よりリアルな和太鼓を演出するために、あえて録音ではなく、BFD3を活用。『まほろば』が奏でる日本の原風景

日本の原風景を音で奏でる」をテーマに日本音楽を作り続ける和太鼓奏者「達-TATSU」さんと、作詞作曲家「春-HARU-」さんによる夫婦ユニット、まほろば。透き通るような声のボーカルと日本神話が思い浮かぶような旋律でありつつポップスの要素も取り入れたサウンド、ここに和太鼓が融合する独特な世界観を持った音楽を作り出しています。

このまほろばのサウンドにおいては、やはりTATSUさんによる和太鼓が非常に印象的。福井県の伝統を継承する和太鼓一家に生まれ育ち、和太鼓一筋で生きてきたTATSUさんだからこそのものなのですが、制作・レコーディングした和太鼓は、TATSUさんがすべてを叩いているのではなく、TATSUさん自身がソフト音源のBFD3を活用して打ち込んでいるとの話を聞いて驚きました。まほろばは、ちょうど1月11日に配信デビューシングルとなる「大海に光りの舟よ」をリリースしたところなのですが、実際どうやって制作しているのか、まほろばのお二人にお話しを伺いました。

和太鼓奏者のTATSUさんと、作詞作曲家のHARUさんによるユニット、まほろば


まずは、まほろばがどんなサウンド、世界観を作り出しているのか、以下のYou Tubeビデオを見ると、なんとなく雰囲気はわかってくると思います。

--TATSUさんは、子供のころから和太鼓を演ってきたんですよね?

TATSU:はい父、母、姉が太鼓をしていて、小学校1年から半ば強制的に福井県の伝統的な太鼓を学んできました。小、中、高校と太鼓の部活に入り、卒業するときに太鼓を続けてプロの道を行くのか、あくまでも趣味で楽しく太鼓を叩くのかという岐路に立ちました。結局、高校時代からの和楽器のインストバンドを発展させる形でプロとしての活動を開始し、国内のみならず海外でも活動を行ってきました。その後、ソロ奏者に転身するとともに、結婚して東京に出てきました。そのとき、プロ和太鼓集団から声をかけていただき、30~40代中心のメンバーの中、僕だけ22歳と最年少で参加し、さまざまなことを経験させてもらいました。技術も、礼儀も叩き込まれ、非常にいい勉強にもなったのですが、そこで気づいたのは、「やっぱり自分の音楽をやりたい」ということだったんです。

小学校1年生のときから和太鼓に打ち込んできたというTATSUさん
--一方でHARUさんは、作詞・作曲・編曲にボーカルまで担当されていますが、TATSUさんと同じく福井県出身なんですよね?

HARU:はい、もともとシンガーソングライターとして活動していて、そこから作詞・作曲家として仕事をするようになりました。TATSUとであったころは、すでに作詞・作曲家として福井にいながら東京の仕事を中心にしていました。中島美嘉さんやCHEMISTRY坂本真綾さん、Little Glee Monsterなどのアーティストへの楽曲提供やCMソングの制作なども行ってきましたが、結婚して東京に来た当初は、TATSUが表現したいものを模索しているのを横目で見つつも、仕事としては線を引いて別々に活動していたんです。ただ、あまりにも苦戦していて、やりたい方向にいっていないので、「音源にこういうコード入れてみたら」とかアドバイスをするようになる一方、私が作曲しているとき「もうちょっとパーカッションを入れてみたら」なんて提案を受けるうちに、私が作った曲を和楽器バージョンで演奏してみたら……ということになり、まほろばの原型になるものができていったんですよ。太鼓、三味線、尺八で私の曲を演奏する……といったことからスタートしましたが、和楽器だけの演奏をしていても、なかなかやりたい方向に行けない。だったら……と私がDTMでアレンジまで手掛けるようになっていきました。


Logicを使って制作を行うというHARUさん 

 
--実際、どんなDAWで作業していたんですか?
HARU:それまでは、だいぶ前に買ったPro Tools LEを使いながらピアノと歌のみで仕事をしていただけなので、アレンジとかミックスについて、あまりにも知識が欠けていました。そこで、お世話になっていたプロデューサーに教えてもらいながら、5年前にLogicを購入したのがスタートです。スタジオもなかったので、自宅で試行錯誤しながらの作業で、私が担当するのは太鼓以外の部分。太鼓やパーカッションについては、すべてTATSUが独自の手法でやっています。

--TATSUさんは、DTMって経験あったんですか?

TATSU:インストバンドをやっていたころは、ライブ中心で活動していましたが、FM番組に出る際に、音源が必要だと言われ、いつも練習している沼のところにSM57のマイクを立てて、ノートPCとGarageBandで録ったのが最初ですね。それ以来、DTMってそれほど馴染みはなかったのですが、自分の音楽をやりたい、いろんな音楽、洋楽器とのコラボをやりたいと思っても、太鼓と一緒にやってくれる人って、なかなか見つからないんですよ。やはり色物として見られちゃうんですよね。だったら自分でやるしかないと2008年ごろから自分でも手探りで始めてみたのです。それこそDTMステーションはいろいろ参考にさせてもらいました。


試行錯誤する中、 BFD3+Japanese Taiko Percussionで和太鼓らしさを追求できることを見つけた

 
--でも、和太鼓を録るとなると、なかなか難しそうではありますね。
TATSU:自分としては、和太鼓の良さをたくさんの人たちに広めることが目標です。そうした中、FM番組に出て、音源を放送したときには、音源の威力ってホントにすごいなぁ、と思いました。でも、多くの人に聴いてもらうからこそ、音源の太鼓の音は、太鼓らしさがしっかり出なくちゃいけない。でも、いくらいい演奏をしたとしても、マイクを通して録音した途端に、まったく違うものになってしまうんです。単に和太鼓のリアリティーを追求しても、録音した音は生には絶対にかなわないんです。だったら、ライブの良さを追求するんじゃなくて、音源としての良さを追求すべきということがハッキリしてきました。そこは今も研究中ではあるのですが、その音源としての良さを実現する手段として、ソフト音源を活用するというところにたどり着いたのです。

--ずいぶん逆説的なところに行きついたようにも思いますが……。
TATSU:そうですね。でも、そもそもスタジオに和太鼓なんてないので、実際に録るにしても、スタジオに大きな太鼓を持ち込まなくちゃいけない。しかも、それを録ったとしても、なかなかリアルにならないので苦労しました。その中で、ソフト音源を使ってみたら……というアイディアは出てきたものの、実は和太鼓が鳴らせる音源って、ほとんどないんですよ。



2.6GBのサンプリング容量を用いて作られたBFD用ライブラリ、Japanese Taiko Percussion

--そうなんですか?結構いろいろなサンプリング音源に入っているような気がしていましたが……。
TATSU:確かに「TAIKO」などと書かれたものが、オーケストラキットの端っこに2つくらい置かれているものは少なくありません。でも実際に音を出してみると「これは和太鼓じゃないだろう」というものばかりなんですよ。たとえば映画音楽に使われる「ダーーン」というような派手な爆発音みたいなものが「TAIKO」となっているけれど、おそらくティンパニーではないか…というような音なんです。本来、和太鼓が持つ温かみ、厚み、膨らみはなく、ド派手なだけでダイナミクスはなく、まさに味付けだけのための音なんです。また、ティンパニーではないにせよ、日本の太鼓じゃないな、っと思うものばかり。写真が出ているので見てみると、怪しい黒塗りのものが多く、おそらく中国とか台湾の太鼓なのでは……と。そうした中、調べていくと、BFDのライブラリにJapanese Taiko Percussionというものがありました。BFD2用に出たライブラリですが、おそらくこれが唯一の和太鼓のサンプリング音源ではないか、と。
 
--そんな状況なんですね。まったく知りませんでした。ではBFD3にJapanese Taiko Percussionを読み込んで使えば、あとは簡単にできる、と。

TATSU:最初は、これさえ入手すれば、あとは簡単だろうと思っていました。ところが実際に打ち込んでみると、自分が理想とする太鼓の音には程遠いのが実情でした。確かにこれは、ティンパニーでも中国の太鼓でもなく、和太鼓ではあるけれど、そのままで求めている音にならなかったんです。音源を作る上で、「太鼓っぽい音にする」のではなく「太鼓らしさを届ける」義務があると考えています。


BFD3にJapanese Taiko Percussionを読み込ませた上で、かなりエディットして使っているという

--実際、どうやっていたんですか?

TATSU:普通に使うと、ドラムやパーカッション的になりがちです。ほかの楽器のほうに音圧があったり、迫力が出てしまい、太鼓が後ろにいってしまうんです。そうすると音源にしたとき、すごくボヤけた音になってしまったり、太鼓特有の余韻や響きが感じられないんです。だから、やや誇張するようにBFDのエディット機能を使って作っていくんです。この際、1つの音だけでなく、複数の太鼓を混ぜたりもするんです。もう少し具体的にいうと、太鼓キットの中に1つずつ太鼓があるけれど、それぞれ革音、中域、低域といった構成になっているので、これをBFD内でミックスしていきます。これで迫力ある感じにはなるけれど、音源になじまないので、革音だけで太鼓を作って、余韻をなくし、チューニングを高めにしてパッチパチにしていきます。一方、低い音のほうは、そのままの状態だとドーンと来ないので、チューニングをより低くして響くようにするなどした上でミックスするんです。そうした太鼓を一通りつくって、パラで出せるようにするとともに、外にWAVESR-COMPVEQ4などのプラグインを使って、よりアタック感を出すなど、個性に合わせたものを強調していくのです。小学校のころから20年近く和太鼓を演奏してきたわけですが、身近過ぎて気づかなかった「和太鼓の良さってここだよな」ということにDTMという機械的なものを通して、BFDのエディットを通じて気づかされましたね。


エフェクトにはWAVESのR-COMPやVEQ4などを使用する

--きっとそれは、音色だけでなく、BFDの使い方という点にもあるんでしょうね?

TATSU:そうなんです。たとえば、ずっと太鼓の音を鳴らしてしまうと、単にうるさく感じてしまいます。響きが響きに感じなくなっちゃうんですね。曲中で、いきなり太鼓を出したり、抜いたりするということも大切。また、太鼓の革にバチが当たる音をうまく混ぜることで、太鼓らしさを演出する。これによって、聴き手に「これが太鼓である」ということを認識させることで、太鼓らしさを見せていくんですね。


自宅の棚には、所狭しと、数多くの太鼓が積まれている

 
--実際にホンモノの和太鼓を叩く音は使わないんですか?

TATSU:そこはうまくミックスさせることで使っています。たとえば太鼓単体で録るのなら、ZOOMのハンディーレコーダーであるH4などを使うことで、それなりに雰囲気は出るけれど、これだけだと目指している音源は表現できないんです。一方、BFDだけでも物足りなく感じることはあるので、そこをミックスするわけです。


音源は、生の和太鼓の演奏にはかなわない面はあるけれど…… 

--そうまでしたとしても、やはり生の音にはかなわない面がある、と。
TATSU:他の太鼓奏者のCDもいろいろありますが、断然、生で聴いたほうがいいですよね。太鼓を打っている自分からも楽しんで聴くことができなかったりします。なんとなくつまらなく感じてしまうのです。たとえばH4で録った音の場合、ボワーンと大きい音にはなるけれど、生で聴いたときのような心臓に来るドーンというような衝撃がない。これは音源としては出せない波動だったりもするので、仕方がない面はあります。だったら、波動を求めるのではなく、耳にグッとくるものを作っていこうという手法なんです。まずは、こうした音源を聴いてもらって、太鼓の良さを知ってもらい、その上でライブに来てもらえるといいな、と。まずは知ってもらわなくては始まりませんからね。

--さて、ここで再度、まほろばとしての役割分担の話に戻りたいのですが、先ほどの話では、太鼓以外はHARUさんの担当ということでしたよね。

HARU:はい、まほろばの作詞、作曲、アレンジ、ミックスなど音楽を具体化していく、Logicで操作していくのは私の役割です。またポップス的な要素も私が担当する一方で、太鼓だけでなく曲全体を通してのディレクションもTATSUが担っています。家庭内LANというかWi-Fiで私のMacとTATSUのマシンが繋がっていますので、プロジェクトファイルのやり取りをしているんですよ。


打ち込みはV-Drumsを使い、MIDIによるリアルタイム入力している 

--TATSUさんのBFDの打ち込み自体はどのようにしているんですか?

TATSU:鍵盤でピコピコ入力していても、なかなか雰囲気を出せないんで、RolandのV-Drumsを使ってリアルタイムレコーディングを行っています。つまりV-DrumsからMIDIを出して、それでBFDを鳴らしているわけです。誰も見ているわけじゃないけれど、実際に振りをしながら演奏していますよ。ただ、逆にわざとデジタルっぽいニュアンスを出すためにクォンタイズをかけるなど打ち込み和太鼓なんかをやってみることもありますよ。


1月11日にリリースされた、まほろばの配信デビューシングル、「大海に光りの舟よ」 

--今回、そうして作ったシングル「大海に光りの舟よ」がiTunesからリリースされたわけですね。
HARU:はい、ぜひ多くの方に、まほろばのサウンドを聴いていただけると嬉しいです。いまは音源を国内だけでなく、海外の方にも聴いてもらうチャンスもあるので、世界中の人たちに届けたいですね。

TATSU:まほろばの制作でDTMを利用しているのは、さまざまな実験をどんどんできるからです。まだまだ、試してみたいことはいっぱいあるので、ぜひ、これからも新しい作品を提示していければと思っています。一方で、いつかは自分の太鼓音源を自分でサンプリングして作ってみたい……なんて考えているところです。そんなことができるよう、これからもチャレンジを続けていこうと思っています。


ぜひ、新譜である「大海に光りの舟よ」を聴いてほしいと話す、まほろばのお二人

--ありがとうございました。

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まほろば配信デビューシングル、「大海に光りの舟よ

【関連情報】
まほろば Official Site
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