いまレコード業界で最も売れているAKB48SKE48NMB48SDN48そして各メンバーのソロなどを合わせれば、これまで膨大な数の楽曲がリリースされているわけですが、そのAKB48グループで最多楽曲数のアレンジを行ってきたのが、野中“まさ”雄一さん。その数がついに150曲を超えたそうで、今も日々、膨大な仕事をこなしているようです。

そのAKBサウンドを編み出しているのが、野中さんの自宅スタジオにあるDTMシステムです。Mac+Digital Performer+INTEGRA-7というシステムから、あのサウンドが次々と生まれてきているとのこと。野中さんとは、先日行われたクレオフーガアワードというイベントで初めてお会いしたのですが、自宅スタジオを取材しに行きたいとお願いしたところ、快くOKのお返事をいただけたので、先日行ってきました。いわゆるスタジオというよりも、まさにDTM環境というところでの制作。本邦初公開となる野中さんの自宅スタジオ、実際、どのようにして曲を作り出しているのか、伺ってみました。


150曲を超えるAKB48の音楽の編曲を行ってきた野中“まさ”雄一さん
--AKB48を中心に、膨大なアレンジのお仕事をされているようですが、元々はドラマーなんですよね?
野中:はい、20代のころはスタジオミュージシャンとしてドラマーでした。でも、世の中、打ち込みが流行りだしてからは、仕事がなくなってきて……。小学校のころからピアノをやっていたので、鍵盤に転向し、その後、作曲の仕事をするようになりました。当初は「ゲームミュージックを1年で100曲以上作れ」なんて言われて、必死でやってましたね。ただ、やっぱりミュージシャンとしてプレイすることが好きなので、アレンジや作曲の仕事と、プレイを半々でやりたいところですが、現状は99:1くらいでしょうか(笑)。本当に自宅に籠って仕事をしているので、万歩計を見たら1日80歩なんてことがあるくらいで……。

--野中さんのWikipediaを見ると、膨大な数の楽曲が並んでいますよね。これまでどのくらいの数の曲を手掛けてきたんですか?
野中:いっぱいあって分かりません(笑)。でも、iTunesに上がっている曲はできる限りライブラリに入れるようにしていて、それが今、えーと、1,199曲ありますね。ここ数年で急速に増えてきているから、1年で100曲、いや150曲以上は少なくともやってるでしょうね。


DAWは長年Digita Performerを使ってきたとのこと。画面は現在制作中のSKE48の楽曲 

--それはちょっと働きすぎのような……。そうした楽曲制作、ここで行っているんですよね?
野中:はい、ほぼここで作業しています。AKBだと、打ち込み作業をしているのは1日で、2日目に歌とギターを入れて仕上げるという流れです。DAWは見てのとおりDigital Performerの最新版を使っています。DPというかPerformerは、それこそMac LC630のころ、Performer 3のころから使っているので、手放せないんですよ。

--アレンジという仕事、なかなか一般に認知されていないようにも思うのですが、実際AKB48の曲でのアレンジの流れがどうなっているのか、簡単に教えてもらえますか?
野中:基本的にテンプレートを作っているので、それを利用して行っていくのですが、まずは作曲家さんからMP3のデモが送られてくるので、これを使うところからスタートします。具体的には、「DEMO」というトラックにMP3を貼り付け、テンポを合わせます。いま、作曲家さんもGarageBandなどで簡単に作ってくるので、固定テンポのケースが大半ですが、そうではない場合は、タップを打ってテンポマップを作っていきます。構成などは後回しで、まずはそこから。そして、MP3を元にメロ譜を作ります。


デモデータをトラックに貼り付け、メロディーを入力し、画面右側にメロ譜を表示 

--メロ譜というのは?主旋律をMIDIで打ち込んでいくということですよね?
野中:はい、そうです。そうすると、DP上で譜面として表示されるので、これを見ながら、どうするかを考えていくんです。基本的には、最初にドラムとベースの音色を作るところから始めます。もちろん、最終的にいろいろ足したりするけれど、ここでだいたい固めて、その後、シンセ系をかぶせていく形ですね。

--その音源というのは、どんなものを使っているのですか?
野中:生系のドラムはSUPERIOR DRUMMER、打ち込み系ならBATTERYを、またシンセベースならTrilianを使うケースが多いです。ここにシンセとしてINTEGRA-7を加えていくんです。たとえば、いま作っている、この曲を見てもINTEGRA-7だけで7トラック使ってますからね。これは、本当に便利でいいですね。


シンセサウンドの多くはRolandのINTEGRA-7を使用している 

--実際、シンセの音色はどのようにして決めていくんですか?
野中:曲を作っていくのにあたり、秋元康さん側からいくつか要望が来るんですよ。たとえば「この曲の場合、可愛くしたい」なんていうオーダーが来たら、ボーカルとユニゾンでベル系の音を使うとか……。INTEGRA-7だと、このベル系サウンドがとても充実しているんで、AKB48の音作りには重宝しますね。また、オーケストラヒットもすごくバリエーションがあるので、これもよく使っています。

--ほかにはどんな要望が?
野中:曲によって、さまざまですが「デモデータだと、ちょっとゴツイ感じがする」とか「これだと疾走感がないので……」なんて、作曲家さんが作ったものを聴いたうえで、注文がくるので、それに合う形で仕上げていくんです。最初はいろいろ試行錯誤しましたが、秋元さんの好みもだいぶ理解してきたので、業務効率は上がりましたよ(笑)。アナログシンセ系はダメだとか、かわいい系なら808KITを使った感じが好きとかね。


ボーカルとユニゾンでD-50の音色を入れるといい感じになるらしい… 

--AKB48ならではの曲作りのポイントってほかにどんなことがありますか?
野中:そうですね、ボーカルだけだと線が細くなってしまうので、INTEGRA-7のD-50サウンドなんかを使ってメロをなぞると厚くなっていい感じになるとか……。

--シンセ系は、ほぼINTEGRA-7なんですか?
野中:INTEGRA-7使用率は高いですが、曲によってソフト音源も併用してますよ。VIENNA ENSEMBLE PROとか、ReFX Nexus2とか…。以前はBLUEなんかも使っていましたが、それがINTEGRA-7に移行した感じでしょうか。


今からギタリストに送るという現在制作中のNMBの新曲のコード譜(発表前の曲なのでタイトルは秘密)

--このようにして1日でオケが出来上がるわけですね?先ほど2日目でボーカルとギター録りという話でしたが、これはどのように?ギターも全部、野中さんが演奏しているんですか?
野中:ギターはまったく弾けないので、毎回ギタリストにお願いしています。といっても、ここに来てもらうのも大変なので、1日目で作ったものを簡単にミックスダウンしてWAVで送るとともに、ギターパートも自分で打ち込んだものを送って参考にしてもらっています。また手書きのコード譜もメールで送ってますよ。


打ち込み用キーボードはRolandのA-49。ドラムもこれで指でリアルタイム入力しているそうです 

--なるほど!で、ギタリストにレコーディングしてもらった結果をDPに流し込む…と。
野中:はい、WAVでやってくるので、それに差し替えればギターは完成です。すべてネットでのやり取りですから効率いいですね。

--で、ボーカルはどうやっているんでしょう?
野中:AKBは大編成ですし、エンジニアさん主導でスタジオで録ります。AKB以外の曲は、ここで録っていることが多いです(笑)。実際、ここで録ってCD化されている作品も多数あるんですよ。


このマイクを使って、本番の歌を収録することも!?

--ええ??ここにやってきてですか??
野中:そうですね。ノイズ処理さえ、しっかりやれば、十分使えますよ。仮歌も本番用も結構、ここで録っています。特に防音しているわけではないから、夜中にあまり大きい音を出すと近所迷惑になるので、気を付けていますが……(汗)。マイクはRODEのNT2000、プリアンプはGRACE DESIGNのm103を使っています。


ラックにはMOTU 828mk3やm103などが並ぶ

--なるほど、色々な意味で感激してしてしまいますね(笑)。こうして作った結果、ミックスやマスタリングも、ここでやっちゃうんですか?
野中:仕事によっては、そういう場合もありますが、AKBの場合は、ミックス以降はエンジニアさんにお願いしています。そのため、DPから1トラックずつWAVで書き出しているんですよ。

--結構トラック数もありそうだから、それだけでも大変そうですね。
野中:いま作っているこの曲も32トラックほどあるから、結構面倒です。Digital Performerに自動書き出し機能なんかがあると便利なんですが……。インサーションエフェクトはそのままですが、センド・リターンで設定している空間系エフェクトなどはすべて外して、パンも全部戻してから作業するので、手間もかかるんですよ。

--なるほど、こうやってAKB48の曲がこの部屋で作られていくんですね。まさにDTM環境で作られているというのは、DTMユーザーにとっては大きな励みになります。INTEGRA-7を買うとなると、ちょっと値が張りますが、それでも手が出せないほどではないですし…。今後CDを聴く際も、何の音源を使っているのか想像しながら聴くと楽しそうですね。ありがとうございました。これからも、頑張ってください。

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