打ち込んだストリングスを再生してみたら、どこかのっぺりして表情に乏しい…。オーケストラ系の音源を扱ったことのあるDTMerなら、一度はこんなもどかしさを味わったことがあるのではないでしょうか?最近の音源は、鍵盤を弾くだけでもかなりリアルに鳴ってくれます。ただ、生演奏のような息づかいや抑揚まで引き出そうとすると、音量や音色をフレーズに合わせてこまやかに動かしたくなってくる。とはいえ、その変化をマウスで一本ずつ書き込んでいくのは、なかなかに骨の折れる作業です。
そんな悩みに応えてくれるのが、イギリスのメーカー、Ghost Note Audio(ゴーストノートオーディオ)が開発したMIDIコントローラー、Conductor Mark II(コンダクタ マークII)です。100mmのロングストロークフェーダーを3本搭載し、モジュレーションやエクスプレッションといった、演奏表現に欠かせないパラメータを左手だけで自在にコントロールできるという、オーケストラ音源の打ち込みに特化した一台となっています。2026年に日本初上陸を果たしたGhost Note Audioのラインナップの一つとして、Hotone Japanの取り扱いで国内発売が始まり、価格は37,400円(税込)。実際に試してみたので、どんな機材なのか紹介していきましょう。
マウス操作から解放される。フェーダーがもたらす表現力
Conductor Mark IIは、3本のフェーダーでMIDIのCCを送る、というシンプルな機材。地味に思えるかもしれませんが、オーケストラ音源を打ち込む人にとっては、これがなかなか頼りになるのです。
ご存じのとおり、最近のオーケストラ音源は、ただ鍵盤を押すだけでも、リアルなサウンドが鳴ってくれます。とはいえ、生の演奏のような自然な抑揚やニュアンスまで出そうとすると、それだけではちょっと物足りないのも事実。音が伸びている最中に、音量や音色、ビブラートの深さをリアルタイムに動かしていくことで、表情が一気に生々しくなってくるのです。そして、この「動かす情報」をDAWに伝えているのが、MIDIコントロールチェンジ、いわゆるCC。
具体的には、次のようなCCを同時に扱うことが多くなります。
・エクスプレッション(CC#11):音量の微調整やフレーズの抑揚
・ビブラートやそのほかの奏法(CC#21など):音源によって割り当てはさまざま
このうち1つだけなら、キーボードのモジュレーションホイールでもなんとかなります。ところが、ダイナミクスを上げながら同時にエクスプレッションでクレッシェンドを書きたい、といった場面になると、ホイール1つではとても足りません。かといってマウスで1本ずつ線を描いていくのは時間が掛かるうえに、どうしても音楽的な流れを作りにくいです。
そこで物理的なフェーダーの出番というわけです。フェーダーが複数あれば、右手で鍵盤を弾きながら、左手で複数のCCを同時に動かし、まるで指揮者のように音楽を「演奏しながら打ち込む」ことができるようになります。
しかも、ホイールの円運動に対してフェーダーは直線運動。同じパラメータを動かすのでも、フェーダーのほうが「今どのくらいの値か」を直感的に把握しやすく、繊細な抑揚を付けやすいと感じる人は多いはず。Conductor Mark IIは、まさにこの用途を強く意識して設計された一台となっています。
もちろん、これはオーケストラの打ち込みに限った話ではありません。そもそも手元に物理的なフェーダーがあること自体が、DTMの作業をぐっと快適にしてくれます。DTMステーションでもこれまで、iCONのP1-Nano、オーディオインターフェイスと一体になったioStation 24cといったフェーダー搭載機を何度も紹介してきましたが、いずれの記事でも繰り返し触れてきたのが、この「手元のフェーダー」の快適さ。
たとえば、制作中によく動かすパラメータをあらかじめフェーダーに割り当てておけば、その都度マウスで画面のスライダーを探さなくても、手元の感覚だけでスッと動かせます。画面から少し目を離して、音そのものに集中できるのは、思いのほか快適。こうして手元にフェーダーがあると、マウス、MIDIキーボードに続く、デスクに置いておきたい第3のデバイスに感じられてくるんです。

FaderPort Classic(右)とConductor Mark II(左)。同じ100mmフェーダーでも、FaderPortはDAW操作、Conductor Mark IIは音源へのCC送出がメイン
ちなみに、同じ100mmフェーダーを使ったコンパクトなUSB機材として、PreSonus FaderPort Classicと並べてみました。フェーダー1本にトランスポートボタンが並ぶFaderPortは、DAWのミキサーやオートメーションの操作がメイン。対するConductor Mark IIは、音源にCCを送って表現を演奏するのが本来の役割です。
とはいえ、得意とするメインの用途が違うだけで、できることは案外重なります。Conductor Mark IIも、後述のようにMIDIラーンを使えばトラックの音量を動かせますし、どちらも手元のフェーダーで作業を快適にしてくれる機材、という点では同じ。トランスポートをキーボードのショートカットで操作するのであれば、Conductor Mark IIの方が合っているという方も多いと思いますよ。
イギリス発のブティックブランド。Ghost Note Audioというメーカー
Conductor Mark IIを手掛けるGhost Note Audioは、イギリス発のブティック系ブランド。ハイゲインなプリアンプやデジタルリバーブといった、ギター向けのエフェクターで知られるメーカーで、日本には2026年に初上陸したばかり。4月24日にはプリアンプのVader 140や8100 Goldといった製品と並んで、このConductor Mark IIが一斉に国内デビューを飾りました。
そんなGhost Note Audioは、2023年にValdemar Erlingssonさんが立ち上げた、比較的新しいブランド。掲げているのは「Eschew Tradition(伝統にとらわれない)」というテーマ。「昔からこうだから」という理由だけで物事を進めず、パフォーマンスをなにより重視する、というエンジニアリング志向を前面に出しています。
実際、同社のプリアンプ・ペダルは、Ampeg VH-140CやMarshall Valvestate 8100、Sunn Beta Leadといった往年の名機の回路を、ソリッドステートで忠実に再現したもの。ハードウェアだけでなく、プラグインやインパルスレスポンス集まで手がけており、規模は大きくないながらも、ものづくりの軸がはっきりしたメーカーです。
ギター系ブランドがなぜMIDIコントローラーを、と思うかもしれませんが、実はこのメーカー、デジタル製品にも強いのが特徴。Conductor Mark IIも、ユーザーの声を取り入れながら磨き込まれてきた製品となっています。
ちなみに、製品名の通り、これは初代Conductorの進化版。Mark IIではユーザーからのフィードバックを反映し、フェーダーの間隔を初代より9mm狭めたほか、14bit値やピッチベンドといった新しいフェーダーモードを追加しています。
100mmフェーダーを3本搭載。Conductor Mark IIの実機をチェック
では、実機を見ていきましょう。Conductor Mark IIのボディは119×152×26mmと、デスクに置いても場所を取らないコンパクトサイズ。重量も約400gと軽く、3Dプリント筐体にアルミの上下パネルを組み合わせた、モダンで質感の高い仕上がりになっています。
そして主役となるのが、3本の100mmロングストロークフェーダーです。一般的なMIDIキーボードに付いているスライダーよりも長く、この差は実際に触ってみると想像以上に大きくて、フェーダーをゆっくり動かしたときの分解能、つまり「どれだけ細かく値を作れるか」がまるで違います。クレッシェンドや、ほんのわずかな揺らぎを付けたいときに、この100mmという長さが効いてくるのです。
フェーダーそのものの動きもとてもスムーズで、横ブレも少なく、すっと素直に動いてくれます。底面には滑り止めのシリコンが貼られており、激しく動かしても本体がずれないというのも、現場目線の嬉しい配慮。デスクの上にポンと置くだけで、しっかり仕事をしてくれます。
接続はUSB-C一本のみ。USBバスパワーで動作するため、別途電源アダプターを用意する必要はありません。しかもUSBクラスコンプライアントなので、WindowsでもMacでもLinuxでも、ドライバのインストールは一切不要。繋げば即座にMIDIデバイスとして認識されます。ケーブル一本で完結する手軽さは嬉しいところですね。
仕様を表にまとめると、以下の通り。
| 製品名 |
Conductor Mark II
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| メーカー |
Ghost Note Audio(イギリス)
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| フェーダー |
100mmロングストローク × 3本
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| バンク |
3バンク(各バンク個別に設定可能)
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| 接続 |
USB-C(バスパワー、クラスコンプライアント)
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| 対応OS |
Windows / macOS / Linux(ドライバ不要)
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| 設定 |
ブラウザベースのエディター(Chrome / Edge / Firefox)
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| サイズ |
119 × 152 × 26mm
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| 重量 | 約400g |
| 価格 | 37,400円(税込) |
また、ポイントとなるのが、3つのバンク切り替え機能です。トップパネルのスイッチを押すたびに、電源インジケータのLEDが赤、緑、青と色を変え、3つのバンクを瞬時に切り替えられるようになっています。
3本のフェーダー×3バンクで、合計9つのCCを手元で扱えるという計算。音源やライブラリによって使いたいCCの組み合わせは違ってきますから、よく使うセットをバンクごとに登録しておけば、曲や音源を切り替えるたびに設定し直さずに済むのです。
オーケストラ音源だけじゃない。シンセやミックスにも使える汎用性
ここからは、その具体的な使い方を見ていきましょう。なにしろConductor Mark IIが送り出すのは、任意のMIDI CCやMIDIチャンネル、さらにはNRPNやピッチベンド。CCで動かせるものなら、何でも割り当てられるのです。
たとえばソフトシンセを立ち上げて、フィルターのカットオフやレゾナンス、LFOの深さなどを本機のフェーダーに割り当てれば、3本のフェーダーで音を変化させられます。マウスでノブを回すのとは違い、片手で複数のパラメータを同時に動かせるので、シンセの音作りやパフォーマンスがぐっと楽しくなりますよ。DAWやプラグインのMIDIラーン機能を使えば、数ステップで好きなパラメータにひも付けられます。エフェクトのDry/Wetやセンド量を手元で操る、といった使い方もできますね。
さらに、普段のミックスで「普通にレベルをとる」といった用途にも応用できます。たとえばDAWのトラック側でMIDIラーンを使って音量にひも付ければ、フェーダーでレベル調整が可能になります。ただし、Conductor Mark IIはモーターを持たないため、トラックを切り替えてもフェーダーが自動で追従するわけではありません。前述しましたが、モーター式のコントローラーのように画面とフェーダーが完全に一致する、とはいかない点だけは頭に入れておきましょう。それでも、よく触るトラックのレベルを手元のフェーダーで動かせるのは、十分に便利です。
そんな使い分けで頼りになるのが、前述した3つのバンク機能です。バンク1はオーケストラ音源用にダイナミクスやエクスプレッションを、バンク2はシンセ用にカットオフやレゾナンスを、バンク3はミックス用にボリュームやセンドを、といった具合に役割ごとに登録しておけば、フロントパネルのスイッチひとつで用途を切り替えられます。曲作りの途中でも、ワンタッチで持ち替えられるのは思いのほか便利ですよ。
ソフトのインストールは不要。ブラウザだけで完結する専用エディター
Conductor Mark IIは、出荷状態でも各フェーダーにCCが割り当てられているので、繋いだその場から演奏を試せます。どのフェーダーにどのCCを担当させるかは、自由に組み替えが可能。しかも、設定に専用ソフトはいりません。すべてWebブラウザ上で完結するのです。
Ghost Note Audioが用意するエディターのページを開くと、3本のフェーダーがそのまま3つの列として並びます。
ここで一点だけ注意したいのが、ブラウザの対応。このエディターはWebMIDIという仕組みを使っているため、対応ブラウザはChrome、Edge、Firefoxのいずれか。Safariでは動かないので、Macユーザーはとくに気を付けてください。なお、もしエディターが本機を認識しないときは、ほかのアプリがMIDIポートを使っていることがあるので、一旦DAWを閉じてから開き直すと確実ですよ。
また設定項目に出てきたスレッショルドも、地味ながら効いてくる機能。フェーダーにわずかに触れただけで値が書き換わってしまうのを防ぐもので、すでに書いたオートメーションを再生中にうっかり上書きしてしまう、といった事故を避けられます。こういうところも、実際に作業をする人のことをよく分かっている設計だなと感じますね。
以上、Ghost Note Audio Conductor Mark IIについて紹介しました。3本の100mmロングストロークフェーダーで、オーケストラ音源の打ち込みに音楽的な抑揚を与えてくれるMIDIコントローラーですが、MIDIラーンを使えばシンセのカットオフやレベル調整にも応用でき、3つのバンクで用途ごとに使い分けられます。USB-Cバスパワーでドライバ不要、設定もブラウザだけで完結する手軽さも魅力。ストリングスやブラスの打ち込みを音楽的に行いたい方はもちろん、手元にフェーダーが欲しいと思っていた方も、ぜひこの機会にチェックしてみてはいかがでしょうか?
【関連情報】
Conductor Mark II
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