説動画でもおなじみですが、もともとの音楽のルーツはどこにあったのでしょうか?
和田:最初は中学1年生のころ、父親にパソコンを用意してもらったのがきっかけですね。親戚からのお下がりでMSX2をもらったのですが、最初は壊れていたのを直してもらって。そこでBASICのプログラミングを始めたんです。しばらくはゲームプログラマになりたいと思ってプログラムを趣味にしていたのですが、その中でBGMを作ろうとしたときに「あ、これがあれば作曲できるんだ」と気づいたのがスタートです。当時はMMLで打ち込んでいましたね。

ーーそこからどう進化していったのですか?
和田:最初はPSGの3音だけだったんですが、その後、父に新しいMSXを買ってもらって、そこにはFM音源が入っていた。さらにそこからMIDIにも興味が出てきて、MIDIインターフェイスと一緒にRolandのCM-32Lを買いました。LA音源の白いやつですね。

ーーでは、ピアノやギターから入ったわけではなく、完全にコンピュータから音楽に入った形なんですね。
和田:ただ、姉がピアノを弾いていたので、部屋にピアノはあったんですよ。なのでMMLで打ち込む時に音を確認したり、見よう見まねで弾いたりはしていましたが、僕自身は習っていませんでした。基本はやっぱりコンピュータですね。

ーーそうしてプロの道を志すようになったと。
和田:高校2年のときに音楽の道に進もうと決め、東京コンセルヴァトアール尚美(現:尚美ミュージックカレッジ専門学校)に進学しました。実はここを紹介してくれたのも、姉が習っていたピアノの先生だったんですよ。ちなみに高校時代、PC-9801でBalladeなども触ってはいたんですが、一番使っていたのはRolandのシンセサイザ XP-50だったんです。これの内蔵シーケンサでひたすら打ち込んでいました。当時はマウスでカチカチやるよりも、XP-50のボタンを叩いて打ち込むほうが圧倒的に速かったんですよ。

ーーXP-50のシーケンサ使いだったとは、かなりマニアックですね。
和田:その後、専門学校でMacとPerformerを導入しました。卒業後はゲーム制作会社にアルバイトから潜り込んで、そのままサウンド担当として就職し、ゲームボーイやプレイステーションの音楽を作ったり、Z80のマシン語を解析したりしていましたね。そしていろいろあり、専門学校時代の恩師である作曲家の栗山和樹先生が大河ドラマを担当することになり、そのアシスタントを経て独立。2006年に自分の会社である株式会社Dimension Cruiseを立ち上げました。

Logic純正音源やVienna、Omnisphere…トッププロが現場で愛用するプラグイン

ーーちなみに現在は、どういった音楽制作環境ですか?
和田:専門学校時代からかなり長くPerformer、Digital Performerを使っていたのですが、2008年ごろにLogicに乗り換えました。譜面作成の利便性を考えてのことだったんですが、当時はDigital Performerをアンインストールして、Logicしか使えない状態にして自分を追い込みましたね。ちなみにPro Toolsに関しては、2004年ごろ、NHKの仕事などを始めた際にスタジオとのやり取りをスムーズにするためにHDシステムを導入しました。今は作曲・編曲はLogic、レコーディングやミックスはPro Toolsというふうに使い分けています。

ーーYouTubeでは新しい機材やプラグインもたくさん紹介されていますが、実際の仕事の現場ではどういった音源を愛用されているんですか?
和田:新しいものもいろいろ試してはいるんですが、結局仕事で手が伸びるのは手に馴染んだものが多いですね。たとえばオーケストラ系だとVienna Symphonic Libraryはずっと使っていますし、シンセ系だとreFX NexusやSpectrasonicsの製品の3種類、Omnisphere、Trilian、Keyscapeはよく使っていますね。

ーーやはり定番どころが強いんですね。
和田:そうですね。ドラムやピアノもXLN AudioのAddictive DrumsやAddictive Keysをよく使いますし、Logic付属音源も使用しますね。仕事のスピード感を考えると、どうしても使い慣れた信頼性の高いツールが中心になりますね。

<代表作>
BeagleKick
「MIRACLE」
NHKスペシャル
「巨大災害 MEGADISASTER」
「MEGA CRISIS 巨大危機」
NHKドラマ
「ガッタンガッタンそれでもゴー」
「ザ・ラストショット」
「火の魚」
アニメ
「テラフォーマーズ・リベンジ」
「学園黙示録High School of the Dead」
「終わりのセラフ」
「七つの大罪」

JASRACとの契約は2006年。ビジネスとして必要だったからこそ、早く正会員になりたかった

ーーそうしてプロとしてのキャリアを積み重ねる中で、JASRACと契約したのはいつ頃ですか?
和田:2006年ごろ、23〜24歳のときですね。NHKのお仕事をするようになった際、スタッフの方から「楽曲制作の仕事をするならJASRACと契約したほうがいいんじゃない?」と勧められたのがきっかけです。ゲームの仕事は買い取りが多いので、そうした楽曲だけは、依頼主の著作権使用料の支払いが不要となるよう手続きするなどして使い分けていました。

ーーJASRACに対する印象はどうでしたか?
和田: 自分としては、ビジネスとして必要だから入ったという感じで、特にネガティブな感情はありませんでした。むしろ、早く正会員になりたいと思っていましたね。正会員になると総会に出られたり、内部の情報が見えるようになる。実際に正会員になってからは、他の正会員の方との交流もできて、横のつながりができたのはすごく良かったなと思っています。

ーー実は今回実施されているアンケートは3回目になるのですが、昨年の結果を見ると、JASRACと契約していないノンメンバーの方でも、JASRACに好印象を持っている人が3割もいるという結果が出ているんですよ。
和田:それは意外ですね。僕の周りのミュージシャン、特にライブハウスで活動している人たちなんかからは「なんでこんなに著作権使用料を支払わなきゃいけないんだ」という声をよく聞いていたので(笑)。昔に比べると、JASRACの広報活動や、ネットでの音楽クリエイター自身の情報発信が効いてきているのかもしれませんね。

ーーJASRACの変化といえば、今回のアンケートでJASRACメンバーに向けて会報誌についての質問が追加されています。今は紙での送付とデジタルでの閲覧の両方があるようですが、完全ペーパーレス化すべきかという議論もあるようです。
和田:読むだけならデジタルで十分という人も多いでしょうね。ただ、会報誌ってメンバーへの連絡以外の役割もあると思うんです。JASRACのメンバーは疑ってないですけど、メンバーじゃない人って「JASRACって内部でちゃんとやってるのかな?」と疑っている部分があるじゃないですか。そこで、ちゃんとした冊子を出しているという事実が、しっかり活動しているという大事な証明になる気はしますね。

生成AIによる学習は「対価」さえあれば解決する!? 和田さんが考えるブラックボックス問題と解決策

ーー著作権といえば、今回のアンケートでも大きなトピックになっているAIについてもお聞きしたいです。最近はSunoやUdioといった生成AIサービスが話題ですが、これらについてはどう見ていますか?
和田:正直、Sunoなどが裏側でどの楽曲を学習しているのか、僕らユーザには分からない部分はありますよね。不透明さという点では気になるところです。ただ、だからといってAIを否定するのは違うかなと。僕個人の意見としては、AI自体はあくまで道具だと思っていますし、生成AIが著作物を学習すること自体については、”僕自身は” 勝手に学習されてもまったく問題ないと思っているタイプなんです。

もちろん、公開前のデータが学習されるのはまずいですが、すでに世に出ているものは学習されても仕方がないかなと。人間だって、いろんな音楽を聴いて、それを吸収して新しいものを作っているわけですから。自分の作品だけ学習するなというのは、ちょっとエゴなんじゃないかと思ってしまいますね。ただ、そこに対価がないことが問題なんですよね。

ーー対価ですか?
和田:ブロックチェーン技術などを使って、AIが生成した楽曲に対して「この曲の学習にはこの人のデータが使われた」というのが分かり、0.001%でもいいから対価が分配されるシステムができれば、誰も文句を言わなくなるんじゃないでしょうか。AIの学習自体を禁止するのではなく、しっかりとお金が回る仕組みを作ることのほうが重要だと思います。

YouTube収益はバイト以下でも「自分自身がメディアになる」強み。活動を支えるのは収入の9割を占めるJASRAC分配

ーー一方で、和田さんはYouTube活動も精力的にされていますが、あのクオリティの高い動画はどのように制作されているんですか?
和田: 実はあれ、ほぼ全部自分で作っています。撮影から編集まで、ほぼワンオペです。編集ソフトはFinal Cut Proを使っています。

ーーあれだけの本数を一人で?それは相当な労力ですよね……。
和田:めちゃくちゃ大変です(笑)。特に大変なのが、喋っている映像と、手元の演奏、そしてDAWの画面キャプチャをシンクさせる作業です。これが少しでもズレていると気持ち悪いので。なんだかんだで、1本の動画を作るのに丸1日、凝ったものだと2日くらいかかっちゃいますね。

ーーそこまでして発信を続けるメリットはあるのでしょうか?
和田:かなりありますね。テレビの収録現場などに行くと、技術スタッフさん、特に音声さんなどから「YouTube見てます」と声をかけられることがすごく増えたんです。「和田さんに会えるとは思わなかったです」なんていわれたりもして。仕事相手が最初から自分のことを知ってくれているというのは、すごく大きいです。単に作曲家としてだけでなく、和田貴史という人間自体がメディアとしての力を持つことに、今はすごく価値を感じています。

ーーそれだけの労力をかけるとなると、YouTubeの収益も大きいのでは?
和田:正直に言うとYouTube単体の収益は、かけている手間と時間を考えるとアルバイト以下ですよ(笑)。それでも続けられるのは、実は僕の収入の9割がJASRACからの分配、つまり印税だからなんです。本業の基盤がしっかりあるからこそ、YouTubeという新しい発信の場に投資ができている。そういう意味でも、著作権管理のシステムには助けられていますね。

同人イベント「M3」への出展に見るJASRACの変化。現場のクリエイターと対話する姿勢

ーーYouTube以外での活動でいうと、和田さんは同人音楽即売会M3にも長く参加されていますよね。
和田:もうかなり長いですね。1998年か99年ごろ、まだ浅草で開催されていた時代から参加していますから、もう20年以上になります。

ーー最近はJASRACもM3に企業ブースを出展していますが、変化はどう見ていますか?
和田:すごくいいことだと思います。昔は考えられなかったですが、JASRACが現場のクリエイターと直接対話しようという姿勢が見えますよね。プロもアマチュアも関係なく、音楽をつくる人が集まる場所に管理団体がいるというのは、あるべき姿なのかなと感じます。

ーーそれこそ和田さんのように影響力のある方が、こうしてJASRACについて語ってくれるのは一番意義がありますね。
和田:昔はJASRAC会員であることを隠すような風潮もありましたけど、今は堂々と言える雰囲気になってきましたね。僕もYouTubeなどで発信することで、少しでも理解が深まればいいなと思っています。

ーーありがとうございました。

音楽著作権とJASRACに関するアンケート

現在、JASRACでは音楽クリエイターを対象としたアンケートを実施しています。

以前、DTMステーションで「音楽制作の現場からJASRACへ意見を届ける「音楽著作権とJASRACに関するアンケート」実施中。」という記事で紹介しましたが、2025年1月21日から2月28日までの間に行われた前回のアンケート結果が公開されています。

回答者数は、1,325名。アンケート結果を詳しく見ていくと、JASRACメンバーと非メンバーの間で、JASRACに対する印象や意識に差があることが浮き彫りになっています。このように、前回の結果を覗いてみるだけでも、いろいろな発見があって面白いかもしれません。

今回のアンケートも、JASRACメンバー、非メンバー問わず、クリエイターの生の声を広く集めるためのものです。回答内容は統計的に処理され、JASRACの今後の運営やサービス向上に役立てられます。

ぜひ、前回アンケートに答えた方も、もちろん初めて回答するという方も、自分の音楽活動のために「音楽著作権とJASRACに関するアンケート」に参加してみてはいかがでしょうか?

【アンケート実施要領】
実施期間:1月20日〜2月28日
アンケート対象者:作詞・作曲などを手掛ける全ての音楽クリエイター
記名の有無:無記名
回答所要時間:約5分
アンケートの方式:ウェブ方式(※)
※下記URLからアクセスください
音楽クリエイターを対象とした「音楽著作権とJASRACに関するアンケート」の実施について | JASRAC
「音楽クリエイターを対象とした「音楽著作権とJASRACに関するアンケート」の実施について」について掲載しています。

【関連情報】
JASRACアンケートページ
JASRACサイト
JASRACに興味をお持ちの方へ(作詞・作曲をする方)
作曲家・和田貴史の庭(Youtubeチャンネル)

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