進化するMIDI、国内楽器メーカーが共同で進めるWeb MIDIの標準化

最近、MIDIケーブルを利用する機会は少なくなったし、新しくDTMを始めたユーザーの中にはMIDIをまったく知らない人もいるかもしれません。でも、PCで音楽制作を行う上でMIDIは今でもベースとなっている規格であり、まさに縁の下の力持ち。「とはいえ、30年も前の規格でしょ」という方もいるかもしれませんが、実は今も着実に進化を続けているんですよ。

本来は競合であるヤマハ、ローランド、コルグといった楽器メーカーの技術者が定期的に集まって、MIDIの新しいあり方についての協議を行うとともに、海外との交渉なども行っているという事実をみなさんは知ってましたか!? 先日そのメーカーが集まっているAMEI(音楽電子事業協会)の「Web MIDIワーキンググループ」の会議にお邪魔して取材させてもらったので、最新の状況についてレポートしてみたいと思います。

ヤマハ、コルグ、ローランドの技術者が集まり、和気あいあいとWeb MIDI標準化に関する会議中。

ご存じの方も多いと思いますが、AMEIは多くの楽器メーカーが集まる団体であり、MIDI規格を策定するMIDI規格委員会が設置されている団体でもあります。そして、多くのDTMユーザーにとっては、MIDI検定試験を実施している団体として馴染みがあるかもしれませんよね。


AMEIはMIDI検定試験を実施する団体。ちょど現在MIDI検定2級1次および3級の出願受付中 

そのAMEIのMIDI規格委員会の中には、いくつかのワーキンググループがあるのですが、中でも今、活発に動いているのが「Web MIDIワーキンググループ」です。8月末に行われた会合に参加してみたところ、ヤマハ、ローランド、コルグの3社から技術者が参加して熱い議論を交わしていました。まさにインターネット業界とのやりとりの大詰を迎えているところだったのですよね。

先日の記事でも書いた通り、ChromeがWeb MIDI対応したので、ブラウザをソフトウェア音源として使えるようになった

Web MIDIについてご存じない方のために、簡単に紹介しておくと、これはブラウザでMIDIを扱えるようにする仕組み。以前、DTMステーションで「Google Chromeは楽器です」という記事を書きましたが、これがまさにWeb MIDIで動いているものなんです。

AMEIの中でワーキンググループを立ち上げたのは2013年6月なので、もう2年も前のことです。W3C(Web技術の標準化を推進を目的とした国際的な産学協同コンソーシアム)でブラウザでMIDIを扱うという話が上がっていることを知り、われわれメーカーとしても正しい形で推進していくべきだろう、とスタートさせました」と語るのはヤマハの柿下正尋さん。ブラウザにWeb MIDI APIを実装して誰もが手軽にブラウザでMIDIが扱えるようにしたい、という考えがあったんですね。


AMEIのWeb MIDIワーキンググループのみなさん。左上から柿下さん、大石さん、多田さん、水野さん(AMEI事務局)
左下から針谷さん、河合さん、 渡邊さん

MIDIも規格ができて30年が経過する中、DAWもオーディオが主流となってきました。それでもMIDIがベースにあるという思いがあったのですが、Windows RTにMIDIが実装されなかった事実は衝撃でした。結果的にはWindows RT自体が失敗して消えてしまいましたが、あまり気楽に考えているとマズイことになる、という思いから、このワーキンググループを立ち上げたのです」と語るのはコルグの大石耕史さんです。

ローランドの渡邊正和さんも「ブラウザがOS的な意味合いを持つようになってきた現在、ブラウザで直接MIDIが利用できるようになれば便利だし、楽器メーカーとしてWebの広がりの乗って行きたいというのが正直なところです。やはり5ピンのケーブルだけでは広がらないので、ブラウザで利用できるようにすることは、必須なことになってきています」と話します。


ブラウザにWeb MIDI APIが搭載されることで、ブラウザがハードのMIDI機器とのやり取りが可能になる 

実は2012年12月末に、Googleのエンジニアが、ChromeにWeb MIDI APIを実装させ、ちょっとした話題になってました。これがW3C内のオーディオワーキンググループの仕様として記載されたのですが、楽器メーカーが関与せずにテスト的に実装されたものだったので、いろいろと問題もあったようです。

たとえば、システムメッセージが考慮されていないなど、仕様として問題がありました。そこで、まずはW3CにAMEIとして加盟するとともに、AMEIのWeb MIDIワーキンググループにおいて、いろいろとテストを行い検証したのです。そして、その結果として、W3Cの仕様としてアップデートしていったのです」とヤマハの多田幸生さんは当時を振り返ります。


AMEIの広報誌においてもWeb MIDIワーキンググループの動向が報告されている

その成果が、現在のGoogle ChromeのWeb MIDIの仕様ということですが、現時点において、正式にWeb MIDIを利用できるのはChromeのみ。IEやSafari、Firefox、Edge……といった他のブラウザではまだWeb MIDIを使うことができません。


Web MIDI APIに関する入門的な資料を河合さんがまとめ、公開している

最終的には、勧告という形でブラウザの標準規格としてMIDIを盛り込みたいというのが、楽器メーカーに共通した思いなのですが、勧告になるまでには5段階におよぶ長い道のりがあるのです。確かにChromeで使えるようになったのはとても嬉しいことです。でも、2つ目のブラウザに搭載されて、はじめてW3C内で“協議するに値する”と認められる第2段階に入れる状況なのです」とヤマハの河合良哉さん。

これまで、AMEIとして、ブラウザメーカーに働きかけを行ってきた結果、ついにFirefoxでも実装がはじまり、近いうちにWeb MIDIが利用できるバージョンが公開になるのだとか。これで次の段階に進めるというわけですね。

メーカーでは、まさに水面下でこうした活動を続けているわけですが、われわれユーザーにとっては、ブラウザでMIDIが扱えるようになることで、どんなメリットがあるのでしょうか?

ユーザーにとって、MIDI機器がコンピュータと接続できるという意味では、従来と大きく変わりません。でもソフトをインストールすることなく、ブラウザでURLを入力すれば、すぐにアプリケーションが利用できるのは大きなメリットだと思います。ここではWindowsもMacも関係ないし、AndroidやiOSなど非PCにおいても同じように使えるのも大きな違いですね。ローランドとして、まだWeb MIDIを使った具体的な動きはありませんが、技術動向は常にチェックしているので、いつでも対応できる体制は整えているところです」(ローランド・渡邊さん)。


ヤマハはrefaceの音色管理を行うアプリケーションSoundmondoをWeb MIDIを使って提供することを発表している

従来のインストールするタイプのソフトだと、ソフトウェアがアップデートするたびにインストール作業が必要でしたが、Webアプリならば、常に最新版で動作するのもメリットです。ヤマハとしても、先日発売したシンセサイザ・キーボード、reface用に音色管理などができるSoundmondoというWeb MIDIを使ったアプリを間もなくリリースする予定です」(ヤマハ・多田さん)。


Maker Faire Tokyou 2015の会場でデモしていたWeb MIDIを利用したlittleBits用アプリ 

コルグではまだ、正式に公開したWeb MIDI対応アプリはありませんが、先日のMaker Faire Tokyo 2015でlittleBitsを展示した際、littleBits SYNTH PRO TUNERというチューナーアプリのデモを行っていました。これがWeb MIDIを使ったアプリだったんです。今後、正式公開できるアプリなども出していければと企画しているところです」(コルグ・針谷航さん)

など、各メーカーともWeb MIDIに対して積極的に取り組んでいくようです。

このように、今でも進化をし続けているMIDI。Web MIDIだけでなく、Bluetoothを使ったワイヤレスで飛ばせるMIDIなども、いろいろと新しい動きが出ているのも面白いところです。「MIDIなんて古い規格…」なんて言わないで、改めてMIDIについて勉強してみると、きっと自分にとって新しい発見がいろいろあると思いますよ!
【関連情報】
MIDI検定公式サイト
一般社団法人音楽電子事業協会サイト
Web MIDIのCodelab
Web AudioのCodelab
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