すでに購入して使っている、という方もいると思いますが、この春、フランスのArturiaからアナログシンセサイザ、MiniBrute 2およびMiniBrute 2Sが発売されました。名前からも分かるとおり、これは大ヒット・アナログシンセであるMiniBruteの新モデルですが、サブオシレータが追加されるとともに、48個ものパッチベイが装備されるなど、シンセサイザとしても大きな進化をしています。

MiniBrute 2が25鍵盤を搭載したモデルで、MiniBruteの正統進化である一方、MiniBrute 2Sは鍵盤の代わりにシーケンサが搭載されるという非常にユニークな機材。このMiniBrute 2およびMiniBrute 2Sの開発責任者=プロダクトマネジャーであるArturiaセバスチャン・ロチャード(Sébastien Rochard)さんが先日来日し、DTMステーションのインタビューに答えてくれました。MiniBrute 2/2Sがどのような経緯で誕生し、開発されてきたのかなど伺ってみたので紹介していきましょう。


MiniBrute 2の開発責任者であるセバスチャン・ロチャード(Sébastien Rochard)さん
--まずMiniBrute 2の話の前に、セバスチャンさんのプロフィールについて教えてきただけますか?
セバスチャン:私が音楽と出会ったのは…、というより物心ついた時から、音楽がずっと好きで、音楽に囲まれてきました。色々な楽器にも触れましたが、子供のころから自分で曲を作っていました。小さいころはジャズに慣れ親しんできたのですが、15年ほど前からエレクトロミュージックの制作に傾倒するようになっていきました。そして、コンピュータベースの制作環境に入っていき、ちょうどAbleton Live 8の時代からDAWを使うようになりましたね。そのころから、コントローラや、オーディオインターフェイス、ハードウェアのシンセを買い足して、制作環境を構築していきました。それがちょうど、フランスのマルセイユにある大学で、デジタルプロセッシングなどの技術を学んでいたころです。その大学時代の2012年にインターンとして、Arturiaに入って、実際の仕事を半年間経験しました。その後、大学を卒業してから、2013年5月、Arturiaに正社員として入社しました。


フランス・グルノーブルにあるArturia本社

--ちなみに、初めからArturiaに入ろうと思っていたのですか?
セバスチャン:もともと、Arturiaのプラグイン音源であるMini VModular Vを使っていたこともあり、Arturiaに入りたいと思っていました。フランスの音源メーカーではArturiaのほかにも、UVIPianoteq、またかなりクレイジーなUIのシンセサイザを作っているOHM Forceなどがあるのですが、やはり私にとってはArturiaが一番でしたね。


Moog Modular IIIをエミュレーションするModular V

--実際、正式入社してから5年程経つと思いますが、MiniBrute 2に携わるまで、どんなお仕事をされていたのですか?
セバスチャン:最初は、SPARK 1.6と2.0のプロダクトマネジャーとしての仕事でしたね。インターン時代に開発の改善の提案をしていたり、バグ出し、不具合を見つける作業に積極的に参加していたことが評価され、プロダクトマネジャーとして最初から採用してもらえたんだと思います。プロダクトマネジャーというのは、その製品のコンセプトや仕様を決めて、開発メンバーをまとめていく仕事です。そのため、技術の細かなところは各エンジニアに任せるわけですが、使い勝手であったありデザインは詳細に詰めていきます。SPARKの後は、V Collection 5の開発に携わり、SynclavierMatrixAnalog Lab 2の仕様の策定、インターフェイスのレイアウトやデザインを手掛けていました。そのまま、次のV Collection 6に入り、プロダクトマネジャーとして全体を見ながら仕事をしていました。他にもMiniLabや、MatrixBruteのシーケンサ部分の仕様、レイアウトなど、さまざまなプロダクトに関わってきた後、3年前にMiniBrute 2の担当になりました。


Arturiaのソフトウェア音源全部入りパッケージ、V Collection 6

--多くの製品に携われているんですね。でもV Collectionのようなソフトウェアシンセサイザの開発と、今回のMiniBrute 2のようなハードウェアシンセサイザの開発だと、まったく違う仕事のように思えますが、戸惑いとかはなかったのですか?
セバスチャン:ハードウェア、ソフトウェアという違いが必ずしも重要という訳ではないと思っているので、戸惑いはなかったです。たとえば、MatrixBruteみたいなフラグシップシンセの場合は「こういう人が使うだろうな…」と、見えていますし、ソフトをコントロールするハードウェアの場合は、ソフトウェア自体のユーザー層と、ターゲットは近いところにあると思っています。一番大切なのは、使ってくれるユーザーがどういうものを求めているかというところですね。


25鍵のキーボードが搭載されているMiniBrute 2

--ソフトウェアか、ハードウェアかではなく、あくまでもユーザー視点で開発されているんですね。今回はハードウェアシンセのMiniBrute 2ということですが、仕様はどのような経緯で決まっていったのですか?
セバスチャン:MiniBrute、MicroBruteの売り上げが少しづつ落ちてきたり、同じ価格帯の競合他社が参戦してくる中で、どうにかアップデートをしていかなければならない、というのが最初に与えられた使命でした。当初は、パッチングベイを増やす程度で、他社と差をつけることができると思っていました。しかし、リサーチをしていくと、やはりパッチベイ程度ではMiniBrute、MicroBruteを買っていたユーザーが、MiniBrute 2に買い替える動機には足りないということが、ハッキリしてきました。そこで、もう一歩、二歩踏み込んで、MiniBrute 2の仕様を詰めていったのです。


初代のMiniBrute(左)とMicroBrute(右)

--そうして完成したMiniBrute 2ですが、MiniBrute 2Sはシーケンサが付いて、面白い仕様になっていますよね。
セバスチャン:MiniBrute 2Sは、自分がシーケンサが非常に好きだったのもあって、MiniBrute 2の音源とBeatStep Proのようなシーケンサ機能を組み合わせを考えて、発展させ進化させたものです。個人的な構想としては、昔からシンセとシーケンサの組み合わせは温めていたものだったのですが、このプロジェクトで、先代のMiniBrute、MicroBruteの流れを壊してしまうというのは、良くないと思っていたので、製品の企画として具体化させたのは、結構後の方でした。MiniBrute 2の仕様を詰めているときに、物足りなさを指摘されることが多かったので、MiniBrute 2とMiniBrute 2Sの2バージョン作って、ターゲットとするユーザー層を明確に分けるということが、一つ解決策になるのではないか、となりそれぞれ開発しました。


キーボードの代わりにシーケンサを搭載したMiniBrute 2S

--そうだったんですね。またMiniBruteから特に進化した点について教えてください。
セバスチャン:MiniBrute 2は、サブオシレーターを一つ追加することで、シンセシスというところで、違う次元の音作りができるようにしました。これで、シンセとしての立ち位置は、MiniBrute、MicroBruteとは一味違う段階のものになっています。そして、MiniBrute 2Sのシーケンサ機能は、シーケンサとアナログシンセの融合したような機能を搭載しているので、自分だけのシンセサウンドを作ることが可能となりました。


Illusctratorで描いたMiniBrute 2の当初のデザイン

--そういった仕様は、セバスチャンさんが考えれば、それがそのまま製品として決定になっていくのですか?
セバスチャン:まずは、頭にある構想を具体化させるためにAdobe Illusctratorで絵にしていくんですね。そして、企画として開発をしているチームに対してプレゼンをして、チームからのフィードバックを取り入れて、その後みんなの同意がとれた後、社長であるフレデリック(Frédéric Brun)と話しをして決めていく、という流れですね。これを何度も繰り返すので、MiniBrute 2のIllusctratorのデザインはずいぶんと変遷していきました(笑)。





ほかにも、さまざまなデザインのスケッチが残されていた

--なるほど。やっぱり最終決定にはフレデリック社長がかなり細かいところまで見ていくわけですね。でも社長と意見が違ってバトルになるようなことはないんですか?
セバスチャン:Arturiaの製品って、表面的にはシンプルにできていても、使い方によってかなり深く使えるようにできているんです。なので、私はコアなユーザーの使い方に対して、かなり強いこだわりを持っていて、そうったところから、フレデリックにアプローチすることがあります。フレデリックはそこに信頼を寄せてくれているので、議論になること少ないですね。ただ、楽器として理にかなっているか、ユーザーのニーズに合うかなど、総合的な判断は、フレデリックが長けているのは間違いありません。そこはこちらも信頼して、二人でバランスをとりながら、最終的な仕様を決めています。フレデリックも開発のプロセスのかなり細かいところに判断、確認をすることで関わっています。フレデリック本人もすごく楽しみながら、開発していると思います。実は私自身の考えとしては、MiniBrute 2はシーケンサのバージョンだけ出すつもりだったのですが、フレデリックが、「いやいや、2パターンあってもいいじゃないか、そこは違う客層だから両方狙っていこうよ」という提案からMiniBrute 2とMiniBrute 2Sの2パターンの製品になったという経緯があるんですよ。


以前、BeatStep Proが完成した際に話を伺ったときのフレデリック社長

--改めてですが、MiniBrute 2およびMiniBrute 2Sの面白さ、特徴を教えてください。
セバスチャン:MiniBrute 2は、MiniBruteを正統進化させた、アナログシンセサイザです。シンセサイザに必要な機能を搭載しつつ、合計48系統のパッチベイ、新たに追加したサブオシレータを駆使することで、直感的にオリジナリティ溢れるサウンドを作ることが可能です。今まで、シンセを使ったことない人でも、分かりやすくシンプルな作りをしていますが、より深い知識のある方にとっては、冒険しがいのあるシンセサイザになったと思います。また、MiniBrute 2Sは下部が鍵盤ではなく、シーケンサになっているので、今までとは違う発想をサウンドに生かすことができますよ。


パッチベイが48も用意されているのも、MiniBrute 2/2Sの大きな特徴

--最近のソフトウェアシンセサイザはV Collection 6も含め、非常に強力なものになっています。そうした中、あえてアナログシンセサイザを使うメリット、魅力とはどういうことなんでしょうか?
セバスチャン:アナログハードウェアの特性として、プリセットやプログラムの機能が無いので、再現性がないということが挙げられます。それから、予測できない実験を感覚的に行うことができるという強味がありますね。なので、ソフトウェア単体では、再現できないような美しい事故(Beautiful accident)を作り上げることができますね。


MiniBrute 2のリアパネル

--確かにそうですよね。一方、DTMユーザーにとって、MiniBrute 2やMiniBrute 2Sはどのように活用していくのがいいと思いますか?
セバスチャン:それこそ、もしかしたら二度と再現できないような美しい事故を、コンピュータを通ってレコーディングしていくことで、次の奇跡を待つことなく、自分の楽曲の音源、あるいはトラックとして、有効に使っていくことができると思います。ハードウェアは感覚的に使って、そこで得られる現象を後から、冷静に編集できる環境として、バックアップ的にコンピュータがあるという感覚で活用するのがいいと思います。制作として見たときには、美しい事故というものは、シーケンサを使ったハードウェアを使うことで、より音楽的な巡り合わせを作る可能性を高めることができます。パーフォーマンスとして見たときには、MiniBrute 2Sは、デジタルとアナログをシンクロさせるという働きのほかに、昨今注目を浴びているモジュラーシンセのような、アナログ機材とのシンクロを可能にしていける他社にはない、新しい環境を提供できるものになっていると思います。


DTMユーザー向けの使い方を提案してくれるセバスチャンさん

--最後にDTMステーションの読者に向けてのメッセージをお願いします。
セバスチャン:私も、ソフトウェアをベースにした制作環境は日常的に使用しています。プラグインは、膨大な数を簡単にインストールできるのがいいところですが、あまり多いと、可能性が無限大になりすぎて、どれを使っていいか分からなくなるという問題も起こります。あえて使う音源を絞って不自由な状況にしつつ、その音源に深く入り込むのも面白いと思います。V Collection 6の音源は、それぞれそうした深さを持っているのでぜひお勧めしたいです。また、MiniBrute 2Sのようなハードウェアを感覚的に使うことによって、音楽制作の幅や可能性をどんどん広げていってもらえたらと思っています。

--ありがとうございました。

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【製品情報】

MiniBrute 2製品情報
MiniBrute 2S製品情報
V Collection 6製品情報